9ブロックふたたび
解禁日初日の朝から9ブロックが攻めてきたらしい。ふざけんなよマジで。
「ああもう最悪……場所は?」
「第三砦のある平原です」
「リベンジのつもりか」
前に戦った場所だ。国境に長い城壁を築き、内側に畑なんかも作って砦を強化しているから、そう簡単には落ちないと思うが。
「どうするのあっくん!」
「行くしかないだろ。こっちのメンバーは?」
「エルフの超人が何人か来てくれたわ」
「連れて行くべきでしょうか?」
「あのエリアじゃ全員は参加できないだろ。ここの防衛も必要だ」
超人は行動範囲がエリアごとに決まっている。立入禁止というわけではないが、戦闘には参加するなとか、あくまで学生のみの限定エリアもある。
なんかゲームみたいだなーと思ったが、学園の想定が『勇者を覚醒させる』ことであり、そのためのイベントをできる限り増やすためなんだろう。
「王都の守護にも回す。敵の数とかわかるか?」
「前よりも大軍らしいですが、超人の類がいるかは不明です」
「あいつらのことだし、おそらく雇いまくってるよ。金に物を言わせてるだろうし、私は警戒すべきだと思う」
このタイミングで来るんだから、間違いなく危険だろう。だが城をからっぽにもできない。あいつらの正体と目的がわからないのだ。
「となるとこっちのメンバーは俺と……」
「わたしも行くわよ。エルフはわたしの国から来てくれてるんだから、行く責任があるわ」
「真面目だねえ、なら私も行くよ。アジュについて知っているやつがいないと、緊急時の避難が難しいだろ?」
「すまない」
フランとホノリが確定した。妥当な人選だろう。残りの三人だが。
「私はアジュの護衛。暗殺スキルの役立つとき」
「いや、ここでミリーを守っていてくれ。代わりにリュウ、タイガ、アオイを連れて行く」
「すみません、いつもお留守番で」
「ミリーは内政と外交担当だからな。前線なんて行かなくていい」
「そうそう、一緒にお留守番しよーよ!」
これで留守番組も決まった。俺達がいない間に襲撃されるかもしれないので、警備は手厚くしておく。そして送迎車を急がせて現地へ向かった。
「いいか、今回は本当にやばい。過信するな。死ぬぞ」
車内では六人による対策会議が開かれていた。少し狭いが姿を見せるわけには行かないのだ。同じようなダミーの送迎車が何台も走る中で、俺達がいるとはわかるまい。
「あそこは超人は三人までのルールよ。こっちは剣士と槍使いと魔法使いね」
「砦を最優先に守らせよう。超人以外はリュウ、タイガ、お前たちがメインだ」
「うっしゃ任せろ!」
「いいぜ。期待には答えてやる」
上級生相手でも戦える連中だ。余程のことがなければ瞬殺は免れるだろう。とにかくこちらの位置を悟られないようにして、じっくりと戦局を見る必要がある。
「つきました! このまま砦に入ります!」
外に出ることなく、送迎者ごと中へ入り、警備の兵たちの前に出る。誰が誰かわからないように、フード付きコートで顔を隠した。
「会議室へご案内します」
外見も内装もかなり改築されているな。前に見たときはこんな砦じゃなかった。やはり報告を聞くだけでは足りないか。
「敵は?」
「敵砦の前方で停止中です。小競り合いはありましたが、超人は見かけておりません」
会議室で今後の展開を話し合う。俺達と重役しかいない場所だ。窓にはカーテンがあって、外からは見えないはず。
「どういうこと?」
「こっちに超人がいる可能性を考慮してるんじゃねえか?」
「なるほど、下手に攻められないのか」
「軍師、どう思う?」
この砦の軍師とアオイに資料を見せていた。こういうのは得意なやつに見せるべし。数秒間があって、結論を出してきた。
「超人を警戒しているのは間違いないでしょう。相性の問題もありますし、深くまで攻めてこないのは分断を恐れているからですね」
「知恵がついたんだな」
「言い方は悪いけれど、そういうことかしらね。9ブロックにできることなのかしら」
「それこそ戦術に詳しい超人がいるのかもしれませんよ」
厄介だな。場数の違いから、学生では知恵比べなどできん。
「このまま引き下がってくれることが理想だが」
「無理でしょうね。いっそ超人が到着したと知らせます?」
「いや、不意打ちで使えるならそうしたい。まず超人以外で次の侵攻を止める」
「でしたらみなさんに前に出てもらいましょう。アジュさんは砦のよく見える位置から号令を出すとか」
「俺が? フランじゃだめ?」
できれば隠れていたい。敵に居場所がバレたくないのに。国王なんて狙われるだろ。隠せ隠せ。
「わたしじゃだめよ。交渉とかスピーチ内容は考えてあげるから、頑張りなさい」
「はあ……しょうがないか」
「このままじゃ敵も攻めてきません。超人戦のきっかけを投入しなければいけませんから」
「わかったよ。フラン、内容頼むぞ」
そして整列した兵の前で、フランの用意したスピーチを手短に済ませる。何回やってもこういう役は慣れない。人の上に立つのってめんどいんだよなあ。やはり四人だけでいるのが最高や。至急、ギルメンくれや。
「敵が侵攻を始めました!」
「よし、迎え撃て!!」
そして始まる戦闘。戦場の空気が冬の冷たい風に乗って流れてくる。
これも慣れないな。とりあえず姿の見えない壁際へと避難して、そっと戦況を伺う。苛烈な魔法の撃ち合いが進み、お互いの結界を破壊した。
「射撃戦はほぼ五分といったところですね」
「問題はやはり超人か」
「どこに混ざっているのやら」
先陣きって進んでいくリュウとタイガが見えた。相手には上級生も混ざっているだろうに、普通に倒していく。
「オラオラオラ! 逃げてえやつは逃げな!!」
「どうしたぁ! びびるくらいなら戦場に来てんじゃねえぞぉ!!」
「やっぱ強いなあいつら」
こういった戦闘も慣れているのか、囲まれないように立ち回りつつ、周囲の味方を助けたりもしている。おかげで軍が乱れることなく、徐々にだが押し返していった。
「作戦通り左翼より攻め始めてください。後方部隊による斉射はその後!」
軍師とアオイの指示も的確だ。これなら俺はお飾りでいいな。
「いいのか? あまり前に出ると、超人の必殺技で散らされないか?」
「なので敵軍と付かず離れずを維持しています。これなら大規模な破壊攻撃はできないはずです。超人の存在が確認次第、こちらも出す予定です」
その時、戦場に光る線のようなものが走った。縦に伸びたそれは、水中にいるサメが迫ってくるようなもので。
「やばい! あれは止められない!」
飛び出した槍使いの男エルフによって、味方に当たる前に相殺された。されたからよかったようなものの、あの巨大な線は魔法なのだろうか。
「学生とは威力が違いすぎる」
違いすぎて敵が巻き込まれていませんかね。そして飛び出してくる牛の角がはえた大男。あいつが超人だな。
「超人の相手は超人に。これは鉄則です」
そしてエルフの槍使いと光速戦闘が始まる。当然だけど見えないよ。衝撃波で味方が飛んじゃうので全軍後退。見守ろう。
「さすがに敵も下がったな」
「巻き込まれたくないですからねえ」
「安心なさいな。ネフェニリタルでも有名な戦士よ。あの程度じゃ傷つかないわ」
槍使いがやや押しているらしい。だから見えねえって。一瞬見えると敵側が傷ついているような気もするので、案外正しいのかも。
「後退はいいが、また攻撃が来たらどうする?」
「魔法使いさんに防御魔法の準備をしてもらっています。おそらく敵方も同じような備えがあるでしょう」
ちなみに魔法使いとか戦士とか呼んでいるのは、敵が聞いていた場合に相手を特定させないための、コードネーム的なものである。
「大規模な魔力反応! 敵の射撃です!」
「撃ち落とせ!」
敵陣上空から迫る大火球を、砦から放たれるビームが消し飛ばしていく。
その後、数発の撃ち合いを経て、遠距離砲撃は止まった。様子見ってことか。
「射撃は魔法使いに任せる! 地上は!」
「地上に被害なし! これは……何かが猛スピードでこっちに来ます!」
雪と土煙を撒き散らしながら、六本の線が地上を走る。やがて大きく飛び上がり、砦の城壁の上まで登ってきた。
「見つけたぜ。あんたを倒せばいいんだろ? ええ?」
「楽な仕事だ。はあああぁぁ!!」
六人は一気に魔力を開放していく。明らかに学生の量じゃない。ここまで来るときだって、こちらの射撃をかいくぐって到達している。
「おい! この量はおかしいだろ!」
「ああそうさ。だからオレらは超人じゃねえ。武術の達人だが、超人登録されてねえ、超人未満の半端もんよ」
なるほど、そういう敵もいるのね。悪知恵だけは働きやがって。
「つまり私なら倒せるということだね」
瞬時に達人の半数が狩られた。その正体はエルフの男剣士さん。なるほど、このくらい差があるのか。わかりやすい。
「まだまだ超人もどきのおかわりはあるんだぜ?」
「ならまとめて持ってきてくれたまえ。一度に片付けてしまいたくてね」
「ちっ、なめやがって!!」
「フランチェスカ様、国王様と一緒に退避を」
「ありがとう。ここはお任せします」
「すみません助かります」
フランとアオイを連れて室内へと戻る。俺達がいても邪魔にしかならない。警備兵に連れられ、広くて敵を迎え撃ちやすい場所へと入る。
ここなら天井も高いし、部屋も広くて味方もいる。窓はないから、出入り口の二個だけを見ていればいい。
「よし、アオイ、策を頼む……アオイ?」
振り向くと、アオイがうつ伏せに倒れていた。そこでようやく周囲の兵士がざわつき始める。中には同じように倒れている兵もいた。
「おいどういう……」
あらかじめ発動待機させていたガードキーの結界が動き、何かがぶつかる音がした。
「ほう、仲間を見てすぐに防御結界を張るか」
全身に包帯を巻いた男が、くぐもった声でこちらに語りかけてくる。
「ちっ! サンダースマッシャー!」
この状況で敵じゃないはずがない。攻撃魔法を撃ち込むも、怯むことなくその場に立っている。
「ぬるいな」
「逃げろお前ら!」
このドーム状の結界には、俺とフランしか入っていない。他の連中を逃し、報告に向かわせないと。
「逃げられるものはいない。残りは君達だけだ」
いつの間にか全員倒れていた。目を離したつもりはない。そもそもいつ現れたのかわからない。全工程が完全に見えなかった。超人だ。間違いなく光速突破勢だ。
「アジュくん、どうするの!?」
「戦うのは無理だ。目を閉じろ。ライトニングフラッシュ!!」
放電多めの目眩ましだ。あとはフランを手を引いて逃げるだけ。
「小細工が効くと思われているか。心外だね」
正面から斬撃が襲う。ガードキーの効果で弾くが、敵の腰にある二本の剣がいつ抜かれているのかすら見えない。
「妙な結界だな。殺すつもりはないが、破壊できぬほど手加減もしていない」
少しだけ距離を置いてくれた。だがほぼ無意味だ。光速移動の前では、この程度はすぐに詰められる。
「ならこれでどうかな? 雷光一閃!!」
長巻で結界内の床をくり抜く。このまま下に逃げてやる。誰か戦える人間がいる場所まで行く。これが唯一の手段だ。結界を球体にして、どこからも攻撃されないようにしてある。
「ならば手伝おう」
室内の床が細切れにされ、超人の剣が結界にぶち当たる。斬撃の威力は凄まじく、俺達はピンボールみたいに壁や床を突き破って跳ねていく。
「きゃあぁぁ!!」
「うおぉ!? マジか!?」
やばいやばいやばい。超人のいる環境に慣れすぎて、認識が甘かった。これは勝てない。出し抜いて逃げることもできんぞ。
「とりあえず無事だな?」
「ええ、どこも怪我はないわ」
ガードキーは内部を衝撃から守ってくれる。結界ごと揺さぶられても、肉体にも精神にもダメージはない。三半規管とかも一切ふらつかない。改めて優秀だな。
「どこだここ……? 空き部屋?」
「みたいね。どうにかして逃げられないかしら?」
かなり厳しい。鎧は使えない。ここで使えば存在がバレる。つまり今後一切は鎧を使える俺がいることを前提とした作戦を練ってくる。常に超人が送り込まれ、不意打ちができなくなる。ここで切り札は切れない。
「ここには何もない。まず隠れられる場所を探そう」
広いが使われていない部屋みたいだ。ここじゃ逃げ場がない。机と椅子くらいしかないじゃないか。
「上の人は平気かしら?」
「問題ない。子供を殺せとは言われていない。おとなしく倒されてほしい」
もういるじゃん。しかも出口の扉を背もたれにしていらっしゃるよ。こっちはガードしかできない。
「9ブロックに負けるのだけは嫌です。何があるかわかったもんじゃない」
「まあそこは同意するよ。だがどうやら君は厄介な男のようだ。やはり学園の生徒は侮るべきではないな。まだ抵抗するなら大怪我を覚悟してもらおう」
溢れ出る魔力の質が変わる。もっと研ぎ澄まされた、生物を殺すための力だ。わかっちゃいたが、完全に手加減されている。されているうちに解決しないと詰みだな。どうする?
「ふむ、ならこのまま9ブロック本陣まで飛ばしてしまおうか。結界から出ないということは、反撃の手段がないのだろう?」
「うーわ、それ思いつくか」
気づかれたら嫌だなーと思ったことを的確に見抜かれた。やはり超人。バトルセンスもある。
「プラズマイレイザー!!」
「ほう、勇者科は素晴らしいな」
魔力を込めた剣をくるくる回転させて、俺のプラズマイレイザーをかき消している。うっそだろお前、そんなんで止められんのか。
「あわよくば扉を破壊し、ここに自分達がいると教えたかったのだろう?」
「ライトニングジェット!!」
考えが読まれていようが知ったことではない。クナイを五本とも違う方向へと投擲。どれか一本でもいい、どこかへ届けば。
「全部で五本で、あっているかな?」
男の手には、俺が別々の方向に投げたクナイが握られていた。
「…………マジかよ」
扉から動いたようには見えなかった。やばい。9ブロックが雇えていい力量の超人じゃない。次元が違いすぎる。
「フラン、逆転の必殺技とかない?」
「あるわけないでしょ……」
ワンチャン狙ってインフィニティヴォイド使うか? あんなもん当たってくれないだろ。まずチャージ時間が稼げない。
フランが俺のコートを掴みながら震えている。この様子じゃ戦力にカウントはできないだろう。俺がどうにかするしかない。
「それじゃあ最終手段といこう」
「まだ何かあると?」
「超人は三人までいていいんだぜ」
魔法使いさんが到着。これで俺達は逃げるだけでいい。
「遅れて申し訳ない」
「なるほど君か。これは嬉しい誤算だね」
包帯男と楽しそうに話している魔法使いさん。敵意がない?
「残念なお知らせをしよう。私はエルフではない。ついでに言えば、君達が雇った超人でもない」
つけ耳を外した男が、包帯男と笑い合う。
「えっ……どういうこと?」
「……待て、だとしても超人は三人までがルールだ!」
最悪だ。つまり魔法使いは偽物。こっちのメンバーに紛れていたわけか。
「状況の把握が早いな。ああそうだ。このエリアには入れていない。エリア外から魔法だけ撃たせたんだよ。四人目にはね」
「おいそれありなのか?」
「卑怯よそんなの!!」
「我々も賛同しかねるよ。そういったルールの裏をかく方法は、少なくとも序盤ですべきじゃない。超人は全員反対したんだが、うちの女王様はわがままなんだ」
敵が乗り気じゃないっぽい。9ブロックは相変わらず暴君らしいな。お飾りの俺を見習え。
「さて、超人二人だ。どうやっても助からない。抵抗は無意味で……」
そこで扉がノックされる。この砦は戦闘状態だ。悠長にノックしてくる相手が誰かわからない。流石に敵も警戒しているようだ。
「あのー……すみません、メイドの面接に来たものですが」
妙に高い声だな。なんか男の裏声っぽい。
「メイドは未経験ですが、精一杯頑張ります。あっ、精一杯ご奉仕しますにゃん」
やっべえ変なのがいる。これ扉開けたくねえ。ホラーやん。
「来ちゃだめ! ここには超人がいるわ!!」
「なるほど、やはりもう超人がいたか。メイド募集しかしていないのも納得だ」
なんか勝手に納得している。誰よ。この状況で意味わからん人が来たよ。そして扉がゆっくりと開く。そこにいたのは……。
「どうも、メイド募集のチラシを見て来ました。新人メイドのミカちゃんです……あっ、ですにゃん」
女装した三日月さんだった。
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