続々出る所長と研究成果
星の楽園とかいう綺麗だけどよくわからない場所で、星の守護者とオリジナルの所長を倒そう。
「アマテラスに勝てるようであれば、私の実験は大成功だな」
「侮られたものですわね。ドーピングで勝てるほど、神は弱き者ではありませんわよ!」
光速の五千倍くらいで戦闘が行われている。ヒメノの本気はこんなものじゃないが、一応戦闘という形にはなっている。なる程度には所長がパワーアップしていると。こりゃめんどいぞ。
「で、俺の相手はこいつか」
半透明で赤い、人の顔と両拳。どっちも10メートルくらいあるなあ。
「とりあえず殴る!」
手加減を考えなくていいので、神を殺せるレベルまでリミッターを外していこう。世界を壊すといけないので、ゆっくりとやりたいところだが。
「ちっ、どうにも硬いな」
小惑星など破壊できる威力で殴っているが、殺している感覚がない。手刀で両断しても再生しているのがうざい。顔といっても表情が変わるわけでもないし、目や口の部分はただ穴が空いているだけだ。痛がっている雰囲気もない。
「あまりにも再生が早いな。なのに意思があるようには見えない……試すか」
こいつを殺し続けても無意味な気がしている。よってヒメノと所長のところへ移動しよう。
「ちょいと失礼」
「なんだね、もう逃げるのか?」
「いいや、まずお前に死んでもらう」
所長の数百倍のスピードとパワーで全身を殴りつけ、最初の足場へと叩きつける。
「うっ、ごあ! がはあぁ!!」
「声を上げる分だけ、まだ殴っている気がするぜ」
「お見事ですわ! 素晴らしい技の冴え!」
「はいはい」
二人で足場へと降りると、感心したような笑顔で所長が歩いてくる。
「まさかここまで強い人間がいるとは……神の血でも流れているのかね?」
はいもう復活しております。マジかよ。どんな耐久力だ。回復速度がおかしい。
「ヒメノ、原因わかるか?」
「これは……星の補助をするためのエネルギーを吸い上げていますわね」
「正解だよ。さあ倒すならご自由に。抵抗もするが、ぜひスパイスとして楽しんで欲しい」
「性根腐った野郎だな」
首をはねたらどうなるか試してやる。真正面から堂々と近づき、手刀で首を飛ばす。ガードした腕もついでに飛んでいくが。途中で首も腕も赤い霧となって消えた。
「やるものだね。こうもあっさり殺されるとは」
もう復活したー。うそやん超邪魔。切ってわかったけど内蔵が存在しない。血も血管もない。ただのエネルギーの塊なのか。余計めんどいやん。
「第二ラウンド、始めてもいいかね?」
「いいけど殺す方法を教えろ。クソゲーがすぎる」
「星のエネルギーを枯渇させてはどうかな?」
「星が死ぬではありませんか」
「私が星ごと死ぬかもしれないよ。さあどうする?」
まさか星を人質に取るとは厄介な。即座に復活するし、どうにか切り離すか。偽物の時からそうだが、一貫して本体がない。ふわふわとした存在のまま、個体を認識できない。たいしたやつだよ。
「星のエネルギー核とかあんなら、そこにぶつけて消すってのは?」
「最悪融合して星そのものになりそうですわね」
「本当に最悪だよ。やれるか知らんが、区分けするぞ」
「協力いたします」
所長と星の守護者を上に蹴り上げ、ヒメノが結界で包む。その中に俺が入って、とにかくひたすら殴って切って消す。
「ちゃありゃああああ!!」
「素敵ですわ! それでこそわたくしの伴侶ですわ!」
「ヒメノうっさい!!」
気が散るの声援を送るのはやめろ。なんとか脱力しそうなところを耐え、完全に消滅させた。
「まさか守護者と同時でもかなわないとは、恐ろしい男がいたものだ」
はい復活したー。いや絶対おかしい。お前はなんで復活したんだよ。
「おかしい。守護者は別としても、所長のストックはどこにある?」
「どういうことですの?」
「ここのエネルギーを使っているとしても、もとからそうである守護者と、後から来た所長は違うはずだ。システムに後乗りしているはず。同化して自我が保てるのか?」
「そういえば……エネルギーに飲まれているのなら、個人として存在できるはずがない……いったいなぜ?」
星を補助するほどの膨大な燃料は、超人でもない人間には入らない。というか超人でも無理だろ。精神ごとぶっ壊れる。
「制御下に置くなどほぼ不可能だろ。なにかしらトリックがあるはず。どこから復活したかわかるか?」
「あちらの足場あたりからかと」
さーて……これどうしたもんかな。大木の生えている足場もあるし、この世界そのものがかなり広い。場所の特定ができるまで殺し続けるか? それでどれくらい星に支障が出る?
「殺し続けて出現ポイントの統計でも取ってやるよ」
「いい発想だ。お手伝いできないのが残念だよ」
魔力を右拳に乗せて、守護者も所長もまとめて殴りに行く。お互いの拳がぶつかり、相手が砕け、間髪入れずに追い打ちをかけていく。鎧でリミッター外しまくれば、もっと簡単に消せるな。
「お前の力はそんなもんか?」
適当に挑発挟んで攻撃続行。大気が揺れ、空間が軋み、この余波で足場壊せばいいじゃないかと思い始める。
「いけませんわ! 楽園そのものが崩壊してしまいます!」
「壊れるとまずいんだっけ?」
攻撃の手を緩めて、控えめに殺しておく。この程度で壊れる世界じゃない気がするが。
「世界や星が強固で、光速を超えた戦闘でも崩壊しないのは、そうやって常に力が育まれているからですもの。お花に水や光が不足するようなものですわ」
「ああもう……今回めんどい!!」
星の楽園自体が消滅してもダメ。殺し続けてエネルギーが消えてもダメ。じゃあ所長を殺そうにも、どうやれば完全に消せるのか不明。最悪だよ。やりかたが陰湿すぎる。今までにないレベルで複雑だ。
「このシステムないとダメか?」
「なくても同じくらい強くはできますわ。ですが、神々の負担が大きくなり、時間に追われるかもしれませんわね。逢瀬の時間が減りますわ。いってきますとおやすみのキスの時間すら失われる可能性が……今のうちにしておきませんこと?」
「お前もうシステムごと消えろ!!」
一番の敵はこいつなんじゃなかろうか。余計なこと考えている暇があったら対策を練ろう。
まず植物や鉱物の化け物と所長は別物だ。似た姿だがさらに頑丈で光速移動もできることから、超人と同格かそれ以上になっている。だが星のエネルギーと完全に同化していない。つまり本体がどこかにいる。本人の意識とでも言うべきか。
「思考の邪魔をしてやろう。はっ!!」
所長と守護者のエネルギー波がこちらへ飛ぶ。かわせない速度じゃないな。さっさと避けて……。
「君の行動パターンは把握した」
すぐ近くに所長が迫る。俺が防御行動に移る前に、ヒメノが飛び蹴りを入れて所長を遠くまで飛ばしていった。
「そうはさせませんわ!」
「アマテラスよ、そんなにその男が大切か!」
守護者の拳が巨大化してヒメノを襲う。借りは返しておこう。拳をぶつけ合って相殺し、その間に魔力を守護者の顔に解き放つ。
「大切に決まっていますわ。これぞ生涯の伴侶たる証。チームプレイも一味違いましてよ!!」
ヒメノも神の力を混ぜた魔力波で追撃を入れ、一旦は守護者を消す。
「まったく……なら合わせな」
「おまかせあれ!」
並んで飛び、一瞬で所長へと肉薄。二人の拳がさらに所長を飛ばす。
「まだだ。この程度では私は死なんぞ」
「耐久テストだ。いくぞ!」
所長の顔を蹴り飛ばすと、その先にはヒメノが待っている。
「ここですわ!」
光の柱が生み出され、両腕でがっしり掴んでフルスイングで振り回している。光ってそういう使い方でいいのか。
「振りが大雑把だぞアマテラス」
大振りすぎたのか、両腕でガードされている。それでもふらついているあたり、ヒメノも人外の強さだな。
「じゃあ援護でもしてやるか」
魔力の針を作り、所長の背後からどんどん飛ばして突き刺していこう。
「小細工を!」
「小細工はここからさ」
全身に刺さった針は、俺の意思で大爆発を起こす。
「ぬわああぁぁ!!」
ダメージは内外から同時に来る。そんな隙を晒せば、いかに大振りと言えども当たるのだ。
「必殺ホームランですわ!」
元いた足場まで、所長が回転しながら落ちていく。そこに二人で先回りして、魔力をチャージ。同時に解き放つ。
「はああぁぁ!!」
「ええええい!!」
これで所長を消すことに成功。同時に周囲の魔力を探る。ヒメノが探知魔法をばら撒いているので、こちらも鎧で感覚を研ぎ澄ます。
「そこ!」
一際大きい木の中心へとビームを発射した。不覚にもヒメノと同時攻撃みたいになってしまったが、まあいい。手応えはあった。急いで現場に急行する。そこは大型ビルくらいの大木で、中に入れるようだ。奥へと駆けると……。
「これほど広大な楽園から、まさか私を見つけるとは。どうやった? 私から魔力は抽出していない。完全に別の場所から生み出し、気配も魔力も消していたはず」
両肩を貫かれた生身の所長がいた。どうやら本体で間違いないようだ。すぐ復元できないように、俺達がかなりの威力で撃った。それなりのダメージは入ったようだ。
「魔力の質もわざわざ変えていたな。だから追ったのは魔力でも星のエネルギーでもない。脳波だ」
「脳波?」
「あんたは自分の研究を理解しているタイプの所長だ。お飾りじゃない。なら自分の脳みそや精神までエネルギーにはしない。星と同化も融合も、下手すりゃ繋いですらいない。自分の脳は財産だ。万が一にも壊れないようにする」
「ですから生体反応と同時に、どこから思念が流れているかの調査をしていたのですわ」
エンドレスなモグラたたきなど御免だからな。出現場所の洗い出しと、飛び回ってエネルギー供給の場所探しを同時進行した。その過程で思いついてやってみたが、案外うまくいくもんだ。
「やれることは全部試すか。君は研究者向きだね」
「その道も悪くはないな」
実際魔法楽しいからなあ。ちょっとそっちの道に興味が出始めている。
「さて、ではここで未来の研究者候補に質問だ。星の楽園のエネルギーは、どうやったら自分のものにできると思う?」
どういうつもりか知らないが、情報が手に入るに越したことはない。この問いに少し乗ってみよう。
「まず全部は無理だろう。絶え間なく供給されているし、枯渇したら無意味だ」
「その通りだ。この星を破壊したいわけではないからね」
「高密度のエネルギーに負けない器を作って、そこに流す。そのための研究ではございませんの?」
「より効率的なやり方を目指す、という意味では近い。だがエネルギーはどうやって作る? どう固める?」
本来エネルギーとは物質とは違うものだ。石炭のように固形で燃やせばいいなら別だが、どうやってまとめるかと言われれば疑問が残る。固める手段があるのだろうか。
「そこで木に注目した。鉱石は器にしたかったが、予想外にもろくてね。植物は柔軟性もあり、それ自体に生命力がある。器としては上々だった」
「植物を育てるのは簡単ではありませんわ。長い目で見て育てるおつもりですの?」
「そこだ。賢いじゃないかアマテラス。だからこそ品種改良した。苗床も凝ってみた。どんな生物を肥料にすればいいか、とね。そしてたどり着いたのだ。星の楽園の力を、そこに住まうものの力まで吸収させて、綺麗な水のように濾過するのだ。人が口にできるようにな」
「どこまでも頭のおかしい人ですわ」
無駄がないようにも感じるし、寄り道しつつも全選択肢を選んでいるようにも感じる。どちらにせよイカれた野郎だ。
「さて、人間は生き物だ。ならばエネルギーを接種とは、どんな形が適切かな?」
周囲の木々の色が変わり、所長の手にぽとりと水滴が落ちる。いや水滴にしてはでかい。手のひらで球体のまま固定されている。野球のボールくらいあるだろうか。透明に近い青いそれは、水が中で揺れているように見えた。
「やはりこうだろう」
その水のボールのようなものを、大きく口を開け飲み込んだ。
「はあ……?」
「何を、していますの?」
「死ねい!!」
所長の拳がヒメノの眼の前まで来ている。奇行に気を取られて、完全に油断していた。本日最速で移動して、所長の拳を受け止める。
「なっ!?」
重い。今までとは比べ物にならないパワーアップだ。受け止めた衝撃で枯れきった大木が散り、外の光が俺達を照らす。そこには圧倒的な魔力と神格を手に入れ、赤いオーラに染まる所長がいた。
「ふ、ふははははは!!」
俺達から距離を取り、漲る力に高笑いをかましていやがる。
「さあ、ここからが本当の戦いだ!!」
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