犯・人・確・定

「とりあえずマイク壊せば終わりだろ」


 マイクを持っているラズリさんを守るように円陣組んでるザコが邪魔だ。


「どうするかねこれ」


「上にふっ飛ばしてマイクだけ狙撃するとかどうじゃ?」


「落ちる人が死ぬ。普通にマイクだけ取って。お願いだから」


 ラズリさん必死の懇願である。意識残ってると無茶できなくてダルい。


「しょうがない、これ壊せばいいんでしょ?」


 常人では捕らえることのできないスピードで駆け寄って、マイクを奪う。


「そういや俺がこれもってても平気なのか?」


「問題ないのじゃ。その鎧は状態異常や無効化や無効化能力無効なんかをガン無視するものじゃ」


「そら便利でいいやな。これで終わりだ」


 マイクを握り潰す。これで黒いもやもやも消えるはず。


「ダメみたいだね。もう身体の自由が効かないよ」


「そこは気合でなんとかしてください」


「無茶を言うね。これでも頑張って耐えてるのになあ」


 まずステージ衣装でプルプルしているラズリさんが、ちょっと面白くてズルイ。

 真面目な空気にならない。

 二重の意味でおかしいな。壊してもダメなのか。


「くっ、そろそろ限界だ。君達を傷つけるけどごめん。原因を探って欲しい」


 プルプルしながら俺達からちょっと距離を取るラズリさん。

 子鹿みたいっすね。プルプルしすぎでしょ。

 舞台上で見てたら大根役者の烙印付きそう。

 まあ大げさなギャグっぽい演技としてなら良さ気かな。


「まあ警備も依頼のうちですし」


「助かるよ。それじゃあ死なないでね」


「委細承知じゃ」


 黒いモヤが徐々に剣っぽく纏まっていく。トンファーに刃つけたような武器だ。

 猛スピードで俺に向かって駆けて来る。仕方ないので手甲で刃を受ける。


「いやあ本当にごめんね」


「本当に迷惑です。なんでモヤが残ってるんですかね?」


 モヤの力なのか、ラズリさんの素の戦闘能力なのか知らないけど、中々に洗練された動きだ。真っ直ぐ俺の急所だけを狙いに来る。


「なんでだろうね? 他の……解析班の人はどう?」


「モヤ無し、意識無しじゃな。足止めの魔法陣で動けなくしておいたのじゃ」


 倒れているザコ達の下に赤い魔法陣が展開されている。身体の自由を奪うタイプだ。

 鎧の知識によると。足だけくっつくタイプとか、重力が倍になったりするものもあるっぽい。


「んじゃそいつらから発生源がないか探ってくれ」


「ほいほーい」


「いやあ本当に何から何までどうも」


「そう思うなら攻撃の手を止めてくださいな。結構強いんですね」


 短剣二刀流と素早い足技で攻撃してくる。

 一撃の重みよりも手数と、そこからのバランスを崩した相手の急所へ一撃を放つタイプだな。


「ありがとう。実は強いんです。こんなにも。魔法も撃てるよフレイムブレードだね」


 短剣に炎が宿る。そのまま回転しながら横薙ぎの斬撃を繰り出してくるラズリさん。


「撃ってくれと言った覚えはないです!」


「それはモヤに言って」


 斬撃を躱しても炎の刃が飛び道具として発射される。

 結果として普通なら大振りに回避するか、斬撃と炎で二重に回避する必要が出てくる。


「おっとっと、すみません強めに弾きますね」


 当然鎧を着ている俺にそんなもん通用しない。

 適当に炎ごと振り払えばいい。傷なんてつくはずがない。

 距離を詰めて短剣を強めにはたく。


「おお……力を入れ過ぎじゃないかな」


 仰向けに倒れそうになるが、うまいことバク転にもっていって事なきを得るラズリさん。

 運動神経いいなあ。


「一回モヤのある部分、殴って消してみようかと思いまして」


「興味深いね。でも痛そうだから拒否」


 攻撃再開してくる。さっきから足技が多い。

 ゲームでしか見たこと無いけど、カポエラとかそういう技に似てる。

 身体の柔らかさを利用して動いてるんだろうなこれ。


「んじゃ短剣部分だけ砕きますね」


 親指を人差し指に引っ掛けて軽い衝撃波を打ち出す。指弾とでも言うかな。

 見事に短剣部分を吹き飛ばす。


「仕事が粗いよ。丁寧に扱ってほしいな。女性をなんだと思っているのかな?」


「イラッとしたので強めにいきますね」


 指弾の連射で靄がかかっている部分も、そうでない部分も攻撃していく。

 急所は避けてあげよう。せめてもの慈悲だ。


「モヤが散っているのう。衝撃を与えれば消えるみたいじゃな」


「じゃあ思いっきり腹パンしますね」


「ごめん謝るから軽く散らす方法を考えて欲しい。報酬上乗せするから。もう結構限界なんだ」


「面倒じゃな」


「そういやリリア。あっちはどうだった?」


「んぅ? なーんにも。ただ余波にあてられただけじゃな。手がかりなし」


 んじゃなんでラズリさんは操られてるんだろう。


「吹っ飛べばいいなら回復してみるってのはどうだ?」


「面白いのう。ヒーリングショットー!」


 リリアの扇子からヒーリングという名の白いビームが発射される。

 見事にラズリさんにヒット。


「おお……痛みが引いていく。助かるよ。モヤも飛んだね」


 ふらつくラズリさんを支えてあげる。こんなんでも依頼主だったなそういや。


「ありがとう。二人のおかげだよ。とりあえずこの状態じゃ検査はできないな」


「んじゃステージに戻ろうか。そろそろ出番でしょ?」


「ん、そうだね。衣装が汚れたし着替えてくるよ。予備があるから」


「お待ちなさいな。逃しませんわよ」


 鎧を解除し、今まさに別れようとしたその時に現れるヒメノ。

 作業着と帽子だけどヒメノのはずだ。


「ヒメノだよな?」


「はい、アジュ様のヒメノですわ」


「なんじゃ急に出てきおって」


「そこの不届き者を逃したくありませんの」


「それは私のことかな?」


「大正解ですわ。逃しませんわよ」


 探偵が犯人を言い当てる時のように腰に手を当て、ラズリさんを指差すヒメノ。


「なんのことかわからないよ」


「ちゃんと説明してくれ。いつもの悪乗りとの違いがわからん」


「ではアジュ様。これにライトを当ててくださいまし」


 ヒメノが持ってるのはマイクだ。ここで止めるのも面倒なので乗ってやる。


「ん? 赤いな」


「そう、赤い光ですわ。これは双子アイドルが持っていたものですわ」


「双子アイドル……あのマイク検査引っかかったやつか」


 水色と紫の姉妹アイドルだったはず。双子なのか。


「彼女がそれをもっていたと言い切れるの? 今だって歌が聞こえているよ」


「双子ちゃんはマイクがすり替わったことに気付いていませんわ」


「わたしがすり替えておいたのさ!」


 いつの間にか横にいるシルフィ。すり替えるのはシルフィなら容易いだろう。時間止めちまえばいいんだから。


「直前ですり替えてってヒメノに頼まれたんだ。アジュにもステージの袖でアイドルを見張れって言われてたしちょうどいいかなって」


 祟り神発生装置が作動すれば黒いモヤが出る。

 そこで時間止めてシルフィに回収してもらおうと思ったけど、事態はもっと簡単に終わりを迎えそうだ。


「それと私が責められる理由が繋がらないね」


「貴女もライトはお持ちですわね? ちょっとこれに当てていただけませんこと?」


「ライトはさっきの戦闘で……」


「シルフィ、ラズリさんの右ポケット」


「はいさー! これかなー?」


 シルフィがノーモーションでラズリさんのポケットに手を突っ込み、ライトを取り出す。

 簡単な指示で何をして欲しいか伝わるっていいな。


「これで照らすと青く光るねー」


 シルフィの言う通りだ。ライトは青く光る。


「ちなみにわしのライトは赤く光るのじゃ」


「あらあらどうしてかしら。不思議ですわね。ちなみにマイクを渡す人は全員女性ですわ」


「何故言い切れるの?」


「アイドルの控室に男性が頻繁に出入りするのは好ましくありませんわ。それに、皆様にマイクを渡したのは、何を隠そうわたくしですわ! ちゃんと底に目印がついておりますのよ」


 アイドル達が女性の作業員だと言っていたな。こいつ裏でそんなことやってたのか。

 マイクの底にはよくわからんマークが書いてある。


「つまり男性作業員ってのがそもそもウソってことか。やるな」


「褒められましたわ! アジュ様の好感度爆上がりですわね! これは今日中に結納もありますわ!」


「ねえよそんなもん!」


「アジューゆいのうってなに?」


「婚約みたいなもんじゃな」


 俺も詳しく知らん。親立ち会いのもと婚約する儀式みたいなもんだろ。


「やだ! 勝手に婚約とかしないで!」


「しねえって言ってるだろ!」


「ふっふっふ、口ではどうとでも言えますわ。夜にはどうなっているかわかりませんわよ!」


「夜じゃと……夜間結納じゃな」


「そんな言葉ねえよ!!」


「夜間結納……なんか大人なことする気なんだね! ヒメノにするならわたしが先がいい!」


「しないっつってるだろうが!!」


 ヒメノ来ると話が進まない不具合出るわ。リリアも乗るな。


「おっと、どこへ行く気かな。ラズリさん」


 咄嗟に近くにいたラズリさんの腕を掴む。


「いやあちょっと逃げようかと」


「逃さないと言いましたわよ?」


「そっか、しょうがないな……それじゃあ予定変更。アジュくんご招待だよ」


 ラズリさんが俺に抱きついてくる。意味がわからなくて反応できなかった。


「あー! なにやってるのよ!」


「アジュ様に気安く抱きつくんじゃありませんわ!」


「まずい……離れるのじゃ!!」


「一緒に行こうね。二人も待ってるよ」


 足元の光は……なんかの魔法陣だ。


「めくらましもおまけするね」


「ちょ!? 眩しい! なにこれ!?」


 俺の視界は迸る光によって遮られた。身体が宙に浮いている感覚だ。

 俺はどこへ行くんだろうか。

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