見えてくる犯行

 舞台の異常を調べていこう。まずは設備のスタッフに話を聞く。


「検査は誰がいつまでやっていましたか?」


「やったのはここにいる奴らで全員さ。全部で三十二人。メンテとチェックはそれこそ当日まで続く」


「確認作業の時、あなたたち以外に誰か入れました? プロデューサーとか」


「いんや。プロデューサーそんなとこ呼んでどうすんだよ? 整備の知識とかねえだろ?」


「それは確かに」


 つまりいたら目立つ。覚えていないはずがないし、細工して素早く逃げるのも難しい。全員顔見知りらしいので、これは部外者が溶け込むのは無理だな。


「少し機材が緩められていたとか」


「ありえねえ。チェックはしたぜ」


「……あれこれ別件なのか?」


「どういうこと?」


「襲撃してきた連中と、今回の件で別件なのかもしれません」


 ライブを邪魔したい、もしくはハプニングが欲しい連中がいる。

 そしてグレモリーとシンフォニックフラワーを陥れたいやつがいる。

 これは別件なのかも。


「サム、グレモリーやシンフォニックフラワーの名前を騙って、襲撃してくるやつはいたか?」


「襲撃って、ライブバトルとか?」


「いや、チンピラけしかけて脅す感じ」


「なんだそりゃ? 来てねえぞ」


 バーストフレイムの全員が知らないと言う。裏で動くタイプじゃなさそうだし、これは外れだな。


「そういう噂を聞いたことは?」


「ないわ。そんなことされてんの?」


「一回だけあった。今回のライブ、きな臭いから気をつけろ」


「わかったぜ。そっちも気をつけてな」


 会場からさっさと離れるのだ。とりあえず広い場所を歩く。


「これからどうするの?」


「他の連中のライブをこっそり見たい。できれば裏側に入って」


 だがメインを控えているのに、わざわざバトルするのも不自然だ。

 数は少ないだろうし、こっちからふっかけるのもまずい。


「なんというか、中途半端なんだよな。原因不明にもほどがある」


「カエデたちを襲ってきた人たちはどうだったんですか?」


「下っ端過ぎて駄目らしい。手紙と金で指示されたが、誰の指示かは知らんとさ。それでも調査は進んでいる」


 足がつかない工夫はしているのだろう。だが完璧に逃げ切るのは不可能なはず。

 そこは学園の能力が高いのだ。


「他のアイドルが被害にあっているか調べたいが」


「ある程度は私が調べたわ。ライブ参加者の中で、グレモリーの名前で襲撃された人はいないわ」


 さすがはイロハ。忍者の情報収集能力は凄まじい。今は頼ろう。


「ちょうどこの先で練習している子たちがいるわ。少し話を聞きましょうか」


「あの子たちは同じクラスですわ。まず私が話をします」


「俺たちじゃ警戒されるか。んじゃ最低限聞いて欲しい事を伝えておく」


 そしてシンフォニックフラワーの後ろから、そっと事情聴取開始。

 どうやら襲撃はされていないようだ。だが舞台上でなんらかのハプニングが起きることがあるらしく、ここ何週間かで頻度がおかしいとのこと。


「床が抜けるとか、設備がグラグラするっていうか……あと突然ゲストが来て引っ掻き回したりとか……毎回違うんですが、どこもおかしいって」


「業者はわかるか?」


「ええっと確か……」


 そこからはステージを作る業者と、部品の納入に関して探る。

 まさか全員でぞろぞろ行くわけにはいかないので、イロハと俺で行動し、他は合宿所に帰ってもらった。


「なるほど、これ現行犯じゃないと厳しいな」


 ある程度の想像はついていたが、これで絞り込むことはできた。


「そもそもどうして仕掛けなんて作るのかしら? 大きな大会とはいえ、それだけで人生が決まるわけでも、一生遊べるお金が入るわけでもないでしょう」


「だよなあ……アイドル関係ないのか?」


 誰がどう得をするのかが、いまいちわからんのだ。そこさえ掴めたら、あとは決着がつく気がしている。


「飛び入りゲストに関しては、どうやら連れてきた厄介者がいたようね」


「あの勘違いプロデューサーか」


 あいつがトラブルを起こしているらしい。余計なアイドル連れてきたり、うざい絡みで進行がグダったり、どうもいい評判は聞かない。それも計算なんだろうか。


「あの男についても調べたけれど、どうもスタッフにコネがあるみたいね」


「あいつの杜撰な設備でけが人が出たりとか?」


「いいえ、バーストフレイムの時は粉と煙の指示をしただけで、身内のスタッフではないらしいわ。そのためか反発もあったけど強行したって」


「ろくなことせんな」


「アクシデントがあるのは、あの男のコネが効かない、普通のスタッフの時ね」


「……それでか」


 なんとなくだがわかってきた。罠にはめる方法もいくつかあるが、大掛かりになるな。正直無駄な金が動くし、俺も目立ちたくない。あいつらだけ守りながらそっと動こう。


「なら今日は部品を分けてもらったし、ここらで終わりだ。護衛対象から長時間離れるわけにもいかん」


「そうね、少し急ぎましょうか」


 さり気なく手を握ってくる。それを自然に握り返し、ほんの少し歩くペースを上げた。


「慣れてきたわね」


「みたいだな」


 手の柔らかさと暖かさにも慣れてきた。慣れたはず。これもこいつらの努力の賜物だろう。この発想自体どうかと思うけども。


「そう悪いものでもないでしょう?」


「だと思う」


「これくらい簡単でいいのよ。こういう日々を積み重ねることが、楽しい未来と思い出につながるの」


「覚えておくよ」


 これが日常と言えるのは、おそらく相当に恵まれているのだろう。

 それを自覚しつつ、これからも日常にしていけるよう、まずは今回の依頼を片付けるか。


「おっ、二人ともおかえり!」


 合宿所に入ると、シルフィとリリアが出迎えてくれる。


「おう、そっちは問題ないな?」


「ばっちりさ!」


「ほほう、自然に手がつなげるようになっておるな。よしよし」


「こうしてくっつくこともできるわ」


 腕を組んですり寄ってくるが、それは止めておく。


「護衛中だぞ。シンフォニックフラワーに見られるのもよくない」


「そうやって外堀を埋めるのじゃ」


「やめろ真面目に仕事せんかい」


「お仕事の手がかりはあった?」


「見つけた。問題はどう罠を張るかだ」


 言いながらアイドルの稽古を見る。毎日確実に、少しずつだが上達している。

 俺が見てもわかるのだから、やはり才能と努力が両立しているのだろうなあ。


「面白い話をしているじゃない。わたくしも混ぜなさい」


 グレモリーさんがこちらに来た。興味津々という感じで、いたずら前の子供みたいな雰囲気だ。目をキラキラさせるんじゃない。


「犯人は不明ですが、同期はある程度わかりました。裏付けと、罠を仕掛ける舞台が必要です」


「詳しく聞かせなさいな」


 ここは魔王の能力と知名度に甘えてみるのも悪くはないか。


「あまり借りを作りたくはないけどな」


「これはわたくしの問題でもあるわ。グレモリーの名を悪事に使われて、黙っていることはできないもの」


「ならこっちが出した結論ですが……」


 こうして準備は整っていく。ここからは護衛に重点を置こう。

 あくまで一般的な護衛ですよというイメージを抱かせる。

 そうして数日が経った。


「はい! みんな揃ってー!」


「シンフォニックフラワー!!」


 本番前日。今日も練習は続いていた。格段にクオリティが上がっているのを見て、こいつらはやはり特別なんだなあと思うわけだ。


「いいぞ。これなら優勝できそうだな」


「あら嬉しい。お姉さん張り切っちゃうわね」


「これが我らの奥の手……新たなるメロディ」


 新曲の準備も完了だ。贔屓目に見て優勝できちまうんじゃないかと思っている。

 ファンになっている気がする。やるなこいつら。俺にアイドルを教えるとは。


「大丈夫……ですよね? カエデたち、勝てますよね?」


 流石に不安なのだろう。いつもの自信もなりを潜めている。


「覚悟はしている。次はそれをファンに示す……だが、グレモリー殿は強い。隙がない」


「間近で見てしまうと、その実力と成長が伺えてしまって……私たちはどうすればと、不安なのですわ」


「そうねえ……今まで考えないようにしていたけれど、どうしても考えちゃうわ」


 合同合宿というのは、常に相手の実力を感じてしまうということでもある。


「そりゃ勝ち負けは決まるさ。けどお前らはそういうもんじゃないだろ?」


「どういうことですか?」


「ただ勝つためにやるんじゃない。楽しさを繋げるとか、自分も客も楽しめるようにとかさ。当初の目的はグレモリーさんに勝つことじゃないだろ?」


 おそらく、ただ上を目指すだけでは響かない。俺が楽しいと感じたのは、そんなシンフォニックフラワーではないはずだから。


「そうじゃな。いつものように楽しんで、その楽しさを振りまけばよいのじゃ」


「どっちが凄いとかじゃなくて、みんなの楽しいを届ける。でしょ」


「応援しているわ。勝っても負けても、最高のステージを見せて」


「みなさん……そうですよね。勝つためにやるんじゃない。精一杯楽しいを届けて、その結果勝てたら嬉しい、ですね!!」


 よしよし、いつもの明るさを取り戻したな。それがこいつらの最大の長所だ。


「私たちは四人でシンフォニックフラワー」


「四人の心を束ねれば」


「みんなに笑顔の花が咲く」


「よーし! やる気出てきましたよー!!」


 本番前の調整は、これで心身ともに完了した。優勝だって目指せるだろう。


「そうよ、それでこそ倒しがいがあるわ」


「グレモリーさん!」


 いつものように自信に満ち溢れた態度でやってきた。ギプスがさらにごつくなっているのは気にしない。


「アイドルの頂点で待っているわ。できるものなら、ここまで上がっていらっしゃい!」


「上がるだけじゃありませんよ。超えてみせます!!」


 がっちり握手を交わしているカエデとグレモリーさん。

 きっと当日は物凄いパフォーマンスが見られるだろう。純粋に楽しみだ。

 そして日が暮れ、全員早めに寝て、大会当日に備えることとなった。

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