ライブと不穏な噂
よく晴れた寒い冬の日。ちょうど昼休憩になったので、海の幸フェスで魚介ラーメン食いながら、バーストフレイムのライブを見ていた。
「よっしゃあ! まだまだいくぞオラア!!」
盛り上がるステージ近くを少し遠目で見ながら、ゆっくりとテーブル席で飯を食う。こういうのもグルメフェスならではだなあ。
「なるほどー、確かにデートで聞く曲じゃないにゃあ」
「わたしは嫌いじゃないわよ」
ルナとフランが一緒だ。フランは約束していたし、ルナはこういうお祭りが好きなんだそうな。
「あっ、いたいたアジュ」
「なんじゃもう食べ始めておるのか」
「ライブに間に合わなかったわね」
ギルメンも来た。手にはそれぞれ好きなメニューがある。俺の近くに座ると、ライブ見ながら食い始めた。
「前も見たけど派手だねー」
「うむ、しかし練度が上がっておる。演奏も歌も火薬の調整もばっちりじゃな」
「今回のステージの関係かしら。少し量が少ないのね」
「埃が舞うと食い物に入るかららしい」
「かしこいのう」
文句が出ないようにクオリティを上げるのは大変だ。それができるだけでも称賛に値する。しっかり新曲も出してきたし、満足したぜ。
「続いては今人気激増の注目アイドル! シンフォニックフラワーの登場です!!」
おっ、あいつらこんなとこまで来ているのか。久しぶりに聞いてみたくなったし、少し近くに行こう。
「ちょっと見てくるわ」
「はい帽子。変装くらいしなさい。あなた目立つんだから」
帽子と伊達メガネを渡された。国王だから目立たないほうがいいよな。
「悪い。借りていく」
「わしらはここで食べているから気にせんでよいぞ」
ちょうど俺だけ飯を食い終わっていたし、お言葉に甘えよう。まだライブには空いている席もあるしな。
「フヒヒヒ、始まるよ。こんなに近くにシンフォニックフラワーがご降臨なさる。ここを死に場所と定め、姫は今より修羅となります!」
「ああ……今日もシンフォニックフラワーはかわいいのでしょうね。咲き誇る花のように尊く美しいはず、うへへへ」
変な連中がいる。白い犬耳と黒の猫耳が生えた二人組だ。声からして女だろう。あいつら女のファンもいるんだなあ。まあアイドルって女の子の憧れだったりもするし、不思議じゃないな。
「バーストフレイムも激アツでしたが、シンフォニックフラワー古参勢としては、やはり応援はかかせませんよ」
「あの明るく透き通る歌声、指先まで全神経を集中させているダンス、咲き誇る笑顔、応援にも熱が入りますわなあ!」
「けれど迷惑行為はいけませんよユミナ。真のファンたるもの、認知されようなどと浅はかな行動もいけません。騒ぐ時は騒ぐ。静かに聞く時は聞く。主役はアイドルであることを忘れずに」
「そうだね。迷惑にならないよう、そっと応援するのが真のオタってもんだよね!」
よくわからんやつらの隣になったな。まあ言っていることは正しい。変に目立たず、周囲の空気に合わせて軽く乗るくらいでいこう。
「みーんなー! 今日も見に来てくれてありがとー! 楽しんでいってねー!」
「ふひょおおおぉおぉぉ! カエデちゃあああんん! シラユリちゃん! カエシラ! カエシラ!!」
「カトレアおねえちゃん! アルちゃん! ああいい! すごくいい! 今日も明日もずっといい!! ヒャアアァァ!!」
めっちゃ騒ぐやん。けど客全体がそんな感じなので、おそらく平常運転なんだろう。シンフォニックフラワーは、こんなに歓声貰えるようになったんだなあ。
「新曲です! よろしくお願いします!!」
「賛美せよ! 我らが珠玉の歌声!!」
クオリティたっかいなー。才能が開花したんだろう。喜ばしいことだ。出会った頃を考えると、人間とは短期間でこうも成長するのかと思ってしまう。
「あぁ……しゅごい……召される。天に召される……」
「尊いです……尊さで死者続出です」
ライブ中止になるだろそれ。いい歌なのは認めるけど。
俺も適当に色付いた棒とか振っていよう。こういうの誰が考えてどう作っているんだ。謎の技術だな。周囲と同じようにして振ってみると、意外と難しいぞ。
「お困りですかな? そこなる御仁。どうやらライブに不慣れなご様子」
隣の猫耳がなんか普通に話しかけてきたぞ。
「まあ、あまり来ないもので」
「ふむ、ではではご教授いたしましょう。こうです。こう構えて、サビでこうです! はいご一緒に!」
強引だな。拒否る必要もないし、それなりに真似してみる。
「わたしばっかり見ていてはいけませんよー! メインはシンフォニックなフラワーちゃんたちです!」
「その通りですよ。推しよりオタが目立ってはいけないのです」
わかる。わかるけど、こいつらはなぜ普通に話しかけてくるんだ。
「はいここで左右に動きます!!」
「最後まで聞いてくれてありがとー! みんなまたねー!!」
「またねえええぇぇ!!」
結局こいつに誘導されて、かなり楽しんでライブが終わった。ライブってこういうものなのだろうか。経験が少なくてわからんが、満足した。
「はふう……満足です。もうここで死にます。骨はシンフォニックフラワーちゃんのお家のお庭に撒いてください」
「クッソ迷惑だからやめろ」
呪いだよ。純粋に怖いからやめようね。
「充実した時間でしたね。あなたもこの子が巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
「いいさ。おかげで楽しめた。けどそもそもどうして話しかけた?」
「同じオタの波動を感じましたぞ」
別に隠しているわけでもないが、そうかそういう波動が……信じていいのかね?
「オタなどやっておりますと、それはもう日影で生きるもの。生活に彩りがほしいところではございませんかな?」
「そこでアイドルライブです。日々成長を続けるアイドルに元気をいただく。その成長を見守り応援する。支える。これが需要と供給です」
「安定した供給が行われることにより、我々の人生が華やかになる。これはもう神々を超えた祝福ですぞ! 日々の活力になるのです!」
確かにフラワーを名乗るだけあって華がある。練習で手を抜いている場面を見たことがないし、なんとなく元気になるのは実感できた。
「向上を続ける推しのためにも、我々も練度を上げねば! 追いつけ追い越せですよ!」
「確かに昔よりうまくなっていたな。あいつら成長早いよ。感慨深いものがある」
「ほほう、以前をご存知で?」
「グレモリーさんと同じ舞台に立つ少し前くらいだよ。比較的新しいファンだ」
「受賞前からのファンですか。手練ですね」
手練なの? とりあえず頷いておく。別に否定するこっちゃないし。
「古参としてはもう少しグッズ展開希望だよ! 祭壇が作れない! 由々しき事態ですぞ!」
「あいつらでっかいスポンサーとかいないだろうし……商品展開は難しいだろ」
「グッズと知名度向上を両立できればいいですね」
「失礼、戻る時間っスよ」
二人の背後に黒フードをかぶった男がいる。声だけで男と判断したが、さっきまでいなかったよな。
「おやおや、時間を忘れるとはこのことなり。けど注意に来るなんて珍しいねん」
「オレも百合の間に挟まりたくはないスけどね。見守る派なもんで」
「私たちは幼馴染ですよ」
「そこから始まるのがど定番じゃないスか。恵まれてますよあんたら」
「おおう、これは平常運転だね! 治していこう!」
「まあいいスけどね。どうせキモいとか言われ慣れてますし。さっさと戻ってくれます? 仕事は仕事スよ」
どうやら仲良しグループらしい。気安いなあ。まあ他人の関係に口出しすることもないので黙っていよう。
「ではまたお会いしましょう! 古参ファンよ!!」
「失礼いたします」
「ああ、またな」
軽く手を振って別れた。変な連中だったな。
「あっくん、楽屋挨拶いくよー」
ルナが迎えに来た。どうやら全員食事を終えたらしい。
「なんでだよ。俺関係ないだろ」
「あるよ国王でしょ」
「国王はライブしたやつに会いに行くもんか? 権力使って余計なことしていないか?」
「そこ気にするんだ?」
「アイドルに男の影はNGだ」
こういう重役っぽいムーブは害悪だ。目立つし、無駄に力を使っていると思われるのもうざい。そして俺に言えば願いが叶うと思われるのが嫌いだ。
「バーストフレイムが来てって言っていたでしょう」
「こっちの秘密通路から行けばよいのじゃ」
俺は主催者ですらない気がするが、来いと言われてしまえば行くしかない。今の俺は国王なのだ。仕方なくスタッフのいる場所へと通された。
「国王様入られまーす」
「ゲストか。番組のゲストみたいに言わなくていい」
「おっ、来たかアジュ!」
バーストフレイムのサムだ。他のメンバーも疲労の色はあれど、やりきった顔をこちらに向ける。
「おう、いいライブだったぜ」
「そっか! そいつは何よりだな!!」
お互いにびしっと親指を立てる。そこから感想なんぞ語っていると、カエデたちも
やってきた。
「みなさーん! どうでしたどうでした? カエデたちのライブは最高でしたよね! 力の限り褒めていいんですよ!!」
「うむ、楽しかったのじゃ」
「みんなかわいかったよー!」
「素敵なライブだったわ」
ギルメンにも好評である。うちのギルドみんなファンだなこれ。
「うへへへ、そんな直球で褒められると照れますねえ。まあそれだけ凄いアイドルになたってことですけどね!!」
「はしゃぎすぎよカエデ。ライブの許可ありがとうございました」
「気にするな」
適当に挨拶を済ませつつ、相手をギルメンに任せる。国王なんていれば萎縮させるだけだし、すみっこにいようとしたら、サムに声をかけられた。
「ところでアジュ、お前さん大丈夫か?」
「何がだ?」
「妙な噂を聞いてな。国王様は影で私腹を肥やして税金で贅沢しているとかさ」
「無理だろ。このブロックできて間もないんだぞ。しかも雪国だ」
どんな噂よ。そんな裕福じゃないぞ。食い物には困らないが、内政とかくっそめんどいんだからな。わざわざ小銭稼ぐために余計な手間なんぞ増やさないさ。
「まあやるタイプじゃねえとは思うけどな」
「まずこれ試験だからな。そういうのマイナスポイントつきそうだろ」
「あー……けど国王としての地位が盤石になれば、国民を締め上げて贅沢な暮らしを満喫できるらしいじゃないか」
「あと一ヶ月くらいで終わる国でか?」
「…………おや?」
「気づいたか。完全に無意味なことに。俺はそこまでアホじゃないぞ」
悪政とか完全に無意味だ。だって試験終わればリセットだもの。自宅に帰って四人で暮らす日常に戻るだけ。ここでずっと王様やるわけじゃない。
「確かにメリットねえな」
サムはバカじゃないので、普通にちょっと考えれば気づいてくれるのだ。学園で上に行こうと思ったら、余程の天才じゃない限り頭を使うからね。
「えっ、じゃあ国王様に売上もってかれるって話はどうなったのよ?」
「おい待てなんだそれ」
他の女が意味わからんことを言い出した。なんかライブさせてやったんだから売上は国王に渡せとか噂になっているらしい。
「でも実際、お金払ったよね?」
「いくらか覚えているか?」
「我々はちゃんと家計簿をつけている。あまり見たくはないが、その扉を開いてやろう」
「ルナ、こっちの帳簿あるか?」
「わしが覚えておる。言ってみい」
なぜリリアが記憶しているのか不思議だが、前に来たときに手続き含めて終わっていたらしい。
「っていう感じでお金払ったよ?」
「わたくしも覚えております」
金のやり取りは存在する。全員が無料でライブ会場なんて設置できないのだ。
「リリア、できそうなら説明してくれ」
「ではまず、ライブに金がかかるのはわかるじゃろ?」
「当然よね。そこはおねえさんもわかるわ」
「オレもわかるぜ。機材やら広告やらステージの発注やら、出演料だってあるよな」
「うむ、それは正当な報酬であり、じゃからこそ成り立っておる。リハーサル含めて貸出料金などもある。これは順番を決め、契約にする意味もあるのじゃ」
これも同意である。全員が作業を止めて聞く体勢に入ったな。
「じゃあ今回支払うお金は……」
「さっき言われた金額で正しいのじゃ。それできっちり運営して、もう貰っておるじゃろ」
「追加はねえってことでいいんだな?」
「ないのじゃ。ステージぶっ壊したら修理代くらいは貰うかもしれんがの」
まあそれはしょうがない。直すには金がいるし、壊れたままは危ないのだ。
「噂ってまだあるか?」
「兵士が贅沢しているとか、もっと改善できるのにやらねえとか。戦時中だからって何でも持っていくとかもあるぜ」
「戦時中なのは本当だ。実際に攻められている。そこの警備と貯蓄は多めに必要だ」
「それは理解できます。国が滅んでは贅沢も何もありません」
「じゃあ好き放題やろうとしてるっつうのは……」
「だから横暴は無意味なんだよ。最低でも三学期終わったら、この国王ごっこも終わる。成績悪くする意味がないだろ」
永遠に王様できる権利じゃないんだよ。あくまで仮初の王だ。そこが伝わっていないのだろうか。
「んー……ここも違うみたいですねえ」
「ここも?」
「4ブロックとか6ブロックでも似たような噂がありますよ」
「8ブロックと同じ条件で7ブロックだともっと贅沢できるからおかしい、とかな」
逆に7ブロックの食い物は減らされていて、1ブロックの方が裕福だという噂もあるらしい。
「マイナスな噂が多すぎるな」
「国に慣れてきて、比較する余裕ができたってことじゃないかしら?」
「それでもちと妙じゃな。帰ったら自陣を調べてみるのじゃ」
よくない流れだし、なんだか嫌な予感がする。これは対処が必要だな。
「つまりこれって情報戦というか、調略ってことでいいの?」
「そのようじゃな。小癪なやつじゃ」
マジか。そんなめんどい作戦に出るかね。目的がわからん。学園がやるには陰湿すぎるし、どこの誰がそんな真似を。
「わかった。とりあえずオレは信じるぜ」
「カエデたちも信じます!」
「みなさんがそんなことをする人だとは思えませんからね」
こいつらもお人好しというか、ギルメンは信頼が厚いね。俺じゃこうはいくまい。
「噂を聞いたら、それとなく出どころを聞いてみるわね」
「このような不安など振り払うが吉。憂いは抹消すべしである」
「そうだな。少し探ってみるか」
今までと少しジャンルが違う敵な気がする。早めに対処できればいいんだがね。
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