クズと出会って百合男子と出会う

 冬の寒さが続くなか、昼から5ブロックに来ていた。こっちは8ブロックよりはマシだ。雪も降っていない。人も多い。


「遠出しなきゃいけないのはきついな……いや雪がないだけいいのか?」


「あっくんはすぐ横着しようとしないの」


「現状では手がかりはここだけ」


「なんとか騒動の犯人を探しましょう」


 今日はルナとイズミとミリーが一緒だ。探偵と護衛と会計担当である。


「それでどうする? いきなりでかい組織に行くのは無理だぞ。俺のブロックじゃないから権力が通用しない。そもそも国王だと知られれば暗殺でもされそうだ」


「さすがにそこまで極端ではないでしょうけど、まずどの組織に何を聞くかですよね。犯人像すら掴めていませんから」


「問題に首を突っ込みすぎるのもおすすめできん。目立つと犯人は逃げる」


 今は大通りを歩いているため、誰かに狙われる可能性は低い。というか裏通りにいるタイプが敵かも不明である。さあどうしたものか。


「ぱっと見た感じ、トラブルはなさそうだな」


「ここは侵攻不可地域ですから、戦火が届かないのでしょう」


「ルナ、犯人わかるか? 手がかりとか見つけてくれ。犯人確定するやつ」


「無茶振りは控えよう! けど兵士の数が変わらないってことは、あの召喚トラップは少ないのかも。敵が少し多めでも対応できてるか、5ブロックだけ襲ってないかじゃない?」


「つまり危機感がない。協力的な姿勢になるかは不明。最悪私達だけでの解決が求められる」


「クソやん」


 しばらく歩くと、なにやら喧嘩が始まっている。男同士が揉めているようで、住人は遠巻きに見るか避けて通っていく。


「おーおー、やっぱ揉め事はあるのか」


「どうするの? 助ける?」


「すぐ兵隊が来るだろ。それに俺達がトラブル解決を狙っていると知られたくない」


 知らん他人を助けるメリットがない。まずどっちが悪かも知らんのだぞ。


「善人側を攻撃するのもまずいだろ?」


「確かに。むしろ騒動の犯人が見ているかどうか探ることを推奨。今動いた人間の中から、怪しそうなターゲットを選別。別の通りに移動中。二手に分かれた」


 イズミの提案を受け、瞬時にパーティーを分ける。ぐずぐずするだけ解決が遠ざかる。急ごう。


「ミリーとイズミで行け。イズミを連れていけば護衛になるだろ。俺の護衛はルナがする」


「そこは嘘でも俺がルナを守るとか言えばいいのに」


「責任が発生する言動は嫌いだ」


「そちらも気をつけてくださいね」


「すぐ戻る。何かあったら呼んで」


 そしてルナとこっそり移動。まだ敵なのかわからないので、手荒なまねはしたくない。善人は殺す必要がないのだ。裏通りと言うほど暗くも寂れてもいない場所だ。そりゃ新設された町で、学園が監修したなら犯罪通りみたいなものはできないだろう。


「どうも普通の連中っぽくないか?」


 尾行しているのは二人の男。ごく普通の青年に見える。周囲には道行く人々がちらほらいるので、ここで犯罪を犯す可能性も低い。無駄足かね。

 撤収も考えていた俺達の前に、知らん女が出てきた。


「助けてください!」


「まず誰だお前」


「えっ」


 知らん女助けるメリットがない。誰だよこいつ。完全に知らんぞ。急に何だ。怪しすぎるだろ。


「まあまあ話してごらんなさいな。どうしたのかにゃ?」


「友達が変な人達に絡まれて……助けてください!」


「兵士に頼めよ。確実だろ。この先にいるはずだ」


「そんな、急がないと危ないんです!」


「俺達が強そうに見えるのか? お前のやり口は浅くて拙いんだよ」


 よく考えなくてもわかる。俺とルナしかいないんだぞ。他のやつに頼んだほうが確実じゃん。つまり俺達を国王と知っているか、弱いやつを狙っているかだ。


「いいじゃん助けてあげようよ。敵なら手がかりだよ」


 後半は俺にしか聞こえない声で喋っていた。うーむ、気が進まないが、これも早期解決のため……このビッチ臭い女に協力するのは嫌だけど、解決のためだ。


「わかった、感謝しろよ。さっさと連れて行け」


「ありがとうございます! こちらです!」


 というわけで数分ほど歩いた先で。


「おい、オレの女を連れ回して何やってんだ?」


 変な男登場。恋人なのかな? チンピラみたいであんまり彼氏にしないほうがいいと思うけど、まあ他人の好みなんて口に出すことじゃないか。


「こいつのことか? 助けてくれって言われてな。渋々だよ。さっさと引き取ってくれ。よかったな連れが無事で」


「何がよかったんだ? 人の女に手を出しておいて、そのまま帰れると思ってんのか? ああ?」


「いやだから聞けよ。こいつが俺達に助けを求めてきたんだよ。お前からも説明しろ」


 アホは話を聞かないよね。それでも知り合いの女の言う事なら聞くだろ。


「こいつらに口説かれてさー。胸とか触ってきたんだよね。マジむかつくよこいつ! やっちゃって!」


「…………ん?」


 女の発言がおかしい。脳がやられているのだろうか。股のゆるそうなやつは頭もゆるいのか。


「あちゃー、これは外れだねえ。大悪党じゃないにゃ」


「おいお前ら出てこい!」


 男が叫ぶ。そして誰も出てこない。


「うわかっこ悪」


「なんだとてめえ潰すぞ! ずいぶん調子乗ってるみたいじゃねえか!」


「落ち着け。そんなクソビッチ臭い汚物に触れるわけないだろ。俺の手が臭くなる」


 こんなクズに抱かれるクズに欲情などしない。さっき近づかれた時点でかなり不快だった。消毒したい。お願いだから死んでくれ。


「はああ!? なにこいつ超むかつく!!」


「こっちのセリフだ汚物。一つ聞く。最近の揉め事の多さについて知っていることや意見は?」


「ああ? 意味分かんねえんだけど」


「はあ……関係ないクズかよ……」


 この無駄足はきつい。ストレスが尋常じゃない。そりゃため息も出るよ。


「てめえ今なんつったコラ! 罰金だ、持ってるもん全部出しな。なんならそこの女も置いていってくれていいぜ」


 そう言ってしょぼくれたナイフを見せびらかしてくる。俺一応腰にカトラスと背中に長巻背負っているわけだが、なんで勝てると思っているの?


「そのビッチが戦闘要員として二対二なわけだが、マジでやるんだな? やるなら確実に殺すぞ」


「悪いけど強いよー? 学園の生徒だからにゃ」


 まあ武器を抜くわけだよ。その時点で腰が引けている。そんな度胸でチンピラやってんの? いやしょぼいからチンピラどまりなのか。

 ストレス貯まるわ……どうしてこんなタイミングでクズが出るんだよ。


「調子のんなよ! オレの女に手え出したんだ、金だけ置いていけば許してやるつってんだよ!」


 ストレスがえぐい。ああなんだ……解消法が目の前にあるじゃん。


「質問なんだが、女ってどこにいるんだ?」


「ああ? なめてんのかてめえ!!」


 魔力波で女の膝から上を消し飛ばした。


「もう一度聞いてやるよ。女ってどこにいるんだ?」


「なっ……え?」


 ただでさえ意味のわからん情報戦でストレスが溜まっているのに、こんなクズに時間を使うことが気に入らない。


「安心しろ。女と同じ地獄に送ってやる」


「ちょっ、やめぐぼぼぼおぉ!?」


 足元から電撃を飛ばして痺れさせる。こいつ戦士じゃないな。ただのチンピラか。無駄な抵抗されなくて助かるよ。


「動くなよ? 動くと早く死ぬぞ?」


 カトラスで男の両目を横一閃。怯んだ瞬間に右ストレートを顔面にぶっこんでやる。


「あぐうっ!!」


「あまり帰りが遅くても心配させるか。ほどほどになぶり殺す」


 適当にクズの体を削ぎ落としたり蹴ったらすっきりした。

 死体は衛生環境を考えてしっかり焼いて消しておく。


「はあ……少しは落ち着いたぜ」


「あっくん、あんまり派手な行動はよくないよ」


「すまない。よく何も言わずに見守ってくれたな」


「ぶっちゃけ唐突すぎて引いてたら終わってた」


 なるほど、そういうパターンは新鮮だな。


「そこのやつ出てこい。でなければ敵とみなす」


「おや、気づかれるとは。やっぱオレはダメ人間スね。お見事ッス」


 シンフォニックフラワーのライブで見たな。オタク女の二人組を迎えに来たやつだ。血の付いたナイフを持っていることから、クズの仲間でも殺してくれたんだろう。


「俺でもわかるように気配を出しておいて何を言っているんだか」


「先に言っときますが、こいつら四人組とは無関係ス。お楽しみを邪魔したくなかっただけスよ。他は殺すか捕獲しました」


「そいつはすまない。ライブの時にいた男だな?」


「正解ス。うちのトップは気づかなかったみたいスけど……あれで結構抜けてるからなあ」


「名前は?」


「ガンマ。国王様がふらふらしちゃ危ないでしょ。護衛くらいつけてください」


「好きで二人でいるわけじゃない。今はな」


 普段はインドア派だからね。こういう時だけはイズミとかいるといいんだけどなあ。あいつアサシンだから面白い殺し方とか知っていそうだし。


「よければついてきてください。今5ブロックに各国からオレみたいなのが大量に来てます」


「どうする?」


「んー……情報は欲しいけど……」


「ここでの大規模な戦闘や侵略行為は禁止スよ。あとオレの勘ですけど、あんたなぜか殺せる気がしないんスよ。そういうやつとは戦わない主義ス」


 状況は読めるし、勘もいい。あまり相手にしたくないタイプだな。こちらとしても情報は欲しい。行って損はしないだろう。


「わかった、ただ仲間がいるんで、そいつらと合流してから……」


「見つけた。アジュ、あまりふらふらしないで」


「うげっ、イズミ……」


 イズミとミリーがやってきた。だがガンマはあからさまに嫌そうな顔でイズミを見ている。


「ガンマ? どうしてここに?」


「知り合いか?」


「同じアサシン組織の同期」


「マジかい」


「できれば会いたくなかったスけどね」


 イズミは無表情のままだから、ガンマが苦手意識を持っているんだろう。不思議な関係だな。


「敵なのか?」


「単純に合わないんスよ。オレは百合の間に挟まらない。清らかな少女を見守る男。百合にきつい下ネタなど不要ス。少女が穢れるのは見ちゃいられないんで。相容れない存在なんスよ」


「だいぶきもちわるい。ガンマはいつもそう」


「キモいのは承知の上。それでも女の子同士が健全にきゃっきゃしているのを見たいんスよ」


 潔い。一点の曇りもなく百合を愛している。素晴らしく潔い。嫌いじゃないよ。


「ではお仲間と一緒に来てください。あるきながら5ブロックの現状をお話します」


 どうやら本当に味方側に立つつもりらしい。一応の警戒はしておくが、ここまで来たら一蓮托生というやつだ。


「最近になって揉め事が増えている。原因も当事者も職業も法則性はなし。けれどじわじわと全国で増えている。自分のブロックに原因がないと悟った連中が、こぞって5ブロックに刺客を放つ。さっきのやつはどっかから流れてきたやつスね。マークはされてたんで、そっちが処分しなきゃオレか別働隊が殺してるでしょ」


「兵士が増えて悪さしているやつが目立つ。だから誰の支配下でもないここに来る、ということか」


「そういうことスね。トラブルがあれば、当然警備は厳重になる。警らも人が増えて頻度も上がる。今の5ブロックはおかしいス」


 こちらにはあまり来ないので、俺にはその実感がない。精々がさっき見たようなトラブルくらい。


「学園がやってる試練じゃないの?」


「生徒に妨害工作をするならまだしも、明らかに住民狙いスからね。そこんとこどう思います?」


「噛み合ってしまった、というのが俺の予想だ。誰かの用意した戦闘トラップとか、学園の試練があって、それと今回の陰湿な嫌がらせが相乗効果を起こしている」


 いい機会だからまとめてみる。今までの資料と発生源と種類を比べての暫定的な予想だ。


「犯人が別々ってことスか?」


「あくまで予想だ。学園がやるには陰湿で、学園が見過ごすには大事になりつつある。だがこれは試験。なら今のところ学生に解決して欲しい、とか?」


「おおー! あっくんそれっぽい!!」


「重ねて言うが、こんなもんただの予想だ。一個も証拠なんてない」


「うちのボスもおおむねそんな意見スね。だからこそ早期解決しないと成績にも響くってんで、他のブロックも無駄な戦争は控えめみたいスよ。っとここです」


 ごく普通の二階建てのレストランだ。誰でも入れるタイプの、庶民向けのやつだな。ここがアジトなんだろうか。


「店の奥です。内部で隣と繋がっています」


「了解、行くだけ行くさ」


 さて味方はまともなやつだといいなあ。

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