プールで遊ぶ。ただそれだけだ

 学園のプールで遊ぶことになった。

 どうやら知り合いもかなり来ているようだが、まあいいや。


「さてどこから行く?」


「流れるやつ!」


 緩やかに流れるプールへ到着。

 かなりでかいな。これ奥で溺れてるやつ救助するとき間に合うのかね。


「前にスライダー乗ったよな」


「乗ったのう。今回は浮き輪に乗るのじゃ」


 でっかい浮き輪に二人乗りすることになった。

 まず俺が座り、その上にリリアが座る。

 浮き輪の横でシルフィとイロハが泳いでいる形だ。


「流石に全員は乗れないよね」


「落ち着いて交代で乗りましょう」


「俺が降りればいい気がする」


「それでは意味が無いじゃろ」


 拒否られました。俺に背中を預けることに意味があるっぽい。


「それ以上言うと向かい合う形で乗っかるわよ」


「絶対にやめてくれ」


 こいつらは本気でやりかねない。抱きつかれながら一周するのは地獄。

 そこまで恥晒すのは本当に嫌なので、実際にはもうちょいマイルドになるだろう。


「最近またいちゃいちゃできる時間が減っておるからのう」


「そうか? 夏休み入ってから遊んでばかりだろ」


 最近はいつも誰かと一緒だ。俺の生活スタイルからはありえないことなんだけど。


「確かにアジュと一緒にいることは多いわ」


「けどこう……何人かでパーティー組んでる感じでさ。恋人っぽくない気がします!」


「完全にノーコメントを貫くわ。俺にどうしろというのさ」


「そうね……なにをしようかしら」


 真面目に考え始めるみなさま。これは良くない流れですよ。


「もうちょいゆったりしようぜ。人前で欲望を解放するんじゃない」


「二人っきりでも開放させてくれないわね」


「限度ってもんがある」


 流れるプールでゆっくり遊ぶ。嫌いじゃないが、ちょっと飽きるな。

 次はどこに行こうかと感上げて、ふと気づく。


「こっちの泳ぎってあっちと同じか?」


 こっちでクロールとかあるのだろうか。

 なんか魔法使った凄い泳ぎとかありそう。


「ほぼ同じじゃ」


「戦闘系の科だと、武器持ったまま泳ぐ方法とか習うよ」


「忍者には古式泳法もあるわね」


「なるほど、競技用ってより戦闘用なんだな」


 戦闘が身近な世界ならではだな。

 潜水魔法とかもあるらしい。俺雷属性だけどできるのか不安だ。


「あんまり体動かしたくないし、だからってこのままってのもなあ」


「微妙にわがままボーイじゃな」


「自覚はある。こういう施設で遊んだことないから、よくわからんのよ」


 どう楽しむものなのか、ちょっと遊び方がわからない。


「よし、ビーチバレーだ!」


「ビーチバレーあるんかい」


「今更じゃな。もう何があっても驚くだけ無駄じゃよ」


 それを言っちゃあおしまいよリリアさんや。

 まあ遊びの場でうだうだ言っても鬱陶しいだけか。


「アジュは審判よ」


「参加しなくていいのか?」


「体を動かさない方がいいでしょう?」


「うむ、そして賞品でもあるわけじゃ」


 おや、嫌な予感がしますね。なんでしょうこの寒気は。


「うやむやにしてキスしてないわよね」


「してないねー」


「しただろ」


 むしろ一回でもした俺を褒めろ。マジで。

 思い出すと言い表せない気持ちになるので封印している。


「わしだけ二回は不公平じゃろ」


「そうね。ちゃんと全員にすべきよ」


「そのきっかけを作ろうって魂胆か」


「そうでもしないとしてくれないでしょ?」


 確かに。日常の一コマに落とし込むともう無理。

 意識するかギャグになる。そしてうやむやにする。


「最近うやむやにするまでがスムーズになってきたってのに」


「無意味なスキル上げよってからにこやつは」


「そんなわけでビーチバレー勝負です!」


「いいけど三人でどうやるんだよ?」


「ではわたくしが入りますわ!」


「うおわっ!?」


 突然水の中から飛び出てくるヒメノ。水着面積がやけに小さい。


「でやがったな大道芸人」


「誰が大道芸人ですの!? えーまずアジュ様」


「なんだよ?」


「親衛隊の件、本当にご迷惑おおかけして、申し訳ありませんでした」


 普通に頭を下げてきた。なんかガチ謝罪っぽい。


「リリアにも迷惑かけましたわね」


「気にしとらんのじゃ。おぬしのせいではないじゃろ」


「それでも、潰し方が甘かったという罪はありますわ」


 自分の親衛隊が親友傷つけようとしたら困惑するわな。

 しかも100%完全な言いがかり。

 真面目に謝罪しているので、こっちもちゃんと聞いてやる。


「ヒメノが悪いとは思っていないさ。今回はしょうがなかった」


「そうね、仕方がないわ」


「みんな無事だったんだから問題なしだね」


 ヒメノにゃ迷惑しているが、本人に責任がないことを追求し続けるのは違う。

 流石の俺でも筋が通っていないと思うわけよ。


「では、胸を張ってキスの権利を主張……」


「却下で」


「なぜですの!?」


 完全に意外です! みたいな顔で驚いている。

 逆になんでいけると思ってんだこいつ。


「だーめだっつうの」


「絶対だめ!」


「アジュとキスできる権利は三人だけのものよ」


 それもまた微妙に肯定したくないっす。こっち見るのやめろお前ら。


「ならばこうしましょう。やた子ちゃん! フリストちゃん!」


「はいはーい。皆様お久しぶりっす。やた子ちゃんっすよ」


「お呼びでございやすか、ヒメノ様」


 やた子とフリスト登場。

 やた子が白と水色のしましまビキニ。

 フリストが麦わら帽子にスクール水着。


「お前らも来ていたのか」


「はいっす。やた子ちゃんはどこにでも現れるっす」


「旦那に一声いただければ、あっしはどこへでもお供いたしやすぜ」


 まあ二人とも美少女ですよ。ここ美少女率高いな。100%ですよ。

 完全に俺の平凡フェイスが足引っ張ってるねえ。


「これでメンバーは揃いましたわね!」


「さ、行くのじゃ。善は急げじゃよ」


 都合よくメンバーが現れたので、さっさと砂浜コートに移動。

 プールリゾートには、そういう場所もある。


「さ、能力使用可のコートじゃ。存分にやるが良い」


「そこはちゃんと区別されているのな」


「当然じゃろ」


 魔法とかなしの純粋なスポーツ用コートもあるらしい。


「では、実況解説はわしとヒメノ」


「よろしくお願いいたしますわ!」


「コメンテーターにアジュ」


「まあ適当にやるわ」


 なぜかそんな役回りである。

 動かなくていいし、のんびりジュース飲みながら観戦しよう。


「まずイロハ・フリストチーム!」


「必ず勝つわ」


「精一杯お相手いたしやす」


 忍術で撹乱できるイロハと、能力不明だけど身体能力が高いフリスト。

 尽くすタイプのフリストは、完全に援護に回ると強い。


「続いてシルフィ・やた子チームじゃ!」


「負けないよー!」


「やた子ちゃんの秘められた力が今ここにっす!」


 時間操作というマジモンの反則技を持つシルフィ。

 そして超高速移動のやた子。

 スピードを駆使する戦闘になるだろう。


「がんばれー」


 ま、気楽に見よう。せっかく遊びに来ているのだ。


「勝った方に舌を入れられるというのに呑気じゃな」


「舌!? 聞いてないぞ!?」


「入れないと不公平じゃろ」


 やっべえどうする俺。このままだとどっちかに舌入れられるぞ。


「それも仕方のないことですわ」


「なぜ肯定的だお前」


「全員してしまえば……わたくしがしてもいい感じの空気がきっとできますわ!」


「それはない」


「諦めませんわよ!」


 頼むから諦めてくれ。俺の願いは天に届いていないのか。

 そういや天にいるのこいつらだな。神様だし。

 絶望的じゃないか。


「では試合開始じゃ!」


 こうして俺の大ピンチが始まった。

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