激闘ビーチバレー

 なんかビーチバレーで戦うことになったみたいだね。

 適当に観戦して、危ないようなら止めよう。


「プレイボール!」


「それはなんか違うだろ」


 シルフィボールからスタート。

 やた子がボールを上げ、シルフィがアタック。


「必殺、時間差攻撃!」


 凄まじい速さだが、時間差とはどういうことか。


「はっ!」


 フリスト華麗に横っ飛び。だが突然ボールの速度が遅くなる。


「なんですと!?」


 体勢は急に整えられない。フェイントかけられ倒れるフリスト。

 突然加速したボールが、その頭上を超えていく。


「甘いわね」


 イロハの影が砂の中から現れてレシーブ。


「あーやっぱりそうくるよね」


「当然よ。ぬかりはないわ」


 お互いの能力はほぼ知り尽くしているのだろう。

 対策が取られている。そもそもこれルール的に大丈夫なのか。


「あれ影がびっちりあったら地面に落ちないだろ。どうするんだ?」


「そこを考えるのが能力ビーチバレーじゃよ」


「ちなみに攻略不可能ではありませんわよ」


 リリアとヒメノによると攻略できるものらしい。

 それお前らが規格外なだけじゃないのか。


「影の力を見せてあげるわ!」


 巨大な影の兵が、おもっくそボールをぶん殴る。


「止める!」


 シルフィの時間停止発動。

 ボールが止まる……前に五個に分裂し、それぞれ別方向へ飛んだ。


「ボール影分身よ」


「全部止めれば!」


「ダメっす! 全部外れっす!」


 やた子が正解のボールを弾くも、まったく別方向へ。

 イロハチームに点が入る。


「ほー、やるもんだな」


「自分に何ができるのかを熟知しておるわけじゃな」


「なら禁断の魔球いくよ! 連続時飛ばし!」


 今度はイロハと地面にボールが触れる時間だけをふっ飛ばしたようだ。

 影も飛ばされちまえば防御できん。


「搦め手が得意になっていますわね」


「戦闘経験積んだからじゃな。よい傾向じゃ」


「これからも変な特技持った敵は出るだろうからなあ」


「そういえば、またヴァルキリーが出たらしいですわね。今度の子は斧になるとか」


 報告が行っているのか、茶髪クソビッチのことも知っているようだ。


「ああ、ヴァルキリーだったおかげで殺せてよかったよ」


「すぐ殺そうとしなくても……人を殺す人間は世界が狭くなるらしいですわよ。人間関係も広がらずに閉じていくと思いますわ」


「むしろ勝手に広がるなや。閉じろ閉じろ邪魔くっさい。俺の世界は四人で満員だよ。それ以外なんて必要ない。狭いくらいでちょうどいいのさ」


 今の四人での生活に不満はない。人生で一番充実した時間だろう。

 俺の基本世界はそれで完成。満足だ。他の連中は勝手に生きて勝手に死ね。


「アジュはこういうやつじゃよ。それに、殺す相手はしっかりと見定めておる。大量殺人鬼でも、喧嘩っ早いわけでもない。四人に危害を加えようと実行に移したものを、確実に殺してきただけじゃ」


「それがわかっていないところが、あなたがハーレムに入れない一番の理由よ」


「アジュへの理解度が足りません! ヒメノはハーレムに入っちゃダメです!」


 試合中断してまでこっちに宣言するシルフィとイロハ。

 めっちゃドヤ顔ですね。勝ち誇ってらっしゃる。


「旦那は自分に害のない相手には、そこそこお優しい方でございやすよ」


「そうっすね。楽しい人っすよ」


「そ……そんな……わたくしはまだ、アジュ様を熟知していなかったと……」


「せんでいい、せんでいい」


 アホな話は中断させて、試合再開。

 ここでちょっと気になったので聞いてみよう。


「さっきやた子が正解のボール見つけたよな? あれどうやった?」


「やた子ちゃんは真実を見通すのですわ」


 そんなやた子の攻撃ターン。高く上がったボールに追いつき、黒い翼を広げる。


「やた子ちゃん、よろしく!」


「任されたっす!」


 赤い瞳が輝きを増し、妙な魔力が場を満たす。


「これは……神の魔力?」


「お、区別が付くようになったのじゃな」


「漠然とそう思っただけだよ」


 どうやら正解らしい。人と神の魔力は質が違う。ほぼ別物。

 今まで神の血が入った人間とか多かったからな。

 サンプルが少なくて区別できなかったのかも。


「まあ隠されたら区別はつかんのじゃ」


「なんだそりゃ。じゃあ今わかっても大差ないじゃないか」


 雑談中にやた子とボールが二つに増える。寸分違わず同じ動きだ。


「やた子ちゃんが必殺奥義! 八咫の鏡っす!!」


 天空からの全体重を載せたキックにより、超高速でボールが飛ぶ。


「防げない速度ではないわね」


 防御に出した影の巨人の前に、全く同じ巨人が立ちはだかる。


「なっ、どういうこと!?」


「やりやすな、やた子」


 イロハとフリストまで増えた。

 後から出た偽物が、がっちりと二人に抱きつき拘束する。

 その間にめでたくボールは叩きつけられ一点返した。


「っていうかボール蹴ったよな?」


「面白いからありじゃ。既存のルールにとらわれてはいかんのじゃよ」


「いいわ、本気でいくわよ」


 周囲の影全てを取り込んで、久々にカゲハモードになった。


「負けない! 変身!」


 シルフィがクロノスキーを使おうとしたら、リリアによりストップがかかる。


「あ、カゲハと赤い鎧禁止じゃ」


「ええぇぇ!? なんで!」


「影筆も禁止じゃぞ」


「どういうことかしら?」


「施設吹っ飛ぶじゃろそれ」


 あまりにも膨大な魔力によって、二次災害が出るので禁止された。


「こうなれば……純粋な身体能力での勝負っす!」


「望むところでございやす」


 ここから熾烈な勝負が繰り広げられる。


「せいっ!」


「はあっ!」


 もうボールも見えない。シルフィたちも早すぎてぼんやりしている。

 点が入ったり入らなかったり。まず攻防が見えないんだけど。


「見えねえ……今どうなってんの?」


「僅差でシルフィが押して……あ、イロハが巻き返したのじゃ」


「火遁、火球倍化弾!」


「フリージングウォール!」


 でっかい炎に包まれたボールを、氷の壁で阻んでいる。

 なんでだろう、さっきより派手なんだけど普通っぽさがあるな。


「完全に魔法使っとるのう」


「見た目が派手なので問題なしですわ」


「わかりやすくてよし。言っちゃなんだが、やた子もフリストもよくついていけるな。シルフィもイロハも相当強いはずなのに」


 普通に食らいついていますよ。

 隠し玉を封印されたとはいえ、超人に変わりはないはずだ。


「やた子ちゃんは、当時天界一優秀なヤタガラスと、秘宝八咫の鏡を混ぜ合わせて生み出した究極の部下ですわ。おいそれとは負けませんのよ」


「なんかすごそう」


「ピンとこんじゃろ。とにかく強い神様の部下じゃよ」


「フリストちゃんも特別な神の加護が付いたヴァルキリーですわ」


 神の加護。元の世界なら胡散臭い眉唾ものだが、こっちじゃ納得できる。

 神の存在を知っているものは少なくとも、その力と威光は届くのだ。


「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」


「負けるわけには……いかないのよ!」


「試合は白熱しておるが、ここでコメンテーターのアジュに色々聞いてみるとしましょう」


「なんだよ?」


 またわけのわからんノリか。ビーチバレー詳しくないぞ。


「いやー……どんな感じで、舌入れられたいですか?」


「試合の質問をしろ!」


「今まさに試合中の二人、頑張ってますね。汗かきながら必死で試合をしています」


「その口調なんなん?」


「インタビュアーっぽくじゃ。胸とか、揺れてますね」


 まあ確かに揺れている。別にそこまで欲情しないけど。

 やはり俺はそっちの感覚が薄いのだろう。


「あの体に好き放題されるわけですよ」


「される側なんだな」


「絶対自分からせんじゃろ」


「そこは否定できん」


 しなくても今の生活で満足なんだよなあ。やり方もわからんし。


「今まで抑圧されていた欲望が解き放たれるわけですよ。完全に長時間されますね。口の中がっつり舐められますよ」


「生々しいからやめろ」


「体とかものすごい押し付けてきますし、あれですね。場所とか指定していませんから、寝室とかお風呂には気をつけてください」


「怖いよ。超怖いよ」


 お前これ男女逆なら大惨事だからな。いや許可出しちゃったけれども。


「軽く陰部は触られますけれども」


「キス関係ない!?」


「そこは耐えてください」


「えぇ……」


 あえて何に耐えるのか言われないあたり本当に怖い。


「日頃から適度に発散させてあげないからですよ」


「俺の役目なん?」


「他に誰がやるというのですか」


「自分ひとりでなんとかするもんじゃないのか?」


「特定の相手がいるのに?」


 リリアが責めるような目で見てくる。

 これは暗に自分にも手を出さない不満とか訴えているな。


「善処はする……多分……」


「試合終了ですわー!」


 ヒメノの笛で正気に戻る。いかん、これは覚悟決めるしかないのか。


「勝者! シルフィ・やた子チーム!!」


「いやっふー!!」


「やったっすー!」


 決まってしまった。勝ったのはシルフィ。

 嬉しそうにぴょんぴょんはねている。


「安心するのじゃ。屋外、というか自宅以外ではされんよ。そこは気を遣っておる」


「それは……ありがとう」


 意味不明なお礼を絞り出し、今後への不安が増したのであった。

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