拠点戦開始

 今回のクエは拠点戦。

 人型で、一メートルくらいのゴーレムを使ってのバトルだ。


「今回は戦闘員として、ゴーレムの小隊長として戦っていただきます」


 案内役のお兄さんがゴーレムに魔力を流す。

 お兄さん悪魔と竜の中間みたいな羽生えててかっちょいいな。

 消せるタイプじゃなきゃ生活めんどくさそうだけど。


「このように魔力を流し込むと、その人の属性に合わせてゴーレムが変わりまして」


 お兄さんの魔力で白いゴーレムが赤くなる。

 岩の後頭部から太い線のような魔力の糸でつながっていた。


「操り人形よりも楽な感じで操作できます」


 ファイアゴーレム三体がびしっと整列する。

 ある程度自動で動き、攻撃・防御・待機を指示するようだ。


「拠点は制圧すると、魔法陣より自分のゴーレムが補給されます。色々恩恵があるので、それも探してください」


 陣取り要素強めだな。こういう協力しなきゃいけないの面倒なんだよなあ。


「なおゴーレムにはそれぞれ天敵となる属性が用意されています。火に水かけたら火の方が強いとかありますので、普通の物理法則で考えすぎないように」


 俺達の本拠点はマップでは下の方。

 複数のブロックに分かれていて、一番上が敵の本拠点か。


「味方はわかりやすいように青いバンダナ、鎧などで構成されています。赤は敵。今回は外したり偽装は禁止しています」


 配られた青い布を、適当に右腕に巻く。これがよく見えないと駄目らしい。


「他のギミックは各自で模索してください。あと相手も人間であり、殺しは禁止です。開始は三十分後。では解散!」


 お兄さんが転移魔法で退場。本拠点には結構な人数がいる。

 全身青色装備のやつがかなりいるな。


「……ん? おかしくないか?」


「どうしたの?」


 三十分でゴーレムを動かそうとしていて気づいた。人数がおかしい。


「いや勇者科って追加される科とはいえ三十人ちょいだろ? 模擬戦やるなら二手に分かれるのに」


「どう見てもこちらに二十人以上いるわね。しかも勇者科で見たことのない人もいるわ」


 やはりか。そもそも男が五人くらいいる時点でおかしい。

 そいつらと話しているやつもいるし。


「あら~サカガミくんもこっちなのね~」


 なんだか間延びした声がしたので振り返ると、そこにはクラリスがいた。

 青いシスターっぽい服だ。三節棍まで青く塗ってある。


「クラリス? 勇者科じゃないだろ。っていうか学年違うだろうが」


「そうよ~。これはいろ~んな科が混ざっているの」


 どうやら混成軍になるらしい。それでも上級生は少数だとか。


「上級生ばかりで蹂躙しても、試験にはならんじゃろ」


「ちなみにヴァンは敵軍みたいなの~」


「うっげ……最悪だな」


「ソニアちゃんもあっちよ~。寂しいわ~」


「おい融合されたら詰むぞ」


 こっちは鎧に使用回数がある。しかもギルメンは神の力を制限されているわけで。

 やばいな。最悪俺が戦うんだろうけど。


「融合は禁止されちゃったわ~。お手紙が来ていたの~」


「ほう……なら他のやつに相手してもらっているうちに逃げればいいな」


「戦うという発想がないのじゃな」


「俺はごく普通の一般人だ。戦闘民族とは戦えません。クラリスなら問題ないだろうし言っておく。俺は鎧使えない。神話生物が出てきても対処できないからな」


「ああ~やっぱり~? サカガミくんを制限するならそこよね~」


 そりゃゲーム盤をひっくり返すどころか、作り直してルール変えちまえるからな。


「ま、ぼちぼちやるさ。ゴーレムも意外と動かせる」


 話しながらも操作は続けていた。それを咎めないあたりわかってらっしゃる。

 この三十分は雑談に費やすだけではいけないのだ。


「俺はなんとか操作できそうだ。そっちは?」


 ゴーレムを五体ほど配置。前進から停止。待機。うむ、問題なし。

 俺のゴーレムさんは黄色で、ばちばちっとたまに電気が走る。


「問題なしじゃ」


 リリアのはよくわからん。色がころころ変わる。

 全属性使えるからそうなるんだろう。弱点探らせるにはいいかもな。


「わたしもオッケー!」


 シルフィは銀色。光がうっすら溢れている。

 緑に変えられるようだが、風属性かね。


「いつでもいけるわ」


 イロハは黒と水色。おそらく闇と水や氷だな。

 これだけで結構大所帯だ。


「属性が別みたいで助かった。これで応用効くな」


「そうね~頑張って~」


 気の抜けた応援だ。他の連中も準備できているようだ。

 リウスとももっちがいない。ファーレンスもいないし、こりゃめんどくさそうだ。


「あ、あと勇者科じゃないと~ゴーレムは操作できないわ~。特別なロックがかかっているし~無理矢理操作は禁止なの~」


「ナイスアドバイスじゃ」


「あとゴーレムには効きが悪いように~武器も制限されているわ~」


「私達の武器は問題ないのかしら?」


「大丈夫よ~。つまり勇者科が主役なの~」


 そりゃ試験だもんな。よその科が全部やっちまったら再試験ものだろ。

 そこで開始の合図が鳴る。


「んじゃゆっくり行こう。先陣切りたいやつに先に行かせて様子見だ」


 正面の拠点を狙っている味方さん一同。

 そこから左右と、さらに正面に道は続いている。


「わたしはどうしようかしら~」


「敵陣の暗殺でもしてきたらどうだ?」


「そういうのは禁止なのよ~。味方拠点を守るか~味方と一緒に攻めるだけ~」


 とことん不便だな。やはり自分で動くしかないか。

 攻め込んでいくやつを見ながら、これからの計画を練るとしよう。


「なぜ初手で暗殺狙うんじゃおぬしは」


「別に殺せと言っているわけじゃない。脱落させりゃ楽になるだろうってな」


「まあ間違ってはいないわね。難易度は高いけれど」


「そもそも自陣から離れても、仲間が来なかったら厳しいんだよね」


「しょうがないか……戦闘見ておこうぜ」


 灰色のゴーレムがわらわらいる。

 そこに突っ込んでいくカラフルなゴーレム軍。

 耐久も攻撃力も差があるみたいだな。楽勝で始末されていく。


「陣地踏んでおけばいいんだっけ? 端っこにいるぞ」


「了解じゃ」


 拠点の端っこでもいいから踏んでいると、床にある魔法陣が青に変わっていく。

 徐々に色濃くなって、灰色ゴーレムが消えたら完了。


「なんだかんだ助っ人も勇者科も強いな」


「味方ゴーレムが結構強いよー。ゴーレムパンチ!」


 近くに来た灰色さんを、シルフィのゴーレムが一撃粉砕。

 灰色はザコキャラなんだな。試しに魔法を撃ってみよう。


「サンダースマッシャー!」


 あ、一撃で頭吹っ飛ばせた。かなり弱いなこれ。


「つまりメインは対人拠点戦。どこを守り、どこを攻めるかの知力勝負ね」


「そうなるか。んじゃ仕切りだすやつがいない場所に行くぞ。うざいから」


「チームプレイとか大嫌いじゃからなおぬし」


「クラリスはどうする? 俺達はあんまり人の多くない拠点を狙う。でもって防衛しときゃいいだろ。やばくなったら逃げて、他人に任せる」


 知らんやつなど囮にでもなれ。俺達は怪我せず労力を割かずにクリアしたい。


「一緒に行くわ~。どうせ単独行動はできないもの~」


 相談しながら少々戦闘。カトラスで十分に切れるな。だが接近戦は避ける。

 まずゴーレム小隊での戦闘に慣れておく。


「よしよし、問題なし」


 ファフニールのおかげで頭がスッキリだ。問題なく的確な指示が出せる。


「ここまま進むわよみんな!」


 メイン部隊はどうやら直進するらしい。

 左に部隊を分け、右の通路が手薄。その分をここに待機させる計画か。

 召喚魔法陣から青いゴーレムが出てきているし、無人拠点でもある程度の防衛はしてくれるのだろう。


「俺達は……」


「当然右じゃな」


「りょーかい!」


「行きましょう」


「問題なしよ~」


 統率が取れていて助かる。ゴーレムを前面に出して進軍開始。

 他の連中には動きを気取られないようにしよう。

 注文されるとうざい。やってられん。


「これが皆殺しオッケーで試験じゃなけりゃ、鎧で更地にすりゃあ終わるんだけどな」


「自然も壊しちゃうよ?」


「なら自然だけ避けるか、後で復活させりゃいい」


 鎧に不可能はない。無量大数とか、全知全能とか、因果や法則ごときにどうこうできる矮小なものではないのさ。

 改めてやばいもん使ってんな。コントロールに注意しよう。


「違うわシルフィ。まず更地にするという発想を窘めるべきなの」


「毒されてきておるのう」


「お姫様がそんなんでどうする」


「アジュのせいなのに!?」


「これは責任を取ってもらわねばならんのう」


「アジュさんは責任という言葉が大嫌いだぜ」


 義務や責任なんて、果たさないやつが一番得をするシステムだ。

 うまいこと搾取から逃げた、優秀で頭の切れる連中もいる。

 できればそちら側にいたい。


「独特なパーティーね~」


「正直あまりかかわらんことをおすすめするのじゃ」


「そうね。普通でいたいなら避けたほうが無難よ」


「クラリスはヴァンと一緒にいてあげたらいいと思います!」


「だな。相手がいるやつは、そいつといるのがベストだ」


 無論、クラリスに手を出す気はない。

 俺の往く道は四人しか通れないから、誰かが入ることなんてできないのさ。


「次の拠点が見えてきたわよ」


 次も灰色の拠点。壁で覆われているだけで、別に内部はからっぽだけどな。


「敵は?」


「最低でもこの次の……待って、拠点が赤くなってくよ!」


 うっすらと赤くなり始めている。早すぎるだろ。

 開幕ダッシュとかやめて欲しいわ。


「単騎突撃か?」


「数人で高速移動して、拠点だけ取るつもりなんじゃないかしら?」


「なーるほど。んじゃ小細工開始だ」


 俺のゴーレム五体をダッシュで拠点内へ。

 赤の侵攻が止まる。ちょっと炙り出そうと思います。

 そのままゴーレムを拠点中央でうろうろさせる。


「でりゃっ!」


 青くなりそうだったのを見て、影から飛び出してきた女が数名。

 俺のゴーレムに斬りかかった。


「はい残念」


 そのうちの三体はミラージュキーで作った幻影だ。


「しまった!? 罠か!」


 全身赤の装備が二人。そうじゃない女が二人か。

 片方勇者科だな。女の顔なんぞ興味も記憶にもないから予想だけど。


「正解。どーん」


 本物のゴーレムさん二体は既にバーストキーで爆弾に変えてある。

 飛び出してきたやつらを大爆発で一網打尽。


「きゃあああぁぁぁ!?」


「確保。クラリス、助っ人連中任せる」


「は~い」


 クラリスとゴーレムを先頭に、全員で入場。

 中央で倒れている敵を捕まえようとすると、別方向から攻撃魔法が飛んで来た。


「残念それは」


「通らんのじゃ」


 リリアの防御魔法と、俺のガードキーで全弾はじく。


「シルフィ」


「はーいおまかせ!」


 敵が撃った魔法を時間逆再生してぶち当ててもらう。


「うぎゃ!?」


「げげぇ!?」


「イロハ」


「もう終わったわ」


 拠点の床に影の海ができている。

 ふらついた敵は半身が影に沈んでしまって動けない。

 あとは手早く両手足を縛って真ん中に集めるだけ。


「小細工や悪知恵で俺と勝負するには、工夫が足りんな」


「ほぼ仲間の力じゃろこれ」


「それをうまく使えるんだから褒めろ」


「実際ギルマスとして~優秀だと思うわよ~」


「ほれみろクラリスはわかってくれるぞ」


 言いながらも、みんな作業の手は止めない。

 優秀だな。やはりギルメンがひたすら優秀だと楽ができる。


「うん、アジュは凄い!」


「そうね偉いわ。ご褒美をあげないといけないわね」


「やっぱ褒めんでいい。ご褒美禁止」


 こいつらに何か口実を与えてはいけない。

 試験中で禁欲させていることが裏目に出るからだ。


「試験官さーん。こいつら捕まえたけど、いると拠点が青く染まらないんですけどー!」


「捕縛ゾーンがあるから、そこに入れるように。入れると制圧が早くなるぞ! 制圧が終わったら敵の両手に魔法のリングがつくから、こちらに引き渡すように。本拠点まで送る。君たちには捕縛ポイントを贈呈しよう!」


 試験官のおじさん登場。

 腕に試験官と書かれた腕章。背中にもでっかく書かれている。

 こういう時の対処もちゃんと考えてあるらしい。

 本拠点に帰ると一時間は出陣禁止らしいよ。

 あっという間に捕縛完了。拠点も青くなりました。


「よし、ゴーレム補充したら慎重に進むぞ」


「そうね。こちらの手の内が読まれるものね」


 さてお次はなんだろうな。気を引き締めていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る