ヴァンVSルシード

 ヴァンに誘われ、闘技祭を観戦に来た俺たち。

 決勝戦はヴァンとルシードという男の対決となった。


『一年の部決勝は、なんとなんと勇者科対決だ!!』


 沸き立つ会場。戦士科のイベントなのに、普通に勇者科に歓声が来ている。

 あまり確執とか無いのだろう。純粋に強いやつが見たいのかな。


『爆焔の黄金剣、ヴァン・マイウェイVSブシドーを名乗るクール系剣士、ルシード・A・ラティクス!!』


 薄い水色の長髪を後ろで束ね、でかい剣を持つ長身のイケメンだ。

 紫色の瞳で、でっかい剣を背中に装備している。

 でかすぎるだろ。2メートルはあるぞ。


「こうしてちゃんと話すのは初めてかもな」


「かもしれん。同じ勇者科だ。以後よろしく頼む」


「おう、よろしくな」


 礼儀正しいのだろうか。クール系というのが雰囲気でわかるが、近寄りがたい感じではないな。


『それじゃあ早速バトルスタートだ! レディーゴー!!』


「セエエエエエヤア!!」


 ルシードは鞘から剣を抜かず、そのまま振り下ろす。


「イヤッハー!!」


 合わせるように黄金剣を振り下ろし、二人の剣がぶつかり衝撃波が飛ぶ。


「やるじゃねえか。一歩も引かねえとは見事だぜ」


「光栄だ。ならば存分に打ち合おうか」


 足を止めての切り合いへと突入した。

 ぶつかり合う金属音と暴風が、武舞台を包み込んでいく。

 だがヴァンは近距離爆破という強力な戦法がある。


「爆炎全力斬り!!」


「二の太刀、閃光!」


 眩い光がヴァンの剣をわずかに逸らす。

 同時にルシードの突きがヴァンの腹へ、ヴァンの蹴りがルシードの腹へとめり込む。


「うっが!?」


「くっ……やる!」


 そのまま両者バックステップで距離を取る。

 鞘から抜かれていない剣だから、腹に入っても死にゃしないが、それでもダメージは入っているはずだ。


「なぜ剣を抜かないのかしら?」


「威力を足しておるのじゃろ。ヴァンのパワーに勝つために」


「鞘関係あるのか?」


「あれは刀じゃよ。大剣ではない」


 意味がわからん。でっかい剣ではないらしい。


「何か魔力を増幅させるような、特殊な技術を組み込んであるのじゃ」


「隠し玉があるってことか」


「そういうことじゃ」


 それで打ち合いのスピードが落ちないのは、ある意味凄いことだろう。

 当然のように音速を超えている。現状マッハ50くらいかな。


「ならこいつでどうだ!!」


 黄金剣を分離させ、二刀流で斬りかかる。速度で勝ち越す気なのだろう。


「多重閃光剣!!」


 おびただしい量の光が群れをなしてヴァンへ向かう。


「こんなもんでやられるか!!」


 剣で弾き飛ばすと、散った光がヴァンへとUターンする。


「おいおい嘘だろ」


「光に限界など無いぞ。針となってでもお前を貫く」


 地味にうざい。小さな光を捉えることも難しければ、わざわざ打ち落とすのも面倒だ。距離を取られていると、さらに対処は難しくなっていく。


「確かに強え技かも知んねえがよ」


 体に魔力を張り付かせたヴァンは、一直線にルシードへと駆ける。


「小さい光まで個別に操作できてるとは思えねえなあ!!」


 最低限急所に飛んでくる光だけを切り払いながら、猛ダッシュをかける。

 一発一発の威力が高いわけではないのだろう。

 接近戦に持ち込むと、光の束は行き場を失うように消えていく。


「気づくのが早いな」


「距離なんか取るからだぜ。忘れがちだが、攻撃しつつ操作するのは難しいもんなあ」


「勘で動いたというのか」


「どっちみち近づかなきゃ斬れねえだろうがよ!」


 完全に近づいてしまえば、光を撃ち出す余裕を消せると踏んだのだ。

 だがルシードはそれを読みつつ、次の手を出してきた。


「三の太刀、氷槍!!」


 剣を滑らせた先に、氷の柱が飛び出す。

 地面を氷が走り、ヴァンを捉えるたびに氷槍が飛ぶ。


「あまり奥の手が多いタイプではなくてな」


「十分だろ。爆剣!」


 爆破で氷を破壊しながら、さらにルシードを追い詰めていく。


「まだまだ追加できるぞ」


「ちっ……ちょいと厳しいか」


 ヴァンの息が荒い。白い息を吐きながら、目に見えて動きが悪くなる。

 ルシードの勢いに飲まれ、中央まで押し戻されていった。


「動きが鈍くなったな」


「うっせえ、こっからだよ! フレアドライブ!!」


 前に見せた全身強化魔法だ。体から赤い炎が吹き出している。

 手当り次第に炎を撒き散らしているが、どうやら爆破はやめたらしい。 


「あれは何やってんだ?」


「体温が下がりすぎたから温めているのよ」


 氷が砕け散ると、それだけ周囲の温度が下がってきついらしい。


「あー、たしかに寒いよね」


「お前ら熱い寒いとかあるのか」


 そういうの超越した存在だと思っていた。まず体温とかあるの?


「そりゃあるわよ」


「カットできることと~、普段から何も感じないことは~、別なのよ~」


「耐えられるようになることも別よ」


 話していたら、ルシードの猛攻がより苛烈になる。

 さらにタチが悪い事に、氷の中からレーザーが飛んでいた。

 どうやら氷の内部で光を反射させ続けて、狙った場所から撃ち出しているらしい。


「きっついなあれ」


 持久戦は厳しいのだろう。スタミナの問題よりも、魔力の消費が激しいことが問題だ。


「ふううぅぅぅ……うおおおおりゃあああぁぁ!!」


 ヴァンの猛攻が始まる。もうスタミナとか考えず、徹底的に攻め切るつもりなのだろう。


「うむ、速いのう。マッハ4000は超えておる」


 流石についていけないのだろう。ルシードに傷が付き始めた。


「このまま押し切る!!」


「こんな所で、終わるわけには……アーク、ここからはオレだけでやる!」


 そう言ってルシードは剣を抜く。重そうな音を立てて鞘が地面に落ちた。

 現れたそれは日本刀のようだった。鞘に比べ、長さは変わらず2メートルほど。

 だが太さが普通の刀とほぼ変わらない。あの鞘はどういうことだ。


「何だ? 御大層な鞘つけやがって。剣は普通じゃねえか」


「少々特殊な事情だ。だが見掛け倒しでも、期待はずれでもないと約束しよう」


 冷気が白い魔力となって、刀から溢れ出ていた。

 怪しく揺らめくその気配は、否が応にも特別な刀だとわからされる。


「妖刀ってやつか」


「似たようなものだ。ふっ!!」


 ルシードが消えた。今までのヴァンを超えるほどのスピードで、背後に回ったんだ。


「なっ!? があ!?」


 ヴァンの腕と胸から血が吹き出す。致命傷ではないようだが、剣で防ぎきれないのか。こいつはきっついぞ。


「ヴァン!!」


「ヴァン! 負けないで~!」


「もちろんだ。そう簡単に負けたりしねえぞ」


「だろうな。だから最後まで手加減はしない」


 尋常じゃなく速い。さっきの五倍は出ている。

 鞘を床に置いたからじゃんとか一瞬思ったけど、それだけじゃないくらいに速い。


「オラアァ!!」


「セエエエヤア!!」


 ヴァンの巻き起こす爆破を、正確に切断して接近する。

 攻撃の瞬間だけ、猛烈に研ぎ澄まされたスピードで斬り去っていく。


「ヴァンの傷口が凍ってる……」


「それ傷口が塞がるんじゃないか?」


「いや、あれは魔力の流れまで見切って凍結させておる」


「全身強化魔法の苦手なヴァンには、魔力を乱されるのが一番きついわ」


 ルシードの構えが変わった。鞘はないが、居合の構えに近いだろう。


「一の太刀、彩色」


 ヴァンの剣が弾かれ、胸に傷が増える。だが剣筋が見えない。


「リリア」


「光じゃな。光の屈折率を変えて、手首から先を消しておる」


「あいつどんだけだよ……」


「相当の修練が必要よ」


 少しだけあの男に興味が出てきた。どれほどの鍛錬の果てになら、そんな芸当が可能なのか。


「フレアエクスプロージョンッ!!」


 フレアドライブの上位互換であり、全身火薬庫状態にして無茶をするやつだ。

 魔力の荒れっぷりが、観客席からでもわかる。


「はあー……はあ……まだまだいけるぜ」


「体張りすぎだろ。あれ安定していないぞ」


「アジュくんにはわかるのね~。あれ本当に無茶してるのよ~」


 さらにさらに加速する両者。だが常に爆破が起こり続ける状態は、斬撃を加えようと接近するだけでダメージになる。攻防一体の技だが、俺はやりたくない手段だ。


「オオオォォォォ!!」


「ゼエエエエリャアアアア!!」


 ルシードは変幻自在のようでいて、どこか芯のある太刀筋だ。

 見覚えのない、今までの剣士とは違うタイプ。


「武士道とか言っていたな」


「騎士道じゃなくて?」


「武士道という概念自体が超ドマイナーじゃ。ごくわずかな人間が持つ概念のはずじゃのう」


「ご先祖様が文献に残しているけれど、フウマでも曖昧よ」


 あいつ何者なんだろうか。戦うとしたらかなり面倒な相手だな。


「いつまでも逃げ回れると思うなよ。こいつでぶっ飛びな! 獄炎波涛掌!!」


 超広域拡散爆撃だ。両手から圧倒的な炎の魔力波を解き放ち、触れるもの全てを爆破していく。


「ライトニングフラッシュじゃな」


「構えが似ているわね」


 俺は両手を上に上げてから前に突き出す。

 ヴァンは右腰のあたりに両手を持っていって前に出す。

 まあ似ているかも。


「ぬぐあああぁぁ!?」


 爆炎を斬り続けるも、やはり圧倒的物量で吹き飛ばされる。


「頼むから立ち上がるな。オレはもう限界きてんだぞ」


「ならば……立ち上がるしかないな」


 執念とでも言うべきか。刀を杖にして立ち上がるルシード。

 所々焼け焦げ、斬撃の傷跡もある。お互いにボロボロであった。


「よし、次に全力出し切るわ」


「いいだろう。長引いてもみっともない消耗戦になるだけだ」


 両者距離をとって構え直す。どちらも必殺の一撃になるだろう。

 正直どうなるか予想ができん。


「ヴァン・マイウェイ。倒れる前に、各地を旅し、学園でも名が知られつつあるお前に聞きいておきたい」


「何だ? 言ってみな」


「白銀の鎧を着た男を知っているか?」


 おやあ……? なんか俺に飛び火していませんかね?


「…………それだけだと特定は難しいな」


 あっぶねえナイスヴァン。すっとぼけてくれた。


「死にかけていたので、それ以外はぼんやりとしか覚えていない。ただ鎧は全身銀色で、顔は隠れていないはずだ。白いマントで、恐ろしく目立つ」


 完全に俺だよ。おいおいどういうことだ?


「おぬし、あの男に見覚えは?」


「勇者科にいるのは知っているが、話したこともない。完全に他人のはずだ」


 いくら考えても、会話した記憶がない。

 横を見ると、ギルメン全員が首を横に振る。

 全員知らないなら本当に心当たりがないぞ。


「鎧に豪華な紋様が彫り込まれている。美術的価値も超一流だろう。残念なことに、目が霞んで顔が見えなかった」


「悪いがわからねえ。学園は広いからな」


「そうか。余計な時間を取らせた」


「気にすんな。そいつに何かされたか?」


「死にかけた所を救って貰った。礼を言いたいだけだ」


 なんか怖いんだけど。知らないやつにお礼言われるのか。

 とりあえず放置しておこう。そして俺からは近づかない。これでいこう。


「そんじゃあケリつけようか!」


「ああ、いざ尋常に」


「勝負!!」


 魔力を高め、二人の剣から必殺の一撃が放たれた。


「我道焔殺斬!!」


「終の太刀、光龍!!」


 灼熱の炎と光の龍が激突し、その勢いを増しながら中央で拮抗する。


「ぬおおおおぉぉぉぉ!!」


「これで終わりだあああああぁぁ!!」


 さらなる力が交わるその瞬間。ほんの一瞬だけ、ヴァンの魔力が跳ね上がり、その一瞬の差で決着はついた。


「オレも修行が……足りんか」


「十分だよ」


 粉々になった舞台の上で、立っていたのはヴァンであった。


『勝者、ヴァン・マイウェイ!!』


 祝福と健闘を称える歓声が聞こえる中で、改めてルシードがどこで俺を知ったのか気になっていた。

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