救出と合宿のはじまり

 俺とガンマは召喚したキアスに乗り、ヨツバ達がいる地点まで街道を駆けた。

 そこでは赤い水が人の形をしながら揺れている。あれがどういうものなのか不明だが、まあ敵だな。


「いたぞ、まだ死んでいない」


 全員衣服に傷はあれど、致命傷ではない。ヨツバがルナを庇うように動いているからか、どうにも形成が変わらないみたいだ。


「処女の命は散らすべきではない。ゆくぞ」


 キアスが近づくと同時に、こちらへ魔力の槍が飛んでくる。さっきと似たタイプだな。俺が撃ち落として、キアスの魔法で攻撃開始。


「あっくん!? っていうかユニコーン!?」


「あれお前ら初見だっけ?」


「私は初めて見る」


「そういえば久しぶりに見ましたね」


 ヨツバ以外は知らんらしい。つまり三学期開始時点で呼び出していないことになる。などと分析しつつ、軽く回復魔法をかけてやった。その間にキアスが敵を倒してくれている。いいぞ、流石は魔王だ。俺の負担が減るぜ。


「サンダースマッシャー!」


「オレは狼を散らしておくッス」


 ガンマがキアスから降りてザコを狩る。俺は乗ったまま魔法とカトラスで攻撃続行だ。近くのやつから切っていく。無傷の敵が少ないな。どうやら加勢の必要はあまりなかったようだ。


「キアス、とどめだ」


「ホーリーブレイク!!」


 赤いうねうねした結晶は、光の渦に消えた。これで全滅させたと思う。誰も死んでいないようで何よりだ。キアスから降りて周囲を警戒するが、特に言及すべきところはない。


「服がボロボロッスよ。これ着てください」


 ガンマがルナとヨツバに自分の上着やマントを渡している。イズミは自前でマントがあるので平気。しかしよくそういう行動がすっとできるな。


「紳士的だな」


「女の子の肌っていうのは、男に見せちゃいけないんスよ。きゃっきゃする女の子同士にだけ見えるものッス。変な男が寄ってくるかもしれないスからね」


「真の百合男子とは、男が挟まるきっかけからも守る、ということか」


「道に違いはあれど、求道者として尊敬するぞ百合男子よ」


 突き抜けた求道者は嫌いじゃないよ。実に面白いからね。

 とりあえずヨツバたちの話を聞きつつ、場所を移動する。

 なんでも土狼が出たあと、急にあの赤いやつが襲ってきたとか。


「奴らはなんて言っていた?」


「もっと憎めとか恨めとか」


「勧誘してこなかったスか?」


「勧誘? されてないよ」


 俺たちが戦ったやつとは目的が違うのか。もしくは勧誘条件が決まっている?


「完全に不覚を取った。ヨツバさんがいなければもっと大怪我を負っていた可能性が高い」


「うんうん、すっごい強かったよー! ありがとう!!」


「いえそんな、一人では勝てたかどうか……」


 イロハの親戚だから、ヨツバも少しフェンリルの力が使えるんだっけ。それで対抗しなきゃいけないレベルってきつくねえか。


「とりあえず着替えを取りに行くぞ。こうなったら犯人探しは後回しだ」


 着替えとか置いてある宿へと戻る。キアスは町の外で逆召喚して帰ってもらった。呼べることはわかったので、近いうちに呼ぶと思う。


「よーし、じゃあぱぱぱっとお着替えしちゃおう!」


 俺と女どもの部屋は別なので、一応中を確認したら外に出ようかな。


「おっ、帰ってきおったな」


「リリアちゃん!?」


 なぜか室内にリリアがいる。どうやってここを突き止めた。そしてどうやって入った。行動が読めんぞ。


「安心せい、ミリーに許可取ったのじゃ。それにわしも5ブロック調査班のメンバーじゃよ」


「なるほど、とりあえずお前らは着替えろ。俺たちは部屋の外に出ている」


「覗かないでよ?」


「興味がない」


「百合の美しさを汚さない」


 男二人で外に出る。壁によりかかり、どうせ長くなる女の着替えを待つとしよう。


「今更スけど、女の子ばっかりってきついッスよね」


「まったくだ。勇者科は男女比がおかしくてな。まあ男でもきついんだが」


「オレは見守るだけでいいんスけど、同じクラスはきついな……肩身が狭そうだ」


「ギルメンがいない勇者科はしんどいぞ。授業は悪くないけどな」


 もしかして勇者科の男は増えているかもしれないが、現状知りようがない。そもそも相手が男だろうが女だろうが、他人と仲良くなるスキルはない。めんどい。

 けど特別な授業や試験は少し楽しかったりする。今も面倒ではあるが、国の運営などという意味の分からない体験はできているし、そう悲観するもんじゃないかもな。


「何でしたっけ、素質があるとぶち込まれるとか」


「そうそう、ガンマも気をつけな。いつ開花するかわからんぞ」


「オレみたいなやつには無理スよ」


「俺が入っちまったんだから、誰が入るかわからんぜ」


 などと雑談していたら、着替え終わったやつらが出てきた。


「おまたせ。次はどうする?」


「仲間に報告じゃな。敵の正体がわからぬ。今は情報を集める段階じゃ」


「わかった」


 街には情報収集係がいる。それとなく近づき、ささっと情報を渡していくのだ。あんまりアジトに何度も出入りすると怪しいからね。ただ情報係がスパイだと詰むけど。そこはもうしょうがない。


「このまま街をふらふらするか? 俺は連戦は拒否りたい」


「そうスね。まあオレはアジュさんについていきますよ。新鮮なアジュリリを報告しないといけないんで」


「意味がわからん。俺とリリアがいてもいいのか? 百合じゃないぜ?」


「既存のカップルぶっ壊してまで百合に染めるつもりはないスよ。あくまで百合少女を愛でるだけ。卒業していくのなら、その過程すらも美しくあってくれと願うだけッス」


「お前かっこいいな」


「おぬしの知り合い変なのばっかりじゃな」


 とりあえずガンマはついてくるらしい。強いのは理解しているので、いてくれる分にはありがたい。ここからは別の問題だ。


「正直ルナとイズミを巻き込みたくない。どこか安全なところに行ってくれないか?」


「同感スね。イズミと話は合いませんが、死んで欲しくはないッス」


「うーむ……拠点に帰すべきかもしれんのう」


 少し空気が冷える。まあ戦力外通告みたいなものだからな。


「私も戦える。アサシンから戦いを取ったら何も残らない」


「なら新しく作っとけ。あれは大人が戦わないといけないレベルだ」


「つまりルナやいずみんより、あっくんたちは強いんだね? だから止める側なんでしょ」


 さてどう言ったものか。馬鹿正直に強いと言っても今後に響く。俺は限定的な強さだから、期待されることがもう落とし穴なわけで。


「国王としての責任だよ。お前らに死人は出したくない。そこに強さは関係ない」


「ならアジュを守る。私は横にいていいはず」


「私はイロハと交代できればいいんですけど……どうしましょう?」


「ヨツバはまあ、フウマ枠だし問題ないだろ」


 事情を知っている組だし、いてくれるなら連絡係にもなる。非常に助かるのだが、他のやつはちょっと危険だぞ。


「面倒じゃな。どうせかかわれば狙われる。なら鍛えたらよいじゃろ」


「鍛える?」


「うむ、少しだけ面倒見てやるのじゃ。それで、おぬしはなんじゃ。言いたいことがあるなら言ってみい」


 見事にバレている。俺の思考など読み切っているのだろうし、今更そこに疑問もない。さっさと話してしまうか。


「そりゃわかるか……ちょっと相談があってな」


「なんじゃ? 敵の正体でもわかったかの?」


「新しい術が欲しい」


「ほほう?」


 雷属性が少し行き詰まっていること。安定させる手段を別口で欲しいこと。敵に悟られない、敵の知らない術を習得することで優位に立つ必要性などを話した。


「なるほどのう……よし、合宿をするのじゃ!」


 リリアの意味わからん提案により、よくわかんないけど5ブロックの合宿場に来た。急展開すぎて処理できん。

 とりあえずきれいな川が流れる山だ。大きな家があって、そこが合宿場らしい。個室も広い二階建てだぜ。


「アジュくん、ちゃんと説明して」


「俺もわからん」


「こりゃわたしも想定外だねえ……」


 参加者はルナ、イズミ、ホノリ、フラン、ミリー、ガンマ、ヨツバ。8ブロックフルメンバーなんだけどいいのかって? アオイと超人に全部任せた。二日くらいならなんとかしてくれるってさ。


「さて、ではまずアジュに特別な術を教えるから、こっちの岩に座るのじゃ。他のものはウォーミングアップをしておくように」


 そして野外の離れた場所で、意外な術を教えられる。基礎も基礎だと言われたが、ちょっとこれ習得できるんかな。そっち系が来るとは思わなかった。


「ほれほれ集中が乱れておる。紙に雷が通って焦げておる」


 手に持った特殊な紙に魔力だけを流す。そこに俺の生命エネルギーを馴染ませる。だが魔法に慣れてしまった弊害か、電撃が出てしまうことがあり、紙を焦がす。


「それを焦がさないで動かせるまでやるのじゃ。その間に他の相手をしておくかの」


 そう言って川の真ん中くらいにある岩の上に立つリリア。ぶっちゃけ目的がわからん。こいつらを強くするというのはどういうことか。


「リリアちゃん、そろそろ説明してくれる? 短期強化合宿をするのよね?」


「うむ、勇者科とはいえ、ぶっちゃけ戦力として心もとないのじゃ。ここで強化しなければ、ずっと護りながら戦うことになる」


「足手まといになるってことスね。まあキアスがあんだけ強いんだし、納得はできますが」


「はいはーい! ぶっちゃけ敵が超人レベルなら無理なんじゃないの?」


「無理じゃな。しかし超人から逃げるくらいはできてもらう。そのために鍛えてやるのじゃ」


 会話を聞きながらも紙に魔力を流す。あ、だめだこれ。集中しないとすぐ燃える。


「具体的にどうするんですか?」


「まず全力の全力を見せてもらうのじゃ。全員でかかってくるがよい」


 場が少しざわつく。まあ見た目完全に少女ですもの。引け目とか感じるよね。中身完全に化け物レベルだけど。


「余計なことを考えるでない。また焦げておるではないか」


「悪い悪い。まあ頑張れみんな。殺されはしないだろ」


「完璧にこっちが負ける想定なのね」


 実力を知っている組は納得。知らないやつは攻撃していいのか悩んでいるようだ。こいつら善人だからな。


「ホノリとミリーは知っておるじゃろ」


「まあ……勝てるとは思っちゃいないけど、この人数だよ?」


「その考えを完全に砕く。でなければ確実に死ぬ。もしくは邪魔になる。そこまでアジュは責任もってくれんのじゃよ」


 他人の人生に責任もつってめんどいよね。絶対やりたくねえ。なのでギルメンで満員でございます。俺の膝の上と両腕は予約済みなのである。


「いきます!!」


 ヨツバが魔力を開放して、リリアの背後に回る。振り下ろされた刀は、扇子で挟んで止められた。


「ぬるい。全力を見定める必要があるのじゃ。もっと強くてよいぞ」


 数秒間があって、ヨツバのラッシュが始まる。どうやら川自体の水位が低いらしく、戦闘に支障はないようだ。


「フェンリルの力を出し惜しみはしないことじゃ。ほい次」


 剣を扇子で弾き飛ばし、軽く左腕を振ることで川から岸まで飛ばした。


「くっ、まだまだですよ!」


「戦闘開始。錬金鋲投射」


 指輪を針にして伸ばすいつもの手段だ。足首まで川に入っているのに、その動きはなめらかで止まらない。


「なるほどのう」


 イズミの目の前に銀の棘が飛ぶ。直前でかわすが、そこで動きが止まった。


「刃先は丸めてあるから安心するがよい」


「どうやったの?」


「空気を錬金して、そこからはおぬしと同じ要領じゃ。ほれほれ止まると刺さるのじゃ」


 足元の水や石までがイズミを取り囲む檻として錬金されていく。


「ったく……本当に勝てそうにないスね」


 銀の棘を切り裂いて、ガンマが駆け抜ける。同時にホノリの両腕についたパイルバンカーのチャージが終わった。


「手加減の必要がないのは知ってる。殺すつもりでぶつけるよ! 爆熱のパイル!」


「よい判断じゃ」


 炎と衝撃が広がり、必殺の一撃は直撃したかに見えた。いや正確には当たっている。リリアが左手て受け止めているのだから、ヒットはしたのだ。


「おいおい……これは私も引くって」


「パワーを過信しすぎじゃな」


「でも左手は塞がったッスね」


 炎に紛れてガンマが近づいていた。なんだ結構連携取れるんだな。


「甘いのじゃ」


 掴んだままのホノリを、ガンマに向けてぶん投げた。


「うわああぁ!?」


「おっと、それくらいは読めてますって」


 ホノリを避けて攻撃を開始する。それに合わせるようにルナが続いた。


「よーし、一緒にいくよー!」


 ルナの剣に軽く横から触れて軌道をそらし、ガンマの剣を扇子で弾き返す。やっていることはシンプルだが、そんな簡単にできることじゃない。なのに全力で切りかかっている二人に対し、まだまだ余裕の表情である。


「ミリーちゃん、やることはわかるわね」


「私とフランさんの合体魔法で撃ち抜く……ですね?」


「それしかないわ。集中して、みんながもたないわ」


「はい!!」


 風と炎が混ざり合い、凝縮された魔力は必殺の威力を伴っているように見える。あれならダメージくらいは通るかもしれない。


「くっそ、どういう力だよ。オレの腕が痺れっぱなしだ」


「よそ見をしすぎじゃ」


「がっ!?」


 ほぼ見えないボディブローでガンマが膝をつく。ヨツバとルナが冷気で動きが鈍ったのを見計らい、三人同時に回し蹴りでふっ飛ばした。


「みんなやられるの早いわよ!?」


「無茶言うな! これでも耐えてる方だよ!」


「完成しました! みなさん離れて!」


 魔法が溶け合い、フランとミリーの必殺魔法が完成した。だが遅い。リリアが扇子を開く。やったことはそれだけだが。


「こうじゃろ?」


 おそらく初めて見る合体魔法を、二人よりも早く、高威力で撃ち出した。


「えっ、ちょっと」


「そんな!?」


 爆発で二人とも目を回している。殺傷能力を極限までカットしたな。


「まあ最初はこんなもんじゃろ」


「マジか……こりゃきついッスね」


「ここまで……ここまで差があるの?」


 リリアは最初に降り立った岩の上を一歩も動いていない。

 そこには誰が見てもわかるほど、圧倒的な力の差があった。


「よし、次はみんなでカレーを作るのじゃ!」

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