カムイの新しい力と決戦直前
シルフィを急いで探そう。前線は確実に押されている。
ちなみに人間の兵士は復活しない。流石にそこまでやるとやばいと思ったのだろう。それで正解だ。人間の敵兵は倒れる前に避難していく。
「オレの……すごく強い必殺技・極!!」
リュウの火力が一点に集中され、拳一個分より小さいくらいの穴が開く。そして盛大に爆裂して幻影兵が消えた。
「戻らない……かな?」
「最後尾に補充とかされていなければな。よしリュウ、今のを全員にやるんだ」
「できるかあ! オレが死ぬわ!!」
「だよなあ……」
そもそもリュウクラスの達人が少ない。これ全部排除はできんし、防御壁もいずれは破られる。さてどうするか。
「敵は復活する幻影兵を盾に進んでくる。ボスを潰さなきゃ命令通りに動き続けるだろう」
「つまり?」
「やっぱシルフィ捕まえるしかないな」
「城にこもられたら負けじゃね?」
「そこなんだよなあ……」
幻影兵を抑えておく手段が乏しいのだ。ちょっとお試しでソードキーの剣を使い、近場の敵を切ってみる。
「なるほど、これでもいけるな」
当然だが消滅した。改めてこの剣やばいな。けど素の俺に紐づけ切りはできない。目立ちすぎてもいけないし、鎧はシルフィに居場所がばれる。
「あっくんその剣どうなってるの?」
「知らん。原理とか説明できん。とりあえず敵兵を消せるやつを集めるしかないな」
「アジュさん! 敵が武将を狙ってきます!」
どうやら幻影兵を消せるやつを狙ってくるらしい。やばいな、あまりこの剣で暴れると俺に集中攻撃が来る。だがいつまでも防戦一方では勝てない。
その時、俺の思考を中断するように、天に煌く緑の光が昇っていく。
「あっちはカムイくんがいる場所だよ!」
「これは……神の力?」
神が使う力に近い。しかもかなり濃度が高いぞ。あいつこんなの使えるようになったのか。
「行ってみるぞ」
現場へ急行すると、神々しいまでに輝くカムイがいた。道士や仙人が着るような豪華な刺繍の入った衣装に、最低限急所を守る美しい文様の入った装具。そしてなにより天女がつけるような羽衣が、カムイを守るように浮いている。
「あなたは強い。僕が外道以外にこの力を使うことはめったにありません」
「ふっ、それは光栄だ。だが私は負けん! 炎神憑槍!!」
あの温度がない炎がカムイを取り巻く。だがカムイは穏やかな顔でゆっくりと構えを取った。いつもの優しい雰囲気が消え、落ち着きと自信が見られる。
「伏犠師匠! お力をお借りします! 八卦招福!!」
八卦の陣がカムイの足元に現れ、どんどん神格を増していく。
やがてカムイの両手に蓄えられた炎が撃ち出された。
「炎殺咆哮!!」
激しい炎の渦が荒れ狂い、マオリの炎を消し飛ばしていった。
「炎を炎で焼き尽くすだと!? だがそれだけで私の槍は負けない!!」
炎をまとったマオリの突きを最小限の動きで避け、槍の穂先を掴んだ。
「なにっ!?」
「僕はもう、負けない!」
刃を握り潰し、神の気を上乗せした拳がマオリに直撃する。轟音が響き、大量の幻影兵を巻き込んで吹っ飛んでいく。かなりの威力だ。
「ぐうぅ……まだだ! まだ終わっていない!」
マオリの魔力が一層高まり、荒々しさを増した炎が繰り出される。その力は一点に集中されてカムイへと向かう。
「だああああぁぁぁ!!」
「あなたの覚悟、受け止めましょう。光臨龍尾!」
巨大な光の帯が放たれ、マオリの炎をかき消しながら大きく打ち上げた。
「うわああああぁぁ!?」
回避できず空へと舞い上がり、そのまま地面へと落ちていく。
「がはあ!?」
「ふう……これで決着はつきました」
「……私の負けだ。最早立ち上がる気力もない」
生きているらしい。カムイだし試験だし、殺しはしないのだろう。
捕虜にしたら、急いで治療班に回す。死なれるのも嫌だしな。
「終わったみたいだな」
「はい、あとは幻影兵ですね」
戦闘中にかなりの数が消えていた。使えるなら頼りましょう。神格同士をぶつければ、なんとか中和できるかも。
「その力で消せるか?」
「多少はできるかもしれません。ですが戦場全域は厳しいです」
やるだけやってもらうとしよう。数が減ればこっちの武将で処理できるかもしれん。その間にシルフィを探すことになった。
「いきます。はああああぁぁぁ!!」
光で照らされて敵兵が消えていく。ここぞとばかりに攻勢をかける俺たちだが、数分でカムイが苦しそうになる。
「あの、できれば十分以内に見つけて倒してください」
「無理だろ」
「シルフィさんの力が強すぎます。正直押し合いしているだけで厳しいです」
どうやらカムイのこの形態そのものが、長時間の運用を想定していないようだ。
となると最速で見つける必要がある。だが戦場は広い。王都までいくと見つけられない。さてどうする。
「敵の勇者科はルーミイとカロンのみ。ここから逆転は難しそうだが」
「そうだねー、幻影兵だけじゃ決め手がないにゃ。あっくんは捕まえられないし、本陣は鉄壁にしてあるから……武将の力で一点突破すれば本陣に行けない?」
「なるほど……カムイ、全域じゃなくて本陣までの一本道を作れるか?」
「いけると思いますけど、それ攻撃が激しくなりますよ? 集中攻撃を受けます」
「だろうな。だからメンバーを決める。俺、カムイ、リュウ、タイガ、イズミの五人だけを本陣まで送るんだ。こっちの幻影兵を壁に使っていい。他の連中は味方本陣だけ完璧に守ってくれ」
「わかった! すぐ呼んでくる!」
カムイがどれだけ耐えられるかわからない。迅速に済ませよう。これしかない。
全員すぐに来た。あとは全力ダッシュだ。それが一番しんどいけど。
「ではいきます。集中すれば範囲が狭い分だけ持続するはずです」
「うっし! ようするに本陣ぶっ潰しゃいいんだろ! 任せな!」
「よし、走れ!!」
全速力で一直線に突き進む。ほとんどはカムイの攻撃で消えていく。残りの人間兵はリュウとタイガが倒してくれる。今は先へ進むことを優先しよう。
「もう少し、あと少しで敵の群れを抜ける! あとは敵本陣まで駆け抜けるぞ!」
「その必要はないよん」
カロンの声がした。
「はえー……マジで移動できるとはマジやば。ウケる」
目の前にカロンとルーミイがいる。周囲は完全に囲まれていた。さっきまでと風景が違う。あんなテントみたいなものはなかった。
「そんな……僕達を移動させるなんて!?」
「いや、おそらく逆だ。こいつらが移動してきたんだよ、本陣ごとな」
「うっわ、やっぱサカガミくんやばいよ。状況判断が早すぎる」
シルフィならそのくらいできるだろう。問題は俺たちが大ピンチってことだ。
「いらっしゃ~い。マオリとももっち倒すとかヤバヤバ、ちょいびびるし。けどこの状況は無理ゲーっしょ? あーし負けないよ?」
「へっ、敵の本陣だってんなら、オレらでぶっ飛ばしゃいいんだよ!」
「おうよ! 覚悟するのはそっちだぜ!!」
「ふーん、あんたらが戦場で暴れまくってた敵ね。ど派手にやってくれたじゃん。けどあーしはカムイくんみたいな美少年が好きだし。ごめんね」
「お前の好みはどうでもいい。シルフィを出せ」
気配を完全に消しているのだろうか。どこにいるのかわからない。
「ふーん、やっぱシルフィちゃんしか見えてないんだね。らぶらぶ?」
「違う。敵大将だからだ」
「らぶらぶでいいと思います!」
シルフィが出てきた。よくないからやめろ。誤解を生むだろうが。
「とゆーわけで、シルフィちゃんとサカガミは別の場所へ、あとはあーしらが相手になったげる!」
「アジュ、一緒に来て」
「一応国王だろ。ふらふらどっかに誘うんじゃない」
「うん、だから国王同士でお話だよ!」
口調は明るいが真剣な顔だ。何か悩みでもあるのだろうか。
「アジュは連れて行かせない」
「そうだぜ、大将ほっぽっていくわけにはいかねえなあ」
「ごめんね、あんまり傷つけたくないから、カロンちゃんに任せたいな」
ごく自然に前に出てきて、申し訳無さそうに言う。それがいまいち気に入らなかったらしく、二人は俺に攻撃してもいいかと目で訴えてきた。
「はあ……勝手にやれ。シルフィ、すぐ終わらせろ」
「はーい」
明るく笑ってこっちに歩いてくる。まず動いたのはイズミだ。
「螺旋鉄塊」
大きなドリルのような鉄塊が回転しながら飛んでいく。
だがシルフィに当たる前にその動きが止まった。
「必殺超すごいキック!」
「猛虎爆撃拳!」
「ごめんね」
リュウとタイガの攻撃を片手で受け止めて平然としている。
そして何か鈍い音がして、二人が膝をつく。
「うっご……おぉ……」
「オレが……立てねえ……だと?」
うめき声をあげながら、立つことすらできない二人はやがて気を失う。それを見ても諦めずにイズミが接近する。指には鉄のリングがある。
「それは動かないよ」
「……どうして?」
術が発動しないのが不思議なんだろう。それでもナイフを取り出し、果敢に攻めるが、刃を指先で止められた。そして指をすっと動かすと、地面に刃が落ちる。
「しばらく眠っていてね」
いつの間にか気絶したイズミを抱えて俺のもとへ来る。やはり根本的な格が違う。ここまで剣すら使っていない。
「はい、カムイくん。イズミちゃんをよろしくね」
「えっ、あ、はい」
普通に渡されたので困惑しているようだ。それでも回復魔法をかけているのは根が優しいのだろうな。
「うっひゃー、シルフィちゃんつっよ……苦戦してるとこ見たことないかも」
「カロンちゃん、カムイくんとかよろしくね」
「おっけーい! 美少年よ、あーしと戦おうぜ!」
「いいんでしょうかこれ……」
「シルフィと戦うよりましだろ」
戸惑うカムイはまあ、カロンとでも戦っていてくれ。殺すつもりもないだろうし。
これからどうするのかと思えば、シルフィの横に大きな裂け目が入る。
開いた中には煌めく星々が見えた。
「さあアジュ、一緒に来て。鎧は準備してね」
「わかったよ」
裂け目に入り、閉じたのを確認すると同時に鍵をさす。
『ヒーロー!』
これでどこだろうと支障はない。さてシルフィの本心でも聞くとするか。
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