第四章 ジョークジョーカーのお仕事

プチ推理と新たな事件

 ミナさんが来てからというもの、家事をやる日が減って自由時間が増えた。

 もちろん交代制ではあるけども、週に三日はミナさんだ。

 しかも掃除も料理もサポートしてくれるため、手早く終わる。


「おかげで雰囲気良さ気な店でおやつが食べられるわけじゃな」


「もうミナさんじゃないな。ミナ様だな」


 リリアと二人で喫茶店にいる。なんとなく今日はリリアの日らしい。

 向い合ってチーズケーキ食いながら紅茶なんぞ飲んでる優雅なひととき。


「流石だ、美味い。シルフィおすすめの店は何でも美味いな」


「舌が真贋見抜けるほどに鍛えあげられておるのじゃな。お姫様じゃからのう」


「落ち着ける時間も久しぶりな気がするわ」


「いつもぐうたらしておるじゃろ。で、話したいことはなんじゃ?」


「ん、バレてんのか」


「おぬしが自分から食事に誘うことなんて無いじゃろ。当然理由がある。しかも二人には聞かせられないこと、まあ鍵かこの世界についてか……じゃろ?」


 ニヤニヤしながら俺の返答を待つリリア。

 俺の思考を読みきっているという自負があるんだろう。


「はいはい大正解ですよ。もうちょい鍵とか……あとハーレム作れと言われてることについてとか」


「どうせヒマじゃ。聞いてやるから話すのじゃ」


「んーどっから話すかな……鎧って強いよな。あとソードキーで一本しか出ない剣。あれも強い」


 あの剣は軽い。しかも鍔迫り合いが出来ない程の切れ味だ。


「対神魔・概念的存在用の処刑具といってよい。相手が人間以外であればあるほど有利じゃ。剣も特別製じゃ。あの剣だけはミラージュキーでコピーできんじゃろ」


「やってみたけど無理だった。あとゲルが超苦しそうだった」


「ふむ、ゲルは神に近づいた。よって剣の効果が大きくなった。人外に治らない傷と無限に続く激痛をプレゼントする脅威の剣じゃ。おぬしが許さん限り傷は広がり痛みは続く」


「マジで絶対殺すマンになるんだな」


「使い所を間違えると世界がやばいわけじゃ。気をつけるのじゃぞ」


 強すぎる力は悪目立ちしてだるい。だらだら普通のふりしていざというときに超パワーで楽できる。という使い方が理想だ。そーっとイカサマして暮らすわけだな。


「あいあい、わかりました。俺の目的ってハーレムだよな? 認めてないけど」


「いい加減認めてはどうじゃ? これほど都合のいい話もないじゃろ?」


 自分のケーキを食べ終えて背もたれに体を預けて続きを話す。


「そこだ。都合が良すぎるのさ。だから考えた。これって俺に合わせたわけじゃないだろ」


「ふむ、面白そうじゃな。続けるがよい」


「前に言ってたな。俺を連れてくるのは子孫が増やしやすくていいからだと」


「うむ、女ではどれほど優秀でも産めるのは一人じゃ。効率悪いじゃろ」


 リリアの前に二品目のケーキが来る。

 昼飯の代わりにするつもりで来たし、俺もチキンサンドを追加する。


「指輪だのレベルだのあるけど、これは俺の存在を知ってのシステムじゃない。少なくともレベルはこの世界に元々あるもんだと思う。そこにたまたま俺が転移する」


「おぬしを選んだのはわしじゃ」


「大量に連れてくるんじゃなくて俺だけってのがわからんな。でも都合が良すぎるのは、そうなるように時間かけて作られたから。学園も似てるよな。達人を作るためなんだろ? たぶんその辺から達人の子供育成ってのが視野に入ってる」


 これが俺の予想だ。俺にだけ都合がいいんじゃない。

 多分俺も含めて条件に見合った奴にとって都合がいいんだ。

 ゲームの初見殺しの敵と一緒だ。知ってる奴は楽ができる。


「びっみょーに正解じゃな。添削の面倒な回答だしおってからに」


「ちょっとは当たってたか?」


「ちょっとだけじゃな。少なくとも剣と鎧はおぬしを見つける前から存在しておる。使い手が現れなかっただけじゃ。そして連れてくるのはわしが選んだもの。鎧も使い手を選ぶ。よって両方が選んだのはおぬしだけじゃ」


「大量に連れてこない理由はそれか」


「特殊能力のない一般人を大量に連れて来ても邪魔じゃ。世界を混乱させるし文化を壊す。一人だけ、本当に連れて来たい人間に絞るのじゃ」


「ふんふむ、光栄だな。何かに選ばれたのはプラスの意味じゃ初めてだ」


 俺を選ぶ人間なんていない……はずだからな。シルフィとイロハは俺を選んだのだろうきっと。今になっても自信がない。どうせ俺が女に好意を持たれるはずがないという思いが強すぎる。


「これから一番大切なことを話す…………これから何があろうとも、わしはおぬしの味方じゃ」


 リリアが一口サイズに切ったケーキを俺の口に入れる。


「ハーレムを作るのは構わぬ。しかし、おぬしを一番理解しておるのも、一番そばにいるのもわしじゃ。それはこれからも変わらない。困ったらその事を思い出すのじゃ。よいな? 忘れるでないぞ?」


 これ以上ない純粋な笑顔だ。こいつに直球で言われると無性に照れる。何事もなかったようにケーキ食い始めるリリア。なんて声をかけるべきかわからない。こんな場面の想定はしていない。根っこのところで童貞なわけだよ。


「おまけにシルフィキーとイロハキーは完全におぬしのオリジナルじゃ。わしら共々大切にせい」


「そうだな。無くさないようにしっかりそばに置いておくさ」


「おや、ラブラブタイム中に失礼します?」


「うおぅ!?」


 突然俺達の横に立つ誰か。金髪エルフさんだ。制服じゃないしどこかで見た気がする。やめてくれ心臓飛び出すぞちくしょう。


「お久しぶりですね。覚えてますか?」


「えーっと……確かリット先生でしたよね?」


「召喚科のチェルシー・リット先生じゃな」


「オススメされてやってきましたチェルシー・リットです。お時間よろしいですか?」


「俺はまあ、いいですが」


「わしもよい。わしの横にどうぞ」


「では失礼します。チキンサンド一つよろしいですか?」


「それはダメです」


 そこはきっちり断る。俺の飯が減るからな。

 普通のよりでかいけど四つしか無いんだぞ。


「ではケー……キがもう無くなっている……これはショックですね」


「あの……本題とか……いってもらえませんか?」


「おっとそうでした。最近学園内でちょっとした事件がありまして」


 ざっくりまとめると。

 ・怪しい奴が学園でこっそり魔法陣を設置している。

 ・そいつが召喚獣を出して逃げた。

 ・追跡ができていないし目的も不明。


「召喚獣は原則として召喚科、もしくは特別登録されている人間以外は使えません。四六時中どこでも召喚獣が出せると制御できなくなれば危険です」


「なら犯人もわかるのでは?」


「本来魔力登録されていない人間が召喚獣を呼び出せばロックがかかって発動できなくなるのですが……」


 学園ではむやみに使われないように、召喚魔法には制限のかかる結界のようなものが張り巡らされているらしい。その制限をなくすためには個人の魔力登録が必須なんだとか。


「しかし全員調べましたが見事にはずれ。魔法陣も大規模なものではないため、軽いいたずらや魔法の実験の可能性もあります」


「それでなぜ俺達に? もっとランク高いギルドにでも頼んだほうが安全ですよ?」


「まだ大事件になったわけではありません。正体不明ではありますが軽い注意で済むかもしれないものに高ランクギルドを拘束するのは効率が悪く、不満も出ます」


 簡単な仕事はなるべく低ランクの経験に。これは低ランクをバカにしているわけではない。高ランクの実力者に雑魚狩りなんぞさせる意味が無い。そいつらしか倒せない敵を倒す人間がいなくなる。新人育成も滞るしいいことなし。


「それに正体不明の召喚士です。もし強敵を召喚出来た場合に低ランクでは太刀打ちできません。そして突然現れた学園ちょ……謎の女ダークネスファントムがオススメしたのがサカガミくんです」


「うわぁ……何やってんだあの人……」


「どうです? ある程度の施設の捜査許可書もあります。秘密の捜査となりますが報酬はバッチリですよ」


「正直面白そうですが……やっぱりギルメン全員に意見を聞いてからじゃないと……」


 俺一人で勝手に決めるのは良くない。

 ちょいと特殊な依頼だし。話を通してからにしよう。


「ふむふむ、当然ですね。メンバー思い大いに結構です。絆、大事にです」


「とりあえず受ける方向で前向きに検討しますのじゃ」


「だな。一回家帰るぞ。早ければそこで決める」


「ではもう直接行って聞いてしまいましょうか? 家庭訪問という名目でダークネスさんに許可は頂いています」


 確実に揉めるだろう。やた子つれて帰った時グダグダになったしさ。


「面白そうだし許可しますのじゃ」


「では抜き打ち家庭訪問にレッツゴゥです。チキンサンドごちそうさまです」


「うっわ食われた!?」


 三つしか食ってないんだぞ最悪だよ。無いとわかると一気に腹がへる。急いで帰ろう。

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