VS所長戦 決着

 青い空に囲まれた星の楽園で、赤いオーラに包まれた所長を倒そう。


「素晴らしい。君達のおかげで最高のパワーになれたよ!!」


 暴風のように荒れ狂う魔力からは、わずかだが別人の、そして星のエネルギーを感じる。それが混ざり合ってどんどん異様な魔力へと変わっていく。


「お礼に準備運動に付き合う栄誉を送ろう」


「準備運動で複雑骨折して死ね」


「では試してみよう。はっ!!」


 鎧がなければ絶対に追えない速度で迫ってくる。牽制で指先からビームを放ち、移動先に左ストレートを打ち込む。


「どこを見ている?」


 おいおい、これ避けるのかよ。俺の背後から声がして、同時に繰り出される連続ジャブをさばく。一発一発が重い。明らかに神のレベルまで上がっていた。


「いいぞ、どうやら神の領域に至ることができたようだ」


「いい夢見れたな。ここで消えろ」


 手刀の真空波を無数に飛ばす。こいつが実戦経験の乏しいタイプなら、これを感覚で見切ることはできないはず。


「こういった趣向はいかがかな?」


 平然とかわしながら、突き出した俺の腕を最小限の動作で避け、逆に腕を取って関節技を仕掛けてくる。


「無駄だ。パワー不足だぜ」


 ただ単純な腕力で弾き返してやった。だが怯むそぶりがない。


「ならば技で覆そう」


 魔力の刃を両手に作り、俺の目や首など急所を狙って攻めてくる。こいつ武術もできるタイプか。


「わたくしもおりましてよ!」


 ヒメノの光の波動が所長を捉えた。


「甘いぞ!」


 だが所長の魔力波がその膨大さを増し、中間で拮抗し始めた。


「この程度ではあるまい。本気を出せ、アマテラス」


「あらあら、これは面倒ですわね。楽園を壊すわけにもいきませんのに」


「しょうがないから助けてやるよ」


 横から魔力波で所長に追い打ちをかける。二人がかりの波動すらも全身に魔力をまとい、回転して受け流すという技術を見せやがった。


「ぬうぅ……まだ肉体強化が足りないか。だが殺すには力不足だぞ!」


「めんどい……今回めんどい!!」


 絶対にやらないと誓うが、星ごと消し飛ばして蘇生させていいなら一瞬で決着がつく。だがそれは何の罪もない人間や神、動物たちを犠牲にするということ。敵や俺達に害をなす存在なら躊躇はないが、無関係の存在を生贄にするやり方はNGだ。


「こうなるから知り合いとか増やしたくないんだよなあ……余計な足枷が増えやがる」


「わたくしとの縁があれば十分ですわね」


「まずその縁とやらを清算しないとな」


「清算して二人で新たなる一歩、新婚生活を始めるわけですわね。望むところですわ!」


「おい所長、こいつ星のエネルギーにできないか?」


「星に悪影響が出そうなので拒否する」


「なんでですの!?」


 星がかわいそうだからね。しょうがないね。


「もう怒りましたわ! くらいなさい、神の起こす奇跡!!」


 天より何本もの光の柱が降り注ぎ、圧倒的な熱量が所長に集約していく。超高密度の光は、それそのものが神ではないものを確殺する絶技である。


「天照轟雷波!!」


「ぬおおぉぉああああ!!」


 いかに不死身と言えども、この威力には耐えられまい。爆音と光の渦に消えていく所長。いやこれ楽園にもダメージ来るだろ。


「星の守護者よ!!」


 守護者の赤い拳と顔が俺達に飛んでくる。お前は同化したか消えたかじゃないんかい。紛らわしい。


「こいつもいるんかい!」


 光線を中断して迎撃すると、片方の赤い拳が所長をぶん殴って飛ばしている。


「あら? 制御できなくなりましたの?」


「自分をぶっ飛ばして逃げたんじゃね? しまった! 追うぞヒメノ!!」


 飛んでいった先には、さっきとよく似た大木がある。嫌な予感に従い、なんとか止めに入ろうとするが、手遅れだった。一瞬で大木が枯れ、所長が二個目の雫を飲み干した。


「ゆっくりとだ。一気にすべてを吸収しようとしてはいけない。まずは適量を接種し、体と心を強化する。そして強化された分だけ、さらに飲む量を増やす。焦ってはいけない。本来最強とは長年の地道な研鑽の末に生まれるものだ」


 これは……さらにパワーが膨れ上がっている。さっきの数十倍はあるな。


「ちょっと……やばいか?」


「勝てませんの?」


「星ごと壊していいならいくらでもいけるが」


「……厳しいですわね」


 ヒメノだって全力の5%も出しちゃいない。俺達が本気を出していい場所など、どんな世界にもないのかもしれない。それが裏目に出ているのだ。


「ふはははは! まだまだ性能テストに付き合ってもらうよ!」


「あいつを星と切り離す手段はあるか?」


「どこまで何を切り離すんですの? 魂を? 体を?」


「今回本当にめんどいな」


 ソードキーで殺しきりたいが、星の楽園のエネルギーと完全に同化していた場合、処理できるのだろうか。なんとか安全に浄化したい。


「星を動かすほどの圧倒的パワーをこの身に宿し、神をも凌駕する絶対的な力を得た私こそ、星の守護者となるにふさわしい。ちっぽけな研究所の管理など最早不要。これからは星そのものが私の研究所だ!!」


 所長がよくわからんことを言いながら、両腕に銀河系のような煌めく渦を作り出す。やばい。あれは星に当てるわけにはいかないレベルだ。


「ヒメノ、星のエネルギーを汲み出す場所や、コアみたいな場所はあるか?」


「ありますが……そこと所長が繋がっているかどうか」


「それを確かめる。大元から切り離せるなら、そのまま殺しきれるかもしれない」


「くらえい!!」


 宇宙を震撼させるほどのエネルギーを、両手から無遠慮に解き放ってくる。お前これ処理できなきゃどうなるんだよ。


「浄化滅却!!」


「ちゃありゃああぁぁ!!」


 撃ち合ってわかる威力のでかさ。これは……ヒメノの力が混ざっている?


「おいこれ」


「アマテラスとの戦いも、この星が吸収したエネルギーだ。不思議はあるまい。むしろなぜ君は記録されない? やはり研究対象として欲しい」


「それは断っただろう。消えな!!」


 どうやら星に流れる力とは、単純な熱の塊ではないらしい。嫌な予想が当たってしまった。こうなりゃもっと威力を高め、一時的にでもいい、まず所長を消す。


「ぬううぅぅ!! まだ勝てぬとはああぁぁ!!」


「ヒメノ!」


「こちらですわ!!」


 所長が派手にぶっ飛んでいる今がチャンスだ。超ダッシュで楽園のコアまで移動する。そこは森に囲まれた湖のような場所で、水から生命力を感じる。うっすら周囲が光っている気さえして、こんな状況じゃなければ幻想的なんだが。


「こいつに所長が繋がっているのなら、どこかへ完全に隔離して始末するとかどうだ?」


「できなければ?」


「なんとか斬り殺す」


 湖の端っこに立って、そっと水に触れる。なるほど……強烈な力を感じる。圧倒的な、一種暴力的なほどのエネルギーが押し寄せてきた。


「なるほど。これ無理だぞ」


 少し探るだけでわかる。こんなものと接続して無事でいられるはずがない。リリアや学園長クラスの実力と知識があってまあ……いけるのかな? 九尾の力開放すりゃ可能だろうけど、所長のように普通の超人レベルなら死ぬ。


「所長は接続されていないと?」


「ああ、徹底して間接的に動くやつだ。リスクはできる限り分散させるはず」


「ここにいたか。私のように星のエネルギーでパワーアップでもしようというのかね?」


「ヒメノ、時間稼げ。なんとかする」


「ご武運を」


 ヒメノが所長と上空へと上がっていく。様々な光の応酬で空が焼ける。


「なめるなよアマテラス。最早私は神の領域だ」


「領域に来た程度で、トップクラスと渡り合えるわけではありませんわ」


 遠距離射撃による壮絶な撃ち合いを見ている暇はない。今のうちに考えろ。やつは大木からエネルギーを抽出した。だがこの泉には手を付けていない。本人が接触はしない。今までの発言にも嘘が混ざっている。真実だけを見極めろ。


「星から力を得ている。それは真実だ。だからこそ、その方法が確立しているはずなんだ」


 ここだけじゃない。もっと広い視野で見るんだ。湖は広くて深い。地下から汲み上げる? どうやって? どのみち飲むには濃すぎる。大木を通して人間が飲める程度に凝縮しているはずなんだ。


「私は何度でも強くなる。まだまだ星の雫は作れるぞ!」


「ならば飲む時間を与えなければいいだけですわ!」


 風に神の力と魔力が乗って木々を揺らす。こんな状況でも壊れないとは、ここはかなり頑丈だな。


「木……ここにも同じものがあるな」


 雫を作る大木と似ている気がする。厳密には違うのだろうが……違うもの……けどあれは同じに見える。


「森の中か。なるほど」


 鎧の力で見極める。大量にある木のうち、雫を作るやつと同系統を探す。一本に触れ、内部に魔力を流して探ってみた。


「やはりな」


 星のエネルギーを少量だが吸い続けている。木の根が巧妙に隠されながら、湖の力を吸収して育つ。それを雫に変えて飲み込んでいるわけか。


「木が自分で枯れないように適量だけ吸い続ける。なるほど、頭のいいやつだ」


『ソード』


 斬り殺すのは所長じゃない。そいつは後回し。これ以上は雫を作らせない。


「すまんな。罪もない植物は消したくないんだが……いや、これは所長が植えたものか。生態系を壊す外来種は伐採だ」


 所長特性の危険植物だけをまとめて斬り殺す。眼の前の危険な外来種を切り裂き、紐付け切りで楽園の同種だけを一気に根絶やしにする。


「はっ!!」


 一斉に、示し合わせたように枯れていく木々を見て、これで正しいことを確信する。よくもまあこれだけこっそり植えたものだな。


「なんだとっ!?」


 所長の驚愕した顔が見れて満足だ。


「これでもう星の雫は作れない。新しい所長の分身も作れない。木々から僅かに出るエネルギーと、不完全な雫をコアにして作った偽物だったんだろ。だが根こそぎ消えた。復活するほどのエネルギーはもう無い。本物しかいなくなったお前の負けだ」


「まだだ! 私がいれば、研究は消えない!!」


「そのお前を消すと言っているのさ!」


 星の守護者の猛攻を避け、所長にパンチのラッシュを浴びせてから、アッパーで打ち上げる。


「ヒメノ!!」


「開門!!」


 所長の背後に召喚された門が開くと、そのまま宇宙へと繋がり放り出す。これなら星にダメージはいかない。所長が最後の一人になる前はできなかった決着の付け方だ。


『シャイニングブラスター!!』


 念のためだ。必殺技で完全に跡形もなく消してやる。


「合わせろ。これで最後だ」


「いきますわ!!」


「舐めるな! こうなれば星ごと消えろ!!」


 所長から魔力の渦が弾き出されるようにこちらへ向かう。

 同時に俺達の魔力と神格が混ざり、一筋の光となって宇宙へと飛んでいく。


「消えてなくなれえええぇぇぇ!!」


 俺達の攻撃は、敵の魔力をあっけなく打ち破った。避けることもできず、所長の体は欠片も残さず消えていく。


「こんな……こんっ……な、私の研究は、間違ってなどいないは……ず……」


「人を実験に使い、薬をばら撒いたあなたは、最初から間違っていたのですわ」


 宇宙への門が閉じ、やがて楽園に静寂が戻ってきた。


「はあ……今回は苦労させられたな」


「お疲れ様です。流石はわたくしのアジュ様、見事な推理とバトルでしたわ!」


「いや、今回ばかりはヒメノの世話になった。的確なサポートだったよ」


 マジモードのヒメノは優秀だ。上級神としての格というものが感じられた。助かったことは事実だから、素直に感謝しよう。


「少しは好感度が上がりまして?」


「まあな」


 さて帰ろう。俺の楽園はここじゃない。あいつらのいる場所が、俺には一番心地いいのだから。

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