マスクドラブと謎の美女
「我が名はマスクドラブ。刮目せよ庶民!!」
「よし、ヒーローが来たし帰ろうぜ」
「そうじゃな。もうわしらはいなくてよいな」
脳細胞がガンガン死滅してますよー。頭おかしくなるわアホか。
「そろそろシルフィ達も来るだろうし、一回家帰ろうぜ」
「じゃな。ピュア成分を補給せねばならぬ」
そっと立ち去る俺達にゆっくりと歩いて来るカマキリさん。二メートルくらいある。昆虫ってでかくなると見えなかった部分まで見えてグロい。っていうか虫きらい。
「おい俺達狙ってないかこいつ」
「どうやらわしらを狙うように指示しておったみたいじゃな」
「おーいマスクドラブ。俺達が狙われてるっぽいんだけどさ」
「なにい! この愛の戦士を無視するとは許しがたいぞ害虫!!」
「キイイィィィ!!」
なんかカマキリが金切声を上げたと思ったら両目からビームが出る。お前もうカマキリじゃねえよ。鎌使え鎌を。
『ガード』
「ほいほいっと。まったくいい迷惑じゃ」
ガードキーとリリアの結界で事なきを得るけど、ちとやばいか。
「あいつ遠近両用だぞ。地味にうざい」
「おいこっちを見ろ害虫! この雄々しくも凛々しい愛の体現者を!!」
叫びながら俺達とカマキリの間に入る坊っちゃ……マスクドラブ。
「マ・ス・ク・ドオオォォォ……」
ヒーローが必殺技を撃つ時のような、ゆっくりじっくり時間をかけた動きをするアホ。
「キイイイイィィ!!」
そんなことをしていたらビームが避けられなくても仕方ないね。見事に直撃して煙の中に消えるアホマスク。
「ふっ……愛は不滅だ」
ピンク色に輝くハートマークのバリアーを展開し、無傷で立つラブ。
「おお、無様にふっとばされて退場すると思っとったがやるのう」
「おーがんばれーちょっと応援してやるぞー」
「ふっ、庶民に激烈なラブコールを貰っては……より輝くしかあるまい!!」
凄いプラス思考だ。そこだけは素直に感心する。俺にはあそこまで物事をいい方向に考える力がない。
「しかし必殺技はチャージに時間が掛かる……やはりポーズをもう少し短くするべきか……これも愛の試練というわけか」
なにやらブツブツ言い始めたぞ。あいつ戦う気あるのかね。
「わしもう帰って寝たいのじゃ」
「もういい。さっさと片付けて帰るぞ」
『バースト』
バーストキーを発動し、足元の土を両手で掴む。その間にも歩いて来るカマキリさん。どうも鎌で攻撃する方針みたいだ。それでいいんだよ。持ち味を活かせ。
「んじゃ足からぶっ壊すか」
カマキリの足に向けて握った土をぶん投げる。パラパラと土が舞いながら何本もある足や銀色の胴体に降り注いでいる。
「はいどーん」
俺の合図で投げた土が爆発を起こす。バーストキーは俺が触れたものや、打ち出すものを任意で爆発させるキーだ。土や砂のようにどこにでもあって散弾のようにばら撒けるものは爆弾にしやすくて最適である。軽くて投げやすいし。
「ギイイイ!」
立っていられなくなった銀色カマキリはそのまま崩れ落ちる。結局のところ鎌は使われずに終わるな。哀れなやつだ。
「時間稼ぎご苦労、庶民! ラブ・サイクロン!!」
おそらくマスクドラブの必殺技なんだろう。ピンクの竜巻がカマキリの無駄に多い腕をズタズタにもぎ取っていく。戦えるなら普通に戦えや。
「リリア、合わせろ」
「よかろう、花を持たせてやるのじゃ」
リリアの火球・つらら・電撃の連射でどんどんカマキリさんが原型を留めなくなっている。やばい、俺の出番がなくなる。
『ショット』
いつもの銃を作り出して狙いを定める。敵はデカイし、ガンシューは得意だ。
いけるはず。集中して一発でいこう。
「はい、ここでアジュによるかっこいい決めゼリフ」
「なんだその無茶振り!?」
かっこいいと俺は真逆の存在だろ。絶対無理だわ。俺の集中切らすなよ。
「お前ここにきてそんなん思いつくわけ無いだろ」
「なんかあるじゃろ。かっこよければご褒美とか出るのじゃ」
「なんだよ、どうせロクでもないもんだろ」
こうして会話しながら必死に考える。チェックメイトだ……違う。俺は狙った獲物は外さないぜ……当てたことがねえよ。ああもうきっついフリしやがって。
「使用済み下着とか一緒にお風呂とかでいいじゃろ?」
「いいわけあるか!!」
「それ以上はわしの独断ではなんとも……」
「お前らのそのシモネタ方面への積極性はなんなんだよ!!」
「そらどこかの誰かさんが全然手を出す気配がないからじゃろ」
それは言わない約束じゃないですかリリアさん。いや約束とかしてないけどさ。どうせヘタレですよ。何か思いついたセリフで場を流そう。
「俺に出会ったその時から、お前はこうなる運命だったのさ……」
気まずい雰囲気を消そうとして出たセリフがこれだよ。一応カマキリの頭にぶち当たってめでたく爆発。害虫駆除は成功に終わった。
「んーイマイチじゃな。気取った感じが似合ってないのじゃ」
「お前が言わせたんだからな」
「ふははははは!! 愛は勝つ!!」
それだけ言って去っていくマスクドラブ。
「逃げるぞ」
『ソニック』
ソニックキーを発動させ、リリアを小脇に抱えてダッシュする。あいつ多分戻ってくる。めんどい。
「ふはああぁぁ…………疲れた……」
ソニックキーは鎧を着ていないと魔力消費が激しすぎる。三分もたたずに疲れてしまう。それでもだいぶ離れたので当面の問題は回避した。リリアを降ろしてベンチに座る。
「ナイス判断じゃ。しかし運ぶなら運ぶでもっとこう……運び方というものがあるじゃろ」
「そんな余裕が有るものか……はあ……魔力消費が抑えられないときつい」
「しょうがないやつじゃな。まあ鎧なしでよくやったのじゃ。飲み物買ってくるからちょっとまっておるのじゃ」
近くの売店にかけて行くリリア。しんどいのでお言葉に甘えよう。
しばらくぼーっとしてれば回復するだろ。
「あなた、疲れているみたいだけど大丈夫? 人を呼んできましょうか?」
俺に声をかけてきたのは赤い髪と目を持つ美人さん。美人さんという言葉で言い表せるレベルは遥かに超えているけれど、女の褒め方は知らん。その美人さんが俺に声を掛けるということが想像できないので少し考える。これで俺じゃなければ大恥だ。
「大丈夫かしら……? 声は出せる?」
俺の前に来る美人さん。本当に俺かもしれない。念のため自分を指差してみる。
「そうそう君よ。疲れているみたいね」
「まあ……平気です。連れがいるのでなんとか」
他人に気を使われると半のに困る。しかも初対面だろこの人。制服は高等部のだけどなんだろうな……もっと年上に見える。この世界じゃこれが平均だと言われれば反論できんけど。
「そう、ならいいわ。死にそうな顔をしていたから」
「いつものことです」
「それは返答に困るわね。どうせなら笑った顔が見たいわ」
本当に困っているふうには見えない。終始どこか怪しさと、つやがある笑顔を絶やさない美人さん。
「人に見せるほどのもんじゃないんで……」
「それはそれは……余計見たくなるわ。とりあえずこれで笑う気力は出るかしら?」
回復魔法をかけてくれる優しいお姉さん。しかし俺に優しいということで不信感はつのる。
「助かります。けどどうしてここまでしてくれるんですか?」
「君が困っていたから、ではいけないかしら?」
「いえ、助かりますけど……」
「そろそろお連れ様が戻ってくる頃かしら。それじゃあ私はもう行くわ」
「時間取らせてしまってすみません、ええっと」
「……サクラよ。サクラお姉さん、と呼んだりすることになるのかしら?」
そりゃ年上だろうからそうなりますね。でも恥ずかしいわ。
「色々すみませんでしたサクラさん」
「そんなに謝らなくていいわ。今度あったら謝罪じゃなくてお礼を聞かせなさい。それじゃあねサカガミくん」
サクラさんは足早に立ち去っていった。ふわりと舞う髪と歩き方から気品のようなものを感じる。
「……俺名乗ったっけ?」
「おぉ、ちょっと回復しておるようじゃな」
「おう、悪い…………ありがとな。飲み物」
「なんじゃ急にしおらしくなりおって」
「お礼を聞かせてみた」
「意味わからんのじゃ」
もう一度会うことがあればお礼を伝えよう。俺から声かけるのハードルたっかいなー。美人に話しかけなきゃならないのか。
「そういえばもうすぐ午後だな」
「疲れたじゃろ。午後の探索はやめじゃ。十分成果はあった。報告して今日はゆっくり休むのじゃ」
「ほいほい、んじゃ飲んだら行くか」
一番感謝しないといけないのはウチのメンバーだな。
空いた時間で何かしてやろうか。予定は未定だけどさ。
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