変な敵が増え続ける

 変なやつが現れたので、急遽家に帰ろう。ヨツバも一緒に帰り道を早足で歩く。ここで全力疾走とかしないのは、奇襲に備えることと、無駄に目立つのを避けるためである。


「人混みに紛れたら襲ってくると思うか?」


「わかりません。無差別に攻撃するのであれば危険です」


「一般人を盾にするのも小言がうるさそうだな」


 俺たちが原因だとひたすら面倒なことになる。忍者を狙っているのはほぼ確定だと思うが、相手も忍者だ。何をしてくるかわからない。


「そこで止まれ」


 さっきのやつの緑色版が出てきた。背格好も似ている。ちょっと笑いそうになったわ。


「また出た……一応名乗れ」


「マーダラー・ビリジアン」


「シリーズ化してんのかお前ら」


「消えろ。木遁、ウッドスピアー!!」


 地面から大量の木の根が飛んでくる。

 咄嗟にバックステップで距離を取り、それぞれ反撃に出た。


「風遁、螺旋風神!!」


「ウッドウォール!」


 巨大な木の板が風と刃物を阻んでいく。だが相手の視界は悪くなるはず、横から回り込み、攻撃魔法でアシストしよう。


「サンダースマッシャー!」


 こちらに向けてビリジアンが走ってくる。回避せず被弾上等なのかと思えば、何かのシートを前方に出し、俺の魔法を逸らした。


「っ……絶縁シート!?」


 厳密には違うのだろうが、電撃を軽減か弾く性能の装備だ。一直線に距離を詰められる。


「氷遁、氷結獄中!!」


「業火のハリケーン!」


 ヨツバの氷で作られた檻を、バーミリオンと同じ炎の渦で消していく。同じ術系統で同じ装備。こいつらどれだけの規模の集団なんだ。


「ライトニングジェット!」


 雷が防げても、中に入っているクナイまでは防げないだろう。雷速で飛ばして直撃させる。


「ぬぐあぁ!!」


 ヒット。敵の腕と足をえぐっていく。完全に避けられるスペックではないようだな。


「木遁!!」


 木々が天高く伸びながら、徐々に俺たちを取り囲んでいく。逃げ道を塞ぐつもりか。


「しょうがない。一点突破で決めるぞ」


「了解しました。私が合わせます」


 無駄に時間をかければ不利だ。敵を必殺技で一気に倒す。

 魔力を練り上げていると、突然敵の背後が凍結し、木々が砕け散った。


「フウマからの報告で見に来てみれば、これはどういうことかしら?」


 イロハだ。俺が戦っていると知り、急遽自分できたらしい。


「フウマか。その力を見せろ」


 こいつ忍者相手なら見境なしか。イロハの術は特殊だ、手の内を見せないようにしないとな。


「邪魔をするなら容赦はしないわ」


「影は使うな。こいつら術を見るのが狙いだ」


「そう、ならこういうのはどうかしら?」


 イロハが消え、敵の胸に深々と切り傷が生まれる。


「まだだ!!」


 敵は血が吹き出すのも構わずに、木を増やして防御と攻撃に使うつもりだろうが。


「無駄よ」


 純粋な身体能力のみで破壊され、刀にて首をはねられる。

 圧倒的なスピードとパワーのみのゴリ押し。対策は速度と力で上回ることのみ。

 それに気づく暇もなく死んだだろう。


「助かった」


「ありがとうイロハ。少し危なかったわ」


「気にしないで。それより今の敵は何?」


「わからん。急に攻撃してきた」


「とにかく家までお送りします」


 ここにいつまでもいるわけにもいかない。三人でそそくさと家に帰る途中。


「マーダラー・ブロンド」


「もうふざけんなよマジで」


 また出たよ。今度は黄色かな。いいかげんにしろ。俺だって暇じゃないんだぞ。


「サンダースマッシャー!」


 さっきと同じだ。装備に追加されたマントが絶縁タイプらしく、電撃が弾かれる。


「こいつもかよ! 氷遁頼む!」


「氷結牢獄!!」


「業火のハリケーン!!」


 試しに氷遁を使わせてみると、案の定炎で対策取ってきた。


「ウッドフィールド!!」


 そして木々で壁を作って即席闘技場にしていき、炎の分身で俺たちを襲う。


「ならまた切り裂けばいいだけよ」


「土遁、グレートボディ!!」


 周囲の土が集まり、10メートル近い土の巨人ができた。敵がその中に入っていったのを確認している。


「首をはねられないようにってことか?」


「面倒ね……」


 影は使えない。手の内を見せることは控えるのだ。つまり俺は虚無禁止。ライジングギアも温存したい。その方向で指示を出そう。


「全身凍らせろ」


「氷遁、氷河瞬着!!」


 吹雪が舞い踊り、一瞬で土人形の全身を凍結させた。あとは俺とイロハで人形の両足を地面すれすれのところでカットして。


「風遁、空裂咆哮!!」


 ヨツバが風遁で敵を上空へ飛ばし、炎と雷の合体攻撃で終わりだ。


「火遁!!」


「プラズマイレイザー!!」


「合体魔法、業火雷爆破!!」


 大爆発を起こし、爆発四散。これにて終了。跡形もなく吹き飛んだ敵は、無駄な手間をかけさせてくれた恨みだけ残して消えた。


「よし、ダッシュで帰るぞ!」


 これ以上の戦闘は断固として拒否する。急いで家へと帰った。


「帰ったぞ。何か妙なやつが……」


「おっ、あじゅにゃんだぜい!」


 ももっちがいる。イガの跡継ぎエリザ・モモチだ。しばらくぶりだな。

 ソファーでゆったりと紅茶飲んでいる。


「おひさし!」


「久しぶり……この挨拶するやつ多いな」


「あじゅにゃんが出不精だからでしょ」


「そりゃそうだ」


「改善せんといかんのう」


 ギルメンも全員いる。これは都合がいい。早速事情を説明した。ヨツバが。


「というわけなんです」


「うわちゃー、そっちにも来てるんだねい」


「そっちにも?」


「イガの所にも来たよ。マーダラー・アイボリー」


 戦闘服まで同じらしい。違うのは色だけか。こりゃ思ったより大事なのかも。


「おいこれどうなってんだ?」


「こっちもわかんない。けど忍術使ってたね」


「法則から言ってコウガかイガだと思うんだが」


 忍術にカタカナが混ざるのは、イガとコウガの特徴のはず。

 それが揺動って可能性もあるが、フウマが俺たちを狙う理由がない。


「わざわざフウマに喧嘩売らないよ」


「だろうな。だがこう、裏の覇権争いとか」


「フウマはフウマの里にいる忍者で、別に裏社会の帝王とかじゃないよ?」


「そうだったか?」


 フウマは千年くらい前に現れた忍者集団で、裏仕事を担当するシークレットサービスがイガだったっけ。一般向けにして事業展開とか始めたのがコウガだったはず。


「コウガっぽい雰囲気もあった」


「一色で染めた忍装束でしたし、なんとなくそんな気もしますけど……それが敵の罠かもしれません。忍者の戦争でも狙っているとしたら……」


「最近離間工作多いのう」


 アイドルの時もそんなのあったなあ……お決まりのパターンなんだろうか。


「とりあえず! イガにフウマと敵対する意志はありません! それを言いに来たのだ!」


「フウマもないわ。元々どこかと積極的に敵対することはないの。それがフウマよ」


「一応身辺調査はしておいてね。こっちもやっとくけど、身内は増えると離反者も出ちゃうよ」


「気をつけるさ」


 組織が大きくなれば、当然だが反旗を翻そうというアホも出る。

 フウマはそういうことが無いくらい、絶対的に強い。結束も軍事力もな。

 だが100%じゃない。確信が得られないうちは、フウマすら警戒すべきだろうか。


「でも、こうなると誰が味方かわからないよね?」


「それが狙いかも知れんのう。団結させず、各個撃破で勢力を削ぐ」


「うえー……やな敵だね……」


「うーん……フルムーンは関係ないのかな? 参加しない方がいい?」


「今は出なくていいかもな」


 フウマと同盟を結んでいるフルムーンだが、協力して事に当たると規模がでかくなる。戦争になる可能性だってあるのだ。慎重に行きたいね。


「しばらく単独行動は避けろ。ヨツバもここにいていい」


「みんなであじゅにゃんの家にお泊りだね!」


「いやお前は帰れよ」


「なんでさー! いいじゃん夜のお邪魔はしないよ? 声とか聞こえないふりするし!」


「手は出してねえっつってんだろ!」


 あんまり人が多いのは好きじゃない。ヨツバは仕方がないが、ももっちの処遇はどうすべきか判断に迷う。


「イガの連中が心配するんじゃないのか?」


「泊まるって言って出てきたからへーき」


「お前なあ……」


 とりあえずもう夜になる。外出は避け、全員で一泊することにした。

 護衛にミナさんとコタロウさんがいるので問題はないだろう。


「騒ぎを起こすなよ。どうせ明日からまたバトルがあるだろうし、少しでも休んでおけ」


「はーい!」


 問題は明日からだ。下手に偵察隊など作れば、手の内を明かし、犠牲が出る。

 さてどうするかね。根が深くなきゃいいんだが。

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