ゴーレム使って連携プレー

 拠点へと攻めてきた敵を撃退し、減ったゴーレムも補充完了。

 今後の方針でも決めよう。


「真ん中の拠点は当然激戦だろう。この先は開幕ダッシュ組が残っていれば赤くなっているはずだ」


「戻るとここも取られるかもしれないわね」


「かといって本気で攻めに行くのもしんどいじゃろ」


 進むも戻るも一長一短。ここにとどまるのもいいかもしれない。


「そろそろこっちに来る味方もいるんじゃない?」


「そうね~その人達を先に行かせてもいいかもしれないわ~」


「なるほど。んじゃそーっと隠れよう」


 拠点の外の壁まで退避して、そーっと後続が去っていくのを見届けよう。


「普通に頼んだらよいじゃろ」


「んなことして一緒に行こうとか言われたらうざい。行かないことに文句言われてもうざい」


「マイナス思考は変わらないねー」


「最悪を想定して動くのは悪いことじゃないんだよ」


 プラス思考と言えば聞こえはいいが、怪我しそうな場面で楽観的っていうのが理解できん。生き死にかかるんならマイナス思考でちょうどいいじゃないか。


「戦いでは最善手から悪手までしっかり考えると、生存率が上がるのじゃ」


「素の俺は弱いんだから、あんまり出しゃばらないの。面倒事は他人に押し付けるのさ」


「最後を言わなきゃ謙虚な人なのにね」


 俺は十分謙虚に振る舞っていますよきっと。多分ね。


「押し付けるのなら、もう少し体を押し付けなさい。寝る時とかどうかしら?」


「おぉ、それいいね! じゃあ今日の夜から……」


「やるわけないだろうが……ほら人来たぞ。静かにしていろ」


 団体さんが到着し、拠点が無人なことを確認したら進んでいく。

 どうやらこちらに気づくことはなかったようだ。


「よし。セーフセーフ。ゴーレムの魔力供給切っておいた判断は正しかった」


「制圧した拠点で切ると、青の番兵になるんだね」


「おかげで助かったのじゃ」


「んじゃしばらく疲れを癒やして、いけそうなら次の拠点行くか」


「疲れたアジュをマッサージしましょう」


 イロハさんの手つきがいやらしい。

 とてつもなく嫌な予感がするのですが。


「ではそこの長椅子に寝るのじゃ。ほれほれ早く」


「完全にいかがわしいマッサージだな」


「試験中はふれあいが減るわね?」


「そりゃそうだろ。そこは我慢してくれ」


「ならせめてアジュが上半身だけでも裸を見せてくれるくらいの配慮があってもいいはずよ」


「まずTPOに配慮しようぜ」


「なにそれ?」


 いかんTPOが通じていない。流石異世界さんだ。

 屋外で脱ぐのはもうこの季節しんどいぞ。

 いや季節関係なくしんどいけれどね。


「まあ時と場合を考えようってことさ。普通にクラリスいるだろ。他にも人が来るだろうし」


「大丈夫~気にしないわよ~」


「俺が困るんだよ!」


「私だってちゃんと考えているわよ。私達以外の誰かに裸を見せるなんて認めないわ。影でがっつり隠すのよ」


「違う違うそこじゃないそうじゃない」


 壁際に追い詰めるように立つ三人。じりじり距離が縮まる。

 その時、俺を救うかのように遠くから爆発音が聞こえた。


「お、戦闘始まったな」


「そうね。仕方がないから、もう少し運動して汗をかくのよ」


 胸に鼻を押し付けて匂いを嗅がれているので引っぺがす。

 狼は好意とか愛情表現として、鼻や顔をくっつけてくるらしいが、こいつはさらに匂い嗅いでくる。


「頑張れ味方軍。そのまま拠点全部取っちまえ」


「希望的観測じゃな」


「爆発音が大きくなっているわ。本格的に戦闘が始まったみたいよ」


 天へと昇る赤い光が消え、灰色になる。

 徐々に青くなり、また灰色に。


「なんだあれ?」


「拠点がどっちのものかわかるようにしているのかな?」


「一定時間でそういうギミックが増えるんじゃろ」


「案外アドリブで教官側がぶっこんでるんじゃないか?」


「学園の自由さなら~それもあるわね~」


 この拠点も青い光が出ている。なるほどね。

 中央横列は消えたり点いたり。

 奥の横三列は完全に赤。こっち三列は青。


「膠着状態だな」


「だね。崩れると囲まれちゃうんじゃない?」


「微妙に高い位置にあるよな中央拠点」


「ちょうど両軍から少し上り坂になるよう設計されているみたいね」


「あ、赤くなり始めてる」


 灰色になったり赤くなったりだ。何負けてんだよめんどいな。


「これって青組が負けたら俺達も試験の結果悪くなんのかね?」


「なるんじゃないかな? 行く?」


「しょうがない……行くか」


「では出発じゃ!」


 仕方がないので進軍開始。進軍先がちょっと青くなっている。

 どうやら持ちこたえているようだな。


「んじゃ罠がないか確認しながら行こう」


「まかせて~」


「忍者の腕の見せどころね」


 といっても拠点を制圧できていないのに、一本道のこちら側に罠なんて仕掛けられない。

 さらっと拠点到着。拠点は木の壁があるだけ。だがかなり広い。

 中央で激突しているゴーレムと両軍の人々。


「お、増援が来たわ!」


「よし! そこの人達! 早く拠点入って!」


「うーわ気づかれたぞ。参加するしかないな」


 先にいた青組の連中に気づかれた。呼ばれたし行くしかない。

 まずゴーレムを進軍させる。


「本格的にゴーレム戦するぞ。進め!」


 そう、別にいきなり俺が戦う必要はない。

 全員ゴーレムを前に出して進む。近くにいた紺色のゴーレムを殴らせてみた。

 驚くほど簡単に砕け散る敵。


「お、弱点属性っぽいぞ」


「いいぞそっちの男! 同じ色のやつ結構いるからやっちまってくれ!」


「ほいほい。んじゃクラリス、敵の助っ人を頼む」


「は~い。がんばっちゃうわよ~」


 これでいい。ゴーレムはおそらく武闘派の人間に対抗できるほどじゃない。

 なら神のクラリスに任せりゃいい。

 そこまで考えてそういや女神だったなと思い出した。


「わしらはどうするのじゃ?」


「俺と一緒にいろ。戦力を分散させると危険だ」


「こういう時はすっと俺と一緒にいろって言えるんだね」


「変な意味じゃないからな。その辺のゴーレム殴らせて、自分の属性確認を続けろ。誰かの弱点属性を見つけたら、そいつをまず倒す。陣形は練習通り二列」


 この陣形は前列と後列が交互に一列に並び、得意な敵が来た方が前へ。

 苦手なやつが来たら下がって戦う。ちょうど『W』の字の上と下みたいな陣形。

 これを広がりすぎないようにリリア・シルフィ軍と、俺・イロハ軍に分ける。


「これを全部人間できちっとできる軍隊って凄いんだな」


「それはもう訓練の賜物じゃな」


「お城で見ていたけど、訓練大変そうだったよー」


 まだゴーレムの数が少ないからなんとかなっている。

 一人あたり五体。多くて十体だからな。


「右頼む」


「うむ」


 基本はゴーレム潰し。どちらの属性も効きが悪いときに攻撃魔法で潰す。

 人間が来たらクラリスメインで、遠距離から魔法をばらまいておく。

 あとは他の青軍にでもやらせりゃいい。なんかやる気出しているっぽいし。


「よーし紺色全部潰せたな」


「次は赤いやつじゃ。あれを潰せば占拠スピードが上がるのじゃ」


「よーし行ってみよう!」


「うし、前進だ」


 あくまでも俺達はサポート。ちまちまゴーレム潰しに徹するのさ。

 強いと知られれば、戦力として次回から注文付けられる。

 それがもう心底うっざい。くそですわ。


「いかんゴーレム減ってきた」


「陣形組み替えるよー」


 俺の手持ちがあと二体だ。ちょっと使いすぎたな。

 とりあえず俺の左右に配置し、イロハとシルフィ連合軍を前衛に。

 リリア軍に背後を守らせる。あまり中央には行かず、壁際に行きすぎない配置だ。


「味方が頑張ってくれりゃいいんだけれどなあ」


 行っていたら赤軍の人がこっちに来る。

 左右から二人。真ん中から攻撃魔法ぶっぱしてくるのが一人。

 左右のやつはゴーレムを踏み台にし、飛び越えてこっちに来る。


「シルフィ、イロハ。最速で前のやつ。クラリス、右。リリア、合わせろ」


「はーい!」


「了解」


 シルフィが加速して、魔法を撃ってくる敵を倒す。

 そのシルフィを狙ってきたゴーレムを、イロハが忍術で潰していく。

 後はゴーレム軍が制圧開始。クラリスに右の一人を任せる。


「覚悟!」


「しないっての。俺は覚悟とは無縁の生活を送るんだよ」


 高く飛んだのが運の尽き。広範囲魔法で一気にいこう。


「にゅっふっふ、それではダブル!」


「ライトニング……フラッシュ!!」


 死なない程度に加減し、リリアと一緒に魔法を撃ち出す。


「ぬわあああぁぁぁ!!」


 無事生きたまま吹っ飛ぶ敵さん。

 よし、すっきりした。魔法ぶっ放すと気持ちがいい。


「お、制圧終わったな」


 完全に拠点が青く染まる。

 僅かに残っていた敵も、撤退できず迎撃されていた。


「おーし終わり。お疲れ」


「お疲れ様! やったね!」


「おう、簡単な指示できっちり動いてくれるおかげだ」


 よくあんな大雑把な命令でちゃんと動いてくれるものだ。

 そこは感謝しよう。こいつらありきで作戦立てているからな。


「わしらの大切さが身に染みておるようじゃな」


「はいはいそうですよ」


「もっと態度で感謝を表すのよ」


「人前でしたくない」


「あなた達、ちょっといい?」


 ゴーレム回復させていたら、別グループから声がかかる。


「なんですか?」


「とりあえず助かったわ。これからどうするつもり?」


「ゴーレムが補充できるまでここにいる。後は待機だな。先に進むなら別行動してくれ」


 まだ完全に補充できていない。前線にも行きたくないし。


「せっかく拠点が取れたんだぜ? 中央かこの先に進まないのか?」


「ああ、俺達は待機。進みたきゃ好きにしてくれ」


 こいつらは助っ人含めると十人くらいいる。

 ゴーレムもしっかりいるし、むしろ助っ人多めっぽいから、早々やられはしないだろう。


「全員で進んで、退路が消えたら困るでしょう?」


「防衛を残すのが無難じゃな」


 メンバーからのアシストが入る。

 実際回復前に進むのは得策じゃない。納得してくれたようだ。


「そう。そっちの言い分も一理あるわ。あたしらは中央の加勢か……右端の拠点でも攻めるから」


「そっちも~頑張って~」


「あ、クラリス。あんたの彼氏、中央で暴れてたわよ」


「あらあら~やっぱり~? 苛烈な方を選ぶと思ってたわ~」


 どうやら助っ人さんの中に、クラリスとヴァンを知るものがいたようだ。

 中央に行かないことが確定した瞬間である。


「クラリスも行きたきゃ行ってくれ」


「一休みしてから考えるわ~」


「ま、あたしらも回復してからだけど」


「俺達はずっとここを防衛しているかわからない。やばくなったら逃げる。あまり長時間あてにしないでくれ」


「わかってるわよ」


 そんなわけで会議終了。

 椅子を見つけ、お互いのグループは離れて休憩を取るのであった。

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