さらに増える被害者
スティーブという男が剣で胸を刺されて死んでいる。ルナと部屋を調べよう。
「寒い……けど窓を閉めるわけにもいかないよなあ……」
「証拠が消えちゃうかもしれないからね。はい手袋」
「すまない。準備がいいな」
「探偵科だからね!」
ルナに貰った手袋をつけ、自分の指紋が付かないようにしたら捜査開始だ。
「雪って取っ払っていいのか?」
「うーん、何か入ってるかもだから、慎重にね」
まず血がついていないかチェックし、問題なさそうなら床と窓の雪をどけていく。冷たくてめんどいが、証拠が消えないように慎重にやろう。
「血が飛んでいないな……」
「ベッドには大量に流れてるから、ここで殺されたのは間違いないんじゃないかにゃ」
「抵抗した形跡がないな……腹かっさばいて検査できるか?」
「そっちは専門じゃないなー。医学の心得はないのだ」
薬か何かで眠らされたという線で考えている。これなら抵抗できなくても不思議じゃない。
「薬ならどう飲ませたかだ。知り合いならどうとでもなりそうだが」
「わざわざ鎧を運んだ意味もわかんないよねー」
雪の六騎士の伝承を知っていないと意味がない。ただ鎧を使って演出しただけになる。無駄な証拠を残すだけ。自殺に見せかけるほうがまだ捜査を撹乱できる。
「剣はかなり深々と刺さっている。ベッドの床までだ」
「かなりの力がいるってこと?」
「だろうな。できるやつは限られる……といいなあ」
「にゃはは……学園だもんねえ」
これで屋敷の全員ができるとかだと推理が進まないので許してください。できないやつ多めでお願いします。
「窓を開けたのは雪を入れるためと……死亡推定時刻をずらすためか? こっちってどの程度までごまかせる?」
「こっち? どの程度?」
「俺がいた場所は熱しようが冷凍庫にぶち込もうが、科学検査で一時間以上のずれが出ることはほぼ無い」
科学だけはそれなりに発達した現代社会だったからねえ……あんま思い出したくないけど。
「すっごい場所から来たんだね。先生とか達人ならそのくらいでできるけど……じゃなきゃ数時間ごまかすくらいはできちゃうよ」
「となるとそれ込みで脱出経路も窓だろうな。ドアに鍵がかかっていたし」
「おーいアジュ! 急いでうわさっみいな!? 窓閉めろよ!?」
「うるさいぞタイガ。今現場検証中だ」
「お前らよく平気だな……じゃねえ! ちょっと来てくれ! 娯楽室でマリーが死んでる!」
「また死人が出たのか!?」
どうやらまた誰か死んだらしい。おいおいおい、いい加減にしろよ。
急いで向かった俺達の目の前には、ダーツの的に、頭部ごと槍で突き刺されて死んでいるメイドがいた。
「来たかアジュ」
室内にはタイガ、アオイ、ルナ、イズミがいた。全員動揺を隠せていない。無理もないだろう。何人かは知り合いだろうし、酷い殺され方だ。
「第一発見者は?」
「オレとアオイだ。ジェシカを医務室に送って、娯楽室で遊ぼうとしたらこの状況さ。誰がこんなこと……」
発見者はタイガとアオイか。被害者が背にしている壁には血が広がっており、まだ乾いていないものもある。ここ数時間くらいで殺されたのだろう。娯楽室は暖房説部がある。それも加味して考えよう。
「このマリーって人は……確か玄関で会ったような」
「メイドさんの一人です。最初に入った人だと思います」
「全員最近入ったんじゃねえの? ここ試験用の国だろ?」
「そりゃそうだけどな。とりあえず軽く調べるが、隣の部屋に全員呼んで来い。死人が二人出ちまったら、もう安心して眠れないだろ」
タイガとアオイとジェシカを三人で行動させ、全員を呼んでこさせる。その間に調べておこう。
「女の体を弄るのはきつい。ルナ、イズミ、頼むぞ。俺は周囲を調べる」
マリーは恐怖と驚愕で目を開いた状態で死んでいる。鎧に襲われた恐怖だろうか。
「了解」
「鎧はこっちにあるからね」
さっき部屋で見たのと同じ鎧だ。タイガが言うには、マリーの足元にパーツがバラバラに散っていたらしい。椅子に座っていたパターンとは違う。突発的犯行なのか、それとも仕掛けがあってそうなったのか。
「マリーは戦闘できないんだよな?」
「そのはず。足運びからして素人だった。他の人間もそう言っている。戦闘を見たものはいない」
「周囲に暴れた形跡なし。ここの台座は小さいな」
「そこに槍と鎧が飾ってあったみたいだよ」
食堂にあったやつと違い、高さ10センチほどの台座だ。とりあえず飾る用のやつかな。ここから持ち出したと見ていいだろう。
「なんで鎧を散らせたんだ? 台座に置きっぱなしじゃいけなかったとか?」
「鎧の犯行に見せたかったんじゃない?」
「ならバラバラに放置するのは不可解。謎が多い」
「イズミ、死因と戦闘の経緯わかるか?」
「死因は頭部の刺し傷。槍と鎧の腕部分に血がついていることからも可能性は高い」
もう一度槍が突き刺さった壁を見る。槍は深々と刺さっており、頭を貫通しているのだろう。だが壁にはそれほど深く刺さっていないようだ。
「なんか……鎧に血がつき過ぎか……?」
「なになに? どったの?」
床に落ちている鎧の胴体に血が飛んでいる。妙な違和感がじんわりと染み込んでくるので、少し探ろう。
「イズミ、一緒に部屋の床を調べるぞ。血が垂れている場所を探す」
「了解」
「あっくん、説明して」
「確証はない。ルナは別で調べていろ」
そして床を調べるが、少なくとも死体の周辺にしか血は確認できない。
「アジュ、説明を要求する」
「頭を突き刺された場合、こんなに鎧に血がつくか?」
鎧には腕にも胴体にも血が付着している。槍に血がつくのはわかるが、これはおかしい。どういう使い方をしたんだ。
「そりゃこれ着て刺したらつくんじゃないの?」
「獲物は槍だぞ。槍ってのは長くて、首でも斬らない限り、血は大量に前に飛ばないだろ」
「あっ! そっか!」
「剣で刺した場合ですら、抜かなければここまで飛ばない。付着量がおかしい」
鎧は六騎士のもの。考えたくはないが、後四回殺人が起きる可能性がある。吹雪で脱出もできない夜だ。なんとか未然に防ぎたい。
「これは三人だけの秘密にするぞ。犯人にヒントと挽回の機会は与えない」
「了解」
「アジュ、全員……じゃねえけど集めたぜ」
タイガが呼びに来た。後ろにアオイもいる。団体行動できているようで何より。
「すまない今行く。全員じゃない?」
「ジョージが部屋にいねえんだ。鍵はかけてあったんだが、カールと一緒にマスターキーで入ったら誰もいなかった。部屋に荒らされた形跡はねえ」
一気に怪しくなったな。とりあえず全員で食堂に向かおう。お願いだからもう事件とか起こるな。犯人の目的がわからんぞ。
「全員揃っていないようだが、とりあえず現状確認と全員の名前を聞こう」
ジョージは行方不明。そして城から来た俺とルナ、イズミ、リュウ。
この屋敷に案内してくれたカールとジェシカに、リュウの知り合いのタイガとアオイ。シェフのマイケルさんとロバート。怪我をしているキャシーは意識が戻らないので、ベッドごと運んできた。俺を出迎えてくれたメイドの生きている方がサラ。これで全員だ。
「マリーさんが……どうしてマリーさんが死ななきゃいけないの……」
「スティーブ……いいやつだったのに……ちくしょう!!」
怒りを露わにする者、悲しみに暮れる者、犯人を探そうとする者、リアクションは様々だが、この状況をまとめないといけない。気は進まないが、国主の俺がやるしかあるまい。
「娯楽室で発見したのがタイガとアオイ。食堂で飯を食っていたのがマイケルさんとロバートさんとサラさんにリュウ。ジェシカは医務室だし、カールは俺達と一緒にスティーブの部屋へ行っていた。あの短時間で殺して戻るのは厳しいだろう」
「となるとやはりジョージか?」
「可能性は高い」
「なら見つけて聞き出しゃいいんだよ! ぶっ飛ばしてやる!!」
「落ち着け。まだ犯人とは決まっていない。そいつも死んでいる可能性もある」
「外部犯ということですか? この吹雪の中では、外出は無謀だと思いますが」
「吹雪だからこそ、いるなら屋敷から出れねえんじゃねえかな?」
今やることは、全員を一箇所に固めておくこと。外部犯の可能性を無くすこと。そしてジョージを見つけることだ。
「イズミ、リュウ、アオイ、俺と来い。外部犯を探す。その間、全員ここにいてもらう。ルナ、詳しい話を聞いておけ」
「どういうチーム分けだ?」
「戦闘要員のイズミとリュウ。この屋敷に詳しいアオイだ。犯人の可能性が低いやつを選んだ」
「君が犯人という可能性もあると思うが?」
「限りなくゼロだろ。俺はほとんどのやつと初対面だ。しかも国主だぞ。死なれたら悪評が立って、人員が減る。デメリットしか無い。それでもゼロにはならないが」
正直迷惑だ。知らんやつが勝手に殺人事件なんぞ起こしたせいで、今後の見通しが変わる。マジでデメリットしか無い。
「だからってオレらを疑うのかよ!」
「一応疑っておくべきだろ。この状況で全可能性を模索しないやつは早死にするぞ」
「言い方考えようよあっくん……誰かを疑うのはよくないことだけど、そうも言ってられないよね。外部犯が一番いいのは事実だよ。だからそれを確かめてきて」
「なら僕も連れて行ってください。この屋敷のことも、人員のことも把握しています。一緒にスティーブの死体を見つけた僕には、犯行は難しいでしょう」
カールの申し出もわかる。だがこいつも疑いが完全に晴れたわけでは……いや内部に詳しいやつは必要か。事情聴取でもしながら行こう。
「わかった。ならカールも加えて捜索する。くれぐれも単独行動はするな」
そして食堂を出て、まずは屋敷の右側から探索を開始する。
「さて、娯楽室と医務室と、研究室、図書室、事務室、会議室、従業員の寝室かな」
従業員、つまりシェフやメイドの部屋は客室とは別で存在している。
客の部屋の隣が従業員とかおかしいからね。そこは完全に分かれているのだ。
「多いな……とりあえず近い医務室と娯楽室だ」
医務室は荒らされていない。薬品が戸棚にあるが、何が入っていたのか俺では判別できない。
「特に薬品が減ってはいないようだね。包帯と傷薬はジェシカに使った分だけ減っているよ」
「今はお医者様がいないので、ジェシカさんは医術の心得があるカールさん、ロバートさん、サラさんしか診てあげられません。気をつけましょう」
カールが言うには薬品は問題ないらしい。医者がいないなら、回復魔法とそれっぽい薬で治すしか無い。少し不便だ。覚えておこう。
続けて娯楽室へ。遺体は下ろして布を被せてある。鎧と槍は食堂の隅に証拠品として置いてある。
「一刻も早く犯人を見つけよう」
「もうこんな事が起きて欲しくないです。なんとか手がかりを掴みましょう」
娯楽室も異常なし。さてここからは未知のエリアだ。何事もなければいいが。
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