決着 そしてラブコメへ

 ラズリさんに抱きつかれて空を飛び、数秒でやって来たのは学園を離れた平原。

 レジャー気分で来るならいいかもな。俺は家から出るの嫌だから来ないけど。


「で、何で俺は巻き込まれたのさ? あの魔法陣は俺がいなきゃいけないもんじゃないだろ?」


「あれは高速移動魔法陣。簡易なやつだけど、装備に仕込んでおける」


「便利なもんがあるなあこっちは」


「普通は術者一人しか移動できないけど、今の私ならまあなんとかなるよ。恐ろしく疲れたけど……キミは一人でも数人分魔力を持っていくね」


「いや知らんよ。だったら巻き込むな。逃げるな。めんどいよ。帰りどうするんだよ」


 ラズリに不満が溜まっていく。もう敵なのは確定だしぶっ飛ばして終わりでいいなこれ。


「仲間にならない? キミがいればもっと楽になる。アイドルもつけるよ。出ておいで」


 木々の間から現れたのは双子アイドル。

 こいつら名前知らんな。まあ敵なら斬っちまえば聞かなくていいし。


「私の最高傑作だよ。神造天使ジブリールとガブリエル。キミの好きなようにできるアイドルだよ。適当にムラムラしたら抱けばいい」


「やっすいアイドルもいたもんだな。貫通済みのアイドルなんて何の価値もねえだろ」


 処女性が最重要と言っても過言ではない。容姿もそうだけどな。

 抱きたくても抱けないからアイドルは素晴らしいのさ。


「君のものになるんだ。君が初めての人さ。光栄だろう?」


「いらん。興味ない。そんなサルみたいな理由で動いたりはしない」


「何故かな? 容姿が好みじゃ無いとか?」


「俺は女なんてどうでもいい。そいつら家に持ち帰るわけにもいかんだろ」


 あいつらに勝るものはない。ろくに話したこともないアイドルなんてどうだっていい。

 そんな連中持ち込んで一悶着あるとか、バカバカしくてやってられるか。


「強欲なのか謙虚なのかわからないね。キミが本気で説得すれば仲間は言うことを聞くんじゃないかな?」


「かもな。だが説得するだけの価値はお前らにはねえよ。全てにおいてギルメンの下位互換だ」


「手厳しいね。それじゃあ諦めて死んでもらおうかな」


 ラズリの両手に黒いモヤが集まり、黒く濁った水晶へと変わる。


「祟り神発生装置か」


「半分正解だ。これは人間の欲望を増幅させ、信仰を集めて私に送る装置なんだよ」


「また信仰か。最近似たようなこと言ってたバカを知ってるぜ」


「ゲルのことかな? あの子はバカだったよ。神になることにこだわった」


 水晶を持ってゆっくりと双子に歩み寄るラズリ。


「信仰を集めるならもっと効率のいい方法があるのにね」


「なんだかわからんけど、壊しておくぜその水晶」


『ショット』


 魔弾で破壊を試みる。しかし双子によるバリアーで全弾防がれてしまう。

 問題ない。連射し続けてバリアーを張らせよう。


「無駄だよ。邪魔はさせない」


「いや、想定内だ。双子がどう邪魔してくるかだけが問題でね。やれ、水晶だ」


 ラズリの足元から伸びる鋭く尖った影が両手ごと水晶を貫く。

 水晶は砕け散り、黒い煙を上げながら消えていく。作戦通りだ。


「……これはどういうこと?」


「こういうことよ」


 影の拳がバリアーの内側からラズリ達を襲う。

 俺達から距離を取ってももう遅い。水晶は破壊された。


『ヒーロー!』


 ついでにヒーローキーをさしておく。


「ナーイス……イロハ」


 俺の服の隙間から影が吹き出し、イロハが出てくる。


「キミはいったいどこから……?」


「これから死ぬ人に、一々説明する必要があるのかしら?」


 イロハはフェンリルの力によって影と同化できる。

 俺の服の内側に存在する影の中に入り込んでずっと待機してもらっていた。


「やるね。どこから怪しいと思っていたの?」


「最初っからだ。俺は女を信用しきったりはしない。報復の手段くらい考えて動いている」


「そこからミスだったのか。まあいいさ一人増えようが二人増えようが同じこと」


「そうね、どうでもいいことだわ。今一番大事なことは別にあるもの」


 俺にグイグイ詰め寄って来るイロハ。なんか雰囲気が怖い。


「ヒメノと結納とか絶対に認めないわよ」


「そこ!? まだそこひっかかってたのかよ!」


「当然でしょう。私はちゃんと結納がなにか知っているわ。認めない。あの女のように途中で出てきて私達の中に入ろうとするなんて……まず貴方もはっきりしなさい。やっぱりああいうのが好みなのね」


「いや断ってた……よな? ずっと聞いてたのかよ」


「聞いていたわ。貴方の服の中でね。最高だったわ。この季節に戦闘があると素晴らしい……汗の臭いが残るけどべったりするほどではないし。ほんのり体温が上がるから暖かいし、まさに理想郷といったところよ」


 早口でまくし立てるイロハ。俺を責めたいのか、変態行動を暴露したいのかわからん。


「その報告はいらないです。ちゃんと見張ってたんだろうな?」


「ええ、指示されたタイミングでしっかり役目を果たしたでしょう? もっと褒められていいはずよ。今日中に三回は夜間結納があっていいはず」


「夜間結納を一般用語みたいに使うなよ!?」


「その茶番はまだ終わらないのかな? こちらは準備出来たよ」


 イロハに気を取られているうちに、なんか準備が終わったらしい。

 よく見ると双子の紫の髪の子は右肩に、水色の子は左肩に翼がある。

 真っ白な片翼は今まで生えてなかったはずだ。


「さて、それじゃあ死んでもらおうかな」


「できると思ってるのか? 実力差がわかってないのかよ」


「愚かな女ね。あんな連中に靡いてはダメよ。家に連れて帰ることも許さないわ」


「しないっつーの」


 実際この鎧着てて負けるとは思えない。一度戦っているのにラズリの余裕は何だ。


「ちょっとやそっとでは死なないよ。試してみようか。行って」


 黒い靄で出来た槍と斧を構えて突っ込んでくる双子。


「水色のほう任せる」


「わかったわ」


 俺は紫の斧持った子と戦うことにする。大振りの斧を避けて二、三発蹴りを入れてみる。

 やはり楽にぶっ飛ぶ。こいつらそんなに強くないな。


「やっぱ弱くね?」


「そうね、呻き声すらあげないのが不気味だけれど」


「ああ、叫ばれてもうるさいからね。話す機能はオフにしてある。真の恐ろしさは強さではないよ」


 便利な機能ついてんなおい。ラズリが黒光りするトンファーブレイドで斬りかかってくる。


「悪いな。お前の動きはもう見切ってる」


 当然鎧のお陰でな。攻撃を籠手で弾いてカウンター気味に腹に拳を叩きこむも手応えなし。


「なに?」


「残念、私は質量のある映像。本体ではないよ」


「なら纏めて叩くだけよ」


 地面から巨大な影の腕が現れ、ラズリを握り潰す。これなら逃げ場もない。


「あーあ、一つ潰れちゃった」


 離れた場所に無傷のラズリが現れる。一つってのはどういう意味だ。


「んじゃ二つ目も潰してやるか」


 片っ端から潰してみるか。指弾の連射で様子を見る。

 ラズリの身体に風穴が空き、黒い靄が出た後で消える。


「いいのかい? 双子から目をそらすと危険だよ」


「いいんだよ」


「そっちは私で倒せるもの」


 イロハが二人同時に相手をしている。

 どれだけ短刀で斬りつけても双子から血は出ていない。


「こいつらも人間じゃないんだな」


「言ったよね。天使だと。もう人間の形にしておく必要もないか。戻っていいよ」


 双子が木製のデッサン人形のようになっていく。髪と服と羽だけが人間の時の名残だ。


「うっわキモ!?」


「これはないわね……趣味が悪すぎるわよ」


「恐怖を与えるにはいいだろう?」


「まあ怖いわな。そんじゃあ遠慮無くぶっ壊すか!!」


 全力の回し蹴りで二人同時に消し飛ばす。

 ついでに木々を薙ぎ倒してしまうけどまあしょうがない。


「あっけないな。こんなもんか」


「どうかな? 私の最高傑作はこんなものじゃない」


 薙ぎ倒した木々が土煙を巻き上げる。その中を歩いて来る双子っていうか木製人形。


「おいおい無傷ってどういうことだ」


「いやいや、間違いなく一度死んだよ。死んだだけだ」


「説明は……してくれないわよね」


「当然さ。大いに悩むといい」


 いつの間にかラズリが五人に増えている。


「とことん面倒だなオイ」


「分身には分身よ」


 イロハが分身の術でドンドン増える。ついでに影で真っ黒な自分を作る。

 カゲハと戦った時に見せた影の軍団だな。能力を使いこなしている。


「んじゃ俺も本格的にいこうか」


『イロハ!』


 久々に登場イロハキー。真っ黒な忍び装束にひときわ目立つ真紅の長いマフラー。

 この姿は結構気に入っている。


「久しぶりに見たわ。その姿。似合っているわよ」


「そらどーも。ほい、俺も分身だ」


 とりあえず分身を三十体ほど作る。

 増え続けるラズリに対抗して分身達の乱戦が始まる。


「倒れるまで殴ってみるぞ。実験だ」


「了解。全てを倒す。シンプルでいいわね」


「面白い。やってみて」


 それから何度双子を倒しても起き上がる。しかもラズリが増え続けている。


「いいからぶっ壊れろガラクタが!」


 水色人形にアッパーくらわせて首から上を木片に変える。

 しかし再生し、翼が黒くなる。これもたまにある。

 何かの魔法かと思ったけど強さに変わりはない。


「洒落っ気出して黒く染めてんじゃねえ!」


 もう一度頭を砕く。今度は羽が白くなる。色が変わる意味は何だよ。


「面倒だな。一回纏めて屠ってみるか…………」


 自分の気を拳に集め、地面に叩きつけて放出する。これは下準備。

 術の流れを良くし、瞬時に隅々まで行き渡るようにするものだ。


「全員一度に死ねば助からんだろ……雷遁!!」


 気の張り巡らされた地面へ電撃を流し込む。

 数千万ボルトの電流だ。まず助からないはず。

 上空へ飛ぼうとするラズリ達をさらに上にいるイロハが叩き落とす。


「見事だ。今ので間違いなく全員死んだよ。おめでとう」


 また再生しているラズリと双子。こいつら不死身か。


「わからんな。これだけの力があってなんで事件を起こす?」


「信仰があれば強くなれる。もっと色々できるようになる。私達は信仰があれば生きていけるのだから食事を豪華にしているも同じ。もっと知らないメニューが食べたくなる。人間の恐怖と混乱というショーもつけてね」


「それで何故アイドルなのかしら? 今一つ繋がらないのよ」


「効率がいいからだよ。大多数の人間には神様なんて、いるのかいないのかわからない曖昧なもの。そんなものを信じ込ませて寄付や信心を得るなんて面倒でしょ」


 面倒って……いやわからんでもないけどさ。

 相変わらず無表情なのに饒舌なラズリの話は続く。


「都合のいい偶像に入れ込むという点では変わらない。でもアイドルは生きている人間で見ることができる。だから信仰も得やすい。高額のグッズでもアイドルが手渡しすれば買ってくれる。神よりも余程優れた信仰集金システムなんだよ」


「だからアイドルやって、混乱は話題作りの意味もあったわけか?」


「正解。単純に策を練るのも好きなんだ。練って練って、勝っていようが負けていようがゲーム盤をひっくり返すのもね。そんなわけで楽しかったよ」


「行動原理がゲルと変わらないわね。貴女もヴァルキリーなのかしら?」


「そう、ヴァルキリー ラーズグリーズ。ちょっとお茶目な戦乙女」


「お茶目で済まねえだろこれ」


 どれだけ俺達が面倒な目にあったと思ってるんだよ。今だってクソめんどいわ。

 襲いかかる双子を殴り、投げ飛ばしながら会話は続く。


「キミ達だって自分勝手に動いたことがあるでしょう?」


 火遁による火炎弾を紫人形に飛ばして、迫り来るラズリの魔力が込められたバスケットボールくらいの玉の嵐を避ける。

 ダメージは無いけど当たってやるのも癪だ。そこそこの威力はあるようで、爆発で視界が遮られる。

 ん……今……水色が紫を槍で突き刺していたような。


「俺は私情でしか動かねえよ。人道なんてもんで動こうと思えないんでね」


「私は彼が動くなら、そばにいるだけよ」


「それだって勝手じゃないか」


「そうだな。お前が気に入らない。俺の大切なものを傷つけようとするお前がな。だから殴るだけだ」


「随分と勝手なヒーローもいたものだね」


「いいんだよ。誰か、なんてそれこそいるのかわからん存在より……俺は俺の横にいる、横にいてくれるイロハやリリア、シルフィを守りたい」


 ヒーローを名乗る気もないし、誰かを守って正義の為にーなんて俺には似合わない。仲間のためだからやる気もなんとか捻り出している。


「それだけかい? 世界を守る勇者にも、世界を破壊する魔王にもなれる力を持っていて、それだけで満足かい?」


「ああ満足さ。世界なんかよりも、ずっとずっと面白い。取り零すつもりはない。こいつらが俺の世界を変えてくれた。どうせなるなら、今回だけ三人のヒーローにでもなってみるさ」


「もう……そういうことは二人の時に言いなさい」


「悪いな。恥ずかしくて無理だ」


「なら守ってみるんだね。まだまだその子達は止まらないよ」


 襲ってきた双子を倒すと翼が白くなっている……なんだろうな、違和感が凄いわ。落ち着け、こういうボスキャラってどう倒す。絶対無敵ってわけじゃないだろう。白と黒の違いはなんだ。


「試してみるか……イロハ、ラズリだけを頼む」


「わかったわ」


「まだ話は終わってないんだけどな」


「知るかよ。お前の都合なんてどうでもいい」


 まず紫の土手っ腹にマフラーを伸ばして大穴を開けてやる。

 このマフラーは武器にできる。伸縮自在だ。

 すぐに紫が消え、水色の近くに現れる。羽は白。どちらかが死ぬともう片方の近くに再生する。両方消し飛ばすと少し離れた位置に現れる。ウザイ。


「何度やっても無駄さ。キミ達の勝利は永遠にやってこない」


「それはどうかしら? 貴女の攻撃は私達には届かないわよ」


 攻撃のスピードはラズリよりイロハに分がある。

 加えて影による予測不能な攻防には付け入る隙など無い。

 イロハの無事を確認しつつ水色の首をはねる。

 紫は俺から離れ、双子が同じ場所に並ぶ。水色の羽は黒。


「……こっからだな」


 呟きながら水色にクナイの雨を浴びせる。また双子が並ぶ。

 紫の羽が黒くなる。死んでいないのに。

 間髪入れずに紫に接近し、防御に移ろうとする紫にマフラーを伸ばし頭部を突き刺す。

 水色の羽が黒くなる。


「………………当たりか」


 そこから羽の黒くなったやつだけ倒し続けること四回目、双子人形の羽が同時に黒く染まる。


「ここだ!!」


 マフラーの両端で双子を拘束する。


「させないよ」


 ラズリの集団が俺と双子に迫る。どちらかを止めればいいという魂胆か。だが遅い。


「終わりだ、木偶人形」


 既に双子のいる地中に俺の分身を忍ばせておいた。

 地面から飛び出した二体の分身が寸分違わず双子の首を斬る。

 黒い靄が溢れだし、木偶人形は跡形もなく消えた。


「オーケイ大成功だな」


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかしら。何を掴んだの?」


「あの木偶、殺す順番がある。羽が黒い方が当たりだ。理屈は一切わからんけど、手順通りにやらないとリセットされる」


 槍で片方を突き刺していたのは殺して手順をリセットしたんだろう。


「正解だよ。本来ここまで倒されることがないから油断していた」


 全てのラズリが集まって一人になる。


「ついでに解説してやる。お前は不死身なんじゃない。祟り神アクセサリーと同じだ。自分の命を分割しまくってるんだ。不死って言っとけばインパクトは強いけど、明らかに個々の力は落ちている」


「その通り。双子という指揮系統を失い、全ての命が私に戻った。正真正銘最後の一人だよ」


「これで貴女のふざけた計画も終わりよ」


「諦めろ。お前にもう道はない。逃げる力もないだろ?」


「まだだ。今まで貯めた信仰と私の力の全てを使う!」


 ふらふらと遥か上空へと飛び、両手を天へと向けるラズリ。

 太陽は雲に隠れ、暗雲が空を覆い尽くしている。


「これが力だ。私の全てを犠牲にした全身全霊の! 命を賭した一撃だ!」


 黒く渦巻く巨大な魔力玉を形成する。その大きさは天を埋めつくさんばかりだ。


「想定外の強さだったよ。それでも、せめて手傷を負わせよう」


「最後の最後まで面倒ね。最後は格好良く決めてちょうだいヒーローさん」


「茶化すなっての……それじゃあ新技いってみるか」


『真! 流! 星! 脚!!』


 マフラーが首を離れて足に絡みつく。やがて俺の右足に光り輝く装具が宿る。

 必殺技キーは一つじゃない。他のも使ってやらないとな。


「消えろ……ラーズグリーズ!」


『成敗!!!』


 降下する暗く蠢く魔力玉へ向けて渾身の飛び蹴りを放つ。

 右足から湧き出る無限に思えるほどの光の奔流は、俺を一筋の光に変えてただ真っ直ぐ、愚直に魔力玉に突っ込む。


「負けるはずがない……人に……ここまでいいようにやられて……終わっていいはずがない!!」


「終わりさ。お前の汚れた計画なんて……俺ごときでどうとでもなるんだよ」


「こんな……うぅあああぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔力玉を破裂させ、そのままラズリを突き破り、大爆発が起こる。

 暗雲を突き抜け雲の上まで昇ると、俺の蹴りと爆風で雲が散って世界を夕日が照らす。

 綺麗な夕日だ。これまでの苦労のご褒美としちゃ上々だな。


「おかえりなさい」


「おう、ただいま」


 下に降りて鎧を解除するとイロハが迎えてくれる。


「終わったな。さてどう帰ったもんかな……ここどこかわかるか?」


「それはあっちに聞けばいいわ」


「アジュ様ー! 戦っているお姿! とても雄々しくて素敵でしたわー!!」


「アジュ! イロハー! 大丈夫? ケガとかしてない?」


「まったく……急にいなくなりおって……心配かけるでないわ」


 聞き慣れた声だ。こちらへ駆けて来る姿が徐々にくっきり見えてくる。


「ここ、そう遠くないわよ」


「そうなん? そらよかった」


「見つけましたわアジュ様!! やはりわたくしが見込んだお方ですわ!!」


 ヒメノが全力で遠慮なしに抱きついてくる。


「ヒメノずるい! わたしもやる!」


 反対側にシルフィが抱きつく。胸が大きいんだよお前らは。


「どうした?」


 リリアが俺の服の袖を掴んでいる。


「別に、なんでもないのじゃ。その……あんまり勝手に遠くへ行くでない」


「そうだな。ちょっと焦ったよ」


「大切なものが守れてよかったわね。ヒーローさん」


「やめろって恥ずかしいんだぞ」


「いいじゃない。滅多に聞けない、聞かせてくれない貴方が悪いのよ」


 イロハが笑顔でからかってくる。それを見逃すこいつらではない。


「んー、なになに? なにかあったの?」


「なんですのその空気は! なにがありましたの!?」


 ほれみろ、余計なこと言うからこうなる。いつものパターンだ。

 

「なんでもないさ。いつもと同じだ」


 この『いつも』を、これからも一緒に積み上げていこう。

 大切な人に囲まれて、俺は心の底からそう思った。

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