アイドルライブ会場の探索
例の黒いモヤモヤ事件を完全に忘れかけていた俺達の前に、突如として現れたヒメノ。
「探偵っぽいことをやりますわよ!」
「勝手にしやがれ」
「ライブ会場の捜査クエストを見つけてきましたわ。これをよく読んで明日の早朝に来てくださいましね」
「急だなオイ。話が飛び飛びで全然わかんねえって」
「報酬がかなり高額ですわ。単位は五単位です。お得ですわよ」
そしてアイドル最終オーディション会場に向かっている。
かなりの金と単位には勝てなかったよ。金持ってんなあクエ主催者。
でっかいドーム型の建物内は歌って踊るにはいいだろう。
ライブとか行ったこと無いけど多分な。
「わたくしたちは関係者の腕章を左腕につけてくださいまし」
先に現場にいたヒメノに案内され、クエストを受けて今に至る。
「作業員のフリをするんだね」
「はい、右腕につけているのが本物の作業員ですわ」
この学園の設備は業者がやるものもあれば学生がやるものもある。
今回のイベントは学生が腕章つけて警備なんかやっている。
でかい文化祭みたいなもんだろう。
文化祭はちゃんと別にあるらしいけどな。
「アイドルの護衛はしなくていいの?」
「近場にいる時は見てあげてくださいまし。それよりも何か仕掛けられているはずです。そちらの調査をおねがいしますわ」
全部まとめると。
・会場に黒いアクセのようなものが仕掛けられているといけないので、作業員の振りして探そう。
・本物の作業員は腕章が右。俺達含む低ランクギルドとその事情を知るものは左。
「なぜ高ランクギルドにそのまま調査させんのじゃ?」
「できれば犯人を抑えたいのですわ。高ランクは顔が知られているため、犯人が逃げる恐れがありますの」
「なるほど。敢えて高ランクを外して低ランクに人海戦術で探させる、というわけね」
「イロハ様の言う通りですわ。それでは、わたくしはやた子ちゃんと一緒ですから、そちらも二人一組で行動なさってはいかがですの?」
そのほうが効率いいかと思ったけど、つまりそれは。
「それじゃ、アジュは誰と一緒に行くのかな?」
「誰を選んでもいいわよ。私を選んでくれると嬉しいわ」
「ここはわしを選ぶという手もあるのじゃ」
まあこうなるわな。誰を選べばいいかわからん。
全員大事だし、選んだ理由なんて言おう。
全員が間違いなく同じくらい大切だ。
誰か一人を特別視しているつもりはない。誰も欠けて欲しくない。
「そう言われても、誰とか咄嗟に出てこないぞ」
「難しく考えないでいいんじゃない? シルフィちゃんが可愛かったから一緒にいたいですとかさ」
「俺が言うのかそれ」
「イロハにムラムラするんで二人で人の来ないところに行きたいですとか」
「捜査をしろ捜査を」
「リリアちゃんとご飯食べに行きたいですとかでよいじゃろ」
「まだ飯には早いだろ。昼飯食えなくなるぞ」
捜査する気無いなこいつら。
俺もあんまり乗り気じゃないけど金もらってるし役目は果たそう。
「四人で見回ってもよろしくてよ。それでは皆様ごきげんよう」
青い作業着と帽子で変装しているのに、無駄に優雅に上品に去っていくヒメノ。
ごきげんようが似合うことに驚いた。あいつも大人しくしてれば美人さんなのになあ。
「大人しくしてれば好みなのに、とか思っとるじゃろ?」
「別に思ってないさ」
「やっぱりヒメノみたいな人が好きなんだー。ヒメノと一緒が良かったんだー」
「んなわけないだろ。あいつもなんだかんだで正体不明じゃねえか。お前ら以外はキツイ。人見知り大爆発だよ」
「じゃあちゃんと選んで欲しいな」
「まったく……貴方はいつもヘタレるんだから」
「ここは公平に後腐れなく決めるのじゃ」
その後じゃんけんでイロハが勝ち、リリアとシルフィは渋々捜査に向かった。
一時間後にシルフィに交代する約束だ。次がリリア。交代制にすればよかったんだな。
「さて、行くか」
「そうね。手早く終わらせて二人の時間を楽しみましょう」
「真面目にお仕事しないとなーっと」
係員に渡された魔道具のスイッチを入れる。ボールペンくらいの大きさのそれは、先端のガラスっぽい部分が赤くなると危険。青なら安全というシンプルなもの。魔道具を作れる科が共同で作ったもやもや発見器だ。
「こういう技術凄いよな」
「そうね、判別できることもそうだけど。短時間で作ってしまえるあたり感心するわ」
魔道具には立体映像を映し出す魔道ビジョンというものがある。
冷蔵庫もある。生徒が新発明とかで話題になったりもする。
魔法という便利な力もあってか、元の世界よりも技術が進んでいる分野がある気がする。
「怪しいのは舞台裏とか売店だと思うんだけど、他になんかあるか? 忍者だしそういうのわかるんじゃないか?」
「忍者をなんだと思っているのよ。そうね、まず売店かしら。屋上では売店で売っていたのよね」
「だな。気がついたら売られていて、誰が置いたかはわからんらしい」
「そう、ならますます売店ね。確実に潰しましょう。特に助言もせずゆっくり二人で探して歩きたいし」
やれることから確実にやっていこう。素人はしらみ潰しにやるしかない。
これは助言して早く終わるのを避けてるなイロハ。
「いらしゃいませー!」
売店では猫耳売り子さんが笑顔で迎えてくれる。猫耳は本物だ。学園の売り子は凄いなあ。
「また他の女をジロジロ見て」
「見てないっての。すみません、ちょっと失礼しますね」
「はいどうぞー」
商品にそっと魔道具を近付ける。ライトを手の内に隠し、異常がない事を確認する。
「色々あるな。人気なのかね? 俺にはよくわからん」
「私もアイドルはよくわからないわ」
アイドルどころかこの世界の有名人なんて一切知らん。
「仕事は順調?」
声をかけてきたのは暗い灰色の髪と、藍色の瞳の美人さん。
なんだその大きな胸は。シルフィより大きいかもしれない。左腕に腕章だ。関係者か。
全く知らない人なので俺達に声をかけているのかどうかわからない。
「私は今回のクエストの依頼人ラーズグリーズ。長いからラズリでいい。よろしく」
こいつか金持ちは。とりあえず挨拶を済ませておく。
軽くイロハにフォローしてもらいながら二、三言葉をかわす。
破天荒なヒメノとは逆の意味で何を考えているかわからない人だ。
ぼーっとした表情のままで、しっかり受け答えだけしてくるからちょっと怖い。
「そろそろ一組目のライブが始まる。引き続き調査よろしく。長居しなければ楽屋への立ち入りも許すから。それじゃ、もう行くから」
「わかりました」
「失礼します」
さっさと売り場を離れる。会場人が多くなってきた。
リリアとシルフィはどうしてるだろうな。
そんなことを考えながら関係者の楽屋があるエリアを探索する。
「なんだか不思議な人だったわね」
「ん? ああ、よくわからない人だったな。まあ金持ちのことは庶民にはわからんさ」
「お館様やりながらお姫様とハーレムしているギルドマスターの庶民なんているのかしらね?」
「さあな。そんなアホくさい意味わからん奴いるのかねえ。お、あれがアイドルか?」
誤魔化すためにそれぞれの楽屋からゾロゾロ出てきた連中に話題をそらす。
「かもしれないわね。これからライブでしょう」
ここで勝ち残った三組にメインイベントで主役張る権利が与えられる。
気合入ってる子もいるし、深呼吸して自分を落ち着かせようとしているもの。
仲良さそうに談笑しているものもいる。
「舞台は調査済みだったよな?」
「ええ、それはもう客席まで念入りに」
俺達がいる方向とは反対側へ向かっていく集団。確かにみんな可愛いとは思う。
けどなあ……ぶっちゃけイロハの方が美少女度では最低二回りは上だ。
二十人近くが控室から出てきたけど、全員足してもウチの三人に遠く及ばない。
改めてレベル高いんだなウチのメンバーって。
「どうしたの? 心配事?」
「違う違う。イロハ達のほうがずっと…………なんでもない」
「ずっとなに? 貴方が言い淀むということは褒めようとしたわね?」
「お前はいつからエスパーになったんだよ。エスパー枠はシルフィで埋まってるぞ」
「誤魔化してもわかるわよ。それで? なんて言おうとしたのかしら?」
「いやいやなんでもないって。あ、そうだついでにあいつらもそっとチェックしないとな」
誤魔化すために突き当たりを曲がるアイドルたちに向けてライトをかざす。
「………………赤く光っちゃった……」
「最悪のタイミングね。あの中に犯人がいるのかもしれないわ」
「とにかく連絡だ。急ぐぞ」
急いで近くにいる事情を知っている連中に声を掛ける。
面倒なことになる前に止めないとな。
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