部外者の捜索開始

 俺、イズミ、リュウ、アオイ、カールの五人PTで次に向かうのは図書室である。

 中は結構広く、それなりに本棚も多い。どこからこれだけ持ってきたのだろう。


「何が隠れてるかわかったもんじゃねえ。気をつけろよ」


 一応明かりはついているが、それでも隠れる場所は多い。襲撃は避けたいな。


「んじゃ先頭頼むぜリュウ」


「あいよ」


 リュウが先に入って安全を確かめる。ここで文句を言わないところが素晴らしい。

 自分が何を目的として雇われているか理解し、長所を認識して最適解が取れるやつは嫌いじゃないぞ。でもずんずん進むので、もうちょい警戒しろ。


「やっぱ何の気配もしねえなあ。のああぁぁ!?」


 リュウに向けて本棚が倒れてきている。両手で受け止めているが、本がばらばらと落ちては当たっていた。


「いでででで!?」


「敵か!」


「敵の気配なし。本棚の裏側にも誰もいない」


 イズミが確認しに行くも、人影はなし。


「リュウ、もう少し慎重にお願いできるかい? 後で片付けるのは僕達になりそうだよ?」


「なんも触ってねえって! 勝手に倒れたんだよ!」


「耐震補強がないのか?」


「一応の設備はあるはずですが……だとしても倒れてくるほど軽くもないはず」


 仕方ないので本を拾って戻そう。リュウに近寄ろうとしたら、落ちて広がった本が光り出している。


「いけない。あれは練習用の魔導書」


「魔導書? 発動するとどうなる?」


 半透明なマネキンのようなものが召喚され、こちらへと突撃してくる。


「オレにゃあ無駄だバーカ!!」


 リュウが一撃で薙ぎ払ってくれた。こいつ本当に頼れるな。


「ナイス。給料上げてやる」


「マジ? 危険手当もお願い!!」


 数秒で全滅させた。本を倒さないようにしながら、剣と拳で壊滅させる技術があるらしい。繊細な戦闘もそこそこ可能か。こいついい拾い物だったな。


「再封印完了。これは開きやすいようにされていたみたい」


「どういうことです?」


「罠は本棚じゃない。魔導書がメインと予想」


「オレらの行動がバレてるってのか?」


「現時点では不明。これは初心者訓練用だから、殺すには足りない。殺意が低い」


 警告の意味か、もしくは時間稼ぎか。やはり意図がわからない。殺傷力が低いということは威嚇か。


「探索続行だ。気をつけよう」


 色々と本を調べていくが、魔導書は出てこない。このへんの地図や歴史なんかは見つけたので、少しだけ調べよう。ぱらぱらとめくりながら話を振る。


「秘密の蔵書とかないか? 本を揃えると扉が出るとか」


「漫画や小説の見すぎだろ」


 だって定番じゃん。お屋敷はそういうパズルみたいな仕掛けがいっぱいあるもんだよ。あとゾンビ出る。


「そんなもんかね……雪の六騎士についての資料がない。場所わかるか?」


「でしたら、屋敷の記録や日誌のようなものがあればいいのですが……そういったものは個人で所有しているか、当時の人が回収してしまっているかもしれませんね」


「この分だと図書室には六騎士の個人情報はなさそうだな」


「元から少ないんですよ」


 カールから返ってきたのは明確な否定だった。


「屋敷を守っていただけの傭兵に、詳しい資料なんてありませんよ」


 どうやら学園側が詳細なデータを持ち帰った可能性もあるとか。単純に8ブロックとして使うから、不要な書類は移動させたのかもしれない。ならなくても不思議じゃないか。


「しょうがない。それでも手がかりは探すぞ。カールとアオイはそっち、俺とイズミは反対側から。リュウは入口付近で見張れ」


「了解」


 そして両端へと別れていく。全員が遠ざかるのを確認し、一番奥の本棚の影へと隠れ、後ろからイズミの両肩を掴んで引き寄せる。


「イズミ、こっち」


 そのままそっと全員の死角へと隠れる。あまり聞かれたい話でもないからな。


「アジュ、時と場所を選んで欲しい。せめてお風呂に入りたい」


「意味がわからん。今なら他のやつに声は届かない」


 誰が犯人かわからない現状では、イズミとルナとリュウ以外は信用すべきじゃない。できる限り小さな声で、イズミの耳元でささやくように話しかける。


「例の不審者の資料持ってきたよな? どこにある?」


「………………不審者?」


「ああ、この屋敷に来るきっかけの情報をまとめたやつだ。わかるか?」


「それを言いたかっただけ?」


「どういうことだ?」


 少しだけイズミの表情が変わる。見たことのないものだ。動揺とも警戒とも違うような……不思議そう? この顔をしているやつを見た経験があまりなくて、判別できんな。


「…………イロハさんはとても苦労している。師匠と崇めたい気持ちが溢れ出る」


「もうずっと意味がわからんぞ」


「資料は保管してある」


「こっそり全部回収して俺のところに持ってこい。証言をもう一度全部見直す。あとルナにも言わないで欲しいんだがまず……」


 これにて打ち合わせ完了。本棚の捜査に戻ろう。本当にめんどいなもう。

 結局このへんの地図と歴史の本だけ回収した。時間がある時に読んでおく。

 続いて事務室へ。ここは誰かの書斎に近い。そしてめぼしいものはなし。


「机の引き出しとかにヒントがあるといいのにな」


「ここはみんなが使っていますからね。過去のものは少ないんですよ」


 次の会議室はがらんとしていた。大きなテーブルと椅子があるけれど、目立つものはなし。従業員の寝室は二階だ。さっさと行こう。


「数が多いな。おや? つまりスティーブとジョージは従業員じゃないのか」


「お客様と調査員の半々といったところでしょうか。採石場と周辺の調査などをしにきていたはずです」


 なるほど、だから部屋がこっちじゃないのか。まあひとまずは置いておこう。

 従業員用の部屋は十個以上あるぞ。地道に行くしか無いかと覚悟を決め、はじっこの空き部屋から行く。中はベッドとタンスがあるくらいだ。一人暮らしならそれなりの広さで、まあ不自由はしないだろう。


「隠すなら空き部屋だと思ったが」


「あてが外れましたね」


 シンプルすぎて探す場所すら少ない。一応ベランダも調べるのか、カールが窓を開けると雪が舞い込んでくる。


「この吹雪では、外に居続けるのは厳しいでしょうね」


「そりゃ特殊な魔法か、超人の類だろうな」


 最も、超人なら俺以外全員が殺されていてもおかしくない。犯人は屋敷内に居ると考えるのが妥当だが、これで隠し通路でもあった日には地獄だぞ。


「普通だな。この部屋にも何もなかった」


 メイドの部屋も調べていく。いくらなんでも容疑すら曖昧なままで女の部屋を漁れない。なのでイズミにやってもらい、男は部屋の前で待つ。次はマイケルとロバートの部屋。その次は外出中のプレートが掛かっているカールの部屋を開けたが。


「荒れすぎだろ」


 第一印象はそれだった。物が壊れて中身が飛び出している。床に散らばる日用品と、ベッドの下まで調べられて荒れているのが目につく。だが人影はない。


「ここまで荒らす意味が不明」


「ここは僕の部屋が……一体誰がこんなことを……」


 カールはこうして生きている。部屋が荒らされたと聞いてもいない。なら部屋が荒らされたのはいつだ。ずっと外出していたのなら、知らなくても無理はないが。


「この壁のって……文字じゃないか?」


 言われてみてみれば、壁に赤いインクで何かが書いてある。


「六人目の騎士の無念を晴らす?」


 確かにそう書いてある。ただ近場にあった鎧で犯行を重ねているわけではなさそうだ。文字は完全に乾いていた。


「血で書いてある」


「物騒な……最後に部屋に戻ったのはいつだ?」


「今朝部屋を出てからは一度も。みなさんを迎えに行って、屋敷を案内して、それぞれの仕事を見ていましたから」


 つまり部屋に戻っていないと知っていた人間じゃなきゃできないわけか。


「そもそも誰の血だ。まだ見つかってねえジョージか?」


「わからない。けれど、六騎士の無念とはなんだろう? それが今回の事件の動機なのか?」


 仕方がないので軽く調べてから廊下へ出る。カールには何が盗られているかだけ聞いてみたが、金や貴重品は盗られていないから、少し調べてもわからないそうだ。


「このメッセージを伝えるために荒らしたのかな?」


「物取りじゃないんだろうな。今回の事件は」


 捜索を終えて近くの階段を降りた時、ロバートさんとマイケルさんが歩いてくるのが見えた。


「おいふらふらすんなって。オレらが捜査してくっからよ」


「いや少しトイレにね。大丈夫さ。ここから食堂は見える位置にある。すぐ近くだ」


「あの、タイガはどこに?」


「食堂だよ。ルナさんも一緒だけど、女性陣だけにするわけにはいかないだろう?」


 二人で行動すりゃ大丈夫だと思ったのか。犯人とタイマンになる可能性を考慮してくれ。


「戻ってください。あとは一階の大浴場だけです。俺達で調べて帰りますよ」


「わかった。気をつけてね」


 しっかり食堂に入っていくところを見届けて先へ進む。大浴場は男女別で別れている。今は誰も入っていないのだから、普通に両方に入って調べよう。まず男湯で。


「ここまでカールの部屋以外何もなしか。どうなってやがる」


 お湯が張られている浴場は、こんな状況じゃ誰も入りに来ないのだろう。桶が大きな湯船でゆらゆら揺れていた。


「まったく、片付けずにいるのは誰なんだか……うわああぁぁ!?」


 こちらに揺れてきた桶を手に取ったカールが叫ぶ。


「どうした!」


「手が……手が……」


 怯えながらカールが指差す桶の中には、誰かの右手が揺れていた。

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