アイドルよりヒロインがかわいい
反応が赤だったのでアイドルを控室に集めて隔離してある。
出入り口を複数のギルドと警備員が固めているため逃げ場はない。
「報告を聞いてきたよ。よくやったね」
ラズリさんが褒めてくれる。でもぼーっとした顔だ。やはり表情が変わらないから怖い。
というかステージ衣装着てる……ラズリさん出る側!?
「さて、それじゃあ発見者の君達と、他のギルドも三組連れて行こう。二人一組だよ」
ギルドを多く、人数を少なくすることでお互いに監視させるつもりかね。
一つのギルドだけだと疑われるしありがたい。
「んじゃ行ってくる。リリア一緒に来てくれ。イロハちょいと頼みがある」
「わしか。任せるのじゃ」
「いいわよ。アジュからお願いなんて珍しいもの。興味が有るわ」
「わたしはー?」
「シルフィはここでやって欲しいことがある」
全員にちょっとした作戦を伝える。
「これは保険だ。何も無いなら無いでいい、俺が無駄な知恵使ってバカやっただけ」
「付き合うわ。どこまでも」
「わたしもアジュがしたいなら頑張るよ!」
「おぬしの望むままに生きるがよい」
突然の申し出にも快く応じてくれる。ありがたい。
ちょっとくらい無茶でもなにかお願いを聞いてあげるべきかもな。
そうじゃなくてもお礼は何かの形でしようと決めた。
「それじゃあ行ってくる」
シルフィにしばし別れを告げる。
あ、ソニアとクラリスを見つけて話に行った。来てたのかあいつら。
まあここを動かれなきゃいいか。イロハは影に潜んでもらう。
「さて、事情説明か……面倒な……」
控室でダルそうに説明を始めるラズリさん。初めはざわついていたが、事情を話し検査するだけだと行って納得させた。危険なままライブなんてして怪我したら最悪だからな。
ライブは始まっている。中断するといらぬ混乱を招く。なので出番が早い順番に複数のギルドで検査に入る。
「じゃ、はじめるね」
ラズリさんの合図で仕事にかかる俺達。三人組の女アイドルだ。
今日のイベントは男向けの女性アイドルしかいない。
根本的に男女のアイドルってのは、ファン層が違うから一緒には出ないらしい。
そらそうだ。混ぜるな危険。
「異常なし」
「異常なしです」
頭から爪先までと、ポケットに入っているものも出してもらう。紙テープが入っていた。
客席に投げるつもりだったんだと。なにやらこいつらのお約束らしい。
「協力どうも。それじゃファンが待ってるよ」
一礼して入ってきた扉とは反対方向の扉から部屋を出て行くアイドル。
扉が空いた時に客の声が微かに聞こえた。中々盛り上がっているようだ。
「どんどんやろう。時間がおしてるよ」
調査を進めていくが異常は見られない。
「ん? 赤く光ってる?」
赤い光が出ているのはショートとロングの二人組。髪の色が水色と紫で違う。
それ以外一緒。姉妹かな。よく似ている。
たぶん別行動されたら髪の色と長さ以外で見分けはつかないだろう。
「ん、ごめん確認するね」
ラズリさんが念入りに調べる。
「拡声器だね。それ誰に貰った?」
マイクみたいなんあるんかい。小さい魔法の杖みたいだ。
先端に付いてる光る石が音を拡散するってところじゃないかな。
後でリリアに聞いてみよう。
「スタッフさんに貰いました」
「全員そうなの?」
一斉に頷くアイドル達。
「全員貰ってこの子達だけ? スタッフの顔はわかる?」
「えっと……男性でしたよ? 帽子と作業着でいまいちわかりませんでしたけど」
水色の髪の子が答える。作業員か、帽子は必要だけど見分けつかなくなるのが困りものだな。
「え、私達の時は女性でした」
「ワタシのときも女の人です」
「私達も女性でしたよー?」
「どうなってんだか」
この姉妹以外は全員女性から渡されているらしい。どうなってんだ。
「つまりその男が犯人ということかな?」
知らんギルドのAさんがそんなことを言い出す。まあ怪しいわな。
少なくともお話を聞く必要がある。
「可能性は高いんじゃないかしら?」
「いかにもすぎねえ? ありきたりじゃね?」
全然知らんギルドの連中があーだこーだ話し始める。
「とりあえず二人には予備を渡します。二人以外は異常なしということで行っていいよ。ライブ頑張って」
残ったアイドル達をちゃっちゃと送り出す。出番は待ってはくれない。
「とりあえずこれは預かっておくね。ギルドのみんなは持ち場に戻って」
マイクを自分の懐にしまうラズリさん。
「危険では?」
「解析班に届けに行くだけだから。そうだね、それじゃあ第一発見者の二人にでも付いて来てもらおうかな。念の為にね」
「ご指名じゃな。わしは構わんのじゃ」
「んじゃ指名を受けましょう。ついていきます。あの姉妹のおかげで報酬に色がつきそうだしな」
「ん、姉妹のおかげじゃな」
「そうだな。二人のおかげだな」
ぞろぞろ連れ立って出て行く他のギルドの皆さん。
「それじゃあ二人はこっちの予備を使って。まだ出番まで時間があるから、今のことは忘れてリラックスだよ。いいね」
予備のマイクにライトを当てて青く光らせるラズリさん。
「ほら、こっちは平気だから。じゃ、頑張って」
「はい!」
「精一杯頑張ります」
礼儀正しくおじぎをする姉妹。ふむ、可愛いじゃないか。
「他の女を見るのは、わしらにキッチリ手を出してからじゃ」
「そんな理由で手を出してたまるか。もっと自分を大事にしなさい」
「おぬしが言うとただヘタレているだけに聞こえるのう」
「聞こえるんじゃない、大正解なのさ」
「他の二人が聞いておったら怒るじゃろうな」
「超ごめんなさい」
「なにやってるの? 時間ないから早くして」
ラズリさんに怒られる。急ごう。
「すみません今行きます」
小走りに部屋を出る俺とリリアを見つけて駆け寄ってくるシルフィ。
今日も胸とポニーテールが揺れている。
「おかえり。どうだった?」
「一応舞台裏にいてくれ。双子だか姉妹だかの二人組に注意だ。俺達はラズリさんに付いて行く」
他のやつに聞こえないように小声で話す。
ラズリさんは入り口で待っていた他のギルドの人達に説明中だ。
「わかった。見張ってればいいんだね」
「できればソニア達にも言っておいてくれ」
「大丈夫よ。ちゃんとシルフィは見ておくわ」
「そうそう~気にせず行ってらっしゃいな~」
ソニアとクラリスがこっちに来た。二人とも強いし任せておけば大丈夫だろう。
どうでもいいけど作業着似合わないなクラリス。お姉さんオーラと作業着が合わない。
たぶん胸のサイズも合ってない。だってボタンが飛びそうだもの。
「はいそっち見ないの。すぐ他の女の人を見るー」
「わかったわかった。ごめんて」
シルフィに脇腹をつねられる。地味に痛いので胸は見ないでおこう。
「大きさなら負けてないと思うけどなあ……わたしの何がダメなのさ? 嫌いなとこがあったら直すよ?」
「その質問にはどう答えればいいのか全くわからん。シルフィにダメなとこなんて無いだろ。嫌いになる要素がない」
完璧超人シルフィに欠点とかあるのだろうか。
容姿も戦闘能力も成績もよくて優しくて家事ができてお姫様だぞ。
こいつでダメなら全人類がダメだろ。俺とかどうなるんだよ。
「うえぇ!? そっ、そういうことは急に言われるとあの!? うわあ……そう? うわぁそっか……ふふ-ん。そうなんだ?」
「よくわからんけど機嫌は直ったのか?」
今日のシルフィは表情がコロコロ変わるな。顔真っ赤だし。
「おぬしは自分の発言に気をつけるべきじゃ」
「十分に気をつかってるつもりだよ。なんかまずかったか?」
「ヴァンよりタチ悪いわよアジュくん……」
「あらあら~シルフィも大変なのね~」
なんのこっちゃわからないけど、俺は責められているのだろう。
いいじゃないか、シルフィが嬉しそうだから多分悪いことじゃないと思うし。
「終わりました。では付いて来てください」
ラズリさんの説明が終わったっぽい。全然聞いてなかったな。
「今行きます」
ラズリさんと俺とリリアで広い通路を歩く。
「ラズリさんはいいんですか? 衣装着てるってことは出番があるんでしょう?」
「問題ないよ。私は後半だから」
「それは興味があるのう。犯人が捕まれば見る時間ができるかもしれんの」
「そのためにも頑張ってもらいます。ああいました。解析班、ちょっとこれを……」
会場の入り口とは逆方向、ステージから少し離れた開けた場所に解析班がいる。
会場内にも複数いるけど本拠地はここらしい。
「これなんだけどね……」
「調度良かった。こちらも報告が」
ラズリさんが懐から取り出したマイクが怪しく光っている。
「うわーなんだかとっても危険な気がするぞー」
「うわーわしもそう思うのじゃー」
こんなん棒読みになってもしょうがないに決まってるだろ。
ほら見ろ黒い光でラズリさんも他の人もおかしくなってるじゃないか。
「どうするのじゃ?」
「マイクごとぶっ飛ばそうぜ。だるいわ」
「そうじゃな。人質なんぞ殺ってしまえば邪魔くさい肉の盾じゃ」
「性能は防御力アップ。すばやさダウンってとこかね」
『ヒーロー!』
ヒーローキーをさしておく。さっさと終わらせよう。
「やろうとしておることはヒーローの風上にもおけん行為じゃな」
「構わないさ。ギルメン三人に比べれば瑣末な命さ。殺さなきゃいいんだよ。全部犯人が悪い」
「おのれ犯人! 絶対に許さんのじゃ!」
「おし、そういうことはもっと大きな声で言っておこう! 許さないぜ犯人! 仕方ないから気絶させて止めるっきゃ無いけどな! 犯人が悪いんだぜ!!」
「鬼か……君達は……うぅ……」
うっわラズリさん意識あるっぽいぞ。どうすっかなこれは。
「無事じゃないですよね? 殴るしか無いですよね?」
「どういう質問なんだい!?」
あ、ツッコミで元気になってやがる。
しょうがない真面目にやるしか無いかな。
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