闘技祭を見に行ってみる

 今日はリリアと学園内をふらふらしている。


「まだ眠いぞ」


 朝から起こされたせいで眠い。昼でいいじゃないの。


「朝起きる習慣をつけるのじゃ」


「ついてきてこれだぞ」


 そもそも布団から出たくない。寒いんだよ。


「何か温かいものでも飲みに行くのじゃ」


「完全に家でいいな」


「おっ、アジュじゃねえか」


 ヴァンだ。何故か一人で歩いている。


「久しぶりだな」


「おう、フルムーン行ってたんだろ?」


「ああ、色々とな」


 説明めんどいから、何があったかは話さない。

 っていうか話していいことじゃないな。機密に関わりすぎだろ俺。


「ヴァンはなぜ朝からうろうろしとるんじゃ」


「闘技祭だからな。試合前に会場入りさ」


「なんだそれ?」


「戦士科が一年の修行の成果を発表する、バトルトーナメントだ。面白えからって大会になってんだよ」


 またわかりやすいな。科によって試験内容は違うが、派手にやるのはスカウトも兼ねているのだろう。将来有望な生徒をチェックするわけだ。


「オレは勇者科だが、兼科してても出られる。腕試しにはちょうどいい。ってわけでアジュ」


「絶対出ないからな」


「断られるのわかってて誘わねえよ。見に来てもいいんだぜ」


「トラブルで戦うことにならないだろうな」


「流石に教師が多い場所でそれはねえだろ」


 少し考える。魔法科のレポートは終わった。遠出はもっと後の話。なら行ってもいいかもしれない。


「見るだけだぞ?」


「構わねえよ。四人とも戦士科じゃねえだろ。オレは一年の部だから早いぞ」


「学年で分けてんのな」


「試験なんじゃから、三年がぶちのめしたら意味ないじゃろ。暇なんじゃし行ってみるのじゃ」


 でもって数時間後。多目的バトルフィールドっぽい、全天候型コロシアムへ。

 シルフィとイロハに話を通し、四人で来た時には、すでに会場から熱気が漏れ出していた。


「派手にやるもんだなおい……」


「あら~アジュくんたちも来たのね~」


 ソニアとクラリスがいる。そりゃヴァンの恋人なんだから見に来るわな。


「久しぶりだな」


「ええ、お久しぶり。大変だったんでしょ、フルムーン」


「知っているのね」


「ええ~聞いているわよ~。迷惑な神もいたものね~」


 こいつらはヴァンの恋人兼ギルメンであり神だ。情報も回ってくるのだろう。


「大丈夫だよ。謎の強い人が解決してくれたから」


「そう、その人に感謝ね」


 まったく言及してこないの結構嬉しい。どうせ俺がやったと思っちゃいるんだろうが、めんどいからね。


「そろそろヴァンの出番よ~」


「おっと、それじゃあ行くか」


 四角いコロシアムの観客席。そこそこいい席について登場を待つ。

 上空には映像投写魔法か何かで、中央の武舞台が映されている。

 広いしでかいし、本当にお祭りとしてやっているんだな。


『さあ続いては、成績優秀イケメン武人、ランフォード・ランディVS勇者科の剛剣、ヴァン・マイウェイ!!』


 司会者に呼ばれ、両者が舞台に立つ。

 相手はバンダナを巻いた金髪の男だ。ロングソード使いだな。


「よろしく頼む。いい試合にしよう」


「ああ、よろしくな」


 笑顔で挨拶を交わし、お互いに剣を抜く。ヴァンの剣は前に見た黄金剣だ。

 ザババという神が作った、派手でぶっ壊れても再生するやつ。


『試合開始いいいいぃぃ!!』


 合図とともに剣がぶつかり合う。初手から全力で攻防は続く。

 速度もパワーもかなりのもので、改めて学園のレベルの高さが伺える。


「速いな」


「うむ、音速突破勢じゃな」


「といっても、ヴァンとあの子は一年の中じゃトップクラス。全員がああじゃないわ」


「解説いる?」


「いや、今んとこちゃんと見えている」


 音速突破くらいなら普通に見える。目が慣れてきたのだろう。


「いいわよヴァン! そのままそのまま!」


「がんばって~」


 相手は手数と無数の飛ぶ斬撃で翻弄するが、それをしっかり最低限だけ切り落として前進している。これは死線をくぐった経験の差だな。


「荒いようでちゃんとした剣術だ」


「元々ヴァンは大貴族だからね。しっかり剣術の型ができてるのよ」


「オオオオオオラアアアァァ!!」


 力任せの一撃が、衝突の瞬間爆発を起こす。

 ヴァンの爆破属性が強化されているのか。

 ぶつかるたびに大爆発を起こすのでは、流石に打ち合うことはできない。


「どうやら正面からでは分が悪いようだ。搦手を使わせてもらおう」


 ランフォードが十個に分身した。速度に自信のあるタイプか。


「ならこうだ!!」


 黄金剣を蛇腹剣に変えて、周囲を高速で切り刻む。


「有効な手段だ。だが全方位をくまなくガードはできまい!」


 ヴァンの肩が薄く切れる。剣を通常モードに戻し、数回切られながらも距離を取った。致命傷はないな。


「ちっ、危ねえな」


『ランフォードの風の剣が炸裂! 正確無比なピンポイント攻撃だ!!』


「いい勘をしている」


「風の剣?」


「風魔法を剣に乗せ、細く薄く、剣の間をすり抜けさせておる」


 大した技術だ。一点集中の突きで斬撃を通していく。


「やっぱ適当にやっても勝てねえか」


「当然さ。学園とはそういう場所だ」


 だがヴァンも超人的な勘と、天賦の才にて迎え撃つ。

 ヴァン優勢だな。マッハ8くらいは出ているが、トップスピードには遠い。


「こいつでどうだ!」


 ヴァンが魔力を開放すると、突然ランフォードの近くが爆発した。


『おおっとどういうことだ! 突然爆発したぞ!!』


 それほどの規模じゃない。バスケットボールが破裂するくらいのイメージだが、仕組みがよくわからん。


「風の魔力が触れると着火する、といったところかな?」


「正解だ。そしてこいつは接近戦でも適用されるぜ!!」


 ガン攻めに転身し、猛然とランフォードを追い回す。

 切り合おうにも爆発はダメージを蓄積させていく。


「ええい厄介な。このような細工を思いつくタイプではないと思ったが」


「ダチが似たような魔法使っててな。参考にした」


「あれサンダースプラッシュじゃな」


「あー……いや俺かよ」


 電撃の霧を散布し、ソナーのように使う。同時に軽く破裂させ、敵の足止めをするわけだが、マジか。そういう使い方とは。


「わりとアジュを参考にしているみたいよ」


「まあ俺が使えるくらいだからな。手段を増やすにはいいのか」


「このような捨て身の策!」


「捨て身? オレは傷ついちゃいないぜ。オレの魔法だからな!!」


 魔力が黄金剣へと集う。炎を纏う剣が輝きを増し、巨大な爆炎が振り下ろされた。


「全力爆撃斬!!」


「ぐああぁぁ!!」


『ランフォード選手大きく吹っ飛んだー!!』


 剣が砕け、後方に飛ばされた。ヴァンの戦闘スキルが上がり続けている。

 やはり一年の中では飛び抜けて強いな。


「まだだ! 大地よ、風刃よ! 私の剣となれ!!」


 土と風が剣を作り出す。そういう使い手なのね。面白い。

 ランフォードは最後の一撃に賭けるようだ。


「ウオオオオォォ!!」


「いくぜオラア!!」


 お互いの一撃を正面から叩きつけ、爆発と土煙が舞台を隠す。

 真っ向からの打ち合いを制したのは、やはりヴァンであった。


「見事だ……」


『勝者ヴァン・マイウェイ!!』


 歓声に見送られて、ヴァンが控室に戻ってきた。

 ついでに俺たちも出迎えてやる。

 個人に与えられる部屋は、なかなかに広くて設備も揃っていた。


「やったわねヴァン!」


「かっこよかったわよ~」


「おう、修行の成果が出てきたぜ」


 特別疲れた様子もない。このままなら優勝もいけそうだな。

 むしろ戦士科一年の力に疑問が湧く。


「ごく普通に強いなヴァン。戦士科の連中だって強いだろうに」


「オレやアジュみたいに外付けで超パワー持ってるか、そっちのギルメンみてえに神の血でも入ってなきゃ、そういうもんだぜ?」


「マジか。全員マッハ50くらいで動くイメージだわ」


「それは強すぎ」


「まだ一年だもの~。ランフォードくんも強い方よ~」


 成績優秀者が限界超えてマッハ10くらい?

 ううむ……もっと強いやついそう。このデータはあまり指針にしない方がよさそうだ。どっかで不意打ちかまされるかもしれんからな。


『勝者、勇者科、ルシード・A・ラティクス!!』


 司会の声が控室にも聞こえてきた。どこかで聞いたような名前だ。


「勇者科?」


「少しだけあいつの戦いを見た。かなりできるぜ」


「そりゃ大変だな」


 出なくてよかったわマジで。

 そしてヴァンは着々と勝利を積み重ね、決勝までやってきた。


「一年の部最終戦は、なんと勇者科同士の戦いだー!」


 頑張れヴァン。比較的まともに応援してやるぞ。

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