城突入するしもうすぐ最終戦であってくれ頼むから

 王都を無事制圧できた俺達は、民間人の救出と部隊の統率を第一とした。

 城へと攻め込む前に安全を確保したかったのだ。


「こりゃ夜襲になるかね」


「なーに、日が落ちる前までに片付けりゃいいんだぜ」


 もう夕方だ。夜は敵が逃げるにはちょうどいい。なるべく早期決着が望ましいだろう。6ブロックと一緒に城を取り囲んで様子を見るが、どうにも敵が出てくる気配がない。


「報告! 潜入した超人が戻りました!」


「結果は?」


「誰もいませんでした」


 実際に話を聞いてみるが、完全に生活用品すらない部屋がほとんどだという。


「確かか?」


「はい、なんと申しますか……埃もないが人もいない、とでも……玉座の間だけは結界があり、手出しすべきではないと判断し帰還いたしました。三日月様が苦戦されたとのことで、単独で結界をいじるべきではないと判断しました」


「よき判断だ。あれはオレが倒さねばどうにもなるまい。あっぱれである」


「ははっ!!」


 超人さんが褒められて嬉しそうだ。

 しかしどういうことだ。もう城しか残っていないんだぞ。ここが落ちたら9ブロックどうするのさ。


「判断材料が少なすぎますね」


「こりゃどうしたもんスかねえ」


 6・8合同会議は完全にストップした。ここにきて黒幕不在は絶対やだ。倒して帰りたいんだよ。試験終わらせてくれ……試験、試験ね。その可能性もあるか。


「こりゃ捨てたか売ったな?」


「どういうこと?」


「俺も国まるごとどっかに売って、その金で成績上位に入って自由に動くというプランを考えたことがあります」


「おい国王」


「あくまで負けそうな気配を感じたらやる最終手段ですよ。保険です保険」


 思いのほか内政が楽しく、メンバーが常識のある連中だったので、このプランは棄却した。おかげで楽しかったんだが、9ブロックは実行したのかも。


「なるほど、どうせ追い詰められたのですから売ってしまえばよいと。褒められた姿勢ではありませんが、納得はできます」


「もしそうじゃなければ、9ブロックの勇者科は……」


「とっくに死んでいるでしょ。さてどちらかな」


「考えても仕方ないスよ。今は突入メンバーを決めましょ」


 勝利宣言をするためイノは確定。護衛でガンマ確定。三日月さんは絶対にいて欲しいのでこれまた確定。


「サカガミ殿もご同行願います。オレ以外の見届人も必要でしょう」


「まあそうですよね」


 渋々といった態度にしているが、これは三日月さんと打ち合わせしておいた。まず間違いなく輪廻転生宇宙怪物のボスがいるのだ。あんなもん俺にしか対処できん。


「アジュが行くなら私も行く。護衛は必要」


「イズミか……今回は私にしないかい? ここに来るまでアジュと一緒だったんだろう? 今度は私が行くよ」


 ここで事情を知るホノリが名乗り出る。ホノリが強いというよりは、事情を知らんイズミを連れて行ってごたごたしたくないのだ。


「私はアジュのアサシン」


「今回は姫を守ってくれ。ボスも姫と6ブロックを守って欲しい」


「…………わかった。何かあればすぐ呼んで」


「こっちは任された。正規軍のお仕事がんばれよ」


 ボスは国の問題に関係ない。義勇軍とは自由なのである。よって姫の護衛をさせる。多分これが一番やる気出るだろ。


「肝心の姫はどうした?」


「全部終わったら祝勝ライブの予定なんで、その準備スね。それ原動力の兵士も多いんで」


「独特だなお前ら」


「では私、ガンマ、三日月様、サカガミさん、リウスさんの五名とします」


 超少数精鋭だ。本当は俺と三日月さんとイノだけがいいんだけど、あまりにも不自然だからね。そこは妥協するのだ。


「俺達が入ったら城に結界を張ってくれ」


「城に?」


「王都全域にかけるより簡単なはずだ。城の周囲を円筒形に取り囲むようにするといいはず」


「了解。お気をつけて」


「死ぬんじゃねえぞアジュ。オレの隣で姫のライブ見るんだからな」


「んな約束していないが……まあ覚えておくよボス」


 そんなわけで無人の城の中へと突入する。どんな罠があるかわからないので慎重に行こう。正門を抜けて廊下を歩く。広くて清潔だが、俺達以外の音がしない。


「敵がいないのはどういうことなんスかね? 合宿の変なやつは出ないんスか?」


「出ないぞ。別の場所にいるやつも全部潰した。案外あれに守らせるために兵士が邪魔だったのかもな」


「なんにせよ三日月様のおかげで無事にお城まで到達できました」


「オレは最低限の働きをしただけです」


「まあ、謙虚なのですね」


 イノは三日月さんに敬意を払っているのか、前に話したときよりおとなしい。いいぞ、そんな感じで厄介そうな女王様ムーブは封印しろ。


「これはもう敵は玉座の間にしか……おっと、まだ残っていたようです」


 近くの彫像が動き出す。2メートルちょいだな。武器を持っているやつも含めて十体くらいか。


「ふっ、今更こんなものでホノリとガンマが止められるかよ」


「自分で動け自分で」


「俺めっちゃ頑張ったし。どうせ最後は俺だろ? 休憩タイムだ」


「しょうがないねえ……ガンマ、女王様はよろしく」


「了解ス」


 ホノリの両腕についていた武装が改良されて小さくなっている。あれどう使うのかちょっと見たかったんだよね。


「さーて、やってみますか!」


 腕の小型パイルが飛び出し、火花を散らして敵を貫通する。

 前のようにでかいやつじゃなく、ホノリの腕よりも細い。ドリルのような形状で、螺旋を描いて魔力が飛んでいくのが見えた。


「おおー、こいつは派手な進化しやがったな」


「爆熱の一点集中だよ。威力を上げて、貫通力を出す。小回りがきくようにしながら、全装備の質を上げたのさ。魔力の質と技量さえ習熟させれば、武器をでかくする必要はなくなった」


 背後に迫る石像に向けて軽く腕を振って、数十発の魔力パイルが連射される。


「連射速度も上がっているから注意しなよ」


 ホノリの意思一つで散弾にも貫通弾にも変わるらしい。遠距離にも適応したことで、戦闘手段が格段に増えている。こういうギミック武器好き。もっと見たい。


「業物であることはわかるが、学園とはそれほど特殊な武器もあるのか」


「私は鍛冶屋の娘。こういうのは得意分野さ」


「ほほう、自作スか。リウスの一族ってのはやべーッスね」


 ヘファイストスさんの血筋だからなあ……鍛冶の神ってのはやばいね。

 なんて考えている間にも、どんどん敵は倒されていき、ラストの一番でかいやつが残った。


「よし、こいつで……ん?」


 4メートルくらいの石像の腹から、鉄のような生物のような変な紐だか棒だかわからんものが出てきた。


「うわっ!? 気持ちわる!?」


「何だこれ……腕?」


 何本も出ているそれは、なんとなく生物の腕であるような、けどやっぱり物質であるような、とにかく曖昧な何かだった。


「触れぬ方がよろしいでしょう。どうやら周囲の無機物を取り込んでいるようです」


「最速で潰す! プラズマイレイザー!!」


 ああいうのは進化前に潰すのだ。表面の鉱石を破壊して、内側の気持ち悪い核を露出させた。そこをすかさずガンマの剣が砕く。


「消滅していく……生物ではないのか?」


 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、消滅する時に目のようなものがこちらを見ていた気がした。石像の顔には似合わないほど小さかったが、気のせいだろうか。


「こりゃ何が待っているかわからんな……しんど……」


「注意して行きましょう。こんなところで怪我なんて馬鹿らしいわ」


 とりあえず玉座の間だ。そこに敵がいれば倒して終われる。

 頼むから穏便に終わってくれ。ないだろうが9ブロックが降伏でもしてくれることを願わずにはいられなかった。







――玉座の間 ???視点――


「ふうん、あの騎士だけじゃないの。他の子も変な力が混ざってるのね」


 監視しながら別世界の記録と照らし合わせてみる。なるほど奇妙だ。

 こうして勇者科の性能チェックをしつつ、もっと成果のある記録を残したい。

 だからたまに別世界を覗き見る。世界と世界を比べていく。


「ふふふ……面白いの」


 本来アカシックレコードの監視している世界は一個ではない。

 プレコおねえさまのように、あらゆる異世界を観測はできないけれど、あれこのようにオルインだけを集中して観測しているものも非常にレアケースだ。


「ふーん、順調に進化してるのね。今年の勇者科一年は凄いの」


 ここはわたしだけの世界。私こそ世界そのもの。ワタシが作った世界であり、わたしの体のようなもの。世界と概念を自由に創造し、自分だけのプライベート異世界で仕事をする。アカシックレコードの基本だ。


「この力が解析できれば、おねえさまに褒めてもらえるの」


 プレコおねえさまこそすべて。だからこそ役立つ知識がないか、それこそ世界の隅々まで、宇宙の外まで見る日常を過ごしていた。

 そしてある日、何かが見えた。世界と世界の狭間のような場所。何も存在しないスペースを見つけた。そんなのありえないはずなのに。

 それが何なのかわからなかった。別世界の何かだと思った。

 ふと目が合った気がした。世界そのものと? 世界のはずなのに目があるの?


「まったく便利なの。外の世界も使いようなの」


 それはとても深く暗く、深淵に潜む概念であり神だったと思う。

 私を認識したのだろう。じんわりとその意識をこちらに向けてきた。

 触れていないのに溶け合っていく。世界と融合する。無限を内包した世界に、わたしの存在が重なっていく……アカシックレコードに重なることなんてあるのかなあ。そいつの目論見ではするりと、まるで壁なんて無いように意識が溶けていくはずなのだろう。


「ふふ、本当におバカさんだったの」


 だから食ってやった。

 おそらくとても強い神だったのだろう。人間では滅ぼすことが難しい、危険な神だったのだろう。

 けど甘い。オルインの神やアカシックレコードを塗り潰すには力量不足だった。だから食い尽くして糧にしてやったの。そいつの宇宙まるごと餌になってもらった。


「ふふ、きたきた。何も知らない勇者がきたの」


 新しい力はとても甘美なものだった。いくつもの宇宙や世界を吸収してきたけれど、特別禍々しくて暗い、けれど便利な力だ。

 少し世界を俯瞰すれば、玉座の間に来るのが手にとるようにわかる。勇者システムに適合している人間を殺せれば、主人公補正を破れる証明になるかもしれない。

 そのためにオルインとは関係ない世界の力はどう作用するのか、これもまた実験記録だ。


「おねえさまの野望に近づくの。そのために、もっと混乱を、混迷の時代を、狂乱の宴を続けるの」


 人間の混乱と不和によって力は増す。慟哭が、狂気が、混沌が今の私の食事。まだまだこの都合のいい箱庭は壊れてもらうの。腐り落ちるようにずるずると。

 心の壊れた人間は、とてもいい糧になる。今から楽しみだ。


「ふふ、ふふ、ふふふふ、さあいらっしゃい勇者科。本物のアカシックレコードを見せてあげるの」

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