もう完全にめんどい

 食材を買って家に帰った俺達だったが。そこで思わぬ事態に出くわした。


「第一回、教えてアジュ先生! チキチキクリームコロッケ作りー!!」


 はいもうめんどい。もう本当にめんどい。

 リビングにシルフィが言ったセリフそのままの垂れ幕がある。


「もう……どっからつっこめばいいんだよこれ……」


 人が多い。リリア・ヒメノ・やた子・フリスト・イロハ・ヨツバ・シルフィ・ミナさん。

 リビングは広いので窮屈じゃないけれど、それでも多いわ。


「はじめに言っておく。この人数につっこむのは無理だ」


「それはいやらしい意味ですの? ボケ的な意味ですの?」


「第一声がそれかヒメノ!」


 こいつもなんでいるんだ。買い物中に見たやた子が呼んだのか?


「いやらしいことは私達に優先権があるわ」


「ねえよそんなもん!」


「まずわたし達がしてからです!」


「堂々と言うことか!」


「その後、わしらがハーレム入りさせるかどうか審議するのじゃ」


「そこは最低限俺が決めることだろ」


 絶対にハーレムとか認めないけどな。誰も入れずにごまかそう。


「おぬしに任せるとだーれも入れんじゃろうが」


 はいバレています。リリア相手にこういう話題は勝てる気がしない。


「とりあえず無難な質問からいこう。なんでお前らここにいる?」


「やた子ちゃんに聞きましたわよ。クリームコロッケを作るとアジュ様を一晩自由にできると」


「言ってねえよ! コロッケどんだけの価値があるんだよ!」


「すいやせん旦那。まさかここまで行動が早いとは思わず、止める事ができやせんでした」


 とりあえずフリストのせいではないだろう。

 むしろこのメンバー唯一の良心である。


「いや、いいさ。お前はむしろいてもらわないときつい。助かる」


「あっしも旦那のことは嫌いじゃございませんぜ。なんとかサポートいたしやす」


「わたくしもお手伝いいたしますわ! 大好きなアジュさまに手料理を……」


 そこでヤカンが大きな音をたてて鳴る。俺は反射的にお約束の言葉を口にしていた。


「え、なんだって? ヤカンの音で聞こえなかったよ」


 言ってからなに言ってんだと思う。

 すっとぼけ訓練は続けられているため、考えるより先に言ってしまった。


「なぜこのタイミングで!? うぅ……これはなんの試練ですの?」


 ヒメノ相手だし、問題ないだろう。そもそもなんでヤカンが沸いた?


「さ、みんなの担当を決めよっか!」


 張り切るシルフィの横にヤカン。時間を止めて、ヤカン持ってきて湯を沸かしたのか。

 なんて無意味な行動力。別のことに使えばいいのに。


「担当もなにも作り方知ってるのか?」


「知らないわ。だから教えてもらうためにいるのよ」


「じゃあ俺がやるしかないだろ」


「有能美少女アシスタントっすよ。お触りもできるっす!」


「つまみ出せ」


「なぜっすか!?」


 なぜもクソも邪魔だからだよ。本当に俺が教えるしかないのか。


「それではまず……後ろから密着して、アジュ様に胸を押し付ける係を決めますわ!」


「いらんわ! 妨害してるだけだろうが!」


「後ろから抱きしめて包丁の持ち方を指導したりする流れってあるじゃないっすか」


「あるけど胸メインじゃねえだろ。俺が教える側だし」


 作っているところを見せればいいんだ。早く作って終わらせよう。


「その次はふとした拍子に手と手が触れ合ってしまい、お互いを意識する係じゃ」


「料理関係ない! こってこてのラブコメか!」


「はいはーい! 試食であーんしてもらう係が必要だと思います!」


「いるかボケエ!」


 めんどい。俺は無事に料理することができるのか。


「いいからさっさと作るぞ。材料は……」


「こちらにカニを用意いたしました」


 ミナさんから中くらいのカニを何匹も貰う。用意周到な人だけど。


「これ高いんじゃ?」


「カニだから費用はかからないわ」


「こっちではカニは安いのじゃ。おぬしがいた場所でいうならサンマレベルじゃな」


 家計の味方的な食材らしい。でかいと味は大雑把で、ほどほどのやつは味が濃くて繊細なんだと。


「んじゃ問題なしだな。係を決めるか」


 決めないとこいつらが揉める。つまり料理が進まない。


「カニをほぐす係と、調理補助を一人か二人だな。それ以上に指導ができん」


「アジュさんのほっぺについたカニを舐めとる係はないっすか?」


「つかねえよ。食うわけじゃないんだぞ」


「つまり三人が限度じゃな」


 台所めっちゃ広いから、やろうと思えば全員は入れるけどやめておこう。

 広くても作業はちまちま進むもんだし。時間をかけすぎるとまずくなる。


「公平にくじ引きだね」


「言っておきますが、クロノスの力は使えばわかりますわよ」


「えぇ!?」


「わしらにはわかるのじゃ。普通にやるしかないのう」


「と、いうことはフェンリルも」


「バレるっすよー。さあ、運命を決めるくじ引きっす! アジュさんの隣でいちゃこらできるのは誰なのか!!」


 いちゃこらじゃなくて料理がしたいんだけどなあ。

 そしてくじ引きの結果。


「よろしくお願いいたしやす」


「なぜ私が……まあよろしくお願いします、お館様」


「サポートはお任せください」


 ヨツバ・フリスト・ミナさんという俺にとって害のない、とてもありがたいメンバーとなった。


「なぜですの!? こんなことはありえませんわ!!」


「ううむ不覚じゃ。わしが負けるとは」


「どうせクロノスのないわたしなんて……くじにも勝てないのさ」


「なぜ……なぜなの? 私が負けた?」


 がっくりと膝をつく負け組。大げさにも程があるだろう。

 大人しくテーブルでカニをほぐしてもらうか。


「じゃ、作るか。カニは全部ほぐすなよ? あとで別の料理も作るからな」


「はーい、こっちは任せるっす」


 ヘタにフォローするよりちゃちゃっと作ろう。


「小麦粉、バター、牛乳、卵はあるし……その他もろもろ全部あるな」


「はい。急遽買って来ました」


 流石ミナさん。いい仕事してらっしゃること。


「んじゃまずヨツバ、俺とタマネギを薄く切る。タマネギ入れないやつも作るから、気をつけろ」


「はい、こうですか?」


「そうそう、そんな感じで切っていく」


 よどみなく切っている。ミナさんはともかくヨツバもうまいな。


「忍者は自給自足くらいできないとやっていけませんよ」


「あっしはよくヒメノ様の食事やデザートを作っておりやすから」


 なーるほど。包丁さばきからも慣れていることはわかるし、簡単に教えればすぐできるなこりゃ。


「うぅ……アジュと楽しく並んでお料理とかずるい……わたしもしたい……」


「ま、諦めるのじゃな」


「こうなったらヨツバ、料理中にこちら側に引き込むのよ」


「引き込むってどうする気だおい」


「私はハーレムには入りませんって。普通の忍者です」


 忍者に普通とかあるのかね。ハーレムとか関係ないポジションでいて欲しい。


「ちょっとしたハプニングでアジュを抱きしめてしまっても、それは料理中の事故よ」


「んなわけあるか!」


「いやだから私はハーレム入りもしませんし、お館様が好きなわけでもないんですって」


「フリスト! 負けていられませんわ! 全裸で抱きつくところまで許可しますわ!」


「勝手にすんなや!!」


「ミナ! お願い!」


「とりあえず裸エプロンというものをしてみましたが、いかがでしょう?」


「服を着てください!!」


 いつ着替えたのかわからないけど、ミナさんが裸エプロンだ。

 もう全然進まないじゃん。まだタマネギ切っただけだぞ。


「裸エプロンはやめてください。っていうか油使うんで危険です」


「裸エプロンは浪漫じゃろ。なんならアジュが着てもよいのじゃよ」


 今日一番場がざわつく。いかん。完全に俺が着る流れだ。断ち切ろう。


「これ以上ふざけると、しばらく俺の部屋にくるの禁止」


「さ、カニをほぐしますわよ!」


「頑張ってほぐしていこうね!!」


「精一杯カニと向き合うわ!」


「今のわしらはカニをほぐすマシーンじゃ!」


 よし、これであっちは問題ない。


「じゃあミナさんとフリストは、こっちでフライパンにバターを……」


 全員料理ができるので、簡単に説明すれば料理は進む。


「カニってたまに食べるとおいしいっすね」


「つまみぐいすんな! そしたら牛乳入れましょう」


 ツッコミと料理の両立は難しいもんだな。


「こうですか?」


「そうそう。根気よくかき混ぜてください。その間にこっちも準備だ。フリスト」


「へい、カニでございやすね?」


「おう、細かくしたやつでいこう。ちゃんと火を通すぞ」


「この爪からぶらーんと身がついているのは、このまま入れません?」


「いいね、そういうおもしろ要素は入れていこうか。それは別で焼いて後で入れよう」


 誰かと料理するという状況はなかなか楽しい。

 リリア達と食事当番で料理するの実は好きだったりする。


「食べやすいサイズに分けるときがきたら、さっき別に作った爪つきのカニを」


「はい、分けたものに包んで埋め込むんですね」


「そうそう、爪のとこ手でつまんでするっと食おう。フォークいらずだ」


 そんな感じで充実した料理タイムは続く。


「冷蔵庫に入れるなら、シルフィ様に時間を進めていただくというのはどうです?」


「なになに、出番?」


 カニほぐしを終えて、完全にソファーでヒマしていたシルフィがこっちに寄ってくる。


「んー正確な時間は俺しか知らんし……今回はいいや」


「そっか……気にしないから大丈夫だよ。どうせわたしなんかくじも負けるし……」


「米炊くからそっちをいつもどおりに頼む。ミナさんも一緒にな」


「よーし任せて!」


「かしこまりました」


 ちゃんと米も炊かないと、コロッケのみという偏った食事になるからな。


「サラダは……いらないか」


「一応作りませんか? 栄養偏っちゃいますし」


「んじゃフリスト、ヒメノと頼む」


「お任せください」


「わたくしを呼ぶ声が聞こえましたわ!」


 これでよし。あとは汁物だけど……どうすっかな。


「全員味噌汁飲めるな?」


「わたしとミナは大丈夫だよー」


「むしろ馴染みの味ですわ」


 全員問題なしっぽいので作ってもらおう。


「イロハ、ヨツバと一緒に頼む」


「任されたわ。ようやく出番ね」


「お館様って実は優しいですよね」


「余計なことは言わんでいい」


 台所はかなり広いので全部同時に作るくらいのスペースがある。

 だったらギルメン全員になにかしら重要な役を回してやらないとな。


「妙なもん入れるなよ。全員食うんだからな」


 さて、ここまで順調だ。美味しくできそうで非常に楽しみだよ。

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