財王竜ファフニール
神との戦いもいよいよ最終戦。
今回はイロハと二人で戦うことになった。
「それではテュールの腕をいただこうか」
一息で距離を詰めてくる。狙いは当然イロハだ。
俺に何やら金の槍のようなものを撃ち出してくる。
足止めのつもりか小賢しい。
「なんだこりゃ?」
拳で砕くが、どうも感触がおかしい。
そもそもこの槍、中身まで金色だ。
「そこだ!」
突き出された金色の剣を、肉体を影にして地面へ逃がすことで避けている。
既にカゲハモードになっているし、敵の光速移動にも追いつけるだろう。
魔力をたどると、男の背後から影が忍び寄っている。
「そこよ!」
「甘いな」
イロハ特製影の槍を百八十度上半身だけ捻って回避。
こいつ体どうなってんだよ。
「柔軟な体をお持ちで……」
「この程度、驚くほどでもあるまいよ」
神ってわけわからんなあ。
こいつの魔力を探ってみると、床に影と混ざって別の魔力がある。
それはイロハに集まっていくようで。
「イロハ飛べ!」
「遅い!!」
地面から無数の金の槍が飛び出し、舞台を満たす。
「鬱陶しい!」
こんなもんで俺に傷はつかない。
だが全てが生物相手なら必殺の威力である。
「ほう、楽しませてくれるな人間。だがお前の守るべき女はどうかな?」
「なに?」
上空へと飛び上がったイロハの腕から、一筋の血が流れていた。
影であるはずのイロハに傷をつける。
それは並大抵の素質ではない。天性の異能か、何らかの技術が必要だ。
「回復すりゃいいだけさ。あいつに傷をつけた代償をいただこう。火遁!!」
回復魔法を飛ばし、素早く爆炎で男を包む。
『エリアル』
空中のイロハを回収して、魔力で足場を作っておく。
体調確認。よし、イロハに傷は残っていない。
「無事か?」
「ええ、ありがとう」
火遁に俺の魔力を込めた。
あのローブに耐火性能があれば、その性能ごと焼き尽くす。
「ふん。やるものだ。警戒すべきは貴様か」
「両方だよ。簡単に勝てると思わんことだ」
「そうか、ならばこれはどうだ人間!」
やつの顔にあたる部分から、炎とローブを吹き飛ばして紫の煙が広がっていく。
まだエリアルは発動中だ。イロハを抱えて横に飛ぶ。
「鬱陶しいことこの上ないなあいつ。イロハ、飛び方わかるな?」
「ええ、ちゃんと練習したもの。もう少しこうしていたいけれど」
「やめとけ。死ぬよかマシだろ」
エリアルキーで足元に出す魔法陣は、俺が権限を与えれば他人も使える。
人数分出せるし、驚くほど魔力消費が少ないので快適だ。
そのまま逃げるつもりだったが、不意に影がさす。
「影? これは……」
「違う、私じゃないわ」
見上げるほど大きな金ピカのドラゴンがそこにいた。
頭の大きな角から、両手足の爪や尻尾。鱗まで完全に純金だ。
「黄金竜ファフニール。その右腕貰い受ける」
空を覆うように、舞台にドーム球場のような屋根ができる。金で。
こいつ存在そのものが金でできているのか。
「もらったぞ!!」
紫の煙は口から吐き出していたらしい。
仕方がないので緊急解析。鎧の知識と経験を引き出すと。
「これは……毒? 今更俺達に毒なんて通用しないぞ」
毒だ。それもかなり特殊な。それでも鎧に状態異常なんて無効。
イロハも影なんだから、毒が効く神経なんて影にしてしまえばいいわけで。
「どうかな?」
「う……あぁ……」
魔法陣の上で膝をつくイロハ。影で覆われている顔が苦しそうに歪んでいく。
「イロハ!!」
ヒーリングをかける。毒が効いているようだ。影の体にどうして。
「この毒は全身を斬り裂く剣の毒だ」
「なにをわけのわからんことを……」
「神である余の体内で、神剣フロッティと魔剣グラムを消化し、その特性を手に入れた。そこに余の神力を加えた、最大の毒だ」
一瞬どういうことか戸惑ったが、言っていることをそのまま捉えたら。
「剣を食ったのか?」
「ああ。余は財宝が好きだ。ありとあらゆる金銀財宝。宝剣。宝石から美術品までな。あまりにも好きすぎて食ってしまったわ。その身が金になるほどに、な」
「狂っているわ」
「神の腹の中だ。これほど安全な保管場所はあるまい。いつでも純金製で錬成できる。このようにな! 金砲!」
両肩にでっかい大砲出しやがった。
撃ち出される魔力波まで金色だ。こういうやつを成金趣味というのだろう。
「全ての財宝を喰らい、我が血肉と化して自在に取り出す財宝の王。ゆえに余の二つ名は財王竜!」
「影筆!」
『金を消す』
影筆で舞台に文字を書く。これでこの空間から金が徐々に消える。
「小賢しい!」
腹の部分から金色の光が放たれた。
光は舞台に反射してめっちゃくちゃに暴れまわる。
「神の力をなめるな!」
影を金の輝きが埋め尽くしていく。その全てに神の力が流れている。
「影など埋め尽くせば良い」
「無駄に神格が高いわね。相性も悪い」
「んじゃ切っちまおう」
『ソード』
この剣に切れないものはなし。ドラゴン本体に接近し、胴体を横一閃。
だが魂を切った感覚がない。
「金って変な手応えあるな」
一応痛みをプレゼントしてみるが、絶叫は聞こえてこない。
こいつ本体じゃないのかも。
「かかったか……その筆いただく!!」
背後から声がする。ドラゴンの口が、イロハの右腕を食おうとしていた。
「調子に乗るなよトカゲ!」
回避行動に移るイロハを確認し、ファフニールの顔に蹴りを叩き込む。
「ぶっふう!?」
金が破裂して液体のように広がっていく。
これ売ったらお値段どんなもんかしら。
「液体となった余を足蹴にするとは、ますますもって気に入らぬ」
「知るか」
「だがここからは余の独壇場よ! 金筆!」
ドラゴンがでっかい金の筆になる。
影筆の先端を食われたらしい。
「おいおい取り込んだってのか?」
「これは……まずいわね」
『影を金で上書きする』
文字通り影を侵食していく。
そのスピードは緩やかだが、あまりいい状況じゃないな。
「私の力が負ける? どうして……」
「黒より金の方が豪華だからだ!」
「アホか!!」
こんなアホに構っているほど暇じゃない。
反撃の手段を考えていると、イロハの足がふらついてきた。
「どうした?」
「ああ、影筆を食ったときに少々毒を入れておいた。影と同質のな」
ヒーリングをかけるも通用しない。
同じものとして力が馴染みつつあるのか。
「死にたくなくば我が身を喰らい、血をすすれ」
「金は食用じゃないだろ」
「気づいているはずだ。膨大な金の中に、核のように血が固まっていることを」
切ったり殴ったりしていて気がついていた。
あいつの体は全てが金じゃない。殺せないわけじゃないな。
「なるほど。なんとかなりそうだな」
「ほう、仲間が傷つけられたというのに冷静だな。激昂し、余に挑むが人情というものではないのか?」
「これは殺し合いだ。そしてイロハはそれを知りながらこの場にいる」
「神との戦いよ。無傷でいられるとは思っていないわ」
「そりゃあ傷もつくさ。なら俺はその傷すべてを癒し、お前を殺す」
やることはシンプルだ。こいつを殺す。ただそれだけ。
「悪いがもう手加減はしてやらんぞ」
「神相手に手加減か。ならば本気とやらを見せてみろ」
「はいはい」
「いくわよ、影の兵!」
巨大な影でできた兵隊が、ファフニールに一斉攻撃を開始する。
「金の兵よ!」
それを同じく金でできた兵が迎え撃つ。
なんともスケールがでかいな。目がちかちかするわボケ。
「さて、それじゃあ今のうちだな」
金と黒の波が会場を満たしまくるのがうざい。
さっさと魔力の発生源へ移動。舞台中央っぽいが、もうちょい遠い。
「そこか。フウマ十字手裏剣……倍化!」
たまには忍術使おう。この姿じゃないとできないし。
でっかい手裏剣を更に倍化して、投げたらどんどん増える。
こっそり分身と変わり身の術も使用。
「無駄だ。流れる金を傷つけようとも、また元に戻る。そこに不屈の美しさがある」
「お前の価値観なんぞ知らんな」
両手に雷を集約しながらジャンプ。
上から太い鉄針をぶち込んで、核のある場所へ目印をつけたら準備完了。
「雷遁!」
天から大量の稲妻が降り注ぐ。
その全てが鉄針めがけて落ち続けていく。
「ぬうぅ!!」
真っ赤な球体。それも飴玉クラスの大きさだ。
あれが本体だろう。ここまで作戦通り。そのまま硬化して掴もうとする。
「とった!!」
「甘いな小僧!!」
掴もうとした瞬間、俺ごと周囲を黄金の壁が包む。
「潰れてしまえ!」
迫るトゲ付きの壁。常人なら潰されてひき肉になるだろう。
ここまでも作戦通り。
球体の中で俺だと思わせた分身が大爆発を起こす。
「ぬわにい!?」
空中へと投げ出される核。これで第一段階終了。
「氷遁!!」
イロハの作り出す氷の棺が核を空中で停止させる。
「まず力を返してもらうぜ」
『スティール』
影筆の能力を魔力として手のひらに吸引。
これはイロハ以外が持っていていいものじゃない。
「はいイロハパース!」
イロハに向けて魔力の光を投げる。
「させん!」
全黄金がイロハに向けて集まってくる。
その裏でそっと投げられた手裏剣に気付きもしない。
「はい残念。イロハじゃなくて俺だよ」
受け取ったイロハが俺に変わる。
これが変化の術だ。投げた俺もまた分身である。
「バカな!?」
「とりあえず繋がりを切らせてもらう」
核と黄金の魔力の繋がりを斬り裂く。
剣と鎧ならば楽勝である。
「コントロールがきかぬ!?」
「俺にだけ注目しすぎだぜ」
投げた手裏剣こそが奪われていた魔力。
既にイロハがキャッチして、核の真横に忍び寄っている。
「テュールの腕。そんなに見たければ見せてあげるわ」
巨大な神の右腕が、巨大な氷ごと核を殴り抜けた。
「人間なんぞにいいいぃぃぃ!?」
粉々になる氷の棺と、ひび割れつつも形だけは保っている核。
ささっと核とイロハをキャッチして下に降りる。
「うーわ床どうすんだこれ」
綺麗に張られた氷の下は、純金のプール状態である。
とりあえず固めておくしか無いな。
「さて、人間に知恵比べで負けた感想でも聞くか」
「まだだ。このまま余を殺せばその女を助ける方法は永久にわからぬままだ」
「甘いね。もう解析は終わったよ」
鎧の解析力を甘く見てはいけない。
ヒビが入って飛んでいった欠片から、核の成分が神の血であると見抜いている。
「それを信じられるのか? それが100%間違っていないとなぜわかる?」
「やってみりゃわかる」
「それで女が死ぬかもしれんぞ。核の内部を解析しているのだろうが、空気に晒されれば質は落ちる。完全に毒を除去できるかわからんぞ」
これは半分事実で半分はったりだな。しかも解決策は見つかっている。
「彼ができるというのなら従うわ。それで失敗しようが、足かせになるくらいなら死んだ方がましよ」
まあそんな感じである。ぶっちゃけ剣で毒素だけ斬れる。
影筆に俺の力を込めて書いてもいい。解決法は一つじゃない。
「イロハはそういうやつだ。そこがいい。小悪党の脅しに屈することが気に入らないんでね。俺がいいと思ったやり方でやる」
「信じているわ。私は最後まで彼を信じ、彼の望む私のまま死んでいきたい。だから本当に助かるかどうかは、実は問題ではないのよ」
「そう言ってくれると、俺も信じていたさ」
「それは信頼ではない。愛や恋ですら無い。ただの共依存という歪んだ心の産物だ! 貴様らは狂っている!」
「それがどうした。俺の望む世界は四人の世界だ。四人全員狂っているのなら、それは望んで作り上げた世界なんだよ」
どうでもいいことをあーだこーだとうるさい神様だこと。
「まあ、正しさなんざクソの役にも立たないからな。どうでもいい。それを依存と呼ぶなら呼べ。俺はやりたいようにやる」
「ま、待て! 望むなら我が血肉を授ける! それは財宝に引けを取らぬ。人の身のまま、新たなる知恵を与えることも可能だ!」
「それこそ興味が無いわ。私はもっと大切なものを、もう手に入れているもの。この生命が尽きるまで、寄り添い続ける影でいる。そう決める事ができるくらいに大切な人をね」
「そういうこと。じゃあな成金神様」
これ以上何か言い出す前に、ささっと口に入れて噛み砕く。
噛み砕かれて死んだ神様なんてこいつが初めてかもな。
「……口に入れて大丈夫なの?」
「鎧に不可能はない」
内部で殺菌消毒して、鎧と魔力で血清を生成。
あら本当に賢くなる成分入っているじゃないの。
これも抽出。栄養食品みたいになってきたな。
「忍法爆煙の術」
これで煙が舞台を覆い、俺とイロハの姿も見えなくなった。
「なにを始める気なのかしら?」
核は完全に液体となった。全部飲み込まないようにしながら決心を固める。
「ん、まあなんだ。一人だけやってないのも不公平だしな。傷つけちまったし、毒まで食らわせて。まあお詫びとご褒美を兼ねて……」
ゆっくり歩み寄り、やっぱこの手段駄目なんじゃないかとちょい後悔。
だが毒で顔色悪いの見てしまうとなあ……まああれだよ、信じると言ってくれたのは確かに少し嬉しかったが、早まったな。こんなん俺のキャラじゃないだろうに。
「悪く思うな。あとできれば言うな。速やかに忘れろ」
「本当になにを……んうぅ!?」
強引に唇を奪い。口の中の血液を舌で送り込む。
突然でかなり目が驚いているが、そのまま舌で送り込み、なんとか飲み込んでくれたようだ。
思いっきり舌を絡められるし、吸い付かれるわ抱きつかれるわで対応に困る。
「…………はいおしまい。治療完了」
めっちゃ貪られたので引き離す。途中から完全に捕食されている感じだった。
やってから俺は頭おかしくなってんじゃないかと後悔が凄い。
毒にやられてんのは俺の方かもな。
「……じゃあこれから二回目を」
「やらんやらん。帰るぞ。そして忘れろ。俺もわけわからんから」
「本当に驚いたわ。どうしたの?」
「わからん。マジで。あんまり言及しないでくれ」
これが一番確実で、一番成功率が高かった。
どれを選択しようが100%か120%という差だろう。
だが毒で死ぬと言われ。それが無いとわかっていながら妙な気分だった。
なにかを……生きていることを確認したかったのだろうか。
「はあ……俺はどうしちまったんだかね」
イロハが若干心配そうな顔で俺を見ている。
本気で予想外だったのだろう。俺もだよ。
キスしてしまった今は、何故か心の嫌な感じは消えている。
それがまたよくわからず、みんなの元へ帰る途中、俺の頭を悩ませた。
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