女王と姫と百合男子編
超人をスカウトしなきゃいけないらしい
所長を倒し、星の楽園の悪用と崩壊を止めてから二日が経った。
ヒメノとやた子による各員の事情聴取と、その後の後始末だかで時間を食い、疲れてめんどくさくなって、みんなでだらだらしていたら二日経ったよ。
「もう休みが少ないぜ」
「しょうがないよ。大きなトラブルだったし」
「少しでもゆっくりしましょう」
予定が大幅にずれた結果、今はイロハ陣営の城にいる。少し肌寒く、秋のような気温である。つまり部屋でだらだらするくらいでちょうどよい。リビングが広くて豪華なので、ソファーで寝るのだ。
「他人の国の城でそこまでくつろげるのか」
ヴァンが呆れたように言いながら、三杯目のパフェを口にしている。ここにはギルメンとヴァン、カグラがいる。イロハが所属しているだけで、国主はカグラだからね。お菓子作りが趣味らしく、クッキーがうめえ。
「いいんだよ、今回すげえめんどくさかったんだぞ」
「そっちもか。どうせまた超人とか出たんだろ?」
「話せねえけど、もっとめんどかった」
「マジか、オレましな方だったのかよ」
ヴァンも特殊ないきさつがあり、特別な力がある。なので駆り出されるらしい。お互い面倒事に縁があるねえ。
「超人もどきの団体が暴れだしてな。薬でブーストかけやがって」
「そっちの鎮圧か。ガキにやらせるわけにもいかない仕事だな」
「オレらもまだ学生だってのになあ」
「まったくだ」
一応結構な給料は出るし、手柄は他人になすりつけられるので、学園の関係者でも重役でなければ気づかれない。それでもしんどいんだぞ。
「ヴァンくんはすごかったよー! どーん、ずばばばーって!」
「あんま言いふらさねえでくれよ?」
「だいじょーぶ! 口は堅いんだよ!」
カグラは明るいけどバカじゃない。恩と約束は律儀に覚えているタイプらしいので、そこは安心している。ルシードの仲間だしな。
「ヴァンは功績隠していないだろ?」
「融合までできるとは言ってねえ。ましてや神とだからな。御神体とか教祖にされるぜ」
「最悪だな」
「誰にでも悩みはあるということじゃな」
ヴァンは過去がもうやばい。幸せになれ。いくら俺でもそこを話題にするつもりはない。
「いいなー。ソニアとクラリスと一緒にいれて。わたしずっとアジュと離れ離れだし」
「私もルシードと離されちゃったよー……悲しいよねシルフィちゃん!」
「悲しいね! けど頑張ろう! 試験終わったら遊びに連れてってもらうんだ!」
「おおー! それいい! 今度ルシードにお願いしてみる!」
シルフィとカグラは仲良くなっている。あいつに友人が増えるのはいいことだ。
「私達も遊びに行く約束をしておきましょう」
イロハが犬……じゃない狼の耳をぴんと立ててソファーに座って来る。集中して興味を持っている時なので、ちゃんと相手をしよう。
「わかっている。何か気晴らしとご褒美は必要だと思う。この環境は特殊すぎて、ストレスをすべては発散できない」
仕方がないので撫でてやろう。耳が横にぺしゃっとなって見上げてきたら、撫でで欲しいのだ。ゆっくり撫でると目を細めるので、このまましばらく続けよう。しっぽが速く揺れている状態から、ゆっくり落ち着くくらいまでがベストだ。
「そうじゃな。学園がストレステストでもしておるのかものう」
「勇者は困難を与えると強くなるってか? にしても今回はやりすぎだろ」
顎付近を撫でてみる。最初はされるがままだったが、顔を移動させて頬のあたりですり寄ってきた。あんまりお気に召さなかったらしい。
しばらく撫でると俺の膝枕で寝始めた。最近犬化が激しくないですかね。
「流石にプリズムナイトは予想外だろうさ。学園側も、なんとか覚醒のきっかけを作ってやろうと思っているのかもしれない。俺にはできそうもないが」
勇者科は得意分野がバラバラすぎる。だから試験が全員を考慮した特別なものになる。二年生も三年生も、全く違うテストになるらしく、去年の一年もこんなことをしていないらしい。
「強い敵と戦うのは好きだが、薬物まみれはいただけねえな。もっと健全に戦うべきだぜ」
「俺はバトル嫌いだから、なおのこと強いやつは嫌い。鎧使う時点でもうおかしいからな」
強敵とかいなくていいから。所長はまあ……超人と神の中間みたいな存在だったな。ギミックがクソゲー過ぎただけで、最初から最後まで俺もヒメノも無傷だった。けどストレス貯まるからやりたくない。
「いいじゃねえか、もうすぐ超人が主役だ。オレらは出番も減るってもんだぜ」
「そうか、来週……二日後から解禁だったな」
もうすぐ超人を雇えるようになる。これで戦場は変わる。超人には超人をぶつけるか、俺達がひっそりと解決するしかない。
「どこでも使えるわけじゃないとはいえ、やはり怖いもんは怖い」
当然だが国主を譲ったりはできない。また全戦場で出していいわけでもない。だとしても驚異なので、対策が欲しいところだ。
「アジュんとこはもう雇ったのか?」
「二日後からじゃないのか?」
「ある程度交渉とかしてねえの?」
「していいのか?」
なんか話が食い違っているような。そういう事前交渉ってルール的にいいのか?
「学園がフライングを許すとは思えん」
「わからんでもないのう。しかし軽く交渉くらいはしてもよいじゃろ」
「マジか。出遅れている?」
いかんな。明日一日で達人超人を見つけて値段交渉までするの? きつくね?
「フウマを何人か送りましょうか?」
不穏な空気を感じたのか、イロハが提案してくれる。少し眠そうに俺の匂いをかぐのは我慢しよう。
「いや……おおっぴらにフウマ使いたくない。お館様だとバレる」
俺は最悪でも鎧で解決できる。なのでフルムーンとフウマはギルメンの守護に徹して欲しい。
「お前らは大丈夫なんだな?」
「フルムーン騎士団長が来るって!」
「フウマからも来るわ。リリアはどうするの?」
「葛ノ葉に縁がある連中が来るのじゃ。ヒメノかご先祖様経由じゃな」
よし、とりあえず問題はなさそうだ。ならば自分の陣営をなんとかしよう。
「どうすっかね……フラン帰しちまったし」
フランは8ブロックの調査監督と、あっちのメンバーへの説明に帰ってもらった。そのかわりに俺が、ヒメノややた子に神話生物関係の説明を受けていたのだ。
「フランはネフェニリタルのお姫様でしょう。そっちから援軍でも出してもらえないかしら?」
「可能性があるとすればそこだな」
ミリーは大企業のお嬢様だが、実家の力はあまり借りられないらしい。
ホノリはフルムーンの鍛冶屋だが、騎士団を動かせる存在じゃない。
イズミは暗殺集団だが、最前線で戦うもんじゃないし、呼べるか不明。
ルナは本当に謎。あいつどこ出身だっけ。個人情報を結構はぐらかすんだよなあ。
「フラン次第だな」
「フルムーンで暇な人がいないか聞いてみるね」
「すまない。けれどそっちの護衛をしてくれ。俺は俺で……俺コネとかないんだよなあ……縁とか足枷になりそうでさあ……」
「変わんねえなあ……ちっとはダチとか作りな」
「もう十分ちっとの範囲だよ」
幸運なことに、その範囲で厄介な友人がいない。どこまでを友人の定義に当てはめるかは個人差があるが、少なくとも不快なやつはいない。ありがたいことだ。
「んー、これリリア陣営に行く時間あるか?」
「別に帰ってもよいのじゃ。国の運営最優先じゃろ。また遊びに来ればよい」
「アクシデントが多すぎるな。すまないが、そっちに行くのはまた今度になりそうだ」
「仕方ないねー。あれ? っていうことは、うちの国にはフウマさんが来てくれるの?」
カグラの言う通りだ。なんかフウマ参戦が既定路線みたいになっているぞ。
「その可能性は高いな」
「やったね!」
「となると本格的に困るのは俺か」
「帰ったら募集の手続きだけでも終わらせておくのじゃぞ」
「了解。なるべく急ぐよ」
そして一夜明けて、みんなに別れを告げて8ブロックの城へと帰ったところ。
「エルフが来ない?」
「正確には遅れているの。ネフェニリタルの戦力を割きすぎるわけにはいかないし、その、わたしのもとに誰が行くかの権利で奪い合いになったらしくて」
フランが申し訳無さそうだ。そういやエルフから崇められる王族なんだっけ。それで人気のあまり誰が行くかでトラブル……人気者も大変だな。
「それに隣国との折り合いをつけないといけないらしいのよ」
「不仲なのか?」
「そんなはずないんだけど……」
「国際情勢はどこも簡単なきっかけで不安定になる。アジュ、あまりフランにだけ期待してはいけない」
「そうだな。あとフルムーンとフウマからの援軍もあまり期待できないぞ」
「まあお姫様守るよねー……どうするあっくん?」
さてここからだよ。フランの手勢が来るのならば、そこまで持ちこたえるだけでいい。多分だけど。問題は7と9ブロックだ。クレアがどれだけ超人を集めるかで、今後の展開は変わる。
「8ブロック全体に募集かけるしかないだろ。他にやっておくことは?」
不安が残るが仕方がない。コネ以外で超人が来るなら、それはこの試練に興味を持っているか、金稼ぎに来たか、でなきゃ学園側がそれなりに交渉して割り当てているだろう。そうでもしないと格差がひどすぎるからな。
「お金の問題と、王都の二区画の使用許可が出たから、そこに何を建てるか。あとメイドさん募集してるわ。ちょっとやること増えてきたからね」
「もう建てられるのか。なら今日の本題はそこだな」
達人さん大募集の裏で、自分達で決断できる区画の問題を片付けよう。
「こういうのは国民の不満を解消しつつ、有効なものを建てるのよ」
「なるほど、今のところの不満は?」
「やっぱり寒さ。寒いから保存が効く食べ物も多いけど、寒さそのものがきつい」
「そりゃそうだが……施設でどうにかできるのか?」
「無理よねえ……暖房設備はあるでしょうし」
問題が食料や治安ならまだいい。雪国で寒いのはもうどうしようもない。
生態系が崩れて漁に影響が出たら最悪だ。そこは耐えてもらうしかないだろう。
「お店が建てられるわけじゃないから、今後のことを考えるべし! だよ!」
「となると食料庫か病院か」
「達人が被害を増やすと想定することを推奨」
「なら病院かしら? でも建物だけ増やしても……」
「各病院の備品や医者が足りなくなりそうだな」
こういうバランス感覚が学生にはない。国の運営経験など、高等部であるやつは数人だろう。さてどうするか。
「でしたらそういう品物を作る工場を増やしてみては? 幸い解放されたのは端っこの区画なので、作っても騒音の問題にはなりません。医薬品や食料のためと言えば、ある程度賛同を得られるかと」
「それでいこうか。もう一個は?」
「屋内に畑でも作ったら?」
「悪くはない。食料供給状況は?」
「それこそ悪くないよん。魚ばっかりじゃしんどいから、レパートリーを増やすのだ!」
毎日同じじゃ飽きるからな。これから激戦が続くなら、各国との貿易とか難しくなりそうだ。自給自足が可能とはいえ、種類は必要だろう。
「なるほど。最後にそれ以外の可能性はあるか?」
「壁の補強くらいしか思いつかないね」
「ないでーす!」
「あとは人材の問題だから、区画の問題じゃない」
「なるほど。んじゃ工場と食料プラントだな」
「おっけー! ガードも多めに雇わないとね!」
結構スムーズに会議が進む。全員賢くてありがたい。そんなわけで学園に欲しい施設の手続きをしておく。なんか知らんけど数日で完成するらしい。マジかよ。
そして達人超人解禁日がやってきた。無理して朝っぱらから起きている。
「えー、とりあえずフランの関係で来てくれた人が到着次第挨拶を……」
「伝令! 9ブロックが攻めてきました!!」
「早ぇよ!?」
嘘だろお前。そんな即決で侵攻すんなや。
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