シルフィと遊園地へ行こう
シルフィを成長させて、二人で帰ってきた。なんか精神的に疲れたぜ。
「おかえりシルフィー! いやー負けちったー!」
カロンとルーミイが捕まっている。もう戦いは終わったようだ。
「どうシルフィ、ご褒美貰えた?」
「うん! ばっちり!!」
どうやら最初からある程度負ける前提だったようだな。シルフィが普通に帰ってきた時点で、こいつらは8ブロックの勝ちと認識している。
「お疲れ様でした」
「おう、そっちも勝ったか」
カムイも無事だ。きっと勝利に貢献したんだろうなあ。
このあとどうするのか迷っていると、終了の合図が告げられる。
『試合終了! 勝者8ブロック! 戦闘を終了し、自陣に戻ってください。勇者科は転送するので本陣で待機!』
転送って何やねんと思いながら現地に行ったら、転移魔法で最初の待機空間へ送られた。
「はーいおつかれさま! がんばったわね!」
シャルロット先生が出迎えてくれる。隣の魔法陣からシルフィ陣営の五人が出てきたぞ。最終試験はこういうシステムなのね。
「この空間でみんなの一回戦が終わるまで待機よ。時間の流れは学園と違うから安心してね。遊ぶ施設もあるから、遊園地とホテルだと思ってくつろいでいいわ。それじゃあみんなの反省会と、それぞれの選評をあげるから、終わったら自由行動です!」
そんなわけで戦闘の反省会とかやった。俺はギリギリまで味方に戦わせる方針だったが、それならそれでもっと効率よくやる方法があると教えられた。なるほど、これなら損害が少ないし、指揮が単純で済むな。
「はいおしまい! ゆっくり休んでね!」
結構面白かったな。さて疲れたし、部屋に帰って休むか。
「寝る。何かあれば来い」
「あじゅにゃーん、遊園地行ってみようぜーい!」
「勝手に行ってこい」
ももっちのうしろに他の女もいる。まず女と遊びに行きたくねえ。男も嫌だけど、女と行動すんの嫌いだ。そしてめっちゃ眠い。早く寝たい。疲れたんだよ。
「行ってみようぜーい!!」
「懲りないなお前も。戦闘で疲れたんだ。正直もう休まないとしんどくてな」
あまり俺を甘く見るなよ。ここで素直にだるいからやだとか言ったらだめなんだぜ。それくらい理解できるようになった俺を誰か褒めろ。
「あっ、しーちゃん! あじゅにゃんがいるぞー!」
「アジュ? わーい」
シルフィがとてとてやってくる。元気だなあ。
「アジュおやすみ!」
「おう、おやすみ」
それだけ言ってさっさと部屋に行こう。ようやく眠れる。
「ストップストップ! なんで見送っちゃうのさ!」
「だってアジュ眠そうだよ?」
「来てすぐわかんだね」
そらシルフィだからな。俺がどうしたいのか完璧に把握しているはずだ。ありがたいねえ。
「というわけだ、お前らも休め。そういや軍はどうなったんだ? 休めって指示出しておいたっけ?」
「そのブロックの施設で治療しているはずよ。うちは大きな病院もあるし、医薬品の工場もしっかりあるから、ベッドも薬も足りなくなることはないわ」
なるほどね。アフターケアまでブロックの影響があるのか。真面目に病院建てといてよかった。
「なら問題はないな。解散」
「そうだよー、みんな疲れは見えなくても溜まってるんだよ。少しお休みしよう? 明日遊んでもいいんだしさ」
「んー、まあそりゃそっか。あーしらも休んじゃおうぜ。今日はオフだー!」
どうやらシルフィの説得が通じたらしく、両方のブロックはお休みとなった。
「ふふーん、すごいでしょー」
「すごいすごい。特別に許す」
「やったね!」
今のは特別に俺の部屋に来ることを許す。気分が良ければ一緒に寝てもいいぞ、ということである。全部言うとうるさくなりそうなので割愛。だがシルフィは気づいている。流石だぜ。
「じゃあねみんな! また明日!」
「しーちゃん、まさかこれを狙って……やりおる」
そして部屋に入って着替えたらベッドに寝転ぶ。あーもう寝そう。質のいい布団最高だな。
「アジュの評価見せて」
「いいぞ」
シルフィがベッドに来るので、お互いの評価を見てみる。やはり好成績だ。評価も欠点より長所の伸ばし方が書いてある。
「やっぱシルフィは優秀だねえ」
「アジュも悪いこと書いてないよ?」
「そんなもんだ。改善点はあるが、教師に問題視されることはしていない」
ベッドの真ん中に座り、成績表を見ているとシルフィが近づいてくる。
俺の近くに座ってじーっとこっちを見ている。害はないので放置しておこう。
それでも気にせず読んでいたら、俺の腕の下あたりから顔を突っ込んできた。
「頭で成績が見えないぞー」
少し姿勢を変えると、今度は逆側に回り込んで同じように顔を突っ込んでくる。
面白いので放置してみよう。脇腹のあたりに頭をぐりぐりしてきた。
「犬や猫じゃないんだからやめい。さては構って欲しいだけだな」
適当に撫でてやると大人しくなった。ずっと見るほど成績に問題はないし、さっさと寝ちまうのもいいんだが、シルフィが別の雑誌持ってきた。
「学園の遊べるスポット紹介?」
試験が終わったあとのことを考えているのか。まあわかるよ。
「よく考えたら学園に新スポットっておかしいよな」
改めて規模がおかしいぞ学園よ。なんとなく読み進めていると、シルフィが手を置いてページを止めたりする。
「行ってみたいのか? っていうか喋れや」
「いってみたいです……」
「はいはい考えておいてやるよ」
「結局いかないやつだー」
「リリアとイロハの予定もあるだろ」
「だよねー。四人の都合が合えばいいね」
ここは共通認識である。試験で長いこと会わなかったら、きっと面倒なことになる。っていうか少しなった。なので適度にストレスは発散させよう。
「気を遣う場所は嫌だぞ」
「だいじょーぶ! そこはわかってるから!」
「ん、ならいい。前向きに考える。もう寝るぞ」
「はーい」
なんだかんだ疲れていたので、夜遅くなる前に寝ることにした。俺は鎧があるからいいが、シルフィは自力で戦い続けているのだ。そこは労ろう。
そして朝。まだまだ昼間で寝ていたいところだが。
「しーちゃん遊びに行こうぜー!」
ももっちがきた。テンション高いなお前。
「うるせえ。というか俺の部屋に来るなや」
「えーどうせこっちにいるっしょ?」
「いるけども……シルフィ、ももっち来たぞ」
「んう……なーに?」
シルフィも眠そうだ。布団から顔だけ出している。
「なんかレジャースポット的なスポット目白押しだぜ? 行くっきゃ無いっしょ!」
「だってさ」
俺は誘われていないので二度寝する。朝は弱いのだ。
「アジュが寝るなら寝る」
二人して二度寝の構えである。布団があったかいのですぐ眠れそうだ。
「あじゅにゃんも行こうぜ?」
「他に誰が来るんだ?」
「両方のブロックの勇者科」
「めんどくせえ」
嫌だよ女ばっかりとか地獄やん。絶対行きたくねえ。寝よう寝よう。
「あじゅにゃんだけ仲間はずれは悲しいじゃん」
「外しとけ。俺に仲間意識とかあったのかよあいつら」
「そこそこ好感度高いと思うよん?」
「ありえん」
クラスメイト以上ではないだろう。俺は思い上がりをしないのだ。ここで本気にするほどアホじゃない。
「どうせこの空間は試験終わったら消えちゃうんでしょ? しーちゃんに思いで作ってあげなって!」
「…………仕方ないか」
「やったね! ありがとうアジュ!」
遊んでやるのも悪くない。どうせ昼から暇なのだ。早速現場に向かうと、想像以上に遊園地だった。いやもちろんこの世界の文明レベルでだが、なんか少しオーパーツ気味じゃね?
「あらいらっしゃい」
受付にシャルロット先生がいる。園内の警備とかしているのだろうか。修学旅行の引率者的な。
「ここに名前を書いて、出るときにもう一回書いてね。園内は広いから迷子になられると困るのよ」
ちょっと気になったので、他の連中に気づかれないよう小声で質問する。
「こんな豪勢な建物作っていいんですか? この空間って試験終わったら消えるんじゃ? もったいないでしょ」
「あれこちゃんに転写してもらったから簡単よ。消すのもぱぱっとできるわ」
「なるほど」
あいつくっそ便利だな。アカシックレコードの有効活用か。どっかの世界から遊園地の記録引っ張ってきやがったな。
「よし、遊ぶぞ」
「遊ぶぞー!!」
はい中に勇者科の女がいる。こっちの五人とあっちの四人が全員いる。
「しくじったカムイ呼べばよかった」
「カムイくんは転入手続きとか、適性検査とかで忙しいんだってさ」
はい地獄が確定したぞ。
「大丈夫かアジュ」
「しんどい。けどまあ少しなら耐える」
ホノリが察して話しかけてくるが、行くと言ってしまったし入ろう。
「なるべくシルフィさんと二人にしてあげますから」
「すまんな」
さて来た以上は楽しめりゃいいんだが、経験がなくてわからん。
「アジュはどこ行く?」
「わからん。こういうの幼児の時に来たかどうかで、完全に知らんのよ」
CMやら物語で見たことはあるが、行ったことはない。なので何がどうとか順番がわからん。こういうのマナーとかセオリーってあるのだろうか。なんか取り逃すといけないものがあったり。
「アジュまた難しく考えてるね。これ行こう!」
シルフィが興味を持ったのは、でっかいジェットコースターで……。
「いやだめだろ!?」
「だめなの?」
「行くのはいいけど、あっちゃだめだろジェットコースター!」
よくまあ世界観ぶち壊すもん作りやがったな。数日で消すからだろうけど、あれこも少しは慎重に選べや。
「異世界さんにあっていいもんじゃねえぞ」
「面白そうだよ?」
「ちなみにこういう場所に来たことは?」
「ないよ! 危ない乗り物は禁止されてた!」
王族だもんな。万が一トラブったら洒落じゃすまないし。
だからやたら楽しそうなんだな。ならちゃんと遊んでやろう。
「速いやつだから気をつけろよ」
「はーい」
といっても俺も知識だけで乗ったことはない。ちょい楽しみ。
「うおぉ……これは!」
「うわふー! たのしーい!」
風を受け、景色が高速で過ぎ去っていく。ただそれだけなのに妙に楽しい。一周が短く感じたほどだった。
「いつももっと速く動いてるのに楽しい!」
「自分で動くのとアトラクションじゃ違うもんだな」
「次あれ! あのくるくるするやつ!」
コーヒーカップだ。もう何があってもツッコミは放棄した。
「回しすぎるなよ。学園のだからどうなるかわからん」
「まかせてー!」
案の定スピードが上がってきたので逆に回してやる。
「ほれ貸してみな、こうやってゆっくりペースを掴むのだ。やってみ」
「なるほどー、えいやー」
次はホラーハウス。でかいし薄暗くて雰囲気ばっちりだな。
「これ抱きつくチャンスだよね」
「言った時点でチャンスなくなったぞ」
「しまったー!?」
そして休憩所でアイスを買って食べる。俺はメロン。シルフィがバニラ。
「ふっふっふ、これも知ってるんだよ。お互いのアイスを交換して食べるのだ!」
「そういうのどっから仕入れてくる?」
「お友達と普通にそういうお話とかするよ? 本にもあるし」
交友関係が広がっているようでなにより。心の拠り所というか、安定するならそれに越したことはない。シルフィはもっと幸せになっていいのよ。
「はんぶんこだー」
「はいはい、バニラって何にでも合うな」
ちょっと気になっていたので食ってみる。うまい。純粋に味がいい。
「ほら味の方ばっかり気にするー」
「だってうまいだろこれ」
「ちょっとはどきどきするのだー」
「アイスうまいな」
ごまかしていこうね! そういうの素直に出せるシルフィは凄いと思うよ。男はそういう気持ちを表に出すのは苦手だ。自分が弱いと思われる。そうすると大抵のやつはつけあがるからだ。自衛策と言っていい。
「アジュは次どこ行きたい?」
「んー……」
ここまでで絶叫系は行った。シルフィはこういう場所を知らない。さてどうする。問題は俺の趣味ではなく、楽しませるなら……女って何が楽しいんだ? いやシルフィはシルフィだ。別枠として考えるべき。なら正解は。
「ちーがーう。アジュはどうしたいの?」
「余計なことを考えてしまったな。観覧車行こう。ああいうのが好みだ」
思考を見透かされてしまったな。俺もまだまだ、いや読めるくらいには仲良くなったと思っていいのだろうか。とりあえず観覧車に乗る。
「いい景色だ」
遊園地の外は、どこまでも空と大地が広がっている。人工物がない世界なのだ。それがまた世界の雄大さを引き立てている。
「こうしてゆったり景色を見る。そういう時間を過ごせる人間は貴重だ」
「ここにちょうどいいシルフィちゃんがいます!」
「まったくだ。お前らには感謝しているよ。今日もなんだかんだで楽しかった」
「ちゃんと楽しかったでしょ? わたしたちは遊んでいて楽しいんだぞー!」
他人と何かして楽しいというのは、本当に新鮮だ。それができる三人はとても貴重なんだと、こうしてちょくちょく再確認できる。
俺の人生で観覧車乗りながら談笑という、あり得ない経験が追加されたし、最近の疲れも吹き飛んだ。
「これからもよろしくね!」
「ああ、よろしく頼む」
遊園地に誘ってくれたおかげで、かなりリフレッシュできた。
息抜きの仕方が増えてきた気がする。これはとてもいいことだぞ。
おかげでこれからの試験も頑張れると、心の中で思うのだった。
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