カルト宗教愚弄詰め合わせセット

 聖地の城からワープゲートでさらに別の場所へ。そこは巨大な木の根元だった。


「これ世界樹ってやつか」


「ここが世界樹の根本です。本来立ち入ることはできないのですが、例外的にみなさんを招待します」


 俺達七人はマナの案内で根っこの上を歩く。下は薄く水が流れており、透明度がとても高い。


「空気が澄んでおる……これは澄みすぎじゃな。無菌室で栄養剤ぶちこまれているような空間じゃ」


「古来よりの血筋であるエルフも長居はしません。急ぎましょう」


 根っこの一つに剣が刺さっている。黒くうごめく何かを刺しているようで、きっとあれが心臓だ。


「神様の心臓って始めて見た……あんななんだね」


「本当に浄化しないのですね?」


「しない。徹底的に根絶やしにするには足りない」


「では封印を解きます」


『ガード』


 事前にガードキーで心臓を囲む。これで瘴気が吹き出すことはない。

 心臓の輪郭がくっきりしてくると、ドス黒くゆっくりと脈打つ臓器であることを意識させてくる。でかい。バスケットボールくらいあるぞ。


「オトノハさんが近づけば浄化の力が働くと思います」


「おおっと、ここでまさかのご指名ですかぃ!」


「流れ的にそうなるだろ」


「折角の機会ですから、完全に潜在能力を開放してしまいましょう」


「オトの中に隠されたパワーが……?」


「かなりの量眠っているかと」


 王族の特殊な力と才能だもんなあ。王族の才能ガチャなんてえぐいもんが眠っているに決まっているのだ。ずるい。


「よーっし、ならやってみる! 世界のみんな! オトにちょっとだけ元気を分けてください!」


 オトノハの体が輝き出し、あらゆる生命力が集結していく。

 そしてマナがオトノハの背中に触れると、後押しするかのように力が集う。


「世界樹の神マナの名において命じます。この世の生きとし生けるものよ、オトノハ・サーシャクルの潜在能力を開放するため、力を貸しなさい」


「うおおおぉぉぉ! すごぃ……なんてすごいんだ……オト!!」


「自画自賛か」


 世界樹と同じくらいでっかい光の柱に包まれ、収まった頃にはオーロラのように輝くオトノハがいた。

 髪の毛がキラキラと透き通るように輝き、光の反射で何度も色が変わる。


「これが……スーパーオトノハゴッド!!」


「ネーミングセンスが男子だな」


「名前はちょっとあれだけど、パワーは一気に上がってるわ。かっこいいわよオトちゃん!!」


「お姉ちゃんありがとー! いえーい!」


 下級神レベルになっている気がする。どんだけ急激に上がるのさ。お前らマジでずずるいな。オトノハは機嫌がいいのかノリノリで光っている。


「秘められしパワーを手に入れたオトに敵はいない。きっと。たぶん」


「慢心するでない。それで倒せるのはフランとパズズくらいじゃぞ」


「そこに並べないでちょうだい。えっ、みんなそんなに強いの?」


「安心しろ。鎧なしの俺が一番弱いから」


「いつも通り安心できないわね」


「さあ勝負だ心臓!」


 オトノハが心臓に近づくと、溢れていた瘴気が浄化されて消えていく。

 ネーミングはともかく威力は凄まじい。特攻かかるのはいいことだ。


「完全に消すんじゃないぞ。教祖の前で殺さないとつまん……意味がない」


「つまんないって言おうとしたわね」


「アジュは観光楽しみにしてたもんね。根に持ってるんだよ」


「円満に解決したら、聖地の観光をお約束します」


「やる気出てきたぞー」


 旅費が浮くのはありがたい。ぱぱぱっと終わらせよう。

 鎧で敵地の生命力をサーチして、手刀で空間に裂け目を作れば完成だ。

 最初は小さな穴を開けてみよう。


「間もなくだ! 間もなく我らの神が降臨する! 聖地を踏みしめ、我らゲオダッカルの天下がやってくるのだ!!」


 髭のおっさんが演説している。あいつ紫や水色の肌のおっさんと顔が一緒だ。さてはオリジナルだな。


「打ち合わせ通り、まずは私とオトノハ様で戦います」


「私もやれるだけやるけど、あんまり期待しないでね」


 ネフェニリタルのことはネフェニリタルで解決する。それができるに越したことはないのだ。フランが不安なのでギルメンが守る方式です。さてうまくいくのでしょうか。俺に負担かかりそうでアレだねえ。


「そこまでだ!!」


「何奴!?」


「ネフェニリタル超人ヒジリ!」


「オトノハ・サーシャクル参上!」


「フランチェスカ・サーシャクルよ。あなた達のたくらみ、すべてずずいとお見通しだ! 観念なさい!!」


 信者の間でどよめきが起こる。だが教祖は動じずに言い返した。


「ふっ、敵国の王族とは都合がいい。まとめてここで死ねい! パズズ様への供物としてくれるわ!」


 武器を構えて出てくる信者ども。武装信者も当然いるよな。


「秘剣! 桜花繚乱波!!」


 だが超人の敵ではない。花吹雪のような斬撃であっさりと片付けられる。


「やれやれ、どうやら無駄な時間であったようだな。貴様らの神は既に我がネフェニリタルに敗北した弱小の神! そんなものを崇めていては、貴様らの戦力もたかが知れるというものだ!」


「なっなんだと貴様あああぁぁぁ!!」


 ちゃんと挑発してパズズの評判も落としている。いいぞ俺たちも参加しよう。ちなみに四人とも幻影で別人になっている。


「パズズってあのきっしょい石像のことか? きっしょ、もう掘るな。そして死ね」


 四枚の翼に獅子の顔。鳥の足に、しっぽはサソリかな。キメラみたいだ。


「顔がね……キモくて嫌いだよ」


「格好が恐ろしくださいわ。宗教で稼げる神じゃない。早くまともに働くべきよ」


「信者すら加護しない神は神ではないのう。病気持ちじゃなきっと。哀れ」


 とりあえずボロカスに言っておこうね。

 今日消える邪神なんてそんなんでいいんだよ。


「ええい何をしている! 全員でこの異教徒どもを殺すのだ!!」


「簡単にやられると思うなよ!」


 近くのカルト野郎をぶん殴って頭を破裂させる。この程度でびびる連中が多いのは意外だな。楽できていいや。


「はっはっはっは、お前らの神は異教徒から守ってもくれないんだな。どんなカスだよ。弱小のザコを崇めていた気分はどうだい?」


「黙れ! まだだ、まだパズズ様が復活すれば希望はある!」


「復活しないってことは、お前らは見捨てられたんだよ」


「違う。パズズ様は我らの救いだ!」


「なら死ぬ気で祈ってみな」


 信者がまとまっているところに火をつける。叫びながら火だるまになっていくアホどもは、いい加減弱い神に頼る無意味さを知るべき。


「ぎゃああぁぁ!!」


「火が! 火がああああ!!」


「ほらほら祈りはいつ届くんだ? 届いても助けられないのかもなあ」


「神を愚弄するなあ!!」


 ザコどもはこの時点で全滅させてはいけない。まだ使い道がある。なので適当に腹パンかましたり、頭を掴んで投げたりする。ドミノみたいで楽しい。


「優秀なのは姉だと聞いていたぞ! 妹が超人だなどと聞いていない!」


「オトは超人じゃない。けどあなたを倒せる! みんなが力をくれるから!」


 敵の手足を掴んで振り回していたところ、敵のじいさんがオトノハにボコられているのが目に入った。光速は突破しているだろう。


「ぬぐううぅぅ! 小娘ごときに! 神の使いである私が負けるものか!」


 言う割には接近戦で負けっぱなしである。教祖の攻撃を徹底したカウンタースタイルで迎撃していく。あの戦法は度胸と技術が要求されるし、相手には挑発と焦燥の効果がある。


「えい! てりゃ! そおい!!」


 一発一発に聖なる力が加算されている。カウンタースタイルのため敵はろくに防御もできない。あれならまず負けないな。


「ぬああぁぁ! おのれエルフ! おのれネフェニリタル! パズズ様の復活を邪魔する害虫どもが!」


「パズズ様というのは、これのことか?」


 俺が心臓を投げ渡すと、心臓にくっついていた血管が教祖を貫いた。

 おいそんな機能知らんぞ。


「ぬぐうっ!? これはまさしくパズズ様の……ならばここにいる全教徒、貴方様の復活の糧となりましょう。どうか復活を!!」


 近場の信者を突き刺して生体エネルギーを吸っているようだ。急激に魔力が集まっていく。心臓が復活のためのエネルギーを蓄積しているのだろう。


「おおっ教祖様がパズズ様と融合なさる!」


「素晴らしい……異教徒など打ち滅ぼしてください! そのためなら、この身も惜しくはありません!」


 アホどもから喝采を浴びる教祖は、みるみるうちに皮膚が緑と紫で染まっていく。


「ウガアアアァァァ!!」


 やがて石像そのままのパズズが復活した。いや胸にでっかく教祖の顔が浮き出ているな。


「キモさを上げてくるなや」


「感じるぞ……忌々しいネフェニリタルの血族、そして王刃の血族よ」


 地獄から直接響くような怨嗟の声だ。太く濁った男の声が、この神殿に広がる。


「おやおや、わしもわかるとは恨みの深い」


「僥倖なり。貴様らの心臓をえぐり、復讐を果たす」


「オトノハ、いけるな?」


「もち! あでもちょっとフォロー欲しいです」


「仕方のないやつだ」


 俺とオトノハでパズズを殺すことになった。さて両者の実力やいかに。

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