ヒロインにお手紙を書こう

 久しぶりの8ブロックの城にて、俺達六人はリビングでのんびりしていた。


「うぅー発表まだかなー?」


「落ち着け。第一回の発表だからな。上位にいる必要はないぞ」


 今日は勇者科の現時点でのランキング発表の日だ。とりあえず全員のやった貢献っぽいことをボードに書き、まとめておいた。


「運営への献上金は六人ともまったく同じ額にした。これで少しは参考になるだろう」


「さてさてー、どうなってるかなーん?」


「国境での戦闘に勝利し、領地も順調。失点はないと予想」


「だといいんだけどな……」


 発表があるまで。もっと言えばランキング表が届くまで暇だ。今のうちに約束を果たすために動くか。


「ホノリ、ちょっといいか?」


「なに?」


「ハンドガン作れるか?」


「……銃を作れってこと?」


「そう、小型のやつでいい。弾丸と魔力が両立できて、装填数は魔力で補えるようにって。要望だけまとめてみた」


 軽くプランを見せてみる。市販品のクオリティが微妙だろうから、俺の知識とこの世界の知識を混ぜてもらおう。


「なになにー? 内緒話かな? ルナ気になっちゃうなー?」


「悪いが武器の話でね。ホノリと俺の秘密だ」


 特にフランにバレてはいけない。プレゼントって多分そういうものだろ。


「なによ気になるじゃない。アジュくんそういうこと多いわよ」


「大勢に主張するってのが好きじゃなくてね。ミリーは魔導器メーカーだったな。後で三人で打ち合わせしたい。これは知る人間が少ないほどいいんだ」


「わかりました。私でよろしければ、お話聞きます」


 ミリーは本当に優しくていい子だねえ。気になることも消化できたし、報告を待つか。


「しかしこんな雪国まで知らせに来るとは、なかなかの苦行だな」


「いやーそれほどでもないっすよ」


 普通にやた子がいる。どっから生えてきた。


「やた子、お前なんでいる?」


「うちは運び屋っすからね。ランキングをお届けに参ったっす」


 そういやそんな仕事していましたね。ボードにでかい紙が貼られ、勇者科の名前が一位から書かれている。


「一位がリリアか。まあ妥当だな」


「評価高いっすねえ」


「中間とるかトップとるかだと思っていた」


 ちなみに知り合いはほぼ上位である。やはり優秀な奴らだ。普段なぜ俺と一緒にいるのかしらね。他のブロックの連中も調べたが、どうもトップが上位者になりやすくなっている気がする。


「俺達はちょうど真ん中くらいだな」


「全員同じくらいの点数よね。アジュくんが一番だけど」


 国主というものはトップになりやすいのか? 貢献額は一緒だから、戦闘か内政が評価されるはずだ。だが前線で戦っていたルナやフランが、俺より評価低い意味がわからん。


「これどうやってランク付けされているかわかるか?」


「うちは聞いてないっすよ。知ってても禁止令出ると思うっす」


「それもそうか」


 俺達以外にも、並びでランクインしている連中がいる。似た思考をするやつはいるものだな。参考にはなったよ。

 仮設をまとめると、同じブロックだと国主が上に来やすい。貢献金額は反映されるしわかりやすい。内政と戦闘がどう評価されているのかは曖昧。特に戦闘。リューリュウのように勇者科じゃないやつの加入と功績は誰のものか判別ができない。


「金が一番確実か。今回はこれくらいの貢物で終わったが」


「次から敵も額を上げてくると予想。対策は必要」


「アホのやるオークションみたいになられても迷惑なんだが」


 値段が釣り上がると面倒だ。下位が焦ってじゃんじゃか金をつぎ込むと、それだけで稼がなきゃいけない金額が増える。


「各都市の発展度とポイントの差でも調べるしかないんじゃない?」


「自軍メンバーとその部下の功績も、どう評価されているのか不明。引き続き検討の余地あり」


「これを元にそれぞれのポイントでも調べておく。助かったぞやた子。他に別陣営の弱点とか教えてもらったりできるか?」


「それは無理っすね。教えてくれないでしょうし、なんかルール違反みたいで」


 ヒメノの部下として苦労しているからか、そのへんちゃんとしているんだよなあ。


「あっ、カグラさん陣営なんすけど。ソニアさんとクラリスさんがいたっす」


「申し訳ないが、絶対に勝てないチームを作るのはNG」


 クソゲーやめろや。しれっと神が二人いるじゃねえか。どう勝つんだバカ。


「流石に本来の力を使うことはないと思うっす」


「それを祈ろう。とにかくご苦労だった」


「あと他の陣営へのお手紙とかあったら内緒で受け取るっすよ」


「手紙? 同盟とか?」


「リリアさん達に連絡無しでいいんすか?」


「あー……」


 正直毎日思い出してしまうし、妙な気恥ずかしさがある。手紙とか書いたことがないぞ。すげえ恥ずかしいこれ。


「きっと待ってるっすよ。情熱的なやつを」


「そういうものなんだろうか?」


「いいんじゃないかな。アジュはずっとお世話されてるんだから。安心させてあげるくらいさ」


「私なら嬉しいですよ。お手紙もらったら頑張れる気がします」


「……今書く流れ?」


 紙とペンはある。会議室だし、封筒もある。そして全員が寄ってくる。


「集まるなよ!? 完全に見る気だろうが!?」


「やっぱまずいか」


「アジュが仲のいい異性への手紙をどう書くか純粋に興味がある」


「ただただ趣味が悪い。いいから仕事に戻ってくれ」


 こいつらも色恋とかに興味あるんだろうか。年頃の女の思考回路はわからん。


「じゃあアジュくん、プレゼント期待してるわね」


「何かあれば命令を。すぐ駆けつける。下ネタが聞きたくなっただけでもいい」


「いいから行け」


 ルナとやた子以外は解散させた。仕事あるからね。ルナは一番年頃の女の子っぽいので、代表で残った。アドバイスもらおう。


「何を書くと喜ぶのかわからん」


「愛の言葉とかっすね」


「ラブを伝えるのだ! 今の気持ちを書き殴るの!」


 普通に近況報告でいいか。こっちは大変だけどなんとかやっています。そっちはどうですか? 健康に気をつけて……。


「手紙敬語なんすね」


「変なとこ生真面目だねえ」


「うっせ。これじゃ報告書だな。ルナ、女の子が喜ぶような文章頼む」


「それでルナを残したんだね」


「ああ、一番年頃の女の子っぽいかわいいの書けそうだからな」


 明るく元気で女子高生っぽさが強いからな。きっと適任だろう。

 頼りっぱなしもあれなので、俺も考えてみる。頼られても解決できないかも知れませんが、相談くらいは乗ります……本当に相談されても厳しいな。まあ書いてしまおう。キザったらしくないように、全神経を集中して。


「ふーん、ルナかわいいんだ? かわいいって思ってるってことだよね?」


「そうそう、かわいい女の子って印象が一番強かったからな」


 ホノリは女友達っぽい。ミリーは委員長タイプ。フランは美人系。イズミは不思議なやつ。五人の中で該当するのはルナくらいだ。


「おやおやープレイボーイくんだー。でもありがと。言い慣れてるっぽいけど、悪い気はしないよん」


「俺がかわいいって口に出したのは、人生で十回ないと思うぞ」


 モテ男でもない、イケメンでもないやつが女性を褒めるというのは、もうセクハラである。だから滅多に口に出さない。褒める権利があるのは美形だけなのだ。つい口から出ただけ。ギルメン以外に言ったことあったっけ? っていうか手紙に集中させてくれ。


「えー、どーせ女の子にいっぱい言ってるんじゃない? あーやしーいぞー?」


「誰でも口説く軟派野郎じゃないんだから、言うのは本当にそう思った時だけ。つい言っちまっただけさ。超レアケースだよ」


 ここで完全に誤解を解いておかなければ、俺のような非モテ童貞野郎にナンパされたという噂が広がりそうだ。絶対に阻止しよう。生活が壊れる。


「もう、あっくんはお世辞がうまいなー! あははは……ははは! ルナじゃなきゃ勘違いされるぞ。そんな口車には乗らないのだ! 探偵は嘘をびしっと見抜くのもお仕事だからね!」


「探偵科なら真実かどうかくらいわかるはずだ。そこはルナを信じているさ」


 妙に突っかかってくるな。これは俺を疑うと言うより試している気がする。

 探偵科として、どこまで探りを入れられるか、もしくは俺が本気かどうかのテストなのかもしれない。俺の観察眼を試そうってのか。なら答えてみよう。


「し、知った風なことを……じゃあじゃあ、ちゃんとどう信じてるかお話してみて?」


「ルナはただ明るいだけのバカじゃない。状況に合わせて空気を壊さず、どのくらいの明るさで、どんな話題を振ればいいか理解しているだろ。気まずくなるのを計算で阻止できる。根が明るいのもあるだろうが、気配りができている証拠だ」


「う、おぉう……結構ちゃんと見られてるんだね」


 そりゃほぼ初対面で国の運営やらなきゃいけないんでな。いかに俺とて観察はする。ルナ反応がよくわからんが、これはもう少し説明すれば合格ということだろうか。


「頭がよくて回転も早いんだろ。そういう明るさに助けられている自覚はあるさ」


「でも全部中途半端だし……だからせめて明るく、みんなが楽しくできたらなって」


「何もできない俺よりましだろ。他人のことを考えて、実行に移して成功できるのは、もうそいつの長所なんだよ。もうちょい自信持て」


 今だって手紙の内容に困るくらいだしな。こうして改めて書くと無性に照れる。ギルメンには支えられてばかりだし、あいつらとはできる限り一緒にいてやるべきだったかも。会えなくなって二週間くらいなのに、結構な頻度で夢に出てくる。

 いかんな。改めて意識してしまうと、自然と顔が浮かんで思考が中断される。


「急に黙らないでよもう。今何考えてたの?」


「もっと一緒にいればよかったなーと」


「うあ、あああそうなんだ!? うん、悪くない、かも」


 悪くないらしい。気持ちをストレートに書くといいのか。なるほど。追記しよう。もっと四人でいる時間を増やせばよかったかなと思っています。試験終わったら一緒に何かしましょう。後はどうするかな。


「アジュさん……うちは何も聞かなかったことにして欲しいっす。巻き込まれたくないっす……当事者になるのは嫌っす」


「急にどうした」


「ねえねえあっくん、他にはどう? 何か思いついた?」


「そうだな、あいつらが不安にならないように、軽くこっち陣営のっていうかお前らのことでも書くべきかなと」


「そうじゃないのに……むー」


 何が不満なんだよ。ふくれっ面しやがって。とりあえずみんな優秀で助けられている、としっかり書いておこう。手紙で悪く書くのはよくない。


「内容は三人とも一緒なんすね」


「そこで差をつけるのもどうかと思ってな。平等にいこう。気になるなら詳しいことはやた子に聞いてくれと書いておいた」


「なんという重責を……うちは死にたくないっす」


「大げさなやつだな。軽く現状報告だけしてくれたらいいんだよ」


 共通の知り合いであり悪友のやた子なら安心だろう。これで万事OKだわ。


「じゃあさ、もっと安心させてあげるために、メッセージ追加していい?」


「内容によるな」


 追記された手紙の最後には『こっちのブロックは心配しないで。あっくんはみんなで支えてあげるから。あっくんのお友達ルナより』と書かれていた。


「きっとこれで大丈夫だよ。安心してもらえるさ!」


「そうか助かった。第三者のフォローは必要ってことだな」


 知人の少ない俺には、こういう視点が抜けている。適切にフォローがあると違うんだろうなあ、などと考えながら、今日も仕事に取り掛かるのであった。

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