ライブバトルと怪しいやつ

 ライブバトルの招待状が来た次の日。

 合宿所から会場へと移動した。屋外の特設ステージらしい。既に人が多い。

 打ち合わせのため、関係者入り口からそっと入る。


「ごきげんようグレモリー。受けてくれて嬉しいわ」


「逃げずに来てくれてよかったぜ」


 今回の相手はバーストフレイム。派手な服装の男女グループだ。全部で七人。どいつも物理的にキラキラしている。少し過剰な気もするな。


「挑まれれば逃げはしないわ」


 既に大まかな段取りは打ち合わせてある。なので簡単な確認作業だけして終わる。行動が早いな。ずっとアイドルやっていると慣れるのかも。


「そっちが護衛の?」


「ええ、俺たちは正式に護衛依頼を受けています」


 学園からの依頼を受けている、という大義名分はでかい。

 無茶なアドリブを要求されたり、勝手に他人が命令したり、ルールを変更したりできないのだ。


「見学の子たちも、楽しんでね」


「勉強させていただきますわ」


 礼儀正しくお礼と挨拶を済ませる四人。ここで終わりかと思えば、こちらに歩いてくる敵リーダー。


「シンフォニックフラワーか。最近伸びているらしいな」


「ええもうバッチリです! まだまだファンは増えちゃいますよー!」


「その意気だ。オレも高等部一年。名はサム!」


 びしっと親指を立てている。多少の暑苦しさはあるが、爽やかな部類の笑顔だろう。


「私たちをご存知ですのね」


「研究はしてるぜ。それにな……」


 そこでなぜか俺を見ているサム。この場に男がいることを怪しんで……無いな。グレモリー陣営にも男はいるし、護衛だと説明もしたはずだ。


「オレはお前のことも知ってるんだぜ……アジュ・サカガミ」


「俺を……?」


 俺とギルメンとシンフォニックフラワーくらいにしか聞こえないトーンで話す。

 こいつ、どこまで何を知っているんだ。まさかと思うが、また神話生物関係か。それならまだマシで、こいつが今回の黒幕ってこともある。


「見てたぜ……BOD」


「ああ……B? うん?」


 うん? 何がどうだって? 何ですっげえ笑顔なのこの人。


「かっこよかったぜ。お前なかなかエンターテイメントってもんがわかってんじゃねえか!!」


「エン……おう? えっ、ん? は?」


 情報が処理できない。なんか握手してきた。何だこの状況は。


「いやあ面白かったぜ! あの派手な雷とかな! ド派手でかっけえじゃねえか!!」


「ああ……どうも。うん、どうも? どうも……」


 脳の処理が追いつかない。今褒められている?


「お前がいるなら心配ねえや! あの派手に光るやつで豪快に護衛頼むぜ!」


「いやあのチームが強かっただけだぞ」


 これは本当だ。チームカムイ最弱だぞ。冗談でも謙遜でもなく、鎧無しでガチったら絶対に勝てない。


「サム、そろそろ出番よ。準備なさい」


「おっとわりいな! じゃあ楽しんでくれよ!! シンフォニックフラワーもな!」


「ありがとうございます」


 派手だが別に敵ではないので、みんな普通に接している。

 敵の可能性はあるが、失礼な事をして警戒させる必要はない。


「じゃあねグレモリー。先陣切らせてもらうわよ」


「好きになさい。順番程度で負けるはずがないわ」


 そして俺たちとグレモリー軍団しかいなくなり、少し現状を整理する。


「さっきのやつら有名なのか?」


「優勝候補ナンバー5くらいですね」


 評判は普通より上だとか。派手なパフォーマンスに傾倒しているらしい。見てみればわかるかな。


「サカガミさん、お知り合いではなかったようですが。あの方とどのようなご縁が?」


「BODって聞こえたわねー」


 無駄に注目を集める。やめろ。別に俺だけで成し遂げたわけじゃない。


「こやつ今年のBOD若者の部、準優勝チームじゃよ」


「あのダイナノイエで毎年やってる武闘大会?」


「えええぇぇ!? サカガミさん実は強いんですか!?」


「違う。チームメイト三人が強かったんだよ」


 チームが強いのは事実なので、俺の手柄みたいにしてしまうのはNGだ。

 ヴァン、カムイ、ルシードが揃えば、お荷物が一人くらいいても決勝まで行けるだろう。あいつらがまず強すぎるんだよ。


「後でちゃんと調べておきますわ」


「やめとけ。まずライブに集中しろ」


「あのーいまさらですが、カエデたちも来ちゃってよかったんでしょうか?」


「構わないわ。四人だけ残すのも、別行動するのも敵にチャンスを与えるだけよ」


「そうだね。わたしたちがちゃんと守るけど、できれば一緒にいて欲しいかなって」


 シンフォニックフラワーは、グレモリー陣営の知り合いとして見学している。

 窮屈かもしれんが、個別行動は控えさせた。


「敵が何かしてきても、グレモリーさんは問題ありませんね?」


「わたくしは魔王。戦闘もできますわ」


 当然だが超人や達人でも勝てる可能性は限りなく低い。ほぼゼロ。

 なんせ魔王だ。そのへんの下級神くらいぶっ飛ばせる。人間が太刀打ちできる相手じゃない。


「四人は俺たちから離れないこと。ある程度のサポートはする」


「そろそろ始まりますわ」


 舞台袖で見学するが、たしかに危険でやかましい。


「おっしゃあいくぞお前らああぁぁ! 今日も魂燃え尽きるまでいくぜええええぇぇ!」


 炎を振りまき、多少火薬を使っているのか、要所要所で爆発が起きる。

 ロックに近いだろうか。それでも客席に被害は出ない。気を遣っているのだろう。


「今の所は問題ないな」


「うむ、爆破音が少し大きいくらいじゃな」


 歌って踊るし、楽器もそれぞれ担当しているっぽい。もうちょい爆破と叫ぶような声をなんとかすれば、聞きやすいし悪くないはず。いわゆる熱くなる系のアニソンに近い。


「熱血アニメ主題歌みたいで嫌いじゃないんだが……」


「万人受けは難しいから、それで上位ではないというところかしら」


「熱いエネルギーは感じるが、我らとは方向性がまた違うな」


「けれど固定ファンがいるのですわね。それもまた大切なことですわ」


 四人も分析を始めている。この何でも聞いて吸収しようという姿勢は素晴らしい。

 邪魔しないようにそっと護衛していよう。


「ありがとう!! メインライブ用に新曲準備中だ! 期待してろよ!!」


「さあ続いてはあの魔王グレモリーのライブよ! 出てらっしゃい!!」


 バーストフレイムが素早く紹介と退場を終え、熱が冷めないうちにグレモリー陣営が駆けていく。


「さあいくわよ! ここからトップアイドルのステージが始まるわ!!」


 実に堂々とした態度である。登場した瞬間、客が大きく湧いた。


「流石だな」


「とても綺麗ね」


 やはりトップアイドルを自称するだけあり、そのパフォーマンスは圧巻である。

 すべてが完璧で、一部の隙もなく、観客を魅了してやまない。


「本当にトップスターよねえ。お姉さんちょっと自信なくしちゃうわ」


「今はしっかり目に焼き付けるのですわ。本番で負けないように」


 バーストフレイムと同じく三曲やる。順番も簡単で乗りやすいものから始まり、緩急を考慮して進んでいく。


「歌手の歌に近いな」


 かわいい系のアイドルがやる歌じゃない。圧倒的歌唱力で虜にしつつ、明るいメッセージを織り込んでいくのだ。


「それじゃあ最後の曲! 気合い入れていくわよ!!」


 その時だ、バーストフレイムが使っていたのと同じ種類の爆発が起きる。


「きゃ!? ちょっと何!?」


「何だ今の!?」


 どうやら想定外らしい。少し客がざわついた。


「派手な演出どうも。負けずにやるわよ!!」


 すぐに立て直し、歌に入っていく。プロだな。正直かっこいい。


「ありえねえ。オレらの仕掛けた火薬は全部使い切った。あんな場所には仕掛けちゃいねえ!!」


 舞台袖に戻ってきていたバーストフレイムから、疑問の声が上がる。

 よくないことが起こり始めているようだ。


「火薬は後いくつある?」


「もうない。危ねえから、オレらがいつも先行して使い切るんだ。ちゃんと場所も把握してる」


 言っている間にまた爆発が起きる。今のは少し近かったぞ。


「ライブ止めるか?」


「あたしらがやったって言われるかも」


「怪我人出るよりゃマシだぜ」


「今止めればいい」


 簡単だ。シルフィにそっとステージ下の時間を止めてもらうだけ。これでもう爆発は起きない。


「爆発は起きなくした。説明はできんが、他に懸念は?」


「すまねえ、それ以外にゃ別に……」


「機材は全部チェックしたわ。照明や機材が少し緩んでいたけれど、もう大丈夫」


 イロハの影を薄く細く伸ばし、簡単に点検してもらった。


「みんなありがとう! これからも応援よろしくね! 期待には必ず応えるわ!!」


 やがてグレモリー陣営は大盛りあがりで終了した。

 こちらへ笑顔で戻ってくる。誰も怪我しちゃいないようだな。


「おつかれさま!」


「おつかれさまでしたー!!」


 ライブは終了したようだが、俺たちの本番はここからだ。

 無駄な仕掛けをしたやつを調べ上げなくては。


「さて、爆薬は誰が仕掛けた?」


「ワタシだよ護衛君。正確には粉と煙が出る仕組みさ」


 知らんスーツ着たおっさんが出てきた。まだ新キャラ増えるのかよ。


「ちょっと待ちなプロデューサー! オレらは聞いてねえぜ!!」


「プロデューサー?」


「アイドル科の新しいプロデューサーだよ。今回のライブもあの人発案さ」


 ほほう、こりゃ犯人が出てきてくれたかな。


「理由をお聞きしたい」


「観客が求めているからだよ」


「あんなのオレらのファンが求めるもんじゃねえ!」


「それは未熟な君たちの願望だろう? 大衆はね、ハプニングが大好きなのさ。トップアイドルのグレモリーが、年頃の女の子のように爆発に怯えて粉まみれになるシーンとかね」


 随分と俗っぽいやつが出てきたもんだな。というか魔王に普通に喧嘩売るかね。

 こいつも魔王だったりするのだろうか。


「必要ないわ。わたくしのパフォーマンスはパーフェクトよ」


「本当に? 珍しいものを見れて、客は得したはずだよ」


「プロデューサー、オレらのライブでやるのはやめてくれ。他人に迷惑かけてまで、上に行こうなんて思っちゃいねえ」


「綺麗事で渡っていける業界だと思っているのか? 青いだけだな」


 あれだ、タレント使い潰すバラエティみたいでつまんねえんだ。クオリティの高い連中でやることじゃない。方向性間違ってんよー。


「では不発弾が爆発すると危ないので、残りの場所を教えて下さい。このままじゃ知らない人が巻き込まれる」


「まあいい。案内しよう」


 というわけで全回収。後四箇所もあった。どうやら大事故にはならない設計だが、それは可能性のお話。だめだな。


「こんなに……怪我人が出たらどうすんだよ!」


「出ないさ。そう調整してある。観客は派手好きだし、君たちもすぐ対応できただろう?」


「できるからいいというものでもないわ。わたくしのライブでは一切を拒否します」


「トップというのはお高く止まるものだね」


「オレらもだ。嬉しくねえよ、こんなやりかたで客が楽しむのなんて……どうせもっと過激になる。そしたら事故っちまう。それからじゃおせえんだよ!!」


 サムの言う通りである。こういうものは歯止めが効かなくなる。そして責任を取るのは下っ端。もしくはアイドルだろう。


「それでやっていけると思っているなら好きにしたまえ。後悔しても助けはしないよ。本当にいいのかい?」


「結構よ。王道は曇り無い道。魔王の道よ」


「あがいてみればいいさ。子供のわがままだと気づくまでね。失礼するよ」


「待って。照明などの機材が緩んでいたわ。それもあなたの仕組んだこと?」


「照明……? 何を言っているんだい?」


 あれ? マジで以外そうな顔だ。そこからは完全に知らないと言い切っている。


「そんなものは別の人間の不備だろう。そっちに聞いてくれたまえ。他のアイドルを育てないとね。なんならそこの無名アイドルでもプロデュースしてあげようか?」


「お断りします!」


 四人ともはっきりと断っている。まあうさんくさいし、使い潰されるのが目に見えているからな。険悪になりそうなので、渋々だが割って入ろう。


「本人たちがこう言っているので、お引取りください。護衛しなければいけないので」


「護衛君、君もワタシの言うことが理解出来ないのか?」


「あなたは別に正しいことを言っているわけじゃない。結局はあなたのお気持ち表明と言うだけ。こちらも学園を通された依頼で動いている。よって初対面の人間を不用意には近づけません」


「つまり、君はワタシに悪印象を持たれても構わないと」


「まあそんなところです。これで失礼します」


 あまりやりたい手段じゃないが、権力で潰そうとするなら、こちらもそれに応えて終わらせることが可能だ。俺が暴力で潰すのも可能。ならないことを祈るけど。


「さて、じゃあ準備を担当していたスタッフに聞き込みでもするか」


 頼むからさっさと解決してくれ。面倒事を増やすな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る