愛の使者登場
リット先生を家に連れて行ってメンバーに承諾を得た。
また女を連れてきた……とか。ついに先生まで……とか言われたりした。
しかし本気ではなかったようで、呆れながらも話を聞いてくれたのでまあ良しとする。
「面白そうね。私は受けてもいいわよ」
「わたしもいいよー。アジュが自分から何かやり出すなんて珍しいし」
ちょっとトゲがないかいシルフィさんや。そして次の日の昼からリリアと捜査に入る。シルフィ達は午後から来る予定だ。
「リット先生によると協力者もそこそこいるらしいな」
「そら学園は広すぎるからのう。わしらだけで全域をカバーするのは無理じゃろ」
「協力者ねえ……まともなやつならいいんだけどなあ」
「先生みたいな年上のお姉さんとか来るかもしれんぞ。類は友をというやつじゃ」
「微妙だな。正直そんなに好きじゃないし」
年上への憧れとかそんなに無い。そもそも女自体にいいイメージってもんが無いんだよなあ。
「ふむ、年上とか人妻とか無理なんじゃな」
「人妻は無理。絶対に無理。他人の手垢ついた女なんて抱く気になる奴はアホ」
不倫とかアホなんじゃないかと。完全に非処女やん。それを抱くために頑張るとかアホの発想だよ。
「年齢が上がるほど処女率が減るからのう」
「その通り。膜なしにさく時間なしだ」
普段行かないような魔法に関係した建物が多い場所へ行く。研究施設や魔法をぶっ放せる道場のようなもんがある場所だ。火の魔法なんかは普通の道場で練習すると建物が燃えるからな。
犯人は召喚獣出せるんだから魔法使いだろうという考えもある。
「…………俺の記憶がこの世界でも活かせるなら、これバラの花だよな?」
「完全にバラじゃな。しかも道に赤絨毯の道が……うわあなんじゃこれ」
石畳で整備された道にバラの花が舞っている。しかも道を外れて赤絨毯が伸びているじゃないか。あやしすぎる。これ関わりたくないぞ。
「これは……花咲かじいさんじゃな……」
「絶対違うわ!?」
「もうめでたしめでたしで終わっとけばよいじゃろ」
「その意見にはどちらかというと大賛成だ。これに関わりたくない」
「わしもじゃ。こんなん見ないふりするしかないじゃろ」
「しかし首謀者がいた場合に報酬もらえないかもしれんぞ……」
仕事は仕事だけどこんなことに首つっこむのもなあ。解決しないと俺はともかくリリア達の飯がなくなっても困る。ドラゴンの牙とか売るのは最終手段だ。普通に生活費くらいやりくりしたい。
「この先って何がある?」
「湖というか池というかそんなんじゃな。憩いのスポットじゃ」
行ってみたい。けどなあ……絨毯もバラもリリアが指す湖に向かって伸びている。
「行くか……やるって言っちまったし。生活もあるし。金もらわないと駄目だし」
「うむ、わしも一緒に行くからまあ行くだけ行くのじゃ」
嫌だけどバラの道を通る。軽く整備されてはいるが自然の形を残した道を歩く。確かにそこには湖があった。
「おおぉ、こんな状況じゃなきゃのんびりしたいな。こういう静かな場所は好きだぞ」
「今度魔法科の帰りにでも寄るとするかのう」
ある一点だけを見ないように、できるだけ綺麗な湖を視界に入れながら話す俺達。
「よし、もうなにもなかったな」
「うむ、あれはああいう置物であって異常とは無関係じゃ」
バラと絨毯が続く先に、白いテーブルと椅子がある。めっちゃ豪華そうなティーセットのあるその席でくつろいでいる男が一人。その男を囲むようにバラが咲き乱れている。俺のいた世界では存在しない色のバラもある。
「怪しいけどさ……手に負えないだろあんなん」
「そーっと調査してそーっと帰るのじゃ」
こそこそとバレないように男から離れようとする。
「待て、そこの庶民。こそこそと何をしている」
つい呼ばれてビクッとしてしまう俺達。やばい見られていたか。
「焦るな。まだ俺達と決まったわけではない」
「ベル」
「はい。坊っちゃんがお呼びです。こちらへ」
いきなり目の前に現れる執事服着た人にまたもやビクッとなる俺達。なんだよこいつら。
もうどうしていいのかわからず、声も出ないまま坊っちゃんとやらのところまで歩く。
「さて庶民よ。そこで何をしていた? 本来ならば庶民など何をしていようが構わん。だがこちらにも事情があるのだ」
優雅にお茶飲んでる男。濃い目の紫色で長い髪をした赤目の男。制服からして生徒だろう。いや生徒じゃなかったら不審者どころじゃないんだけどな。
「これもう正直に話せばよいのではないかの?」
「それっきゃないか。俺達はちょっとしたクエストで学園の調査をしてるんだ。道に突然絨毯とバラがあったんで何かと思ってここまで来た」
「ほう……証明できるか? 捜査許可証などがあればそれでいい」
「許可……これでいいのか?」
見せるか一瞬迷ったけど仕方ない。見せてダメなら考えよう。最悪ソニックキーで逃げる。
「やはりか……これは興味深い。これも運命というものか。面白いぞ庶民。同席を許す。ベル」
「こちらへどうぞ」
ベルと呼ばれた日焼けしているような肌の執事さんが椅子を引いてくれる。
濃くて短い黒髪と太めのモミアゲが特徴だ。
テーブルにはいつの間にか俺達の分の紅茶がある。
「庶民に作法など求めん。耳障りな音を立てて紅茶をすすらなければいい。同じクエストを受けているいわば競争相手であり一時の同志だ」
男が見せてきたのは俺達と同じ捜査許可書だ。
早速面倒な奴が仲間じゃないか。
「いただきます……美味いな」
「ふむ、よいお茶じゃ。しかも市販品じゃな。普通の茶葉を腕だけで上物に引けを取らぬ味に昇華させておる」
「恐れ入ります」
丁寧におじぎしている執事さん。両手にはここに来るまでのバラと回収した絨毯がある。
「ほう、わかるか。いい味覚だ庶民。そのまま茶でも飲みながら事が終わるまで我等に任せておけ」
「できればそうしたいけど生活かかっててな」
今更やめるわけにはいかないんだなこれが。ちょっと探偵ものっぽい展開になれば面白いかなーと思ってたりするし。普通は行かない施設に入ってみたいし。
「庶民の戦闘能力などたかが知れているだろう。無駄死にほど無意味なものはない。庶民といえど死ねば泣く者がいよう」
「まあ……なんの奇跡か知らんけど三人ほどいると……思うよ?」
「そこで疑問に思うのは何故なんじゃ……はっきりいると言えばよいじゃろ」
「ふむ、ならば生きよ。死して泣かせるなど……愛が、たりないぞ?」
「あい?」
「そうだ愛だ! 我がラブ感知能力に見抜けぬラブはない。貴様ら二人からはお互いを想うラブの波動を感じる! 愛の使者として、ラブに生きるものを死なせはせんぞ!」
物凄く上機嫌で意味不明なことをのたまう坊っちゃん。
そういやこいつの名前知らんな。ここで俺達は簡単に名乗る。
「ふむ、名乗られて名乗り返さんのも品格を疑われるな。だが常日頃より密命を帯びている身……そうだな。我が名はファング! 今この時より愛の牙ファングと名乗ろう」
「立派です坊っちゃん」
「嘘つけ!?」
「わしらが知り合う人間は偽名率がたっかいのう」
「と、いうわけだ庶民。ここはこのファングとその執事ベルに任せて……」
「坊っちゃん。あちらに……」
ベルさんがちらりと目をやる方には木々の奥、昼なのに少し暗い草むらでコソコソしている人影。ご丁寧に頭までローブ被っている。
「わーお超怪しいでやんの」
「落ち着くのじゃ。こちらが相手に気づいていないふりをするのじゃ」
「よし、それじゃあえーとファング。バレないようにこっそり……あいつどこいった?」
ちょっと目を離した隙にファングも執事もテーブルもバラも無くなっている。
「なんか悪い夢でしたで忘れたいぜ」
「全く同感じゃな。お、魔方陣出しおったぞ」
「気のせいかな? あれこっちに向けられてねえ?」
「ちなみに氷がガンガン飛んで来るタイプの魔法陣じゃな」
「バレてるってことか?」
バレているのだろう。そりゃバラに囲まれて紅茶飲んでる集団なんて目立つよな。
『ガード』
ガードキーでドーム状の半透明なバリアを張る。氷の塊や尖って痛そうなつららをなんとか防御する。
「いきなり撃ってきやがってなんだあいつ」
「この魔方陣は囮じゃ。もうひとつある」
「その通りだ! 私のバラをどこへやったか知らないけれど。優雅なティータイムを邪魔したわね!」
ローブのやつが訳わからんこと言い出した。声からして女か。
「バラ……? なにを言っている?」
「道なりに規則的にバラが敷き詰めてあったでしょう? あれは私がやったのよ」
「なぜにそんな邪魔くっさいことしとるんじゃおぬし」
つーかバラってファングが用意したんじゃないのかよ。じゃああいつは勝手にバラが咲き乱れる場所でお茶飲んでたのか。バカなのかな。
「わからないでしょうね。あんたらみたいな貧乏人には! いいわ、予定を変更してもう壊す! 出なさい!」
魔法陣を通して現れた銀色で巨大なカマキリ。手の鎌が六本もありやがる。
「さようなら。もう二度と計画の邪魔は出来ない体になりなさい」
青い光に包まれて疾走する女。その女を庇うように前に出るカマキリ。
「とりあえずこいつぶっ飛ばすか」
「じゃな。景観を損なう害虫は駆除してやるのじゃ」
ヒーローキーをさそうとした俺の耳に高らかな笑い声がこだまする。
「ククク……フッフッフ……ハーッハッハッハ!! 現れたな害虫めが!」
木の上から高笑いをかます男がいる。顔の上半分を仮面で隠し、マントで全身を隠した変な奴。
「恋が呼ぶ愛が呼ぶ我を呼ぶ! 愛を守れと囁きかける! 我が名はラブ!!」
マントをバサリと翻し、木の上から飛び降りるとポーズを決める変質者。あいつついさっき見た気がする。まさか着替えるためにいなくなったのだろうか。いや、きっと別人だ。誰なんだろうな、あの変質者は。
「愛の使者――――――マスクドラブ!! ここに見参!!」
前をカマキリに。後ろをマスクドラブとやらに取られた俺達はどうしていいのかわからず立ち尽くすだけであった。
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