フェスの予定とイノ陣営
巨大ゴーレムを倒した次の日。朝も早くから、リビングでどう対策するかを考えていると。
「捕まえてきました」
三日月さんが知らない人を城に連れてきた。猫の掴んじゃいけない掴み方みたいに首あたりをつまんでいる。
「誰ですかその人」
「敵のゴーレム使いです」
えぇ……どんな展開だ。敵の男はもう抵抗する気がないのか、ただされるがままで無言である。
「散歩中にゴレームが見えたので殲滅したところ、見つけたので連れ帰りました」
「それはすごい……大手柄なんですが、敵からの抵抗とか、奪還戦とか仕掛けてくるのでは?」
「そう思い、しっかりと追手は潰しました。目についた超人も倒したので、しばらくは問題ないかと」
バランスブレイカーすぎませんかね。
「せっかくの散歩の時間にすみません。助かります」
「いえいえ、散歩が二十分だろうと三十分だろうと、たいした差はございませぬ」
「言い切りましたね。えーっと……じゃあどうするかな」
今リビングには俺と三日月さんと敵の男しかいない。他のメンバーは寝ているか、別の場所の警備に出ているか、違う仕事をしている。俺だけ疲れてリビングで寝ちゃったのだ。そして朝だよ。暖房あるし毛布もしっかりかけていたので問題ない。
「抵抗するつもりはない。なのでせめて座らせてはくれまいか」
三日月さんが視線で答えを求めてくる。
「その辺の椅子に座らせておいてください」
「かしこまりました」
「えー、別に拷問とかする気もありません。捕虜は捕虜として扱います。抵抗すると部屋が牢屋になり、それでもだめなら叩き返すか殺処分です」
「妥当だな。こちらに何を望む?」
「9ブロックの現状とか」
いまだにやつらの行動原理が不明だ。わざわざ攻めてこなくてもいいじゃん。
「戦力は崩れかけている。超人もいるが、モチベーションは低い。下衆な連中を金で集めていたからだろう。自浄作用が薄く、治安にも影響する」
「金の使い方ミスっていたわけだな」
最初の方なんてチンピラ混ざっていたからね。うちはちゃんと審査したけど、適当に集めて訓練もさせないと、ああいうアホが増えるのか。
「9ブロックを侵略するつもりはない。でっかい壁かなんか作って、一般人以外は通過できなきゃいい」
「あんな杜撰で治安の悪い国など治めたくはないということか」
「そういうこと」
この人も超人だなあ。ちゃんと国の現状と、こちらの発想を読んでいる。
「超人が正式な契約じゃなく、なんとなくいるだけなら引き込めないか?」
「不可能ではない。一応は義理があって参戦したが、剣神三日月が相手なら負けても文句は出まい」
「義理か。それは必要だな。騎士道にも通じる」
「ほとんどの超人は金では動かん。腐るほど国から貰えるのでな」
そうか、9ブロックが雇えるのは金で動く超人もどきまでか。そこから先は親の付き合いとか、トップ以外を守るために誰かの付き人みたいになっているらしい。シルフィに対する騎士団みたいなものだ。
「なら引き込めるだけ引き込もう。あとは6ブロックどんな感じ?」
「統率された軍隊だな。どうやら旗印が優秀らしい。一種の狂信者のようだった」
例の姫というやつか? そういう兵士は厄介だぞ。プランターとプリズムナイトで実感した。ああいう類じゃないっぽいけれど、カリスマの出どころが知りたい。これは早期対処が求められる。
「操られているわけじゃないのか?」
「違う。目に絶対に生きて帰るという情熱と生気が感じられた。やつらはしぶとく、また隊列を乱さない。現場に出てくることは決してないようだが、姫という存在が女王イノとは別にいるらしい。勇者科とはまるで王族のための特別クラスのようだな」
おいおい、こりゃ本格的に厳しいぞ。得体の知れない敵すぎる。ブロックが離れているからいいものの、そういうタイプは高圧的で、俺のような男とは根本的に相性が悪い。今後の障害となりそうだ。
「6ブロックについてはあまり知らん」
「ならもういい。あなたには8ブロックの超人兵士になっていただく」
「それはいいな、剣神様と同僚とは面白い。話の種になる」
「これで9ブロックとの戦いも決着だろ。隔離の壁が完成したら王都に戻る」
そんなわけで嬉しい誤算というやつだ。俺は三日月さんとゴーレム作った魔法使いを連れて、王都へと帰った。無論リュウとかも一緒だ。
「で、これはどういう状況だ」
ミリーとルナに案内されて、王都の商店街区画にやってきたわけだが。
「海の幸フェスです」
フェスが開かれていた。空きスペースとして何を建てるか考えていた、ちょっと広くて、けど建物をどーんと建てるには狭い場所だ。出店が多いぞ。
「おぉ……知らんかった」
「一週間ちょいやってるよー」
「長いな!?」
「いやー空きスペースどうしよっかって話になってさー。勝手に建てちゃうのはまずいじゃん? で、あっくんが前に言ってた、ラーメンとかジャンル一個に決めたスクエア? ストリート? みたいなのできないかなって話したら、海の幸でやろうってことになって」
「予想外に好評で、なんだか名物みたいになっちゃいました……」
客の入りがいい。軽く雪よけの結界で道を作ったりしているからか、大雪にでもならない限りは食えそうだ。食事スペースは屋根付きだし。
「8ブロックは魚介類豊富だし、漁師さんのメニューとか、普段食べないでしょ。少し目立たないお店の宣伝とかにもなって、地味に活気づいてるのよねえ」
「なるほどなー、確かに旨い」
「急にイカに棒刺してあるやつ食べ始めたね?」
「イカ焼き。さっき買ったけどうまいぞ」
熱いけどうまい。タレとイカの風味がばっちりである。久しぶりに食ったわ。寒い日には温かいものだなあ。
「いいけどねー。あっくんがよければさ」
「あのでっかいスペースは……ステージか?」
なんか屋根付きのステージがある。結構広めに取っているので、機材とか持ち込めるだろう。
「バーストフレイムのライブもそこでやりますよ?」
「えぇ……?」
「だってそういう食事ストリート? みたいな場所ってライブステージがあるんでしょう? 面白そうだから参加したいと言われました」
「そういやそんな話もしたが……作っちゃうかー……」
行動力あるのね。しかも結構な黒字らしいよ。ミリーの商才は本物だな。
「ライブまでもう少しだっけ」
「薬の件で休日ができてずれ込んだからな。当日は俺とフランも見に行くからよろしく」
「ルナも行くよ!」
「好きにしろ。女の子が見て楽しいかは保証できんけど」
こうして平和にイベントごとを過ごせると、なんかいいなあ。どうかこのまま過ごせますように。俺達にトラブル起き過ぎだからね。処理できんよ。
―――イノ陣営―――
今日も城内の特設会場にて、彼女の登場を待つ兵士が、規則正しく並んで待機している。誰も彼もが登場を待ち望んでいる。彼女のカリスマは本物だと、この状況が証明していた。
「もうお客様が入っていますよ」
明かりの消えた室内に入り、鍵を締めてから語りかけた。一見誰もいないように見えるけれど、奥のソファーに置いてある毛布の塊がごそごそと動き、首だけ出してくる。
「うぅ……無理……むりだようイノちゃん……わたしにできるわけないじゃんかあ……」
明るい紫色の長髪が、その表情を覆って隠している。ですが長く友人の私にはわかる。ああ、これはまたよくない思考に陥っていますね。髪と同じ色の猫耳がしょんぼりしています。
「ユミナは今までだって立派にやり遂げてきたではありませんか」
「今までは運がよかっただけだってえぇ……どんどんお客さんの数増えてるし……もうやだつらい……パワー足りない。9ブロック返り討ちにできたし、おしまいにしない?」
ネガティブになると長い子ですし、なんとか励ましてあげたいけれど、今は少し心を鬼にするべきでしょうか。
「しません。3ブロックの警戒も、他の陣営との競争も残っています」
「3ブロックはリリアちゃんじゃん! どっちみち厳しいって……えっ、攻めるの? 3ブロック攻めちゃう?」
「推しに迷惑はかけたくありません」
「だよねー……」
戦って勝てる自信もありませんし。全力を見たことはないけれど、あんなに小さいのに、そのギャップが素敵ですね。
「ただでさえ四人全員が離されているのです。余計な手間をかけさせてはいけません。それこそ箱推しにとっての邪道ですよ」
「離れ離れだもんねー。こりゃもう寂しくて泣いてるよみんな」
「意外とアジュくんが寂しくなっていたりすると嬉しいですね」
「わかる! めっちゃわかる! 俺のこの気持ちは何だ……? とか戸惑って欲しい! 絆が深まるんだよ!」
「わかりみが深い」
やはり同志。あの四人でしか得られない栄養があると考えられます。いったい学園はどうしてこんな試練を課したのでしょう。
「休暇中に四人揃ったとの報告がありますし、仲が進展していることを祈ります」
「じゃあさじゃあさ、三人の中で一番寂しがるのは誰だと思う?」
「難しいですね。それぞれ違った寂しがり方をしそうですし……シルフィさんは凛とした高潔な王女ですが、裏では甘えたり、しっとりとした感情がほんのりあると解釈一致です」
「いいねー。やっぱりアジシルは王家の嗜みなんだよ! 第二王女だから、そんなに王族のしがらみとかなさそうで、妄想作りやすそうだよね!」
よしよし、元気になってきましたね。適度な創作はきっと心だけでなく体にもいい。妄想は自由です。私も押し付けないようにしないといけませんね。
「そうやっていつも笑っていれば、あなたはかわいいのですよ。かわいいは正義にして絶対。普遍の摂理なのです」
「でも……みんなの前に出るのしんどい……姫なんて無理だったんだよう」
我が幼馴染ながら、めんどくさい性分を抱えて生きているものです。まあ、それは私も同じなのでしょうけれど。もう少し慰めてあげましょう。
「何も不安に思うことはありません。無理だったら、あんなに人が来るはずがありませんよ。私だってあなたのファンです。今日来てくれた人は、全員あなたを見たくてここに来ているのです」
「わたしなんかの応援で元気になってくれるのは嬉しいよ。けど、わたしの命令で大怪我しに行くってことでもあるよね。そんなの楽しくないよ……全然きらきらしないじゃん」
自分が旗印になり、自分の命令で兵が動く。これは試験だからまだましなだけで、死にに行けと命令する機会があるのが司令官という存在。彼女はただ広告塔として存在するだけだから、深刻に考えすぎていると思います。
「あなたのおかげで、兵はやる気が出て、次まで生きようと思えるのです。あなたのおかげで生きて帰ってこれるのですよ」
「わたしの……?」
「ええ、ユミナの功績です。そこは譲れませんよ」
「できるかな? わたし、今日もちゃんと姫できる?」
紅く綺麗な瞳に希望の光が灯りましたね。後ひと押しです。
「できます。私は信じています。あなたはやればできる。私の大切な幼馴染ですから、できるまで応援しています」
「ううー、そういうのもっと言って……がんばれそう……もう少しでパワー溜まりそうだからもっと言って!」
頭を撫でながら、できる限り優しく笑いかけましょう。自信を取り戻してくれればいいのですが。
「紛れもなく、この6ブロックの姫はユミナです。皆がユミナを待っています。さあ、今日も最高にかわいくなりましょう」
「わかった……姫がんばる!!」
しっかりとメイクをしてあげて、専用の衣装に身を包み、満面の笑顔で部屋を出ていく。その姿は事前情報がなければ親友の私ですら、二度見して数秒硬直するくらいにわからないでしょう。そうやって彼女は姫になる。それがユミナの生き様だから。
「みーんなー! 今日も姫のために集まってくれてありがとー!!」
「ひーめ! ひーめ! ひーめ!」
「うおおおおおおおおお! 姫だあああぁぁぁ!!」
「今日もみんなと一緒に元気になるおー☆」
あなたはもう、立派な姫だお☆
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