カジノと骨とヴァリス

 俺・リリア・ヴァン・ファングの四人組でカジノの中を歩く。

 真正面に二階まで吹き抜けの大ホールがあるので、そこから捜査を始めることにした。


「さて、この扉の先に敵がいるかもしれないわけだ」


「うむ、雄々しく猛々しく進むのだ!」


「イヤッハアァァ!! いくぜオラア!!」


「ちょ!? もうちょい作戦とか考えろよ!?」


「もう何を言っても無駄じゃ。行くしかあるまい」


 ノープランでバーンと扉を開け放ち、ズカズカ入っていくヴァンとファング。

 渋々追う俺とリリア。まさか今回ずっとこんなんか。


「なんだよ敵がいねえぞ」


「明かりがついておるということは誰か居るはずじゃが……」


「ふむ、我等の気配を察して逃げたか?」


 中は明るいけど誰もいない。ルーレットやポーカーをするタイプの台が大量にある。奥にはショーでもするのだろうか、大きな舞台があった。


「騒ぐから逃げたんじゃないか? だから作戦とか必要だっつっただろ」


 物陰からキシっと物音がする。

 自然と戦闘態勢に入る俺以外。みんな訓練されてんな。

 ゆっくり観葉植物の後ろから出てきたのは真っ白な骨。スケルトンだ。


「事情聴取はできそうにないな」


「話を聞くのは骨が折れるな。俺はパス」


「ホシイ……ホシイ……」


「ほう、言葉を話せるとは中々に気骨のある骨だ。気に入った。骨よ、何が欲しいか申してみよ」


 っていうかどうやって喋ってるのさこいつ。


「ホシイ……カラダガ……イノチガ……」


「結局大切なのは健康な体じゃとガイコツさんは言いたいわけじゃな」


「はー骨身にしみるね。さっすが仏さんのお言葉だあな」


「イノチガ……ニクイイイィィィ!!」


 ガイコツの雄叫びを合図に、ぞろぞろやってくるスケルトン軍団。

 手には剣とか斧とか持っている。振り回せるとしたら丈夫な骨だな。

 生前はさぞカルシウムとってたんだろう。


「今どこから出てきたかわかるか?」


「オレ達が来た扉以外……ほぼ全部からだな」


「特定は無理じゃな。ちゃっちゃと倒して他を調べるのじゃ」


『ヒーロー!』


「そんじゃいきますか」


 作戦も連携もなく、各自でバラバラにスケルトンを薙ぎ倒す。


「楽勝だな。俺が動かなくても決着つくんじゃないかな」


「そう簡単に通すわけにゃあいきませんぜ旦那」


「なに?」


 シャンデリアから飛び降り、俺の目の前に現れたのは、黒髪おかっぱ黒目の女。二刀流で学園の制服を着ていることから生徒かな。


「おひけえなすって。あっしはフリスト。ヴァルキリー、フリストと発しやす」


「また新手のヴァルキリーか」


「あんさんに恨みはございやせんが……渡世の義理ってやつを果たさせていただきやす」


「そうかい、俺には義理もへったくれも無いけどな。それでも邪魔するなら容赦しないぜ」


 ヴァルキリーのくせに義理で動くか。もしかしてまともなやつなのか?


「覚悟のうえでございやす。旦那も覚悟はよろしいですね?」


「いんや、よろしくないね。俺は生涯覚悟なんかしない。適当にだらだらやりつつ、邪魔なやつをなんとなくぶっ飛ばして、スローライフ満喫してやるよ。だから戦いの覚悟がどうとかウダウダ言っても無駄だ」


「さようでございやすか。どちらでもよござんす……死なないでくださいね、旦那」


「なに?」


 比較的小柄なフリストは素早い動きと、ギャップのある怪力でガンガン攻撃してくる。単純に強いだけか。ヴァルキリーはなんとなく全員特殊能力持ちな気がしていたんだけどな。


「んーそこそこ強いな。少なくともこの中じゃ俺達を合わせて五番目か」


 殺気がない。俺を傷つけようという気がないなこいつ。

 理由は知らんが演技か。乗ってやろう。


「それは一番弱いということでござんすか?」


「あいつらが強すぎるだけさ。そして本当の俺は六番目。だからビリじゃないぜ」


「意味不明な人情が身にしみてきやすな。では旦那、あっしはもう少しで消えやす」


 小声でフリストが俺に告げる。こいつ、完全に手加減して戦っているな。


「どういう意味だ?」


「あっしの役目は終わりでございやす。やた子によろしくお伝え下さい」


 やた子と知り合い? 接点があるようには見えないがね。


「まったく、時間稼ぎもできんのか……戦乙女とは脆弱だな」


 上から男の声がする。二階のあたりに誰かいた。

 誰かというか人なのかあれは。


「何か御用で? あっしは義理を果たさにゃならんので」


「その義理も果たせそうにない役立たずが何をぬかす。不本意だが主より手を貸せとの仰せだ」


 フリストと話しているのは頭が人間の男で、体が……なんだあれ。

 動物の……ライオン? あいつもヴァルキリーの仲間か。

 ライオンだとしたらサイズがおかしい。

 昔サファリパークで見たやつより五倍はデカイぞ。


「砂よ……その無様な骨共に相応の姿を与えよ」


 スケルトンに砂がとりつき、まるで肉体を得たように耳や指の形に砂が動く。


「ほう、珍妙な技を使う……興味深いが愛が足りないな」


「あんな愛があってたまるかよ」


「戦乙女よ、貴様もここからはこちらの指示に従え」


「そいつは出来ない相談ってもんでさあ」


「なんだと?」


「あっしが従うのは、自分の主だけと心に決めておりやす。ふぁらおだかすふぃんだか知りやせんが、あっしらはただそちらさんに攻撃するなとの指示しか出されていやしませんぜ」


 なにやら口喧嘩始めている一人と一匹。微妙に派閥でもあるのか。


「ならばどうする? もはや貴様の骨は我が下僕よ」


「手を貸すんでやんしょ? ならあっしは奥に戻りやす。せいぜい死なないように祈ってやるとしまさあ」


「勝手にしろ。貴様など不要だ」


 何やら二回の奥の部屋へと歩いて行くフリスト。


「もういいのか?」


「はい。ご迷惑をおかけしました。あっしは失礼しやす。生き延びてくださいね、旦那。奥でゲンドルが待っていやす」


 そしてフリストは去って行った。殺気が一切なかったし、俺を傷つけないように戦っていた。本当に敵じゃないのかもな。


「足止めとはこうやるのだよ」


 二階部分から大量のミイラが現れた。

 包帯で全身ぐるぐる巻きの、いかにもミイラですって連中に行く手を阻まれる。


「とっとと全滅させるぞ」


「いや、オレだけでいい。お前らは先に行け」


 ここで唐突にヴァンが止めに入る。いつものどこか軽い雰囲気が消えている。


「そこの偉そうにしてるヤツ……顔が黒い犬の男を知らねえか? 今のテメエと真逆だ」


「……不躾な人間だ。下等な存在でありながら対等に口を利こうなどと……」


「うるせえんだよ!! 知ってるなら教えろ犬っころが!!」


 ホールに響き渡るほどの声で叫ぶヴァン。思わず敵味方全員の動きが止まる。


「舐めた真似を……どれほどの無礼かすら理解できんか」


 ヴァンがライオンに向かって猛スピードで斬りかかる。

 しかし、透明なバリアーのようなもので防がれ、さらに上空からミイラが湧き出てくる。


「我が主を付け狙う小物とは貴様か……気に入らんな」


「そうかいそうかい……テメエをぶっ殺しゃあ、あのクソ野郎に近づくんだな?」


「落ち着け我が友ヴァンよ。なにがあった? 怒りに任せて剣を振るえば隙を生むことは承知のうえか?」


「すまねえな。お前ら全員先へ行け。こいつだけは……こいつだけはオレの獲物だ。絶対に譲らねえ……」


「ここに一人で置いていくわけにはいかんじゃろ。落ち着くのじゃ」


「いくら我が友といえど単騎で相手取るには不利であろう」


 今だって砂の敵とミイラが沸いている。

 こいつらを潰しながら会話するのも一苦労だ。


「一人じゃなきゃいいんだろ? 三人とも先に行け。巻き込まれて死んでも責任取らねえぞ」


「意味わかんねえって落ち着け。一回深呼吸して……」


 ヴァンが自分の剣を床に突き刺し、目を閉じる。


「ヴァン・マイウェイの名と契約のもとに今、真名の解放を許す……来い! ネフティス!!」


 ヴァンの頭上に現れた魔法陣からゆっくりと現れる人影。


「あらあら~お呼びかしら~?」


「……クラリス?」


 ヴァンに覆い被さるように抱きつくクラリス・フリージアさん。

 久しぶりに見た気がする。


「犬野郎の手がかりだ。わかってるな?」


「ええ~いいわよ~」


 よくわからん会話をしながら突然キスする二人。


「えぇ……もうなんなのさ」


「ちょっと展開が急すぎてついていけんのじゃ」


「ほう、この緊急時でも愛を貫くとは面白い! 流石は我が友よ!」


 光りに包まれたヴァンとクラリス。やがて収束した光の中にいたのは、真っ赤な長髪で、でっかい鎌のようなトマホークを持ったヴァン一人。


「ヴァン……だよな?」


 よく見れば顔立ちも微妙に違う。そもそもクラリスどこいった。


「ヴァンとクラリスでヴァリスってとこだな。まあ好きに呼べよ」


「そうよ~でも~できればこの姿も受け入れて欲しいわ~」


「融合魔法……かのう? なかなか洒落たものを使うではないか。気に入ったのじゃ」


 ヴァンの体からクラリスの声がする。口が動いていないのに声がするぞ。


「融合魔法ねえ……まあいいや、勝てるんだろうな?」


「誰に言ってやがる。オレとクラリスだぜ」


「ふむ、良き愛を見せてもらった。そのラブパワーならもはや敵はなし! 存分に暴れるがいい!」


 鎧のおかげで多少なら実力をはかることもできる。

 尋常じゃないパワーアップだ。参考材料が少ないけど、ドラゴンくらいなら無傷でボコれるだろう。神秘性と魔力量が完全に頭おかしいレベルだ。


「なぜ人間に味方する? こちら側ではないのかネフティスよ?」


「ざ~んねん。神とか人間とか~関係ないのよ~。私はヴァンのそばにいたいだけよ~。不死の兵が相手なら~私が本当の死を与えてあげるわ~」


「ってわけだ。いくぜクソ野郎が!!」


 ヴァンの飛び蹴りが、ライオン野郎のバリアーをあっけなく突き破り、その足は深々と顔にめり込んだ。


「ぐっ! がああ!!」


 呻き声を上げながら吹っ飛ぶが、空中で体制を整え舞台に降り立つライオン野郎。


「行きな。ここはオレの舞台だぜ」


「オーケイ、ちゃっちゃと倒して早く来いよ」


「さもないとわしらで終わらせてしまうのじゃ」


「友よ! また会おう!」


「行かせると思うのか人間よ」


「おおっと、テメエの相手はオレだぜ」


 大舞台の上で睨み合うヴァンとライオン男。

 今のうちにフリストが逃げた方へと走る。


「さあ来な、ワンちゃん。お手とおすわりくらいしつけてやるよ」


「図に乗るなよ人間!!」


 背後から聞こえる戦闘の音からその凄まじさが伝わってくる。

 だが振り返る暇はない。さっさと行かないと、追いついたヴァンに笑われちまうからな。

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