雑煮作ったりマーダラーが出たりする
マーダラーシリーズが襲ってきた次の日。外出したくないので、ちまちま昼飯を作る。当番だし。
「再現が難しいな」
「あじゅにゃんは何を作っているのかにゃ?」
ももっちがいる。泊めてもらって何食もタダ飯ってのもアレだからと、なんか手伝いたいらしい。
「雑煮」
「またわけわかんないもの作ってるねえ」
食いたくなったので作る。他のやつらが食いたいかは知らん。俺が食いたいのだ。
「塩と餅はある。大根と人参と鶏肉も入れる。かまぼこは別のもので代用しつつ、もう一味欲しい」
「これメイン料理じゃなくない? お腹いっぱいにならないよ?」
「そりゃそうだろ。メインは後で作る」
みんなで食う和食は、冷めるので全部後回しだ。シンプルに米と焼き魚とサラダ。後は俺が好きなもん一品作るだけ。
「よくわかんない。フウマ料理?」
「違う気もするが……こっちのジャンルがわからん。醤油追加するか?」
フルムーンの醤油とフウマの酒を少し足す。佃煮に使わなかった煮干しで出汁を取ったが、まだ足りない。
「いまいち」
味見しても工夫が足りない。シンプルすぎる。だが崩れやすい味だな。
「何かふりかけちゃえば?」
「んー……山椒か七味とか? でも辛かったりツンとする系はなあ……」
味を崩すし、俺の好みじゃない。完全に趣味の領域である。
「あれ使うか。鍋見ていてくれ。取ってくる」
そして自室から色々持ってきた。早速ふりかけてみよう。
「よし、味が引き締まった」
辛すぎるのは好きじゃないが、塩辛いという言葉もある。塩っけで補えないかと思ったわけだが、あたりだな。全体の味が濃すぎず、餅に染み込むような味付けがしたかった。
「これ確かダイナノイエのやつだよね?」
「ああ、旅行に行った時、ちと興味が湧いてな。買ってみた」
カムイとソフィアに聞いてみたのだ。結構色々と教えてくれたので、そこから俺好みのやつを複数買っておいた。ソフィアのとこの商品が多かった気もするが、あいつ商魂たくましいな。
「しかも品質がいい」
「スパイスめっちゃ売ってるよね。大手の商品以外は店で違うし」
「マジで各家庭で違うらしいな。雑煮もそういうもんだし、変化つけるにゃいい」
そんなわけでよく煮込んで完成。深みのある味になったと自負しております。
「じゃあメイン作っていくぞ。簡単だから手伝え」
「よしきたー!」
手際よく素早く美しく、チームワークで料理完成。本当に万能だなももっち。忘れないうちに白米の付け合せに佃煮を出そう。これで完璧。
「飯ができたぞー」
リビングでだらだらしていたギルメンが、テーブルについていく。
料理はももっちが分身して運んでくれた。
「おーフウマ料理っぽい!」
「魚定食雑煮付き、とでも名付けるか」
出汁が煮干しで焼き魚を出し、そして佃煮がプラスされる。魚が多すぎると思うだろうが、海鮮丼や寿司だって多くの魚を食べる。肝心なのは組み合わせなのだ。白身も赤身も小魚も食べる。これが真髄である。
「名前なんて無難でよいじゃろ。冷めぬうちに食べるのじゃ」
今いるのはギルメン三人とももっちとヨツバ。結構な大所帯だ。助手がいなかったら面倒だったな。感謝してやるぞよ。
「二人で全部やっちゃったけどさ、みんなあじゅにゃんとお料理しなくてよかったの? ギルメンじゃない女の子が横にいたぜい?」
「いいのよ、どちらも手を出さない事は知っているもの」
「そういう好意的だけど、恋じゃない感じの女の子を横に置くことで、女の子への嫌悪感を無くそう大作戦です!」
「無理に束縛せず、最終的にわしらへ戻ってくるように誘導するわけじゃ」
「おおう、変な領域に突入してるねい……」
ももっちが困惑していらっしゃるよ。俺も理解できないので気にするな。
「さっさと食うぞ」
「はーい! うおお! ちゃんとおいしい!」
「一緒に作っただろうが」
「妙に料理うまいねあじゅにゃん」
「お館様って結構多彩ですよね」
「いや限定的だよ。限定してんのに機会が多いだけ」
何故なんだろうね。俺の特技なんて、本来披露する機会は訪れないはずなのよ。
我ながらよくわからん境遇に身を置いているものだな。
「ご飯がふっくら炊けているし、魚の焼き加減もちょうどいいわ」
「お雑煮もおいしいよ!」
「定食では足りぬ満足感を、雑煮の具で補っておるわけじゃな」
ギルメンからも好評のようで何より。
食ってみると、鶏肉が程よく柔らかくていい感じだ。味も濁っていない。
「おもちってあんまり食べる機会無いけど、おいしいよね!」
「少し珍しいもんが食いたかったからな。入れて正解だった」
「今度料理勝負とかする? 私も自信あるんだよん」
「他人と競う気は無い」
「なら勝負に負けたら、あじゅにゃんの言うことなんでも聞いてあげるって言ったらどうするのかな?」
「お前にして欲しいことなんかなんにも無いぞ」
勝負にこだわりもなければ、他人と無駄に競う気もない。そしてして欲しいことが思い浮かぶほど他人に興味がない。
「……みんなよくあじゅにゃんとここまで仲良くなれたね」
「そうじゃろう。もっと褒めてよいぞ」
「ももっちはかわいいんだから、気にしなくていいと思うよ」
そんなこんなで食事は無事終わり、お茶飲みながら今後の方針を練ることになった。だがまあぶっちゃけアテがあるのだ。
「敵の正体がわからないのは不安ね」
「問題ない。専門家を呼ぶのさ。コタロウさん」
「ここに」
コタロウさん登場。昨日からずっと家の中で警護をしてもらっている。伝説の忍者の知恵を借りよう。
「やつらは何者なんです?」
「えっ、拙者知らんでござるよ?」
「………………えっ」
「検討もつかないでござる」
おやあ…………完全に予想外だぞ。絶対知っていると思ったし、なんなら今日で解決できると思っていたのに。
「いやいや、どうして知らないんです?」
「アジュ、ご先祖様は里で眠りについていたのよ?」
「拙者最近蘇ったでござる。ざっくりで7~800年前までとここ数ヶ月の記憶しかないでござるよ」
「うわー……そうだった」
そこから対策の練り直し。コタロウさんは秘密兵器であり最終兵器だ。温存したい。だが学園に来ていたフウマの上忍まで襲われたと聞く。当然瞬殺したそうだが、被害が広がる前にケリを付けたい。
「方法はいくつかあるでござるが……やはり拙者とイロハが適任かと」
「一番わかりやすい方法でいこう。俺も出ます」
そんなわけで、俺とイロハとももっちでお散歩大作戦だ。
家で鎧を着て、ミラージュで制服姿に変われば完了。さくさく敵を炙り出そう。
「うおー、完全におじゃま虫だよねこれ」
「気にするな。全部敵が悪い」
「そうね。ももっちが気にしてもしょうがないことよ」
人通りのある広い道を歩く。イガとフウマのお偉いさんが並んでいるのだ、これで敵がどう出るか探る。ちなみに路地裏に行くのは悪手。学園はそういう場所ができにくい創りだし、大抵は巡回警備がいるからむしろ不向き。
「じゃあ三人で腕でも組む?」
「やめろアホ」
「あなたの匂いがアジュに移るから禁止するわ」
二股野郎だと誰かに誤解されるのもよろしくない。俺は潔白である。
「もっと広い公園で……人の少ないとこがいい。アイドルがいないやつ」
「あの子たちは巻き込めないものね」
「見つけたぞ」
マーダラー・バーミリオンとビリジアンが出てきた。佇まいからして殺る気だな。忍者連中ってそこまで恨み買う覚えがないらしいが。
「どこから出た?」
「突然湧いたように見えたわ」
「面倒だねい。やいやい、こっちがイガとフウマのやんごとなき身分と知っての狼藉かー!」
「忍者よ、その力を見せろ」
まあ会話とか期待していなかったよ。
また炎と木が迫る。同時にやつらの武装が硬い素材になっていることも察した。
一撃で殺されることを危惧して、肌を極力出さないようにしたのだろう。
「そう来ると思ったよ」
だが問題ない。装備で周囲の空気を察することができなくなる。高速移動もできそうにない。つまり。
「えいやー!」
「甘いわね」
二人でぱぱっと倒せるわけよ。基礎的な能力で圧倒的にこちらが上だからな。イロハとももっちにより、敵は倒れ伏す。
「さあ、次はどいつだー!」
「しばらく出てこないかもな。自力の差じゃ対策できないだろ」
敵の戦法は実にシンプルだ。死因を特定して、対策できたら再度挑戦。これをひたすら繰り返す。要するに相性でガンメタ張って連コインだ。
「目的を吐け。忍者を無差別に襲って、お前らに何の得がある?」
倒れただけで意識はあるはず。何か聞き出そうと思ったが、天から攻撃魔法が降り注ぐ。
「新手か!」
回避が間に合ったのは俺たちだけ。敵は焼かれて消えた。
新しく現れたのは、赤黒い服を着た男。今までとは雰囲気の違う敵だ。
「マーダラー・インフェルノ」
「色じゃなくなったな」
今までの敵はどこか無機質でザコ敵のイメージだったが、こいつは気配と殺気が強すぎる。目だけが出ている装備のため、表情は伺えない。だが俺たちを確実に仕留めるつもりなのだろう。
「喋れるなら聞かせろ。理由もわからず狙われるのは気に入らん」
「そうだそうだー! 忍者は暇じゃないんだぞー!」
「我らはマーダラー。シノビへの恨みを晴らすもの。火遁、烈火の……」
「遅いわ」
イロハの斬撃が敵の両腕を切り裂いていく。そこから緑色の液体が流れ出た。
「ヘルファイア!」
傷などお構いなしに忍術を繰り出してくる。今までとは比べ物にならない大規模な火炎が広がっていく。
「水遁! 大激流!」
「この臭いは……油?」
水で全部消化することができない。油をばらまいて炎の威力を強化しているのか。迷惑なやつ。
「サンダースマッシャー!」
水と油なら電気でどうだろう。二人が離れたのを見計らい、適当に魔法ぶっぱしてみる。
「無駄だ」
装備に絶縁シート的なものでもついているのだろうか。とりあえず電撃は効かない。やっぱりかこの野郎。
「凍らせるのも難しいわね」
「もーめんどーい!!」
「今まで通り実力でゴリ押しだな」
敵のスペックを調べてやる。マッハ800くらいで背後に移動。カトラスを横薙ぎに払う。
「この程度かフウマの男」
「俺はフウマとは無関係だ」
余裕で回避された。敵の手甲から刃が飛び出してきたし、あれが武器なんだろう。
続けてマッハ6000まで上げる。それでも俺の攻撃を回避したり弾いたり、力負けしている雰囲気でもないな。それなりに強いらしい。
「あじゅにゃんばっかり見てると危ないよ!」
ももっちの刀がゆらりと揺れ、曲がり、軌道を読ませず揺れては、マーダラーに切り傷を増やしていく。そこから流れるのは、緑色の液体。これまさか血なのか。
「音遁、ハウリングブラッド!!」
地面に散っていた緑色の血液が、爆風と轟音を撒き散らし、とてつもない大爆発を起こす。
咄嗟にイロハを抱えて脱出。途中でももっちも拾う。
「あっぶねえ……自爆しやがった」
「うひゃー……ありがとあじゅにゃん!!」
「気にするな」
「ありがとう。助かったわ」
「イロハなら自力で抜けられただろ」
「それでも助けてもらったわ」
二人を降ろして素早く周囲を確認すると、軽くクレーターができていた。面倒な技持ってやがるな。
「仕損じたか」
敵の声がする。頑丈なやつだ。これは本格的に警戒するべきか。
「お前……人間じゃないのか?」
マーダラーは装甲が吹っ飛び、その姿が顕になる。
赤い肌はうっすらと発光し、緑色の血が流れ続けていた。
どこか鉱石や植物に近いと感じる。明らかに人間とは違う。
「我らはマーダラー。我らは異形となりし人」
眼球が白目だけになり、赤い肌はどろりとマグマのように地面に垂れ落ちて、煙を上げる。血管か筋繊維か知らんが、根を張った植物のようなものが、やつの体の内外でうごめいているのも見えた。あれを人間のカテゴリーに置くのは無茶ってもんだろう。
「人を殺すための人。獣の混ざった人ではない。妖精と交わった人でもない。翼の生えた人でもなく、魔族でもない。我らは異形。忍者によって葬られし過去の業」
まったく意味がわからん。こいつらの目的と思考が理解できんぞ。
「業を燃やせ。業を受けよ。業は報いである。我が名はマーダラー。我らはマーダラー」
「なんか……怖い……あの気持ち悪い気配はなんなの……」
「恐ろしいほどの憎しみの念ね」
「殲滅を開始する。我らの悲願は今ここに。ヌウウアアアアァァァァ!!」
膨大な魔力を開放させている。これは危険だ。被害が増える前に、俺が対処するべきか。
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