インフェルノ成敗とマーダラー・タクト
マーダラー・インフェルノがもう人間じゃない。情報を探りつつ始末しよう。
「忍者への復讐を果たす。業をその身に受けろ」
「まず業が何なのか説明しろ」
「ヘルフレイム!!」
マグマの嵐が周囲を満たしていく。
「聞けや!!」
業の意味がわからないと手がかりがないだろ。面倒なので拳圧を飛ばして嵐を消し、同時に敵の右腕に真空波を飛ばす。
それほど硬い敵じゃないな。切り裂かれた右腕から、緑色の液体が撒き散らされている。
「ハウリングブラッド!!」
それ連発できるんかい。興味が湧いたので、軽く体表に魔力を張って耐えてみる。
威力は低めだな。素の俺なら厳しいが、鎧に傷がつくことはない。
「この程度なら問題ないな?」
「ええ、派手な見た目ほど威力はないわね」
当然だが俺もイロハも無傷だ。上級神とガチらなきゃいけないので、この程度の攻撃で傷ついているわけにはいかない。
「いやいやきっついよ! 二人がおかしいんだって! 大怪我するじゃんこれ!」
ももっちはきついらしい。遠くに退避して声をかけてきた。
いまいち超人とその他の実力がわからん。
「無駄な抵抗を……」
「こっちのセリフだボケ」
インフェルノの右腕が再生していく。そういう機能はずるくないかな。
「インフェルノ・レイン!」
火山のように噴火して、上空から溶岩の塊が大量に降ってくる。
「そんなもんで俺たちが……」
「消えろ。シノビではない男よ」
よりによってなぜ俺を狙うのか。かなりの速度で接近してくる。光速には達していないが、それでも人間なら速い方だと思う。
「忍者じゃないってわかっているなら狙うなよ」
接近戦もできるらしい。全員からマグマが吹き出すし、緑色の血も飛ぶから、普通は近づいたらいけないんだろう。だが鎧相手には無意味だ。攻撃を捌きつつ、右アッパーかましてみる。
「そら!」
「ぐっ……ハウリングブラッド!!」
爆発するけど無視でいい。まさかガン無視で殴られるとは思っていなかったらしく、無防備な状態に右ストレートを叩き込んでやった。
「ガアアァァ!?」
豪快に飛んでいくインフェルノに、下から氷の柱が突き刺さる。
「氷遁、氷牙裂爪」
「いいアシストだ」
「こんなもので、貴様らの業は消えん!」
「ならもっと深く突き刺してやろう」
上からイロハとのダブルキックで、敵の体を深く深く氷へと突き刺していく。
既に腹の八割くらいが柱で広げられて消えているが、それでも死ぬ様子がない。
こいつ本当に人間じゃないな。
「いいぞいいぞー! がんばれがんばれー!!」
ももっちが遠くから応援してくれている。いや応援すんな戦え。
「お前も戦えよ!?」
「無理だって! まだそういう戦いは無理! こっからは任せたからね!!」
「普段の俺みたいなムーブかましやがって」
「まだだ、まだ終わりではない!!」
インフェルノの体がドロドロに溶け出し、周囲のものをマグマに変えていく。さらに緑色の液体が川のように流れ始めた。
「インフェルノフィールド!!」
「やめろアホが!!」
あかん災害になる。凍らせても無駄だろうし、下手に吹き飛ばして爆発すると面倒だ。あまり手の内は見せたくないが、少し本気で動くか。
「ももっちを連れて下がれ」
まず敵の脛から下を切断。成層圏くらいまで蹴り上げる。
『スティール』
次に地面のマグマと緑の血を、スティールキーの力で吸い上げ、球状に維持する。
「まとめて返すぞ!」
天高く投げ飛ばし、インフェルノにぶつかったのを確認した。後はまとめて薙ぎ払えば終わりだ。
「プラズマイレイザー!!」
鎧の力をプラスすれば、絶縁装備など無意味だ。爆発を起こされる前に消滅させた。
「はあ……手間かかるやつだった」
「お疲れ様。危険な敵だったわね」
「ああ、実力よりも執念と負のオーラが尋常じゃなかった」
「なんにせよ勝ててよかったじゃん! 凄いよあじゅにゃん!」
といっても周囲はボロボロだ。景観を損ねるし、直そうかと思ったところで兵士が来た。
「無事か君たち!!」
何人もこちらにやってくる。衛兵みたいだが、どうも焦っているようだな。
「よかった、怪我はないようだね」
「変なやつに襲われまして」
「ひょっとして君たちも忍者みたいな敵に?」
「……何かあったんですか?」
学園にしては、明らかに来るのが遅い。つまり忍者襲来はここだけじゃないのだろう。
「ああ、今学園で忍者たちの派閥争いが起きている。ここに来るまでにも何回も遭遇した」
「学園中で起きてんのかよ」
同時多発テロ的なあれか。厄介な連中だ。だが学園で大事にすれば教師陣も動く。それが目的とも思えない。真意はどこだ。
「待って、派閥争いとはどういうこと?」
「別にやりたくてやってるわけじゃないぞー!!」
「そうなのかい? それは失礼した。忍者の派閥抗争という見解が出始めていてね」
「なるほど、まずそれが狙いか。とりあえず忍者もどきに忍者が襲われている。この認識でいいはずです」
「フウマもイガも、マーダラーとかいう連中に狙われています。術を見るのが目的のようですが、騒ぎを起こして忍者の評判と三勢力の分裂を狙っているのかも」
「よし、指名手配するのはマーダラーだな。全員駆け足! 救助者を探す!」
「了解!!」
兵士のみなさんが遠くへ走っていく。結構重そうな装備なのに速いな。
「三人しかいないから聞くけど、あじゅにゃんのびっくりパワーで勝てそう?」
「勝てる。ただ目立つことは避けたい」
「忍者の勝負なのに、随分と目立つ仕掛け方をされたわね」
「本当にな。俺は戦いが好きじゃないってのに」
「でも最後の手段が欲しくならない? かなりやばめのトラブルだよこれって。あじゅにゃんの使用許可を!」
「出ねえよ。どう使うつもりだ」
気持ちはわかる。あまり保険として使い倒されると迷惑だが、こちらに被害が来るなら対応はやぶさかでない。
「あじゅにゃんに協調性とか期待しちゃダメだよね?」
「ダメに決まってんだろ」
「アジュはギルドメンバーか、最低でも力について知っている人だけで固めないと、本領を発揮できないわよ。巻き込んでしまうわ」
事情を知っていて、ささっと逃げてくれるとありがたい。実力を正確に把握している人材は限られるけども。
「ならどうすればいいの?」
「そーっと敵しかいない本拠地にぶん投げてもらえれば、敵と基地を消せる。護衛とか交渉には向いていません。更地にしていい場所限定の殲滅兵器だと思ってください。以上説明終わり」
「極端だねえ……」
「神クラスが出ると、もう巻き込まないようにするのが面倒で……」
いくら勇敢で清い心の味方だろうが、死なないように守りながら戦う必要が出てくる。ぶっちゃけ邪魔なのである。神々との戦いは数じゃなくて質。大原則なので、絶対に忘れてはいけない。
「マーダラーの目的さえわかればいいのだけれど……」
「そうですか。マーダラーという名に聞き覚えがありませんか」
知らないやつの声に振り返ると、半透明の立体映像のような人影が浮かんでいた。
「幻影か」
「あなたもマーダラーなの?」
「お初にお目にかかります。私はマーダラー・タクト」
こいつは会話ができるらしい。濃いオレンジ色の髪を短くまとめた、細身の同年代といった女だ。
「インフェルノの討伐、お見事でした」
「仲間が死んだんだよ、あなたはそれでいいの?」
「ご心配なく。我らはマーダラー。我らすべてがマーダラーです。全員の代わりは全員が務めます。すでに指示は出し終えました。学園から撤退しております」
淡々と、抑揚なく語りかけてくる。そういう話術なのかは不明だが、真贋計りかねることは確かだ。
「お前が指揮者ってわけか」
「私たちはマーダラー。忍者が生まれる前から、忍者を滅ぼすためのもの。忍者の世界に破滅を、それが望み」
全員忍者に恨みがあるということは一貫しているようだ。こいつ見た目より年寄りなのか? ここまで強烈に恨む理由がわからん。
「イガとコウガの伝承を調べることをおすすめします。忍者が生まれたことで、消されたものもある。血塗られた歴史を紐解けば、我々への理解も深まるかもしれません」
「ここで語ってくれてもいいんだが」
「主観では伝わらないでしょう。敵の言うことを信じるのですか?」
「信じる信じないは聞いたこっちが決める」
「よい判断です。結論がこちらの想定どおりであることを期待します。ごきげんよう」
それだけ言って消えやがった。結局話さないのかよ。
「どうする?」
「調べる時間が必要かな」
「フウマでも探ってみるわ」
忍者が生まれたことで消えたもの。それが何なのか、部外者の俺にはわからない。
だが怨みの根本は深いのだろう。こんな大規模な騒ぎを起こす連中だ。用心してかかるとしようか。
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