黒幕探しとガンマと土の狼

 ガンマに案内されて、店内の奥に作られた別室へと入った。中はかなり広く、知らん人間が二十人近くいる。ちょっと帰りたい。


「あっ、おや……アジュさん」


「ヨツバか。妙なところで会うもんだな」


 いつもの帽子と町娘っぽい服装で、ヨツバ・フウマがそこにいた。なんかしばらく会っていなかった気がするが、元気そうでなにより。


「さーて、揃ってきたし会議始めるぞー」


 知らん男が仕切り始める。リーダー格かな? 金髪で無精髭で渋めの顔だが、いまいち年齢がわからん見た目だ。まあオルインで見た目と年齢って比例しないけども。


「えー揉め事が増えすぎて困っちゃうなーってことで、なんとかしないといけないんだが、まあ普通なら警備を増やしたりするわな。けど今回はちょっと面倒だ。普段温厚だったり、友好的な連中でも殴り合いになったケースもある。学園は一応の犯人探しはするが、できれば学生に解決して欲しいんだろう」


 国王など任されてしまったのだ、解決できるかどうかも見られていると考えるべきか。学園の意図はともかく、やはりここまで大きくなった事態は見逃せない。

 ここから各国の精鋭を一時的に団結させた組織であると説明され、仲間の証であるメダルが配られた。


「それ持ってパトロールだ。あんま見せんなよ? こっちで争いが多い場所を調べておいた。各自割り振られた場所をこっそり巡回してくれ。何か手がかりになるかもしれない。なるべく知り合いと行ってくれ。以上だ」


 そんなわけで俺、ルナ、イズミ、ガンマ、ヨツバで行動することになる。

 ミリーは荒事に向かないので、三日月さんに護衛してもらって拠点に帰した。


「ふーんヨツバちゃんかー。フウマってことは?」


「はい、イロハの親戚です。あの子ほどの力はありませんけど」


「いやいやー、フウマの一族でしょ? すっごいじゃん! 忍者なんでしょ?」


「修行は続けていますけど、それほど期待されると困ります」


「それは仕方ないぜい。忍者は流派で完全に生態が違うからねえ。興味は尽きないのだ!」


 なんか馴染めているようで何よりだ。俺の代わりにコミュ関係全部やってくれ。


「いいスね。ヨツバさんでしたっけ。冷静で常識人っぽいところに、あのルナって娘がぐいぐい引っ張っていくあの感じ。尊いと思わないスか」


「急だな。わからなくもないが……」


 ガンマはガンマで意味わからんこと言ってくる。ほぼ初対面で振る話題なのだろうか。俺もコミュ力ひっくいからわからん。


「アジュさんはこっち側な気がするス。ボスも言ってましたよ」


「ボスってのは6ブロックの……確かイノって女王様だろ?」


「ええ、女王様ってほど傲慢じゃないスけどね」


 これは探りを入れるべきなのだろうか。一応友好的っぽいし、あまり疑われることはしたくない。


「きっと仲良くなれるはずスよ。一緒にライブ見てたじゃないスか」


「……ライブ?」


 あの野外フェスのことだろうか。あの場にいて一緒に見たと言えるほど接触した女といえば……。


「オタ芸仕込まれてたでしょ」


「…………あいつら!? あれ!? あれ女王!?」


 あのはしゃぎ倒していたオタ女が女王!? あれでいいの!? あいつそんな重要なポジションなのかよ。何他国に潜入してんだ。


「もう片方が姫スね」


「どこが!?」


「あの人は立派な姫だお。今度うちのブロックでお渡し会を企画中スね」


「オタサーの姫なの!? お前らそれでいいのか!?」


「実際有能なんスよ。才能あって的確に効率よく努力できて悪の道には走らない。自分が苦手なものは専門家に任せる。けど監督はできるしカリスマで裏切らせない。そういう人なんス」


 地味に厄介だよ。弱点っぽいものがないじゃねえか。そういうやつが一番めんどくさいんだぞ。


「あとこれ聞いてきてくれって二人から頼まれてるんスけど」


「なんだよ? 国のことなら俺よかミリーの方が詳しいぞ」


 真面目な顔しているところ悪いが、俺に国政とかちゃんと理解できていると思ったら大間違いだぞ。俺は雰囲気で国を運営している。


「三人との恋愛的な進展とかありました?」


「クソしょうもねえ!?」


「なになに恋バナ? 気になっちゃうなーん!」


「少しは進展したんですか?」


「余計なお世話だアホ。まあ普通に仲はいいよ。進展っていうのはわからん」


 恋愛の進展が理解できない。どうなると進んだことになるのだろう。正式に付き合ったらっていうならまだだし、基準がわかんないぞ。


「そういうのヒロインレースっていうんでしょ! ルナはそういうのも敏感なんだぜえ! レース首位は誰? やっぱリリアちゃん?」


「レースとか一回もしていないぞ」


「ほへ?」


「ヒロインレースなんて一回もしていない。はじめから三人と親友のままずっと楽しく生きるか、三人と恋人になって永遠に暮らすかの二択だ」


 四人でいることは大前提で、誰かだけを選ぶことは絶対にない。これは共通認識であり、今後も変更はないのだ。


「なんかよくわかんないにゃ。大事にされてるのは伝わったけどね」


「アジュさんへの理解が低いスね。うちの女王のほうが詳しいスよ」


「なんでだよ。俺そんな危険人物だと思われているの?」


「単純にそっちの四人箱推しってだけスね。あと調べても個人情報が全然出てこないとかで、少し怪しんではいます」


 なるほど、俺の四月以前のデータが無いのか。転移した瞬間から星に登録はされているはずだが、この星で生まれたわけじゃない。よって星の強制力も届かないから、強引に歴史改変もできないはず。定義づけが難しいのか。


「気にしないでくれ。俺は学園に来るまでなーんもなかったと思え」


「無茶なことを、いやまあ悲しい過去とかあるなら追求はしないスけども」


「大切なのは今。アジュは頑張ってる」


「急に褒めても何も出ないぞ。なんか静かだったなイズミ」


「ガンマはすぐ下ネタを遮るから」


「それが普通だぞ」


「もうちょい慎みを持って欲しいとこスね」


 ここで雑談終了。目的地である採掘場と、そこから隣接する工場のある場所へ来た。岩や土が多いが、よく見ると鉄やトンネルや鉄柵も見られる。


「ここは最近まで安全に作業が行われていたはずなんスけど、どこからか魔物が来るようになって、魔物除けがいまいち機能してないみたいスね。その確認と、5ブロックの不審者狩りもします」


「不審者。盗賊がいるという報告が散見された。討伐を推奨」


「学園で犯罪とは割の合わんことを……」


「ガキが治める土地なんて、犯罪に使いやすいとでも思っているんでしょう。学園の敷地内なんスけどねえ」


 まったくもって理解できん。警察署の内部で強盗やるようなもんじゃね。

 無駄な思考に浸っていると、なにやら物が壊れる音がする。


「行くぞ」


「了解ッス」


 そこには柵や箱を破壊する、土と鉄混じりの狼がいた。明らかに自然の生物じゃない。物影に隠れて様子を見るが、まだ誰も到着していない。


「ゴーレムの亜種と推測。魂はない。命令で破壊を続ける。討伐推奨」


「俺とガンマで退治。イズミとルナとヨツバは隠れて犯人探しだ。誰かが見ているかもしれない」


 土狼は三匹だ。片付けられる範疇だろう。サイズもそれほど大きくない。


「了解」


「そっち任せるね」


「んじゃいきましょか。オレ前衛でいいんスよね」


 ガンマがフードを被り直し、その灰色の髪と紅い瞳を隠す。さっきが完全に消えるのは、流石はアサシンといったところだろう。


「頼む。ライトニングジェット!」


 クナイを三本飛ばし、一匹を貫通して仕留めることに成功。回避行動で大きくジャンプしてしまった一匹を、ガンマの剣が両断する。


「硬そうに見えて普通スね」


「うわあガンマつよい」


 普通に速くて強い。アサシン組織だもんね。イズミが強かったし、同期だもんね。これ俺いらないよね。


「ちょっと強めの躾いきますよ」


 ガンマのイヤリングが長い銀色の棒になり、ノコギリみたいな刃付きに変わった。打撃と斬撃を同時に行う武器らしい。ぐしゃりと音がして、土狼が砕け散った。


「オレもイズミと似たようなことできるんス。専攻は別だから、イズミの方が錬金術の技量は上ですけどね」


「俺マジでいらなくね?」


「いやいや、それがどうも増えるっぽいんスよ。あの数はきついかも」


 高い位置から俺達を見下ろす土狼の群れ。おい待てそういう生態なのか。


「あっちに術者がいるんスかねえ! こりゃ困る!」


「ああそうだな! 俺達は狼の相手で手一杯だ! 術者に対応できないぜ!」


 イズミたちに伝えるため、大きめの声で話す。とっさにこれ思いつけるとか、ガンマは判断力もあるね。やっぱ俺いらないよね。休んでいい?


「今サボろうとしてません?」


「いいや、作戦を考えていた」


 まだまだ甘いな。サボろうとしつつ作戦も練っている。この同時思考はなんとなく俺の堕落した人間性から可能になったのだ。


「こっちに飛ばせよう。足元に棘出すわ。サンダースマッシャー!」


「なーる、了解ッス。バーニングニードル!」


 俺達の攻撃魔法が狼の足元に当たり、反射的にジャンプしてこちらへと飛んでくる。さっきの攻防でなんとなく読めた。そして俺達はバックステップ。着地した箇所へトラップ発動。


「ライジングニードル!」


「ほいほいっと。こりゃ楽でいいや」


 雷の棘で拘束された土狼を、ガンマが素早く斬り殺していく。刺しきれなかったやつを魔法で撃ち落としつつ、ガンマのサポートに回れば、十匹くらいは楽に狩れる。


「おつかれ。追加はいないようだな」


「おつかれさんッス。どうやら逃げたか。じゃなきゃ時限式トラップだったか」


「イズミ達を追うぞ。かなり離れた」


「ウッス」


 何もないのに遠くへ行くやつらじゃない。つまり何か見つけたんだ。ガンマと一緒になるべく急いで先へと進む。工場から離れているが、敵は出ない。さてどういうことだこれ。


「魔力も反応もこっちなんだよなあ……」


「そういやどうやって追跡してるんスか。オレはアサシンの目印とか合図がありますけど」


「魔力の探知機くっつけてある」


「おー、やっぱ魔法得意なんスねえ」


「そうでもない」


 チェイスキーで作った魔力結晶を持たせた。これで位置がわかる。死ぬほど遠くに行かれれば無理だが、施設の中と周辺くらいなら問題はない。


「距離が離れ続けているよな」


「追跡中ってことスかね」


「捕まっているとか……」


「イズミを捕獲するのはきついでしょ。あいつめっちゃ逃げる手段隠してるタイプですから」


「ヨツバもフウマだ。逃げる算段くらいはつけているはず。止まったぞ。ここ普通に通る道だよな?」


 このあたりは工場と岩山くらいしかないが、そこまでの道はしっかりと舗装されている。人通りはない。そして戦闘の痕跡がない。反応が道の途中で止まっているようだが、捕まえたのか?


「雑多に魔力が増えてますね。こりゃ戦闘開始前ってとこスか」


「こっちもそうなりそうなんだが」


 離れた位置に土の狼が群れている。こちらを捕捉しているようで、バトル的な展開は避けられないだろう。ちなみに俺の体力が地味に減っている。疲れてきた。


「あれ時限式かな? 俺達への攻撃かな?」


「術者の気配がないスからどっちとも。まあぶっ壊して合流がベストじゃないッスか?」


「了解。頼りにする」


 カトラスを抜いて、嫌だし戦いたくないけれど準備をする。なんというか、今回も長引きそうだな。頼むから神とか出てくるなよ。

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