たまには普通にのんびりする
のどかな昼だ。何もしなくていいこんな日は、家でだらだらするに限る。
「またアジュがうだうだしています」
シルフィが部屋に遊びに来ている。暇なのかね。かくいう俺も暇だ。
「するさ。ハリーとのレポート終わったし。今日はお休み」
ベッドでゆっくり本を読む。この時間を大切にしよう。動いてばかりだと、必ず疲れは蓄積する。
「わたしと遊ぶのだ!」
将棋セット持ってこられた。まあいい。ここで室内でできることを選ぶあたり、俺に慣れている証拠だろう。
読書は中止だ。遊んでやるか。
「よかろう。かかってくるがいい」
「ふっふっふ、わたしはゲームも強いぞー」
「知っている」
苦手分野とかあるのだろうか。厳密には存在するだろうが、こいつらの苦手は一般人の得意レベルな気がしてならない。
「何読んでたの?」
「魔導科学の本。紫のあれを調べていた」
「魔法の本じゃなくて?」
「検出する方法と、記録というか……どういう状態で出せる現象なのか、かね」
雷属性がレアすぎる。あの現象を説明できるものがある気がしない。
なら独自に計測できればと思った。ハリーに毎回頼るのも違う。
「ザトーさんの所で教えてもらえるかもよ」
「トールさんには期待しているが、ずっと帝国にいるわけでも、ずっとコーチして欲しいわけでもない」
「師匠は大切だよ」
「身に染みている。ミナさんとコタロウさんから基礎を教わることもあるが、効率上がるからな」
時間がある時に、基礎的な戦闘を教えてもらっている。
ミナさんには攻防の基礎を。コタロウさんには不意打ち、トラップ、暗殺、フェイントなど、俺の大好きな小細工を色々と。
「教え方うまいよなあ……」
俺がお館様で、王族の恩人だからか、死ぬほどきつい訓練は課してこない。
そもそも二人がコーチとしても超一流だ。
おそらく専属で年単位の師事を受けるなら、億の金が飛ぶ。
「ベテランだからねえ」
「悪い意味じゃない年の功だな」
長い時を過ごしていくからこその経験と知識なのだろう。
「凄いよね」
「まったくだ」
言いながら盤面を見ると、まあ案の定俺が不利ですよ。
「全然集中途切れないな」
「コツがあるの。集中は自然に行えるようにって」
「それもミナさんの教えか」
「そういうこと」
つまり乱す方法はほぼない。というかお遊びなので、そこまでして勝たなきゃいけないわけでもない。純粋に戯れているだけだ。
「お前強くなったな」
「アジュの相手ができるようにお勉強したからね」
「俺のせいかよ」
「せいって言わないの」
それなりに防戦はしているが、これは詰みに近いな。
逆転の一手が思いつくようなレベルの勝負じゃないし。
「さーてしんどいぞ。妙に強くなりやがって」
「とってもつよいぞー」
「ああ、これはしばらく研究してから再戦する必要がある。次回は来週くらいだな」
「わたしにとってとってもよくないことだね」
「とってもの使いすぎに注意だな」
脳を通さずに会話しています。すげえ無意味な会話だが、集中を見出せたらいいなとか思っていた。無理でしたともさ。
「アジュ、ちょっといい? お茶とお菓子を持ってきたわ」
イロハの声だ。別に拒む理由もない。
「入っていいぞ」
「お邪魔するわ」
テーブルに三人分のお茶とお菓子が用意された。紅茶と大福だ。
「大福とかあるのか」
「知っているのね。おすすめのお店よ」
「悪いな」
三人でまったり休憩タイム。ほどよく甘くてとてもよい。
紅茶も甘さ控えめで、よく合うように調整されている。
「甘くておいしい!」
「勝負中だったんじゃないの?」
「どうせ勝ちの目は消えている。問題ない」
「そうそう、気にしない」
そして適当に話す。学業とか魔法とか色々と。
食い終わってベッドに寝転ぶと、もう何もしたくない。
「何もやる気が起きん」
「ずっとごろごろしてるね」
「部屋にいる時間こそ至高だ」
二人はまだ紅茶飲んでゆっくりしている。勝手にくつろいでいるが、そこはもう慣れた。
「ならもっと部屋に来ていい?」
「根本的に部屋に誰かを入れるのが好きじゃないんだよ」
「そうね。毎日来ることはないわ」
一人の時間大好きだからな。プライベートなくなるの嫌い。
こいつらはそれを理解している。
「他人がいるってのが受け付けない。ギルメン以外でベッドに上がるやつは死ねばいい」
「わからなくもないけれど」
「お前らは超例外だからな」
こいつらが寝ていても追い出すことはまあ……ないんじゃないかな。
俺の邪魔しないし。他のやつがベッドに入るのは絶対に拒否る。
「特別な存在だね!」
「言い換えても現状は変わらんぞ」
「そこは変えていきましょう」
「はい、今日は膝枕をします!」
「しない」
シルフィがベッドで待ち構えている。膝をぽんぽん叩いているが、俺は行かないぞ。
「します!」
「頑な」
「次は私がするわ」
「次とかねえよ」
しかしろくに抵抗しなかったせいか、しれっと膝枕されている。
いいけどさ別に。暇なのかね。
「普通に枕あるだろ」
「普通では味わえないシルフィちゃんがここに」
「ついでにフルムーンについて話しておくわ」
「なんかあったのか?」
「細かい所までは聞いていないでしょう?」
フルムーン本国は事後処理で大変だったのだろう。
その後どうなったかはしっかり聞いていない。
「どうなった?」
「まず貴族派でクーデターに関わっていたものは、全員証拠を洗い出してから処刑。騎士団長ユングに乗せられただけで、なんの情報も出てこなかったわ」
「雑魚はどうでもいい」
「私たちが神界で戦っていた時、騎士団長ジェイドという男が、フルムーンの貴族派をまとめていたわ。彼も裏切り者よ」
ユングとアリアだけじゃなかったわけか。まあ想定の範囲内だ。
「そいつどうした?」
「騎士団長と特殊部隊が倒したわ」
「ヒメノさんの部隊が活躍したらしいよ。やた子ちゃんとか」
「あいつら強いな」
実際に戦ったこともあるからわかるが、やた子は強い。超人じゃないと勝てないと思っていたが、そこまでかよ。
「個人の力ではないわ。それに残りの騎士団長も戦闘に参加すれば、まず負けないわよ」
「なるほど。黒幕はわかったか?」
「さっぱりよ。おそらくスクルドやアテナを動かしていた勢力でしょうけど」
「未だに目的がわからんからなあ……」
「フルムーン転覆が狙いとは思えないわ」
スクルドの目的がわからない。学園を調査したり、魔界にいたり、ラグナロクで騒ぎを起こしたり。どう考えても神々と敵対する行為だ。
中途半端な動機では無理だろう。そこまでする目的が見えてこない。
「ユングが怪しい女と取引をして、何かのコアを手に入れた。わかったのはそれだけよ」
「スクルドか」
「おそらくは。各国に兵器をばらまいているのかしら」
「戦争させるのが目的とか?」
「それで兵器売って金儲け……じゃないなきっと」
単純に金が欲しいわけではないだろう。
それならもっと効率よくて目立たない方法もある。
「ネメシスのコアって言っていたな」
ユングは確かにそう言った。それは報告してある。
どうやらかなりの上級神らしい。行方不明なんだとか。
「また戦いになるのかしら」
「なっても俺たちには関係ない」
「神様がなんとかしてくれるといいんだけど」
「だと助かる」
学園と神々が動いているし、事態は好転してくれていると願う。
敵は神に任せて、俺は学園生活を楽しみつつ、魔法の練習でもするべきだな。
「私たちがもっと強くなればいいだけよ」
言いながら俺の横に寝転がるイロハ。丸まって胸のあたりにくっついてくる。こういうとこで動物っぽさを出してきやがって。
「じゃれるな」
「最近は寒いもの。仕方がないわ」
「そうそう、もうちょっと一緒にいようよ」
確実に俺の匂いを嗅いでいることは大目にみるとして、あまりくっつかれても邪魔になる。ほどほどの距離を保とう。
「まずわたしがアジュを撫でます」
「そしてアジュが私を撫でるのよ」
「負の連鎖が……」
「こういうのは大切なんだよ」
撫でられながら目を閉じると寝そう。仕方ないのでイロハを撫でる。
髪の毛がさらさらしてやがる。しばしそんな時間が続く。
「いやこの時間なんだよ」
「これはこれでいいものよ」
「よしよーし、アジュはいい子」
「やめい」
結局リリアが飯に呼ぶまで遊んでいた。
しばらく戦い続きだったし、今日くらいはいいだろう。
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