忍者VSマーダラー編

誕生日プレゼントと怪しい動き

 シンフォニックフラワーの事件から数日。今日も変わらぬ朝だ。

 朝飯を食って、自室で本を読む。まあ完全に暇を持て余しつつ知識を蓄えている。

 既に護衛の報酬は貰ったし、仕事以外でアイドルに会いに行くのはNGだ。


「本が足りないな」


 ベッドでだらだらする時間は大切だ。

 だが本は読み切ってしまった。寒いからあまり外出したくないんだが。


「そういう日こそ遊びに行くべきよ」


 横でごろごろしているイロハからの提案を受けるべきだろうか。

 たまにくっついてくるし、胸のあたりに顔をくっつけてくるが、確か親愛を表す行動だったはず。別に害はないので拒否もしない。


「本を買うとして、他に用事はあったか?」


「特に無いわ」


「ならめんどい」


「そこは遊ぶ時間が増えると考えるのよ」


 俺の意識改革が地道に行われている。こうして徐々に外出が増えていくのだ。


「外なあ……まあいい。たまには外に出てやろうではないか」


「そういえば、冬休みはいつも私の誕生日会をやるのだけれど」


「そういやそんな時期か。なら全員で行くぞ」


 シルフィの時もやったのだから、イロハもやろう。

 というか毎年やってんなら行かせるのがギルマスというものだ。


「プレゼントどうすっか考えるか」


「ちゃんと考えてくれているのね」


「シルフィにもやったからな。そこは平等にいこう」


 ちなみにシルフィに送ったのは、中央に月に見立てた真珠のついた首飾りだ。真珠を守るように、銀細工が施されている。それなりに高い。デザインの意図を理解してくれたのか、かなり喜んでいた。

 壊れてもいけないので、普段や戦闘の時は付けないように言っておいた。


「別に高級品じゃなくてもいいわ。あの首飾りはいいプレゼントだったもの」


「すげえ無い知恵絞ったからな。渾身の出来だぞ」


 あのクオリティで毎年はしんどいぞ……相当頭を使わされるだろう。


「はいはい、またマイナス思考ね。気晴らしに出かけましょう」


「了解」


 こうしてフォローを入れられて、外出したはいいけれど。


「寒い……」


 コート着ていても寒い。イロハもタイツとロングパーカーだが、普段より防寒対策をしているみたいだ。


「おや? アジュさんとイロハさんじゃないっすか」


「やた子か。こんな寒い日によく外にいるな」


 なぜかやた子と出会う。こいつはいつでも学園獣を飛び回っているようだ。


「むしろアジュさんがよく外出したと褒めてあげたいところっす」


「そこは褒めろ」


「普通のことよ」


「平常運転っすね。うちはお仕事終わりっす」


 朝と昼の中間の時間。こんな時に仕事終わりか。こいつやっぱ苦労しているんかな。ヒメノ陣営は大変そうだ。


「よし、仕事を頑張ったやた子を褒めてやろう。偉いぞ」


「なんすか急に」


「やた子にはお世話になっているわ。いつも助けてくれるじゃない」


「おおう、むずむずするっす」


 神話生物とのバトルの始末とか、きっと裏で王族と処理しているはず。

 どういう仕組みかしらないが、一般人にはできないことは簡単に想像がつく。


「アジュさんたちも調子いいみたいじゃないっすか。アイドルの護衛してたとか」


「本当にどっから仕入れてきた情報だ」


「アイドルと過ごして、今度はお姫様とデートっすか。実に羨ましがられる生活っすね」


「アイドルは気を遣うから、あんまり依頼受けたくないんだけどな」


 シンフォニックフラワーが例外的に好意的だっただけ。

 それだって近づきすぎないように、仲のよい雰囲気を出さないように護衛していた。そこそこ慎重に頑張ったんだぞ。


「それで今は暇なんすね」


「そういうことだ」


「どこ行くんすか?」


「わからん。本屋とインドア遊び以外がわからん」


 将棋とかチェスとか売っている店とか、あとは修練場みたいな場所かダンジョンとかバトル関係だな。武器屋も行く。行動範囲狭いなおい。


「美味しいお店とか詳しくなさそうっすね。そういうの巡ったりしないんすか?」


「頻繁に外食するのは浪費と言うんだよ。節約術くらい身につけるべきだぞ」


「そうよ。贅沢しすぎるとよくないわ。食材買えば一緒に料理できるでしょう」


 外食は控える。もしくは週何回と決める。無駄遣いは金を持っていようが敵なのだ。


「えー、でもおしゃれなお店……はアジュさんが拒否りそうっすね」


「自宅なら一緒にお料理できて、あーんや軽くくっつきながら動けるわ」


「なるほど、お外でそういうの嫌いそうっすもんね」


「みっともないからな」


 あんまり目立つ行動はしたくない。時と場所というものがあるのだ。


「よし、一緒にイロハのプレゼントどうするか考えようぜ」


「うちに丸投げしちゃダメっすよ?」


「わかっとるわい」


 話しながら商店街まで移動しよう。いつもの場所じゃなく、少しアクセサリーとかある、おしゃれするための区画。ファッション関係の場所ですよここ。


「うーわ絶対一人で来たくねえここ」


 地獄である。こんな場所に放置されるならダンジョンのほうがマシ。

 歩いているやつがおしゃれ最先端みたいな雰囲気出している。


「まずアジュの考えを聞きましょうか」


「フウマっぽいものと、逆にまったく関係ないもので悩む」


 かんざしとか和風でいいのか。それとも洋風でいつもとは違うイロハにするのがいいのか。そこからしてわからんのだ。


「形があるものがいいんすね」


「そこは残るものでいいかなと」


「難しく考えなくてもいいのよ?」


「まず他人に物を送るってほぼ経験がない。そして特別感を出すのが難しい」


 キッチン用品とか全員で使うし、鍋や包丁セットとか送ってもなあ。

 ブランド物も意味がない。だってお姫様だし。イロハがどちらかといえば実用性重視するから、余計無駄になる。武器も上等なものを使っているから、変える意味がない。的なことを話し合う。


「庶民とは違うわけだな」


「かなり難しいっすねえ」


「そんなに違うものかしら?」


「まあ庶民も全員がブランド物を好きってわけじゃないだろうが」


 イロハが喜ぶものじゃないことは理解している。そこが最重要ポイントだ。


「しかも指輪以外だぞ。首飾りとか腕輪とか……例えばだ。こういうのどうだ?」


 適当にショーウインドウに並ぶ高そうな貴金属を見る。


「あまりギラギラしたものはちょっと。目立ってしまうわね」


「イロハは落ち着いた色合いが好きだからな。そこは考慮しよう」


 青系か黒だろうか。それだといつもと同じだし、別の色をアクセントに……だから俺にそういうセンスはないんだよなあ。どうしたものか。


「下手に高価なものとかフウマの物は、あげても持ってそうっすね」


「アジュからもらうことに意味があるのよ」


「それ以外の意味がないのも納得いかん」


「本当に気難しい人っすねえ」


 自覚はあるよ。だからこそ他人といるのも、こうして物を送るのも経験がないわけで、いやあ厳しいもんがあるねえ。眺めていてもどれが高くてセンスあるのかわかりゃしない。


「フウマならかんざしか……扇子? はリリアと被るな。櫛……は持っているだろうし……着物は違う。刀……武器はやめよう。やた子」


「悪くないと思うっすよ。持っているだろうは少し余計っす」


「一回イロハが持っているものを調べるか?」


「そこまでしなくていいわよ。別に毎日使うものじゃなければいけないわけでもないでしょう」


「なるほど。こういうドレスどうだ? フルムーン風?」


 優雅なドレスは着る機会は少ないだろう。だが贈り物としては定番……定番なのだろうか。でも服って破れやすくね?


「マジで慣れてない感じっすね」


「俺はモテないぼっち野郎だぞ。慣れていてたまるか」


「そんなアジュ様も素敵ですわ」


「何しれっと混ざってんだお前」


 ヒメノがいる。まったく気配がなかった。ごく自然に隣りにいた。怖い。


「不覚……不審者に気づかなかったわ。忍者失格よ……」


 イロハでも察知できなかったらしい。無駄に上級神だな。本当に無駄に。


「それで、わたくしとの婚約指輪ですが」


「言ってねえよ! 一回もそんな話してねえからな!」


「久しぶりに会って第一声がそれなのはどうかと思うわ」


「自重しましょうヒメノ様」


 部下が呆れ顔だよ。こいつマジで誰にも出現が読めないから怖い。


「わたくし、めげませんわ!」


「めげろ。次に会う百年後くらいまで反省してくれ」


「ヒメノに誕生日はあるの?」


「…………気づいたら生まれてましたわね」


「生まれから雑なのかよお前」


 神の生まれ方なんてしらんけども。正確な誕生日とか無いのか、そういうのができる前から生きている存在ってことなのか、こいつが忘れただけなのか不明だ。


「気にしても疲れるだけですわね」


「お前そのものが疲れるよ」


「お願いですから仕事してくださいっす。今日のお仕事いっぱいあったはずっすよ」


「ムラクモちゃんにおまかせしましたわ!」


「誰だよ。そいつかわいそうだろ」


「ヒメノ様の部下っすね」


 部下にぶん投げスタイルをやめさせよう。真面目な部下が苦労するのは俺のせいだったら気分悪い。


「要件を言え。真面目な話なら聞く」


「わたくしとの婚約が真面目ではないと?」


「神話生物自由型代表選手か。真面目な顔で言っても認めねえからな」


 マジなのだろうか。こいつの目的が不明なので、俺を好きというのも信用できない。そんな奇特な女がギルメン以外にいるものか。

 なんというか、こいつにはくっついた瞬間俺を利用しようという魂胆がありそうなんだよ。底が知れん。


「わたくしを毎日好きにできましてよ?」


「だからどうした」


「ガードが硬いですわ……でもそんな奥ゆかしさもアジュ様の美徳! わたくし、諦めませんわ!!」


「くたばれ」


「アジュさん、直球はやめてあげてくださいっす」


「下ネタに頼り続ける限り、アジュの横にはいられないと心得なさい」


 この理解力がギルメンと部外者の決定的な差である。


「仕方がありませんわね。やた子ちゃん」


 そのまま話していると、急にやた子が神妙な顔になった。


「アジュさん、装備を強化できるなら、今のうちにしておいてくださいっす」


「装備?」


 予想外の提案だ。年末セールでもあるんだろうか。


「忍者が嫌な感じっす。確証はないけど、忍者業界全体で嫌な感覚が消えなくて、ヒメノ様からも警戒するよう言われてるっす」


 ヒメノをどこまで信用していいかわからんが、部下を大切にするタイプだろう。しかもやた子は神話生物と戦えるはず。そいつに調査と警戒を促すなら、余程の事態だな。


「わかった、助言感謝する」


「気をつけておくけれど、私には情報が来ていないわよ?」


「なんか変な感じっすよ。裏でこそこそしている忍者を捕まえると、フウマでもイガでもコウガでもないんすよ」


「それ以外の忍者っているのか?」


「小さい組織はあるかもしれないっすけど、その三勢力が強すぎて台頭しないっすねえ」


 どうせ忍者やるならイガかコウガに行くだろう。フウマは特殊な里だから、あんまり外部から新規勢とか入らない。


「どっちからも断られた連中か? なんか弱そうだなそれ」


「実際勢力を動かせるような逸材はいない気がするっすねえ」


「ですがご安心を。今に神界でずばばーっと解決いたしますわ」


「人間同士のいざこざは、あんまり干渉したくないっすけど……もしもの時は助っ人お願いするっす」


「わかった。やた子には世話になっている。恩は返しておくか」


 これに異論はない。やた子とフリストは優秀で気配りのできる子だ。傷ついていい気分でもない。


「相変わらずやた子ちゃんの好感度が高いですわ」


「お前よりはな」


「やた子はいい子ね。ハーレム入りは数年待てば考えるわ」


「せめて俺の了承を取れや」


「別に入りたくないっすよ。入り込めるとも思ってないっす」


 おもしろ友人ポジションを希望します。結構貴重な位置なんだぞお前は。


「では好感度を上げるため、みんなで遊びますわよ!」


「こいつどうにかして帰らせるぞ」


「お二人はわたくしとアジュ様が二人っきりになれるよう、要所でアシストしてくださいまし」


「そろそろ怒るわよ」


「さてはお仕事から逃げたいだけっすね」


 結局遊びに付き合わされた。プレゼント選びができなかったので、次こそはちゃんとしよう。誰か別のやつの意見でも聞きに行こうかな。

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