プールに行きたいらしいよ

 おひる。起きたら昼だよ。仕方ないね。疲れていたし。

 今日は横に誰も寝ていない。


「ようやく学習してくれたか」


「アジュー起きた? 入るよー?」


 シルフィが入ってきた。ごく普通の平凡な日常だ。


「ああ、いいタイミングだ」


 まだちょっと眠い。シルフィが来なかったら寝たなこりゃ。


「今日はどうする? プール行く?」


「行かない。なんでプールよ?」


「試験で行ったときに無料券貰ったでしょ」


「めんどい。人が多い場所嫌い」


 泳ぎは得意な方だ。しかし、家でごろごろする方が好き。


「よく考えろ。プールが空調きいた部屋に勝ってるところなんてないぞ」


「どういうこと?」


「プールは水だ。帰るには体を拭かないといけないし、水から出たら暑い。人が多くてうざい。水着に着替えるのもだるい」


 よく考えると悪いことしかないな。

 まだ涼しいダンジョンのほうがマシじゃないか。


「そこで女の子の水……着……はアジュだもんねえ……」


「ひとりで完結しおって。まあ俺は水着に興味とかないんでな」


 わざわざ水着を眺めるために、金と手間を使う意味がわからん。

 しかも凝視できないという無駄さ。したくもないけどな。


「ならば、女の子がよりエッチな水着に!」


「下品だから嫌い。むしろ好感度下がるわ」


「だよねえ……アジュは清純派が好きだよね」


 ビッチくさいもの全般NGです。きわどい水着とかうざい。


「普通の水着でいくからさ。新しい綺麗な施設だよ。行ってみたくならない?」


「ううむ……試験でも綺麗だったが……人が多いのだけがうざいな」


「入場料もそこそこ高いし、大丈夫じゃない?」


 客層と設備は大事。まあ学園は王族貴族も多いし、問題はないだろうけど。


「まあ……ううむ。これもサービスというやつか」


「アジュのサービスが受けられると聞こえたわ」


「帰れ」


 音もなくイロハさん登場。凄く期待した眼差しでこちらを見ている。


「一緒にプールに行ってくださいってお願いしているのさ!」


「行かなくても家の大浴場で、プールのようなことはできるわ」


「おっ、確かに」


 家はかなり広い。中でも大浴場は高級ホテルみたいな広さと作りである。


「ねえアジュ、お風呂で水着というのも……おかしいわよね?」


「大人しくプールいくか」


 危ない。全裸で戯れようとしやがったな。

 最近危機を回避する勘が養われている気がするぜ。


「別に一緒にお風呂でいいのよ。寒くなったらお湯にするか、人肌で温め合えばいいの」


「おぉ……魅力的な提案だね」


「ないない。それで風邪引いたら夏休みが縮むんだぞ」


「うむ、今日はプールに行けるだけでも進展じゃな」


 普通にリリアさんがいます。俺の横に。

 おかしい。ベッドには誰もいなかったはず。


「そうね。外出させただけでも素晴らしい成果よ」


「俺そんなダメ人間かね?」


「ダメでもアジュが好きさ!」


 どう返事していいかわからんので、着替えて準備を始める。


「すでに全員分の準備はしてあるわ。アジュの水着とタオルはこれよ」


 水着やら色々が入った袋を渡された。

 召喚機のスロットに入れて、腕輪状に戻してしておく。


「便利だよなあこれ」


「さ、気が変わらないうちに行くのじゃ」


 そんなこんなでプールへ。マップによると、前に来たときより広がっているな。

 試験中は人が少なかったが、結構いる。

 監視員もかなりの数がいるから、人気施設っぽく見えますな。


「じゃ、ちゃっちゃと着替えてくる」


「うむ、急ぐのじゃぞ」


「着替えって女の方が長いんじゃないのか?」


「気にしてはダメよ」


 気にするだけ無駄か。まあいいや。さっさとしよう。


「今度一緒にお風呂に入ったら観察すればよいじゃろ」


「やらんでいいやらんでいい」


 長くなりそうなので更衣室へ。さすが学園。清潔で広い。

 いちいち高級感漂ってんなあ。


「お、アジュ。なんでプールにいるんだ?」


「ヴァン? お前こそイメージないぞ」


 久しぶりに見たぞヴァン。また筋肉ついたな。ごつさが増している。


「オレはソニアとクラリスに誘われてんだよ」


「俺もさ。なんでプールとか好きかね」


「単に遊びに行きてえんじゃねえか?」


「夏場だけしか行けないからか。女は水着になるのって嫌がるもんじゃないのか?」


 会話中に着替えて、服を鍵付きロッカーにぶち込む。

 二人ともトランクタイプである。


「なんとか誘惑しようとしてんだろ。プールの視線を集めるだけだろうにな。いっそ美女コンテストにでも出すか。クラリスが出たがってたし」


「そんな前時代的なもんがあるのか」


「知らね。あるかもしれないし、ないかもしれねえな」


 こいつらも大概アドリブで生きてんな。

 ヴァンは復讐も終わったし、しばらくのんびりする権利くらいあるだろう。


「どのみち大衆の一番にさせる気はない」


「アジュの一番であればいいってか」


「そういうことだ。あいつらが公の場に出て知られるのも気に入らん。他人に好かれても鬱陶しいだけだ」


 あいつらはただでさえ美形なのだ。露出は少なめに。


「他の誰がどんな評価をしようが、俺とあいつらがお互いの一番であればいい。それ以上は望まんよ」


「それは本人に言ってやれ」


「もう少し攻略が進んだらな」


「試験のときにも聞いた気がするぜ」


「んじゃまだその時じゃないんだろ」


 着替え終わり。さっさと行こう。俺が遅れちゃ本末転倒というやつだ。


「あー……どうする? 一緒に行動した方がいいのか?」


「いんや、オレらとは別行動でもいいだろ。そっちの邪魔する気もねえよ」


「俺もさ。恋人と仲良く過ごしてくれ。同じ場所にいたら話ぐらいはする」


 こういうときって団体行動すべきなんだろうか。

 めんどくっさいので遠慮したい。ヴァンはそのへん察してくれる。


「まだあいつら来てないな」


「ほう、奇遇ではないか! 我が友ヴァンとアジュよ!」


「ヒカル? ベルさんまで」


 更衣室から出て出会ったのは、まさかのヒカルとベルさんだ。

 ビキニパンツのヒカルと、トランクスタイプのベルさん。

 似合っちゃいる。妙なところで会うもんだな。


「ご無沙汰しております」


「なんだこの男臭ささは。プールで男四人だぜ」


「うむ、プールの監視員だ! 愛を育む絶好の場所、しかしそれ故に愛が暴走する危険な場所でもある。いわば我は愛の守護者だ!」


「立派です。ゲンジ坊っちゃん」


 こいつのテンションにはついていけん。


「鍵とガラス状の膜に覆われた鈴のついたリングがあるだろう?」


「ああ、着替え入れるところにやつだろ?」


「溺れたり危険な目にあったら鳴る。どこかに忘れぬようにな」


 このせいで俺の腕には三個のリングが付いています。

 腕輪と召喚リングと鍵リング。ううむ、なんじゃこりゃ。


「ここにおったか」


「お待たせ! やっぱり男の人は着替えるの早いね」


 リリアが黒のひらひらしたビキニ。スカート付き。白いリボンもついている。

 シルフィが赤。半ズボンもセット。

 イロハが青と黒の競泳水着に近いやつだ。


「学校指定じゃないんだな」


「うむ、趣向を変えたのじゃ」


「はい、ここで感想いってみよう!」


「感想?」


「水着! 水着どうですか!」


 俺の苦手なやつ来た。当然だが全員似合っている。

 だが褒めるの恥ずかしい。これはなんとか回避しよう。

 横を見るとヴァンがいない。


「わりーなアジュ。ソニアたち来たわ」


「おひさしぶりね~。元気だったかしら~?」


「元気ですよー! ソニアも元気そうだね」


「ええ、お互い夏休みをエンジョイしているみたいでよかったわ」


 ソニアとクラリスも水着だ。結構な大所帯だなこれ。


「む、いかんベル。恋人たちの時間に割って入るなど、断じて許されん! これで失礼する。さらばだ!」


「失礼いたします」


 優雅に颯爽と去っていったよ。あいつもあいつで気を遣ってくれているのかな。


「よし、じゃあプールで遊ばないとな」


「そうね。水着の感想を聞いたら遊びましょうか」


 逃げられない。ううむ、時間をかければかけるほど言えなくなりそう。


「まだ観念してなかったのねアジュくん」


「往生際が悪いわよ~」


「俺は最後まであがくのさ」


「じゃ、オレたちゃ行くぜ。頑張れよ」


「うおうマジか」


 そして去っていくヴァン一味。ちくしょう助っ人がいないぜ。


「ではひとことお願いします!」


「あー……もう……あれだよ。似合ってるよ」


「もうちょい考えるのじゃ」


「かわいい? んじゃないのか?」


 いまだに水着の褒め方がわからん。多分一生わからんな。


「なぜ疑問形なんじゃ」


「はいはい、かわいいし綺麗だよ。はい遊ぶぞ。これ以上は無理」


「まあこんなところね」


「うむ、妥協点じゃな」


「さ、遊ぼう!」


 そんなわけでプールを満喫することになった。

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