アジュ、ガンマVS謎の敵

 昼と夕方の中間くらいの街道で、ガンマと一緒に土の狼を倒そう。仲間と合流したいので、できる限り早くな。


「一人頭五匹ってとこスかね」


「きっつ……期待している。マジ頑張れ。俺もなるべく援護するから。ライトニングビジョン!!」


 雷の分身を二体作る。操作しつつ戦闘できるのはこれくらいがギリ。魔力量というより精密操作ができるかどうかの問題である。


「おおー、やっぱ多彩スね」


「どうも。ここ遮蔽物がほぼないから、俺は不利だぞ」


「うーっす。じゃあオレが頑張りますかね」


 分身で牽制しつつ、数の少ない場所を狙って切り込む。飛びかかってくるやつは、横に避けて切ればいいので簡単なはずだった。


「かった!? 硬いわボケ!」


 やばい。鉄の部分と土の部分で強度が違う。勢いに任せると負担がかかってうざい。遠距離から撃つしかないな。


「サンダー……ああもう無駄に素早い!」


「牽制してくれればオレがなんとかするスよ。はあっ!」


 ガンマが綺麗に切断していく。やるねえ。かっこいいじゃないか。

 俺も真面目にやるとしよう。得物を長巻に変え、刃に雷光を流す。


「ほーれ、飛ばないと痺れるぜ。サンダードライブ!」


 雷光を走らせて、地面から飛ぶように仕掛ける。長巻の魔力スロットを二個発動させてから、敵をまとめて切り裂いた。


「雷光一閃!」


 二匹まとめてぶった切ることに成功。三匹目で刃が食い込んで止まった。


「ほいっと」


 瞬時にガンマの刃が翻り、土狼の首が落ちた。形を保てなくなったのか、ぼろぼろと崩れて土塊へと変わっていく。おかげでバランスを崩さずに戦闘を続行できる。


「殺せば崩れてくれるのはありがたいな」


「ちゃんとした生物じゃないスからね」


 会話しながらも追撃の手は緩めない。長巻はどうしても大振りになってしまうので、隙を消しながら戦う必要がある。背中から雷の腕を伸ばしたり、分身を壁にしたりして戦っていく。


「黒幕は?」


「いそうにないっス。ついでにイズミも戦闘中かも」


「試すか」


 空に向けて強めのサンダースマッシャーを撃つ。

 数秒あって離れた場所から水と風の柱が上がる。


「イズミの魔法っスね」


「戦闘中で間違いないな」


 残り五匹。ちなみに途中で増えた。ふざけんなよマジで。すばしっこいから、うまいこと避けて切るだけでもきついんだぞ。


「くっそ……分身が安定しない」


 長時間出しっぱなしは厳しい。だが出さないと俺に敵が来る。神経使うわ。何かしらの改善策が必要だな。


「しょうがない、ギルメンいないのに即興で戦法考えるのは嫌いなんだが。ガンマ、俺が貼り付けるから、一気に切ってくれ」


「貼り付ける?」


『ガード』


 まずガードキーで俺の目の前に壁を作りまして。


『スティール』


 スティールキーで土狼を吸い寄せる。すると狼が半透明な壁に顔をぶつけるので。


「なーるほど。便利ッスね」


 ガンマが全部切ってくれる。敵が一列に並ぶように、自分の立ち位置を調整するのがコツだ。


「伝わってくれて助かった。この量は長いこと吸い寄せられない」


 効果を解除して一息つく。慣れないやつと二人で戦うのきっつ……もうやだ。マジでギルメンが恋しい。


「さって急いで合流したいんだが……関係ないならどいてもらえるかい?」


 イズミたちを合流させないように、フードつきの長いコートを着た男が立ちふさがっている。俺でもわかるくらいに殺気をばら撒いていた。


「ちなみにオレは知らないスから。フードは顔を隠す道具としてポピュラーな存在ッスからね」


「疑っちゃいないさ」


「8ブロックの国王だな」


 声で性別がわからない。ぼやけた声色で、なんとなく生物っぽくない。


「違います。そちらの勘違いなので……」


 俺の話を無視してこちらに迫る。両腕から魔力の剣が見えていた。だが甘い。


「だめだめッスね。そいつは無理な相談スよ」


 ガンマの刃が、フード男の首筋で止まる。


「どこのどいつか知らないけど、アサシンに背中向けて無事で済むと思ってんのか?」


「君も変わりたいか?」


「はあ?」


「下だ! サンダースマッシャー!」


 ガンマに影が迫っていたのを見て、咄嗟に攻撃魔法で牽制する。直撃したはずなのにすり抜けていき、どうにもノーダメージの気配だ。ガンマが距離を取れたので良しとする。


「攻撃してくるってことは、敵でいいスよね?」


「私の仲間になれ」


「まずお前誰なんだよ?」


 こいつ顔が見えない。真っ暗だ。最悪顔がないな。嫌な予感がする。


「私と一緒に人生観の変わるきっかけを得ないか? 今の自分から変わることを恐れてはいけない。私も人生観が変わる途中だ」


「一人でインドでも行って来いやボケ」


「いんど?」


「ちくしょうリリアがいないからボケが通じない」


 そして俺とガンマしかいない。結構な詰みっぽい。いやまだだ。ガンマが超強ければ助かる。頑張れガンマ。お前に命運がかかっているぞ。


「いらん期待をされてる気がするスけど。オレ基本的にただのアサシンなんで、過剰な期待は重いっていうか」


「私とともに歩もう。命だけは助かるぞ」


「断る。まずどこの誰かくらい言えって」


「人の罪だ。罪があるのだから償うか染まるかだ」


「はあ?」


 こいつ会話できない。会話機能があるだけで、BOTみたいに意思がないのか?


「君達には素質がある。暗き衝動を開放しろ」


「ねえよそんなもん」


「暗いのは否定しないスけど、あんたに言われる筋合いはないんで」


「開放の手伝いをしよう」


 コートの袖から魔力の槍が飛んでくる。とりあえず撃ち落として本体も攻撃しよう。


「ライトニングフラッシュ!!」


 直撃しているはずなのに、平然とこちらへ迫る。ダメージとかじゃなく、根本的に効いていない?


「おっと、オレもいるんでお忘れなく。影が薄いのも得スね」


 ガンマの刃が横薙ぎに払われる瞬間、カウンターを決めようとしている動きを見た。仕方ないので反対側から長巻で攻撃に移る。


「魔力を込めろ!!」


 咄嗟に叫ぶことで、ガンマの魔法剣が発動する。同時攻撃により、敵のフードを切り飛ばすことに成功するが、本体は離れた位置に移動していた。


「うーわ、どういうことスかあれ」


 切り取られたフードの中には、紫の空間だけがある。本格的に人外だ。


「力を見せよう。強きものに従うことは罪ではない」


 紫の空間から、魔力で編まれた剣や槍がじゃんじゃん飛んでくる。


「リベリオントリガー!」


 身体強化をかけて避けながらカトラスで弾いていく。一撃一撃が重い。超人ほどじゃないが、尖兵でこれならかなりやばいぞ。


「ちょい本気出しますんで、さっさと地獄に落ちてくれると嬉しいス」


 音速移動したガンマが斬りかかるも、防御すらせずコートから魔力が飛び続ける。


「おおっとっと! 攻撃が効かないのはどういうことだ?」


 ガンマの攻撃が通じないのは計算済み。そちらに意識が行っている間に雷速で敵に近づいて必殺魔法をぶち込んでやる。


「プラズマ……イレイザー!」


 手応えはあった。コートが後方へと飛ぶのも見えたが。


「ともに歩く資格があると認める」


 コートがふわりと宙を舞い、紫の霧が中身を作る。こいつマジ無理。

 少しだけ霧がブレているので、ダメージはあったらしいことが救いだ。


「ガンマ、あいつ人間じゃない。神話案件だ」


「何案件って?」


「神話生物だ。神とか概念とかのタイプ。殺すのに手間かかるやつ」


「神って殺せるんスか? っていうか実在するんスか?」


「そこから?」


 さっきの十倍の魔力剣が飛んでくる。こんなもん撃ち落とすだけで精一杯だ。

 威力も上がっているが、俺達を試しているのか? 今のうちに始末しないと面倒だぞ。頼れるのはガンマだけだ。


「ガンマ、神とか国とか消せる?」


「無理ッスね。できるわけないでしょ」


 はいピンチ確定。どうしましょ。プラズマイレイザー連発するか……魔力切れが怖いな。


「あれの対策をご存知で?」


「超人レベルの必殺技か、国宝クラスの武器があれば楽勝」


「じゃあ無理じゃないスか」


「必殺技ない?」


「殺しの技は物理攻撃ばっかりス」


「強化魔法と武器への魔力付与でいけるはず。プラズマイレイザーが効いたなら、回復されないうちにダメージを積み重ねれば……」


 霧が槍と触手の中間の存在として追尾してくる。

 相談中くらいじっとしていてくれ。


「雷光一閃!」


 なんとか切り落とすが、体力と魔力の消耗がエグい。ガンマは平気っぽいが、俺に限界が来るぞ。ヨツバ達にも同じ敵がいるなら、ルナとイズミが危ない。あいつらは神話生物との戦闘経験がない。正体の分からない敵に鎧は使いたくないが、ここにはギルメンがいない。ソードキーで殺そうにも、あれに近づけるか?


「よくわかんないッスけど、ちょっとマジになるんで、巻き込まれないでくださいね」


 ガンマの剣が光に包まれ、本人の体もうっすらと白い光が満ちていく。


「これより先、永劫なる百合の護り手になりて純粋無垢を肯定する。汚れなき乙女の輝きを守護し悪を討つ。我はアサシン。百合の輝きを損ねず、妨げず、光に潜む影なき光。エンドレス・ホーリー・セイヴァー!!」


 じわりと髪と目が白く染まる。魔力の流れが乱れることなく全身を包み、光そのものがガンマを守る。


「光ってガラじゃないし、アサシンとして光るのってどうなんって疑問はあるでしょうけど、まあこれが奥の手その一って感じッス」


 そして超高速移動したガンマの剣が敵を斬る。


「ぬう……これは」


 完全に攻撃が当たった。あの形態は敵を圧倒している。パワーもスピードも完全に凌駕していた。


「おおー、これいけるんじゃね?」


 とりあえず援護は欠かさない。ガンマが強いのだから、敵の攻撃を少し妨害するだけでいい。射線に入らないように。それでいて戦闘の流れを切らないように。


「おおおおおおりゃああああぁ!!」


 ガンマの猛攻は続く。正面からの攻撃は少なく、死角に入ったり不意にフェイント混ぜて手数とパワーで押していく戦法だ。単純に技量があるので、ただそれだけで敵にとっては面倒になる。


「ここで消えちまえ!!」


 もはやコートはボロ布となり、内部の霧が集まり丸くなっていく。最早完全に人じゃない。


「戦闘の勘ってやつがないスねえ。生き物じゃないから生存本能ってやつが働かないんじゃないスか?」


 ガンマの姿がゆらりと揺れる。蜃気楼のようにぼやけては、突然の斬撃で終始有利に戦っていく。光の加減で作り出した何かだろうか。


「ウオリャア!!」


 豪快な飛び蹴りが炸裂して、霧が薄くなった。あれ減るとHPが減っている感じだろうか。そこから乱れ斬りで総量が減っていき、煌めく剣が敵を光の粒子へと変えた。俺達は勝ったのだ。


「うっし。退治完了ッス!」


「その力、やはり欲しい」


 そして別のフード男が追加された。おかわりは禁止じゃないかな。


「えぇ……それはずるくないスか?」


「滅する」


 男の足元から魔力の暴風が吹き荒れる。これじゃ近づけない。


「おおっと、こりゃどうしたもんスかね」


「気をつけろ、あいつ球体だ。人の形じゃない。どこからでも攻撃が来るぞ」


「ちょっと初体験が多すぎッス」


「すぐ慣れる。プラズマイレイザー!」


 暴風の壁を突き抜けるが、本体へのダメージが減る。こういうの本当にしんどい。学習するタイプの敵って嫌い。敵の時点で嫌いだけど。


「しょうがない……ガンマ、イズミのところに行け」


「は? アジュさんはどうするんスか?」


「時間を稼ぐ」


 こうなればしょうがない。爆発か何か起こして煙幕にして、鎧着て潰す。


「流石に聞けないスね。逃がすなら国王様でしょ」


 あー……こっちの事情を知らないんだった。どうする? 今から話す? 強引に鎧を着て……いやあまり多く見られるのは……そもそも説明がめんどいし、説明すると神との殺し合いに巻き込みそうだし。


「そんなわけで、イズミによろしくッス」


 いかん、なんか決意した目をしていらっしゃるよ。

 やばいやばい。俺の知り合いで精神体を殺せて鎧について知っているやつ。

 そんなんほいほい呼べるなら、こんな苦労はしていないわけで……おや?


「あー……完全に忘れてた」


 リンク開始。相談完了。どうやら出てきてくれるらしい。んじゃ呼ぶか。


「来い、キアス!!」


 召喚魔法で目の前に呼ぶ。光をまとって現れたのは、久々に登場したユニコーンのキアス。


「アムドキアス、マスターの呼びかけに応えここに参上。まったく、完全にペットか雑談相手だと思っていたな?」


「悪い悪い。けど召喚獣ってどこでも呼んでいいものじゃないし、試験じゃ禁止されたりするじゃん。限定されると除外して考える癖がつくんだよ」


 同志キアスが呆れ気味である。本当にすまない。

 突如として乱入したユニコーンに、キアスと敵が止まっている。


「聞いたことがあるッス。魔王アムドキアス。理想の清らかな乙女を守るため、魔界を放浪し続けて魔王の称号を得たユニコーン」


「ほう、知っているのか。同族とは異なるようだが」


「お前そんな事していたんかい」


 こいつの経歴もよくわからん。おそらく大真面目なんだろう。キアスの処女厨は本気だからな。


「オレは百合男子。処女厨とは少しだけ趣が違うもの。けどみんな清らかな乙女でいて欲しいとは思ってるッス」


「いい心がけだ」


「いいから戦闘に集中しろ」


「すまぬ。今処分する」


 角から出たビームが、暴風と男の右半身をふっ飛ばす。


「えぇ……? ちょっと強すぎないスか?」


「神獣で魔王である。当然だろう」


「獣に用事は無い」


 霧が四角いブロックへと変化した。内部に高密度の魔力が溜まっていくのを感じる。ビーム的なものだろう。


「魂なき玩具に言われる筋合いはない。消えよ」


 敵の足元から光の柱が立ち上り、丸ごと飲み込んで消してくれた。


「うーわ……結構苦労したのに」


「同志アジュよ、虚無さえ当てれば勝てただろう?」


「あいつ早すぎるし、チャージの時間がない。霧になられたら侵食も分散するんじゃないか?」


「一理あるな。思考を続けながら戦闘するのはよいことだ」


 インフィニティヴォイドは連発できない。数発でかなりの負担になる。確殺できないようなら使うべきじゃないのだ。


「あの、味方が心配なんスけど」


「そりゃそうだ。キアス、背中に乗せてくれ」


「よかろう、ついでに乗るがいい百合男子」


「ガンマッス。よろしくお願いします」


 二人でキアスに乗せてもらい、ヨツバ達がいる地点へと駆け抜けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る