鎧アジュVSシルフィ・ツインドライヴ
シルフィにつれられて宇宙にやってきた。星が輝いていて綺麗だな。
ここなら破壊を気にしなくてもよさそうだ。
「で、話って何だ?」
「そのままわたしと戦って」
要求の意図がわからない。シルフィはバトルジャンキーじゃないし、俺と戦うにしても、わざわざ鎧を指定する理由がない。
「わたしね、この試験の間ずっと考えてたんだ。自分はちゃんと強くなってるのか、アジュの横にいられるくらいになれたのかって」
「今でも強いだろ」
「ううん、まだまだだよ。神様に勝った時だってギリギリだった。しれこはもっともっと強かったんでしょ?」
どうやらしれこの一件が気になっているらしい。根が真面目だからなあ。役に立てなかったとか思っているのだろう。別にそんなことないんだけども。
「あれはやばい神と融合したからだ。あんなもん複数いないぞ」
「けど二度と出ないとは限らないでしょ? 守ってもらってばかりじゃだめだよ。わたしはアジュの隣にいたいの。だから試験で新しいことに挑戦して、もっと強くなりたかった」
こちらにゆっくりと近づいてくる。表情は明るいし、口調も思い詰めているほどではない。俺の心配し過ぎかもしれないな。
「会えなくて寂しくても、ずっと一緒にいられるために試験頑張ったの!」
俺の周囲をくるくる回っている。楽しいのだろうか。
「がまんしてがんばった!」
目の前に来てこちらを見上げている。なんだろう撫でればいいのかな。
「よしよし、いい子だ」
「むふー」
嬉しそうに目を閉じて、にへーっと満足そうに笑う。このまま戦闘無しで終わってくれないかな。戦うのしんどいんだぞ。
「でもバトルはします」
「するんかい」
「するよ! アジュもわたしの強さが正確にわかってないでしょ? だから不安になるのです!」
一理ある。下級神と殺し合いの形にはなるはずだが、ティターンみたいなのが複数来たら俺が対処するしかないだろう。しれこと戦うなら戦力にはなるだろう。けどシルフィの言う通り守る必要が出るかもしれない。
「難しい顔してるよ。ほらほら把握しておくべきなんじゃない?」
「人間じゃ上位だろお前ら。それ以上強くならなくても生きていける」
「だーめ。一番強くなりたいんじゃないよ。人間上位でもだめ。アジュと一緒に生きていけるかが大切なのです!」
決心は変わらないようだ。まあここなら神の作った別空間だろうし、俺たちの力を知るものもいないだろう。悪くない機会かもしれない。
「一応念のため結界を張る。内部の時間をあっちと変えるぞ。こっちの十分をあっちの十秒にする」
『シルフィ!』
「やった! まかせて!」
俺が赤い鎧に変わるのを見て、シルフィもクロノスの鎧になる。剣もトゥルーエンゲージに変わっていた。
宇宙に広々と結界も張り終えたし、今のシルフィがどんなもんか知りたいのは事実だ。相手をしてやるとしよう。
「全力で来い。俺は死なん」
「いっくよー!!」
堂々と正面から斬りかかってくる。光速の百億倍くらい出ているな。
どこまでもまっすぐ重く鋭い一撃を、右拳で受け止める。
衝撃で結界の中にある星が砕け散った。
「無人の宇宙でよかったな。星空がもったいない」
シルフィの全方位同時斬撃を同時に蹴り返し、軽く魔導弾を連射する。
「アジュは星とか宝石とか綺麗なもの好きだね」
しっかり避けて反撃してくる。一発の衝撃が何度も襲ってくるのは、今起きる斬撃を何回もリピートして、いっぺんに当たるように調整しているのだろう。一撃の中に一億撃が圧縮されて解き放たれるわけだ。
「大抵のやつは好きだろ?」
今回は逃げ回らずに打ち返していく。シルフィのスペックを調べるのも大切だからな。既に下級神を殺せるくらいまで力が上がっている。
「わたしも好き! 一緒に星とか見に行く?」
さらにスピードを三億倍くらい上げて攻撃してみるが、ちゃんと俺と打ち合えているな。本当に強くなった。
「正気か? 特別なこともしなければ、楽しませる努力もしないぞ?」
距離を取り、無事だった無人惑星を蹴り飛ばしてぶつけてみるが、当たるより先に一刀両断された。
「まだわたしたちを普通の女の子だと思ってるね? そういうとこです!!」
このまま遠距離性能も試そう。周囲の惑星から大きいやつを選び、鎧の魔力を入れた札を、星の核に打ち込む。
無人惑星をそのまま機雷として、光速の五千倍くらいでぶん回す。
「いかんな。離れすぎてお互いの認識がずれたか」
「これはずっと一緒にいるべき。アジュはすぐどっかいくし、女の子と仲良くなるから一緒にいるべき」
「なってねえだろ。女は俺に懐かねえよ」
やはり切り裂かれるか。少し距離を詰め、背後から回し蹴りを入れてみるが、最小限の動きで体を傾けてかわされる。だがここは宇宙だ。そのまま回転して逆さまのままさらに蹴りを入れる。
「なんというか……お前らは楽しくないけどいいのかってことだよ。完全に俺の希望だろ?」
近くの星まで吹き飛ばすが、シルフィは星を縦に両断し、勢いを殺さず中央を抜けていく。すかさず後を追うが、シルフィが抜けたあたりで星の時間が戻り、俺を閉じ込めようとしてくる。
だが無駄だ。星を壊し、魔力を見つけるが、それは過去のシルフィの残像で……。
「アジュが……他人に気を遣えるように……?」
「そこ?」
すぐ横からキックが来る。軌道など一切見えないが、時間操作で消しているのなら、シルフィキーの鎧は見切れる。同じように時間の概念を捻じ曲げて、反撃の時間をカットして叩きつけた。
「そっか、アジュも成長してるんだね」
「俺の成長を調べる流れ?」
「かっこよくなった!」
「なっちゃいないさ」
そこからしばらく格闘戦を続ける。宇宙が震え、俺達の攻防に怯えているかのように振動が広がっていく。
魔力波の乱れ打ちが宇宙を飛び回り、流星のように彩っていく。爆発で花火みたいになるし、こういう遊びも面白いな。
「さて、そろそろ本気出しな」
「うーん……やっぱり勝てない……勝負できてないよね」
「いやここまで戦えるやつは少ないだろ」
もうかなり強いのは理解した。ざっくりだが超人は倒せる。戦闘慣れした神が相手じゃなけりゃ死なないだろう。改めて成長度やっべえな。
「よし、じゃあここから本気の本気だー! クロノス! ツインドライヴ!!」
シルフィの装備が神々しいオーラを放ち、より洗練された美しさへと変わる。鎧とドレスの中間のようなそれは、気高さや意志の力、優しさを象徴しているようだった。
「クロノスの鎌!!」
ティターンを倒したあの鎌だ。黒く煌めく刃と、月の光のような淡い輝き。純粋に美しいな、と思った。
『ソード』
こちらもソードキーを使う。ここからは少し真面目にやるとしようか。
「その剣大丈夫?」
「安心しろ。鍔迫り合いができるようにしてある。切り裂いたりする心配はない」
「よーし、シルフィいきます!」
元気だなあ、なんて考えていたら、シルフィが完全に消える。
「甘い!」
時空の裂け目から飛んでくる鎌を紙一重でかわす。鎧で気づくことができたが、完全に前兆も斬撃そのものも見えない工夫がしてある。
「むー自信あったのに」
「これ時間操作の範疇か?」
シルフィの存在が曖昧になっている。しっかり見えているのに、ここにいる感じがしない。
「なんかね、がんばったら空間? 距離? みたいなのをいじれるの。時空間の位相を変えるって言ってた」
「誰が?」
「リリアとヒメノ」
「なるほどな、時空間の軸をずらして存在しているから、別次元を攻撃する手段がないと触れないのか」
俺は鎧があるからいいが、膨大な魔力か神の力がないと攻撃が通らないなこれ。
それでいてシルフィの攻撃は当たる。なんとも都合がいいが、それくらいできなきゃ決戦で怪我するからな。
「ふふーん、すごい?」
「すごいすごい。偉いぞー」
「やったね! でもこれだけじゃないぞー!」
宇宙全体がゆっくりと動いている気がした。何かでかい技をやろうとしているな。面白いので見てみよう。
「宇宙のここからここまで、ぐいーんと豊かになれ!!」
シルフィの神の力で宇宙が満たされ、鋭さとプレッシャーを増していく。
やがて空間軸を変え、数千光年先までが刃となって飛んでくる。
「一万光年の彼方から、クロノス・スラアアアァッシュ!!」
一万光年分の宇宙が一気に命を刈り取ろうと武器になるので、そこそこ力を入れて殴り返す。これも軸をずらしてあるな。反撃も防御も不可能な宇宙がぶつかってくるとか、なかなかにスケールデカくていいじゃないか。
「こいつはまた……派手な技と威力だな」
「これは豊かになった宇宙が、世界が、少しずつ力を分けてくれる。アジュといちゃいちゃするために!」
「目的がしょうもねえ!」
「アジュとらぶらぶするために!!」
「力貸す気なくなるだろ」
そんなことに使われたらやる気なくすわ。宇宙さんかわいそう。
「いくよ! ここから本気の本気! クロノスフルドライヴ!!」
農耕神クロノスと時空神クロノスの力が乗算され、圧倒的な力が渦巻き世界を染める。
「上等だ。全力で来い!!」
ここからは真面目に相手をしてやる。俺も魔力を解き放ち、シルフィの攻撃に備えると、正面から突っ込んでくる。
「見切った!」
それが残像であり、あり得た未来であることを理解し、カウンターを繰り出す。
「そこだ!!」
俺の横薙ぎに放った斬撃は、シルフィとともに消える。当たっていない。
「まだまだ! 私の望む未来よ、ここに来て!!」
無数のシルフィが俺を全方位から襲う。これは過去の歴史じゃない。シルフィが『もしもそこにいたら』という過程の未来まで引っ張ってきているのだ。
「わずかでも、見えないほど小さくか細い可能性でも、わたしは諦めない!」
俺の斬撃を避けるのも『最初からそこにいなかった』と『避けた』を手繰り寄せているらしい。その可能性が無ければトゥルーエンゲージで作り出し、豊穣の力で増幅させる。させる時間は時空の力でカット。すべてが完全に噛み合っている。
「俺に勝つ未来はなかったか?」
「なかった! けど負けない!」
赤い光が流れ星のように飛び交って、網のように連なり輝いていく。その光がシルフィの移動の軌跡であることは明白で、さっきまでとは速度も威力も桁違いだ。
「たあああぁぁぁぁ!!」
「ちゃありゃあああぁぁああ!!」
壮絶な撃ち合いが開始される。一発一発の余波が神にすら傷をつける攻撃であり、人間など存在を許されない領域だ。
最初は光速の数億倍だったパワーとスピードも、兆、垓、穣と無限に上がっていく。
「ちょっと強めにいくぞ!!」
「うあっ!?」
シルフィに攻撃が当たる。だがここで止めてはいけない。この先も戦っていけるのか、俺と並べるのか、誰よりもシルフィが知りたいのだ。
「ウオラア!!」
「きゃあぁぁ!! うぐぐ……やっぱり強い。けど見える!!」
衝撃だけでも神を消す一撃を何度も打ち付ける。苦しそうにしながらも、精一杯打点をずらして致命傷は避けているようだ。
「可能性よ、未来よ、わたしをアジュと一緒にいさせて!」
宇宙にシルフィの神気が満ちていく。クロノスの鎌にすべての力が凝縮され、輝く剣とともにシルフィが増え続ける。それぞれが必殺の一撃を携え、最早宇宙よりもシルフィ達の方が多く目に映る。
「えええええぇぇぇい!!」
「絶対に死ぬんじゃねえぞ!」
『シュウゥゥゥティングスタアアァァ! ナッコオオォォ!』
無数の流星となった拳がシルフィ達へと突き刺さる。これで本体が出てくるはずだ。どこに出るのか最大限気配を探知するが、シルフィが消えない。
「ここだあああぁぁ!!」
「なんだとっ!?」
直撃することを視野に入れ、傷つくことを恐れずに、俺の必殺技を耐えて全員が反撃を繰り出す。流石に予想外だ。視界を輝きと可能性が埋めていく。
「やるようになったな!」
かつてのティターンならこの攻撃で死んでいただろう。とてつもない成長速度だ。それでも鎧には傷などつかない。魔力を大開放して一気に薙ぎ払う。
「まだ……まだ終わりじゃない! わたしはアジュが好きだから! この未来は、絶対に終わらせない!」
戦えば戦うほど、その存在は研ぎ澄まされていく。ならば俺もこの勝負を実のあるものとしよう。全神経を研ぎ澄まし、シルフィに攻撃を当てたという結果を先に押し付ける。
「うぅっ!? まだ追いつけない!」
「これは速さじゃない。しれこと戦ううちに覚えた技さ。速いんじゃない。結果だけ先にぶつけているんだ。結果が先で、因果が後。鎧がなきゃできないけどな」
あの結果の押し付け合い。時間をカットするのではなく、初めから存在しない。法則を理解し、支配して操る。そこまでしないと使えない技だ。
「くらいながら覚えな! 死ぬことは許さねえぞ!」
俺は一歩も動かない。シルフィの攻撃を全部受け止め、因果打ちを続行する。俺がどうやって攻撃しているのか、お前ならわかるはずだ。感じたままにやれ。
「きゃあぁぁ!!」
「俺と一緒にいるんだろ! しれこが使えたってことは、ヒメノもできるだろう。トールさんもヤルダバオトも! 今覚えちまえ! 必ずできる!」
「結果を先に出す……こうか!」
攻撃は鋭くなっているが違う。なまじ時間操作が染み付いているためか、そこから抜け出すことができていない。教えるのは得意じゃないが、できる限りのパターンを実践してやろう。
「それは時間をカットして先出ししているだけだ。時間という概念を超えろ。因果律の逆転と攻撃への転化は可能なはずだ」
「がはっ!? うぐう……急に言われたって!」
言葉で言われても難しいだろう。だからこそやってみせて、ギリギリまで追い込むのだ。あまり好きなやり方じゃない。だが勇者科であればこういう覚醒方もあるはずだ。シルフィならできる。
「我儘になれシルフィ! お前はどうしたい! 世界を自分の思うままにできると信じ込め! その先に勝利と未来はある!!」
「クロノスクラッシャー!!」
無数の銀河が俺を押し潰そうと詰めかけ、圧縮されていく。だがこれは違う。簡単には見えないだけで、位相を変えても結果はあとから来る。
「試験がんばったんだろ! 慣れない国王やって、ここまできて、そこまでして何をしたい!」
銀河圧縮のブラックホールを消し飛ばし、シルフィの懐へと入る。容赦なく連撃を咥えていくと、クロノスの鎧が砕け始めた。
「わたしは……わたしは……試験もがんばって、みんなで合格して、それで……それで……」
「そこからどうしたい!!」
拳に魔力を乗せて、シルフィへと解き放った。
「ごほうびのちゅーがほしい!!」
宇宙が弾けて、俺の攻撃とぶつかり合って相殺される。
「おいおいマジか……」
好きに考えろとは言ったが、そんなもんで覚醒するのかよ。
「いっぱい遊びに行きたい!!」
俺の攻撃が当たるという結果から先にくるよう仕向けた因果律が、シルフィの限界を超えた神力で上書きされていく。面白い。ならどこまで撃ち合えるか試してやる。
「もっと撫でて!!」
青天井に上がり続けるシルフィの力を引き出せるように、徐々にゆっくりゆーっくり因果超越の力を増やしてぶつける。
「8ブロックの子と仲良くし過ぎ!!」
「やりたいことからずれてるぞ」
「いいの! 今のシルフィちゃんはわがままだ!!」
ちゃんと切り合いの形になってしまった。なんだかなあ、まあ俺達らしくていいのかな。
「いいだろう、締め括りはこいつだ」
『ホゥ! リィ! スラアアァァッシュ!!』
俺の剣に神聖な光が集う。それに合わせてシルフィも構えに入った。
「クロノス! ファイナルクロニクル!!」
シルフィの剣が光る。次元の位相を変え続け、因果を逆転して貼り付け、時間の流れをランダムにして、空間を都合のいいように捻じ曲げる。全部合わせた究極の最終奥義だろう。
「迎え撃ってやる。来い!!」
「ええええええぇぇぇい!!」
「だあああありゃああぁぁぁ!!」
お互いの技がぶつかり、激しく火花を散らす。あまりの力の本流により、結界にひびが入っていた。
「負けるかあああぁぁぁ!!」
「よくやったシルフィ。褒めてやる。あとでご褒美をやるよ。ウオラアアアァァ!!」
最後のひと押しを決めて、シルフィの最終奥義をかき消しながら切り込んでいった。正面から打ち破り、俺は勝利を確信する。
「あーあ……負けちゃ、った……」
力を使い果たしたのか、ぐったりしながら漂っているシルフィを抱え、回復魔法をかけてやる。もうクロノスの鎌も消えていた。
「よくがんばった」
周囲を見ると、試験会場のある星以外、宇宙そのものまで完全に無になっている。少しやりすぎたかな。
「うぅー……勝てないよう……」
「あたりまえだ。そう簡単に負ける鎧アジュさんじゃないぞー」
俺とここまで戦えると思わなかった。仮に上級神が襲ってきても、今のシルフィなら撃退できるだろう。
「傷くらいつけたかった。いっぱい攻撃したのに」
「そこは諦めてくれ」
「でもがんばったよ。ご褒美! ご褒美のちゅーが欲しい!」
「はいはい…………ご褒美だ、好きにしろ」
頑張りに免じて許可してやる。けどシルフィは不満げだ。
「違う違う! アジュからするの!」
「それはきつい」
「だめ! 今日はわがままシルフィちゃんです!」
「はあ……」
マジかよ……俺から? 俺がすんの? やめろ目を閉じるな。やるって言っていないだろ。完全にされて終わるつもりだったのに。
「ああもう……動くなよ」
仕方がない。今度から軽はずみなご褒美には気をつけよう。
そんな事を考えながら、シルフィとの戦いは終わったのであった。
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