斧の時代は来ない

 ヴァルキリーのクソビッチ枠であるスケギオルドを倒そう。


「アタシを……なめんなあ!」


 両手にでっかい両刃の斧を持ち、俺を挟み込むように切ってくる。


「こんなもんでどうしようってんだか」


 適当に掴んで砕こうとすると、斧が人間の手に変わる。


「なめんなっつっただろ!」


 人の手というには大きすぎる。人体も斧に変えるのか。

 俺の腕くらいある指が、それぞれ斧に変わって振るわれた。


「そういう問題じゃないんだよ」


 わからせるために、あえてくらってやる。

 あたる瞬間、軽く体に力を入れたら全てが砕け散っていく。


「いってえ!? てめえなんだよ!」


「ほう、血の出るタイプか。まあ抱かれていたんなら、そういう器官はあるか」


 ヴァルキリーでも臓器のあるタイプっぽい。

 砕いた指から血が出ている。その血も斧に変えて飛ばしてきやがったよ。

 なぜタイプが分かれているのだろう。旧型と新型がいるのかね。


「何想像してんだよきめえな」


「むしろ汚物の器官を想像してしまった不快感に謝罪がほしいね」


 時間掛ける必要はない。接近して腹パンかます。


「かかったなバーカ!」


 ビッチの腹に大穴が空き、まるで口を開けたようだ。


「食いちぎってやるよ!」


 穴から大量の斧が歯のように生えて、俺の手を食いちぎろうとする。


「無理だって」


 両手を腹に突っ込んで、横に振り抜く。

 刃も体もふっ飛ばしたはずだが。


「いってええぇぇ! ざけんなクソヤロー!」


 まだ生きてやがる。頑丈だねえ。倒し方のあるタイプか。

 その辺のものを斧に変え、体にくっつけて人体にしてやがる。キモい。


「全身を斧に変えたり戻したりできんのか。ペンも斧にしてやがったな」


「そういうこと。そして同化もできる。斧刃……四枚重ね!」


 非処女さんが右腕とペン三本を斧に変え、四枚刃が襲い来る。

 まあ裏拳一発で壊したさ。ついでに小細工開始。


「悪いがここまでだ。もうお前はどこを殴られても死ぬ」


「なんだと? はったりかましてんじゃねえよ!」


「砕かれた右腕はもとに戻るかい?」


「…………てめえなにしやがった!?」


 おーおー慌てているねえ。言葉遣いがきったないよ。その体みたいにな。


「お前の能力を殴り殺した。もう復元はできんよ。それにしてもゲスなやつだ。他のヴァルキリーとうまくいってんのか?」


「うるせえ辞めたよ! あいつらいい子ちゃんぶってつまんねえからな! 夏休み前にはもう組織抜けてアイドルだぜ! 本隊が何やってるのかすら知らねえし、会いに行く気もねえ!」


 そいつは都合がいいな。ってか抜けるのに制裁とかないのか。ゆるいな。


「もうじきこの世から抜けそうだしな」


「うっせえ! クソッ、クソが!! アタシが……こんなクソヤローに!!」


 全身をハリセンボンのように刃で包んでいる。

 なるほど。単純だがガード方法としちゃいいな。

 鎧にはなんの意味もないけれど。


「お遊びはここまでだ」


 光速移動でビッチさんの全身を細切れに。

 そして右手に集約させた魔力派を放つ。


「消えな」


「ふ……ふざけ……ああああぁぁ!?」


 完全消毒完了。やっべ壁壊しちゃった。


『リバイブ』


 ささっと部屋を復元。そして急速離脱。見られても面倒だからね。


「さーって、ここまでくりゃいいだろ。キアスー。いるのは魔力でわかるぞー」


 人のいない廊下を歩く。そこそこ遠くに逃げたみたいだな。


『呼んだか?』


 曲がり角から普通に出てきやがった。


「うおっ、のそっと出てくんなよ。びびるだろ。アイドルは?」


「安心せい。ヨツバとパイモンで送り届けておる。そっちも終わったようじゃな」


 リリア登場。ヨツバとフウマ忍軍、そしてパイモンによりアイドルは帰路についたらしい。

 俺が指示しなくても先読みしてくれる、リリアならではのファインプレーだ。


「ん、助かる。終わったよ。あとはアンジェラさんから報酬もらえば終わりだな」


「これから渡すわ」


 ラナリーさんも登場。なんとも渋い顔だ。状況の処理が追いつかないのだろう。


「あー……なんと言いますか、今日のことは……」


「誰にも言わないわ。それが一番なのでしょう?」


「そうですね……それが一番です」


「一週間くらいしてから、レッスンにも来なくなったことにするわ」


 アイドルの子にも言い含めたとか。口が堅い子らしいのでまあ、任せる。


「色々ありすぎて、公式な依頼として残せないの。だから、やた子ちゃんっていう子に委任したわ。裏工作もそっちでしてくれるって」


「流石やた子。ヒメノとは格が違うな」


「主人にも見習ってほしいものじゃな」


「いやはやまったく」


 こうして意外な事態だったが、スケなんとかさんは倒した。

 これで家に帰れるな。さっさと帰って一眠りだ。


「……なんか忘れているような」


「武器もらってないじゃろ」


「それだ。じゃ、失礼します。今度会うときは初対面ですよ、ラナリーさん」


「ええ、色々ありがとう。乙女の護り手さん」


「ふっ、ではさらばだ」


 マントを翻し、ヴァージンナイトは静かにその場を立ち去った。


「うむ、めっちゃかっこ悪いのじゃ」


「それは言わないでください」


 そして着替えてホノリの待つ鍛冶屋へゴー。レッツゴー。

 何だこのテンション。やけっぱちか俺は。

 ここに来てリリアと二人だけなので、それが関係あるかもしれない。


「いらっしゃいま……お、アジュ。ちょうどいいところに来たね。剣、できてるよ」


 店員さんとホノリ。そしてちょっとだけいる職人さんっぽい人。


「お、マジか。結構長いこと遊んでたんだな」


「うむ、悪い時間ではなかったのじゃ」


 ステージ見ながらかき氷食って。ヴァルキリー倒して。

 そこから学園ふらふらしたらそんくらいだ。


「じゃーん。これです!!」


 綺麗な注文通りのカトラスだ。刀身がほんのり青い気がする。


「おぉ……綺麗だなこれ。上物なんじゃ……」


「そりゃ私らが本気出したからね。いい素材も使っている。ちょっとやそっとじゃ壊れないぞ」


 ナックルガードも付いているし、重さも前の剣よりちょい軽め。


「うおぉ……持ってみるとまた……いいな。俺でも片手持ちできる」


「問題の電撃耐性はどうなったのじゃ?」


「雷に抵抗持たせるっていうよりは、流せるようにした。補助機みたいにね」


 刃と柄に例の鉱石とドラゴン素材が合成されているらしい。


「流してみてよ」


「ん、じゃあ離れてな。サンダーフロウ!」


 軽く放電し、すんなりと魔力が通る。

 ただ流れているだけじゃない。共鳴、増幅しているっぽい。


「流すっていうか……染み込んでいる?」


「正解。循環させたりもできる。完全に魔力を通すことを前提にした剣だ」


「ほう、よいものじゃな。感覚をつかむには最適じゃ」


 リリアが言うなら間違いはないだろう。

 こりゃ凄い。俺でも実感できるほどに馴染む。


「ありがとな。大切に使うよ」


「電撃ならあの爆発させるやつとかもいけるからね」


「こっちで試し切りどーぞ」


 長めの木の板が設置されている。隣には巻藁。鉄板もある。

 やってみるか。今まではこういうの切れると思わなかったが。


「……せい!」


 驚くほど抵抗なく板が切れる。

 そこで思いついたので、次は電撃を荒く、焼き切るように。

 次は純度を高めて切れ味を増すようにやってみる。


「本当に俺専用って感じだな。サンダーシード!」


 剣に雷撃の種を仕込んで、切る瞬間に発動。

 イメージ通りに雷球を放つも、剣は全く壊れる気配なし。

 むしろより凶悪に、輝きを増しながら同調していく。


「理屈がわっかんないけど安心できる! こりゃいいな!」


「そうでしょうそうでしょう! これ苦労したんですよ」


「一般売りするやつはもうちょっと別な仕掛けだよ。それはアジュの魔力と戦闘スタイルに完璧に合わせた代物だ」


 さらに電撃耐性のある鞘と交換。色は黒。ほぼ前のと同じ。


「色々助かった。これで強くなれそうだ」


「なんのなんの。こっちも面白い剣が作れて、しかも商売できる。いいことしかないのさ」


「あ、それとこっちが普通のカトラスです。初心者用で、強度を増して丈夫にしてあります」


 持ってみると重い。確実に前の剣より重いな。

 右側に下げておこう。左に二本帯刀したら腰おかしくなりそう。


「そっちがトレーニング用だ。普通の重い剣も欲しかったんだろ?」


「そういやそうだったな。いいのか?」


「いいよ。そっちはおまけしてやるぞ」


 なんともまあ太っ腹だな。普通のやつだし安いのかも。

 安かろうがありがたく頂いておこう。


「一般用に売り出す装備も作り終えたのじゃな」


「あるよ。といっても小金持ち用だけど」


 出てきたのはロングソードだ。刀身がほんのちょっと青い。

 綺麗な細工が少し。俺のよりグレードダウンしている気がする。


「うっわ、見るからに高そうだな」


「槍も作りましたよー。お兄さんのおかげです」


 女店員さんが、一目で分かる上機嫌っぷりだ。

 槍も青い線が柄に入っている。刃もかな。


「刃に馴染ませてみました。別の物質を入れるわけですから、高度が下がらないような工夫が必要なんですよー」


「高いやつは鉱石を多めに。普通のはちょっとだけ。ドラゴンはまた別の武器にも転用した。これは儲かるぞ」


「装飾が高そう。高級感出ているじゃないか」


「そうすると金持ちが気に入って買うのじゃよ」


 なるほど。ブルジョワ向けか。そういう商売の戦略があるのね。


「新しい道具も素材も買える……くっくっく。しばらく武器屋は安泰だな」


「おう、じゃあ明日にでも試してみるよ。今日は色々助かった」


「こっちこそ。また武器のグレード上げたくなったら来るといいぞ」


「ありがとうございましたー!」


「うむ、またなのじゃ」


 なんだか大変な一日だったな。さっさと帰って、明日は剣を試そう。

 俺達は充実した気分で家に帰った。

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