攻撃魔法を使ってみたい

「攻撃魔法をちゃんと使ってみたい」


「なんじゃ藪から棒に」


 休日なので昼に起きてリビングでのんびりしている。外を見ると庭で洗濯物を干しているミナさんとシルフィが見えた。いい天気だからな。洗濯物干すにはちょうどいい。


「回復魔法はヒーリングが使えるようになったろ? だから攻撃魔法の講座行きたいんだけど一週間くらいなーんもない」


「仕方が無いのう……今どこまでできるのじゃ?」


「攻撃魔法の出し方がイマイチわからん」


「では基礎からいくのじゃ。教えてリリア先生! 魔法講座ー!」


「おー」


 とりあえずへそ曲げられるとめんどいので乗ってやる。やる気のない拍手で満足するがいい。アホなことやりながら庭に出る。


「まず魔力というものは体内にあるうちは攻撃でも回復でもない。ただ体内に充満しておる力じゃ。まあ気のようなものじゃな」


「ほうほう、そいつを出しているんだよな?」


「そうじゃな。回復は生命エネルギーを送るイメージでよい。厳密にどうこうは初級では関係ないのじゃ。これは人間が生き物である以上、ある程度引き出し方さえわかれば可能じゃ」


「攻撃はこう……火とかどうやんのかさっぱりだ。名前呼べばいいらしいけどむずい」


「攻撃魔法に詠唱があるのは効率よく魔力を変換するためじゃ。まず魔力を引き出す」


 リリアが俺の隣に来て手を握ってきた。

 回復魔法の時に使った水晶のように、俺の中から魔力が引き出されている感覚がある。


「おぬしなら攻撃魔法は敵を絶対に、何が何でも確実に殺る。やると決めたら徹底的にぶちかます! という意志を練り上げることじゃな。上に向かってとりあえず魔力を放出してみるのじゃ」


 言われるがままに上空に魔力をぶっぱなす。

 ヒーリングの時とそれほど要領は変わらない。リリアの補助が俺に合っているのだろう。


「うむ、発動はできるみたいじゃな。次は火と風……雷や光もやってみるかの。わしが補助するからそのまま撃っててみるのじゃ」


「こうか?」


 引き出される魔力の質が変わる。

 変わりきったところを見計らって解き放つと、小さな炎が出る。


「おお、これか!」


「それじゃな。次じゃ。どれが一番撃ちやすいか覚えておくのじゃぞ」


 そこから水・風・雷・土と撃ってみる。それぞれ感覚が違う。

 魔力を練ってから撃ち出す。これを数回繰り返して次の魔法へ。


「さて、どれが楽じゃった?」


「楽かどうかは微妙だな……土と火は他より疲れるし威力も低いな」


「では除外じゃ。最初から全部覚えんでよい。まず一つ覚えるのじゃ」


「水は出せると便利そうだな……んん……ダメだ出ない」


 指先に魔力を集中してみるけど出ない。もともと魔力のない世界から来ているためか、どうしても感覚をつかめない。


「ヒーリングの時みたくポーズ取ってとにかく上に向けて撃ってみるのじゃ。一回だけ最適な魔法が出るように補助してやるのじゃ」


 魔法使い大原則。初心者はポーズを恥ずかしがらない。集中には大事なこと。

 特に年頃の男の子はノリと勢いでビシっとポーズ取るべし。


「うっしやるか!」


「そうそう、自宅なら他人に見られることもないから全力でやるのじゃ」


「はあぁぁぁぁ……」


 立ち上がり、両手をまっすぐ前に突き出し集中する。足を肩幅まで開き、ひたすら魔力を練り上げ集中し、両手に集める作業にのめり込む。


「頭に最適な魔法の詠唱が浮かぶはず。初心者なら簡易で魔法名が出るはずじゃ。これだ! という名前が魔力とともに湧き上がったら羞恥心は捨てて叫ぶのじゃ! ここなら失敗してもわし以外は見ておらん」


 リリアの声を聞きながら更に深く集中する。

 別に目の前に敵がいるわけじゃない。ゆっくり時間をかけよう。

 俺の一番魔力を練りやすい魔法を見極める……リラックスして、深く深く呼吸を整える。上に敵がいるとして、そいつを一瞬でぶっ飛ばすイメージだ。


「ふううぅぅ…………はああぁぁぁ…………」


 焦るな。意識を切り替えよう。上の敵がリリアを狙っていると仮定して、火と土は苦手。風……じゃないな、威力を上げて……最速でぶっ飛ばせて状態異常もつくような…………頭にぼんやりと、次第にはっきりと浮かび上がるなにか。


「見えた……これかっ! サンダースマッシャー!!」


 両手を掲げ、何も考えずただ全力で魔力を放出した。一直線に伸びた電撃が高く高く打ち上げられる。力を入れすぎたか……バチバチでかい音を立てながら放電してて眩しい。


「おぉ……できた……と、おお……」


 魔力を使いすぎたのか足元がふらつく。いかん倒れる。


「ほいっと、大丈夫かの?」


 リリアの魔法で浮かされて椅子まで運んでもらう。

 庭に椅子? いつの間にかテーブルもある。


「お水です。どうぞ」


「あ、どうも」


 ミナさんに水をもらって一気に飲み干す。

 そうか、まあミナさんがやったなら納得だ。メイドって凄い。


「お疲れ様。かっこよかったよ。これでアジュも魔法使いだね」


「最初から電撃とは珍しいやつじゃ。これで自信もついたじゃろ?」


「ああ、俺でもできるんだな、魔法」


 出来てみると楽しい。これが達成感というやつか。

 いいね、ちょっとはやる気ってやつが出てくるじゃないかよ。


「後は威力の調節と。電撃を軽く出せるように反復練習でもすると良い。室内でやってはならぬぞ」


「わかった。やってみる。こうやってみるとリリアの魔法ってのは凄いんだな」


「詠唱も必要とせず、魔力及び魔法の生成と発動までの手順と質に違いが見受けられます」


 ミナさんの解説は全然わからん。とにかく違うものらしい。


「わしの曖昧魔法は年季が違うのじゃ。全てを内包するということは理不尽であり、大胆であり精密じゃ。つまりわしは凄い! 凄いから魔法も凄い!」


「なにか凄いものだということはわかったぞ」


「それはわたしにもわかった!」


「わからんでも損も得もせんのじゃ。今は攻撃魔法を使えるようになった、ということが大切じゃ」


 感覚を忘れないように軽く拳を握り、開くときに放電させてみる。

 まだコントロールがうまくいかん。まあゆっくりやっていくか。


「おぬしも極めればわし以上の魔法使いになれるのじゃ」


「マジか」


「マジじゃ。機会があればまた魔法について教えるのじゃ」


「今は練習あるのみだね!」


「そうだな、戦闘はちょっとしんどいけど使える機会は作っていくか」


 これで回復と攻撃の初歩はわかった。

 慣れていけば鎧なしでも戦えるかもしれない。


「試験前に使えるようになったのは大きいのじゃ。勇者科は戦闘もあるし。実技試験じゃからのう」


「実技試験ってなんだ?」


「全科であるのじゃ。科でそれぞれ違うが……もうすぐ始まるところもあるはずじゃ。勇者科は特殊クラスだから、全員勇者科の実技試験じゃよ」


「最初に受けたクエみたいな? あんなん何度も出来ないぞ」


 まーた強敵と戦う系のクエかな。ヴァルキリーだけで手一杯だよ。


「なにかあれば鎧で解決じゃな。一年のクエじゃ、それほど難易度が高いものは選ばれんじゃろ」


「お決まりのパターンだな。正体を隠したいならシルフィキー。普通に戦うなら目立たないイロハキーか。素の鎧が派手で目立っちまうからなあ」


 使い分けできるのはありがたい。

 試験が観客入れるタイプじゃないように祈るのみだ。


「私の名前が聞こえたわ」


「どっから出てきやがった」


 俺の横にイロハが座っている。既にお茶とお菓子が用意されていることからミナさんは気づいていたんだろう。お前ら色々凄いな。


「私はどこにでもいるわよ。貴方の影だもの」


「もうヨツバとのお話はいいの?」


「ええ、今日の会議は終わりよ。相変わらず里のみんなにはアジュが見たいと言われているけれど」


「見てどうするんだ?」


「お館様を見たいだけじゃろ」


「夏休みでいいから、一度里に来てくれると助かるわ」


 一回も顔を出さないのもまずいだろう。

 長期の休みがあるなら数日くらいは行ってもいいか。


「じゃあわたしの国にも来てよ。案内するよ!」


「いつでもお待ちしております」


「まあ……数日でいいなら。夏休みって長いよな? 学園外の国にも興味あるし、そっちで暮らすとかじゃなければ行く、かな」


「よーし! 夏休みだよ! 約束ね!」


「期待していいわよ。全力でもてなすわ」


「不安だからリリア・シルフィ・イロハは必ずメンバーに入れること。みんなで行くぞ」


「うんうん、ギルドみんなで一緒に行こうね!」


 思いのほか喜ばれた。しかし俺が誰かと旅行ねえ……人生どうなるかわからんね。


「もうすぐ試験内容も発表されるでしょうし、楽しいことを考えていきましょう」


 いまだに何をするかわからんからな。できればすんなりクリアできるといいんだけど。


「じゃあみんなの試験が終わったら、試験休みに遊ぼうよ!」


「そうだな。試験休みとかあるならみんなでゆっくりするか」


「うむ、ご褒美があるとやる気が出るのじゃ」


 そんなわけで試験の内容待ちだな。しばらく別のクエやっておこうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る