でっかいゴーレムが邪魔
今日は快晴。雪国と言えど暖かい日差しの日はあるのだ。風は寒いから、やっぱり防寒着は必要だけど。そんな日に外を見たら。
「おいなんだあれ……」
砦の上に立って、隣にいるアオイに質問してみる。
「鉄と土のゴーレム……ですかね?」
「やっぱりそう見えるか?」
「はい、めちゃめちゃでかいゴーレムです」
首のあたりが雲に突っ込んでいるゴーレムだ。しかも複数いる。
「あれ家だよな?」
「家ですよねえ……」
肩や胸やら腹に、家とか街道らしきものがくっついている。半壊しているものが多いが、あれはどういう趣向なんだよ。
「いやいやいや、どういうことだ」
「6ブロックに負けて逃げる時に、物資や住居を明け渡すのが嫌で、やけくそでゴーレムにして移動させたらしいです」
「なるほどなあ、住めないよな?」
「ですね。食料とかは別の場所に保存されているみたいですし、完全に6ブロックへの嫌がらせ目的でしょう」
理屈はわかった。撤退するなら敵軍がくつろげないよう荒らしていくわけだ。
「そして俺達に敵としてぶつけると」
「ちなみに超人がコーティングしたらしく、学生の魔法では苦戦します。かっちかちです。必殺技ぶつけまくらないと無理です」
「クソやん。三日月さん」
「お呼びでしょうか」
こういうケースでこそ超人は輝くのだ。さっさと呼んでしまおうね。
「あれぶっ壊せます?」
「手段はどのように?」
「こっちに被害が出ない方法でお願いします」
「かしこまりました」
ロングソードを一振りすると、ゴーレムの右腕が切り落とされた。見えない斬撃による衝撃波みたいなものが出たんだろう。
「切れはするようだな」
「ですが戻ろうとしていますね」
地面を吸い上げて腕を戻している。あれはめんどい。あんなの複数いたら邪魔でしかないぞ。
「こりゃ手間だな」
「もっと刻んでみましょうか」
また剣を一振りすると、今度は敵の腰から上が消えた。
「今のは?」
「剣を雑に振って圧をかけました。細かい部分は斬撃を重ねて面にすればよろしい」
完全に腕だけで雑に振ったよね。それであの巨体消せるのか。やはり剣神だなあ。そしてゴーレムは崩れた。完全に崩壊したらしい。
「またゴーレムが増えていますね」
「増えんな」
巨大なゴーレムの行進を止めるため、なんとか打開策を練る。
「あれどうすれば消える?」
「コアを潰すか、術者を消すかです。大抵の場合は離れた場所で量産しているはずですから、前線には来ないかと」
「切り刻んでも復活しますな」
「新しく来た魔法使いさんによると、似たようなゴレームは出せるらしいですが」
「平原ぼろぼろになるから却下で。暗殺にでも行くか?」
あまりやりたくはないが、敵がどこにいるかわからないのだ。少数精鋭で敵地に潜入しての暗殺が考慮される。
「王様にやらせることではないかと」
「フットワークが重くなるなあ……」
国王であることのデメリットが出ている。局地的な破壊行動を得意とする俺達は、本来玉座になど座るべきではないのだ。いやギルメンは王族だから、厳密には俺単騎の話なんだろうけど。
「コアがあるなら、魔法ぶっこんで浸透させられないか?」
「なるほど。超人に頼んでみます」
アオイが命令を出しに行ったので、こっそり三日月さんと話しておく。
「もしかしたら、俺の鎧を使うかもしれません」
「うむ、全力で隠し、手柄はこちらが貰えばよろしいのですな?」
「ええ、本当に助かります」
秘密は守るしシンプルに強い。三日月さんはとても優秀です。ちょっと出会う度に女装しているけれど、それも理由あってのことで趣味じゃないし、いい人です。
「問題はここからだな」
「どうやら実験が始まるようです」
極太ビームがゴーレムに刺さり、爆発して光が土も家も消していく。
「おおー、超人なら消せるのか」
「追加が来ないわけではないようですが」
ゴーレムが再び作られる。あれは新しく作ったな。
「消されたのを察知できるか、あのゴーレムが見える位置に敵もいる?」
「でしょうな。行きますか?」
「少し様子を見て……ゴーレムどっか行くぞ」
こちらに向かってくる個体と、別方向へ歩く個体がいる。8ブロック側に行くわけではないので、何をしに行くのかが不明だ。
「あれは6ブロックへ進んでいる」
イズミが横に来て解説をしてくれる。俺とフランが襲われたことで、なんか知らんが横にいることが多い。責任などないのに。っていうかフランについていてやれよ。
「こっち6ブロックじゃないだろ」
「9ブロックの領地が丸くまるーく縮小した。その結果、8ブロックと6ブロックの占領した領地がくっつきそうになっている」
「そういうことか」
「6ブロックはこちらに危害を加えるつもりがないらしい。一応の警備兵は置くけれど、侵攻はしないと使者が来た」
6ブロックは超エリートの万能女王様らしいからな。無駄に戦線を拡大するつもりはないのだろう。どうも内政もうまいことやっているようだし、敵対しないならありがたい。警戒だけで済ませよう。
「二面作戦を丸くして徐々に押し潰すわけか。自動的にこちらも巻き込める。やるね、噂通り面倒なやつだ。女王様は政治力高くて兵士も強いと」
「どうも兵士の士気高揚には別の人が関与しているようです。なんでも姫と呼ばれる人が絶大なカリスマで惹きつけているとか」
「女王様に姫かよ。王族多すぎるだろ」
得体の知れないブロックだ。あまり深入りしたくないが、調べないと足元すくわれるやつだろこれ。
「本当の王族ではないとも聞いていますが、演説以外では滅多に姿を表さないとかで、こちらも正体を測りかねています」
「面倒な……絶対強いやつだろ。間違いなくめんどくさいぞ」
正体を隠しても絶大なカリスマあるやつが、めんどくさくないわけがないのだ。やばいなー、9ブロックみたいに単純でも、7ブロックのクレアみたいに話のわかるやつでもなさそう。これで神の血が入っていたら強敵すぎるぞ。
「ひとまず忘れて、今はゴーレムに集中しましょうか」
「いい機会ではございませぬか。これから先、巨大な敵とも相見えるでしょう。リハーサルだと思って挑まれては?」
三日月さんから意外な提案が来た。砦に自分がいる以上、無茶な攻めはしてこない。さらにピンチになれば自分が助けられる。だから練習してはどうかとのこと。
「どう思う?」
「ありと言えばありです。剣神三日月の名は完全に聞こえています。どれだけ有象無象で攻めても無意味なのは知っているでしょうし、嫌がらせを超えた目的もないはずです」
「んー……悪くはないのか?」
これから先、どうやったって戦闘はする。鎧無しで巨大生物を狩る経験は欲しいが、まず俺で倒せる気がしない。
「何度も言っているが、俺はギルメン最弱だぞ」
「別に一人で倒す必要はありません。協力してもいいんですよ。志願制にでもしましょう」
そして巨大ゴーレム討伐戦が始まった。
参加者は俺、リュウ、タイガ、イズミ、フランの五人。
遠くでは別チームが超人監督の元、別のゴーレムと戦うようだ。
「もう完全にイベントだな」
「いいじゃねえか、こういうチャンスは滅多にねえぜ」
ゴーレムを改めて見ると、そりゃもうでかい。三階建てマンションが拳くらいだと思えばいいだろう。
「とりあえず死なないように色々と試すぞ」
「了解!」
「任務開始」
そしてゴーレムがこちらを認識したのか、踏み潰そうと右足を上げる。
「散開! プラズマイレイザー!!」
一斉に動き出し、各々が攻撃魔法をぶつける。表面は破壊できたが、いつもの敵とはでかさが違う。全身を飲み込むような魔法は使えないのだ。とにかく攻撃するしかないな。
ゴーレムの軸足となっている左足に、リュウとタイガが飛ぶ。
「必殺オレのヒートブレード!!」
「無空浸透掌!!」
アホみたいな必殺技名がリュウで、なんかかっこいいのがタイガだ。あいつ古武術の使い手だからね。ゴーレムの左足のくるぶしあたりに爆炎と衝撃が集中する。だがそれでも壊し切ることはできず、一軒家つき両拳が降り注ぐ。
「あっぶねえ!!」
「うおぉ!? 流石に受け流せねえだろうなこりゃ」
急いで離脱している。ゴーレムは一歩がでかいから、かなりガチで離脱しないと危険なんだなと学習した。あと地面が結構揺れる。
「フラン、内部に魔力を流す。手伝って」
「わかったわ!」
ゴーレムの背後に周り、イズミの指輪がぶっとい針となって背中に刺さる。
「内部に直接流して破裂させる」
「よーし、やってやろうじゃない!!」
二人分の魔力が瞬時に流れ、内部から爆発を起こす。それはさすがにまずいと思ったのか、ゴーレムは勢いよく、身を捩る。当然だが針を突き刺しっぱなしのイズミは空中に放り出された。
「イズミちゃん!!」
「リベリオントリガー!」
全身を雷化して、空中で解除してキャッチ。これなら荷物の質量しか関係ないし、荒っぽいが飛行もできる。ロケット花火みたいに飛んでいると言ってもいいので、綺麗に飛ぶのは今後の課題でもある。
「ありがとう。助かった」
「アジュ! パンチが来るぞ!!」
「ライジングナックル!!」
ゴーレムと右拳の大きさだけ同じにして、とりあえずぶつけてみる。
「あっ、無理だこれ」
念のため左腕から鉤縄を射出して、家の屋根に引っ掛けておいた。パンチが来る前に、敵の左肩へと着地。右手に虚無を集中。今回は雑でいい。久々に垂れ流しバージョンだ。
「インフィニティヴォイド!!」
虚無がどばーっとゴーレムの肩部分を溶かしながら落ちていく。
「溶け方が弱いな」
「不思議な魔法」
「さわるなよ。俺もちゃんと制御できていないから」
「わかった」
一定時間で消えるので、気にせず移動して頭のほうへ。
「さーて、これ壊せるかね?」
長巻を構えて、魔法スロットを三個全部使い、ゴーレムの首をはねられるか実験してみる。
「雷光一閃!!」
はい無理でした。漫画とかだとすぱーっと両断できるのだが、8%くらいを切り裂いただけに終わる。硬いよ。そして剣が届かない部分ってみんなどうやって切っているの?
「アジュ、それは無理」
「やってみたかっただけだ」
下では残りの三人が攻撃を続けている。そのせいで非常に足場が心もとない。揺れるな。別に酔わないけれど、この状態での戦闘はめんどい。
「コアとかありそうか?」
「見つからない。ゴーレムの内部には存在しないのかも」
コアのないタイプは超人じゃないと無理だぜ。これちゃんと終わるのだろうか。まだ一匹でこれだぞ。複数処理できるんかね。
「だとすると厄介だな……体積削りまくるとか?」
「そうすると魔力で体を維持できずに崩れるケースも多い」
「殴ってHP減らすわけか」
「どういうこと?」
「気にするな」
倒し方がシンプルなのはいいことだ。問題は敵が硬すぎること。なら残りの連中にやらせてみよう。
「お前らとにかく強い攻撃続けろ! 限界があるっぽいぞ!」
「いよっしゃあ! いくぜオラアアァァ!!」
「ここでぶっ壊す!!」
両足を攻撃しながら登ってくる二人を見ながら、こちらを掴もうとしてくるゴーレムの手をかわす。
「今のは……?」
別の家で何かが光った。ちょうど首と背中の境目辺りだ。
「ちょっと来い」
幸い背中は平面じゃない。家やら鉄とか土ででこぼこしている。これなら多少のアスレチック感覚で行ける。
「この家だ。何か光った」
「魔力反応あり」
家の中心には赤く光る魔力の塊があった。球体のようであり、中が渦巻いている。
「コアかこれ?」
「かもしれない。けれど危険。うかつに破壊すれば爆発するかも」
「よし、脱出してピンポイント攻撃だ」
「わかった。爆薬を仕掛けていく」
素早く設置して脱出。ゴーレムから飛んで距離を取り、二人で攻撃魔法を撃ち込んでみる。
「攻撃開始」
「ぶっ飛べオラア!!」
見事に直撃し、背中を大きく爆発させる。予想よりかなり規模がでかい。どうやら効果ありだな。ゴーレムが膝を付き、そのまま動かなくなった。
「戻るぞ」
イズミをフランに預けに行こう。離れた位置から魔法を撃ち続けるフランと合流した。
「あれ壊せそうか?」
「難しいわね。攻撃のチャンスなのはわかるけど、炎も氷も効いているのかいないのか」
フランの魔法はかなり高威力なのだが、それでも壊せないとなると厳しい。プラズマイレイザーがあの程度のダメージなのは少しショックである。
「少し縮んでいる」
「ん?」
言われてみると、立ち上がるゴーレムの頭が雲より低い。頭三個分くらい小さくなっている気がした。
「ほほう、ダメージはあるんだな。というかコアだったんだなあれ」
「実感できるのはありがたいわね」
「なら攻撃しまくればいいんだろうけれど、移動でスタミナ切れそうだな」
敵の大きさから、どうしても攻撃を避ける時に体力を使わされる。
「おそらく動力源を複数に分けて全身をカバーしている。外付けのシールドだと思っていい」
「なるほどな。んじゃ家とかそれっぽい弱点を狙え。ただし大爆発するかもしれないから慎重に!」
「了解!」
「いいぜやったらあ!!」
リュウとタイガの身体能力なら、それっぽ家まで登って破壊することは難しくない。早速左肘の家に必殺技をぶち込んでいる。
「オレの勝ちだぜ! うおわあぁぁ!?」
コアが爆発したらしく、タイガが爆風でこっちに飛んできた。
「警戒しろっつったろうが!」
「悪い。あんな爆発するとは……」
「しょうがないわね」
フランと一緒に回復魔法をかけてやる。ゴーレムはまた小さくなっていた。
「オレの必殺ブレード改! だあああぁぁ!?」
そして同じようにリュウも吹っ飛んできた。
「学習をしろ」
「このパーティー不安ね。アオイも入れるべきだったわ」
「もう終わる。ゴーレムが崩れていく」
小さくなったゴーレムは、なぜかその形をうまく保てず潰れていく。
「家を複数支えるだけの土台が形成できないのね」
「全部吸収してゴーレムにしたことが仇になったのか。んじゃ一斉攻撃だ!!」
「くらえええええぇぇぇ!!」
最後に全員で魔法をぶち込んで、ようやく一体倒すことができた。
シンプルなザコ敵のはずのゴーレムでも、超人の手が加えられると面倒だということは学習した。対策が必要だな。
「お疲れ。周囲の状況は?」
「他のパーティーはまだ手間取っているみたいね」
まだ倒せない連中がいるのは、コアに気づいていないのか、そこまで登れるやつがいないのか。遠距離から狙撃するのも難しいよなあ。
効率よく倒すにはどうするか悩んでいると、三日月さんが来た。
「サカガミ殿、そろそろ日が傾きます。戦闘を中止して、殲滅はお任せを」
「確かにスタミナ切れはきついか。じゃあ三日月さん、全部倒しちゃってください」
「了解しました。では帰りましょう」
いつ倒したのか見えなかったぞ。ゴーレムが一瞬で全部消えたことで敵も動揺したのか、追加が来ることはなかった。
俺も久々の運動で疲れた。今日はもう何事もなく終わってくれと願いながら、砦へと帰るしかないのである。
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