プレゼント相談と変な敵

 ヒメノに連れ回された惨劇の日から一夜明けて、俺は一人であてもなく散策していた。

 イロハのプレゼントについて悩み、外に出ることを決意したのである。


「寒い」


 イロハ本人はシルフィと遊びに行った。俺が一人で考える時間も必要だと、シルフィが言い出したからだ。リリアも用事があってヒメノのところに行くらしい。

 なんか単独行動は久しぶりな気がする。妙な感覚だ。


「あれあれー? サカガミさんじゃないですかー!」


 声のした方へと振り向くと、そこにはシンフォニックフラワーの四人がいた。ラフな練習着だ。


「またお会いしましたわね」


「ああ、そうか……ここは」


 シンフォニックフラワー結成の場所がある公園だ。けれど別にこいつらに会いたかったわけじゃない。


「カエデたちが忘れられなくて、練習見に来ちゃったんですか?」


「アイドル相手にそんなことするかよ。存外この場所が気に入ったらしい。無意識に来た」


 花が綺麗に咲くこの場所は、ゆったりと物事を考えながら歩くのに最適だ。自然とお気に入りスポットになったらしい。


「大会直後なのに練習か」


「次のライブまでに、もっともっとかわいくならなきゃいけませんからね!」


「偉いわカエデちゃん。よしよし」


「そうだ、ちょうどいい。イロハに何やったらいいかわからん」


 誕生日が近くてプレゼントを渡すことになったと説明した。女目線ならわかるかも。


「これはカエデたちもあげるべきでしょう!」


「お世話になったものね」


「誕生日会……行けはしないだろうが、我らからも祝いの言葉を紡ぎたい」


「フウマは簡単には入れませんものね」


 フウマは謎多き国である。特別な事情がない限り入れない。それは周知されている。好意は嬉しいが、あんまり例外は作るもんじゃないしな。


「何あげりゃ喜ぶと思う?」


「好きな人が心を込めて贈れば、きっと喜んでもらえますわ」


「そういう曖昧なものじゃなくてだな……」


「そもそも恋人なのですか? 仲間と恋人では、贈り物の意味合いが変わりますわ」


 改めて聞かれると困るな。ただのギルメンですと答えても、今回の件で正解は引き出せない気がする。


「いや……恋人……ではないんだよ一応。今の所あいつらはまだそういうのじゃない」


「あいつら? そういえば、リリアさんとシルフィさんも同居してらっしゃるのですよね?」


「ああ、だからまあ今は三人とも恋人未満というやつだ。恋人試験期間というやつで」


 なんとなくぼかして説明しようにも、まず恋愛が理解できん。言い訳も思いつかんぞ。


「手を出しちゃいない。まだ試験期間で……説明難しいなこれ」


「誰を恋人にするかの期間なのですか?」


「それも違う。三人を恋人にするかどうかだよ」


 なんか急速に空気が変な感じになっていくのはなぜですか?


「三人とも口説いたの……? 意外とだらしない生活だったりするのね」


「勘違いだ。俺が三人に協力して口説かれている側だよ。攻略される方」


「意味分かんないです」


 珍しいケースだ。こういう反応が返ってくることってあんまない。


「大抵のやつはしれっと流してくれるんだが」


「それは深入りしないように避けていたのでは?」


「なるほど懸命だ。ありがたい」


「いやそれはそれで……ええとそう! プレゼントですけど!」


 そうだそこだよ。無駄に遠回りしたわ。だが答えは結局曖昧で。


「どういう気持ちを込めるかだと思いますわ。その人に似合うかどうか」


「いつもありがとうって気持ちなのか。好きだーって気持ちなのか」 


「まずはサカガミくんの心に聞いてみるといいわ」


 そんなこんなで明確な答えは出なかった。それでも礼を言ってまた散歩を開始。とにかく取っ掛かりがないとなあ。


「自分の気持ちねえ……わかりゃ苦労はしないんだが」


 わかってもどうすりゃいいかは理解できん気がする。詰みに近い。


「あれは……」


 商店街をうろうろしていると、しばらくぶりの姿を見つける。あれはヨツバだ。イロハの親戚でフウマ忍者の。帽子でわかる。


「あっ、お久しぶりです」


 こちらに気づいて小走りで寄ってくる。身のこなしが軽いな。


「おう久しぶり」


「お一人ですか?」


「ああ、イロハのプレゼントで迷っている」


「お館様そういうの苦手そうですね」


 ヨツバは俺をちゃんと理解している。しかも常識人という、かなり貴重なポジションである。迷惑はかけたくないが、こういう相談くらいならいいだろう。無論お礼はする。


「アドバイスくれ。何か礼はする」


「別にいいですよそんな。あげるのは装飾品ですか?」


「そうだな。それがいい。でなきゃ普段使うものだが。いまいち思いつかん」


 しばらく店を見て回り、ヨツバにフウマの文化や贈り物NGなものを聞く。

 相手の風習とかわからないと面倒だからな。

 そして鈍い俺でも気づいた。ちょうどその時、ヨツバが声をかけてくれる。


「どこか行きたい場所はないですか?」


「ヨツバさえいいなら、二人で人気のないところに行こうか」


「了解。ご案内いたします」


 即答してくれたか。どうやらこちらの意図を汲み取ったようだ。忍者って凄いね。


「ではこちらへどうぞ」


「悪くないスポットだ」


 しばし歩く。シンフォニックフラワーがいた公園とは別の、葉が散りかけている並木道へと移動する。本当に人が少ないな。さっさとゼロになれ。


「お館様」


「わかっている。俺かヨツバか」


 暫く歩くが、効果が薄いな。人が歩いてくる方向とは逆へ行こう。


「待て」


 知らんやつが声をかけてきた。肌を出さない、赤い戦闘服だ。忍者にも近いが、もっと最新式というイメージが湧く。


「ようやくか」


 これを待っていた。いくら戦闘ダメな俺でも、雑な尾行には気づく。

 気づくほどこいつらが油断したのか、わざと誘い込まれたのかは不明。


「名前くらい名乗れ」


「マーダラー・バーミリオン」


「おもっくそ偽名だろうが」


「目的を教えてください。私も彼も狙われる理由が思いつきません」


「知る必要はない。フウマよ、その力のすべてを見せろ。忍術結界!!」


 並木道に強力な結界が張られた。これは俺たちを逃さないため、いや学園の介入を遅らせるためか。


「力を見せろ。でなければ燃えつきろ」


 敵の服と影が燃え上がり、一気にこちらへ広がってくる。


「水遁、激流裂波!!」


 ヨツバの忍術で火を消化にかかるが、あまりにも広範囲に広がる炎は、空からも降り注いできた。


「お前学園内だぞ……ライトニングフラッシュ!」


 上の炎は雷光で消す。その間にヨツバが帽子を回転させ、仕込み刃を高速で飛ばす。一本一本が風をまとい、竜巻になりながら進んでいく。


「風遁、螺旋風神!!」


「業火のハリケーン!!」


 風と炎がぶつかり、視界が悪くなっていく。同時にバーミリオンの姿がヨツバの背後に見えた。


「雷光一閃!」


 即座に肉薄し、長巻で切り裂いた。

 切りはしたが手応えが薄すぎる。ゆらりと炎に変わり、空中へと霧散していく。


「分身、いや幻影か!」


「少しは動けるようだな」


「少しだけだから俺に構わんでくれ」


「あなたの相手は私です!!」


 忍者刀を抜き放ち、バーミリオンの両腕についているサーベルと打ち合いを開始する。かなり速いな。やはりヨツバも将来的に超人側へ行きそう。

 俺は離れて魔法で援護する。


「よし、そのままやっちまえ!」


「もっと積極的に戦ってくれてもいいのですよ? というかお館様、あの力は?」


「あんまり出したくない。どうも力を調べることが目的な気がする」


 殺気が混ざっているが、最高率で殺しに来ている気がしない。

 力を見せろとも言っていた。だから鎧は使わないでおきたいのだ。


「ヨツバ単独で勝てるだろ?」


「おそらくは」


「なめられたものだな。フウマといえど、小娘に負けはせん」


 体中から炎が吹き出ている。熱いわボケ。体を炎に変換しているわけではなさそうだが、こりゃめんどい。


「あいつ殺していいやつかな?」


「わかりませんが、念の為全力でいきます。水遁、氷河築城!!」


 結界内を氷が埋めていき、炎を巻き込んで敵を氷の棺桶の中に閉じ込めた。

 棺桶というか城みたいなんだが、この造形へのこだわりはなんだよ。


「今のうちに結界から出ましょう」


「寒いからな」


「敵が復活するかもしれないからです」


 冬に使う忍術じゃないなこれ。さーむい。さっさと結界切って逃げよう。


「ヌオオオオオアアアアァァ!!」


 叫び声とともに氷の城が内部から破壊され、炎が渦巻く。


「もう熱かったり寒かったり何なんだよ」


「足りん! この程度では足りんぞフウマ!」


「らしいぞもっと凍らせてやれ」


 想定よりしぶとい。だからこそめんどい。余計なことをする前に倒そう。


「氷は見飽きたわ! これよりさらなる炎を見せてやる!!」


「お前の炎も見飽きたさ。プラズマイレイザー!」


 結界が狭まっていることは気づいた。炎を撒き散らされるとうざい。一撃で潰す。


「また幻影?」


 左肩から先をふっ飛ばしたが、そのままゆらりと歩いてくる。

 炎が勢いを増し、そこからバーミリオンの体が現れては消えてを繰り返す。

 本体がわからない。とにかく細かく魔法で潰していくか。


「違う! それが本体です!」


「取ったぞ!!」


 バーミリオンに左手首を握られた。


「取られちゃったか。じゃあそれは記念にあげよう」


 まあこの程度は想定しているさ。取られたのは、ライトニングビジョンで作った分身である。追撃のためサンダーシードで爆裂させておく。


「ぬがああぁぁ!!」


 バックステップで距離を取る。だがそれに追いすがるように追ってきた。地面に撒いたまきびしも気にせずに。こいつ捨て身すぎる。自分の損傷を勘定に入れていない。


「俺の腕に気を取られただろ? まきびしの痛みに耐えること、それは意識が痛みに行くということだ」


 俺だけを追ったのが間違い。やつの首にはもう、ヨツバの刀が突き刺さっている。


「ゲホッ……想定外だ……誰も殺せない……もっと殺し……」


「地獄でやってろ」


 長巻を振り下ろし、ヨツバとともにとどめを刺した。

 完全に息絶えると、結界も薄れていき、俺たちで破壊できるほど弱くなる。


「敵に心当たりは?」


「ありません。なぜこんな……」


 どうにも面倒ごとのにおいがきつすぎる。楽しい学園生活はどうなるのやら。

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