本戦開始

 予選を突破して、本戦会場へと足を運ぶ。

 またとんでもない規模の会場だな。こりゃ新築かな。


「相変わらず派手好きなやつが作ってんなあ」


「今回主催者のゴンザレスさんは、イベント大好きな方ですからね」


 ヴァンとカムイはそれほど驚いていない。そういうお国柄なのか、恒例行事だったりすんのかね。


「リリアたちはどこだ?」


「特別客席の方だと思います。上の方にいくつか見えるでしょう?」


 なるほど、VIP席があるらしい。一般人じゃ入れない場所か。


「ソニアとクラリスもあそこだ」


「ならば急ごう。開会式まで時間がない」


 そして選手登録とVIP席への登録を済ませて上へ。

 ラグナロクの時もそうだったが、これまた豪華だな。


「カムイ様! 本戦出場おめでとうございます!」


「ありがとうソフィア。頑張るよ」


 ソフィアもいた。なんか知らない人が多い。別の部屋行きたい。


「ヴァ……クリムゾンマスクもやったじゃない。言いづらいんだけどこれ」


「すまん。本名と素顔はまずくてな」


「すべてを明かすには~もう少しかかりそうね~」


 あっちはあっちで楽しそうだし、ほっときゃいいか。


「コミュ力のなさが出るわけじゃな」


「そういうこと。おとなしくしていようぜ」


 ギルメンの近くに座って、このまま寝ちまってもいいな。


「ここから応援しているわ」


「きっと勝てるよ!」


「そらあいつらがいりゃ勝てるだろ」


 シルフィの肩によりかかり、そのまま寝そうになっていたら、誰かに声をかけられた。


「シルフィ様、ご無沙汰しております」


「えーっと、ヒビキさん」


「はい、お邪魔でしたか?」


 流れる紺色のロングヘアーと、紫の瞳で、クールなお嬢様って雰囲気だ。


「気にするな」


「そうそう、気にしないでいいよ」


 あまり深い知り合いではないようだ。挨拶も貴族としてのものに近い。


「ルシードの仲間か」


「はい。今はルシードのギルドにおります」


「意外なとこで繋がりがあるな」


「ああ、オレのギルドメンバーだ。特殊ギルド、プロトネームレス」


 聞いたことがない。特殊って自分で言うのか。


「なるほど、学園長側じゃな」


「どういうこと?」


「わしらの表版じゃ」


 俺たちが裏でやっているような依頼を、表舞台で引き受ける集団か。

 特殊な事情と天賦の才を併せ持つ集団を作りたいらしい。


「こちらの事情に詳しいようだが?」


「秘密は守るのじゃ。敵対さえしなければよい」


「おれらを知ってんのか? かーなーり特殊だからな。おれの名はレグルス! ヒーローになる男だ!!」


 なるほど、変なやつだな。緑の髪と深い赤色の目。なっがい足の男だ。


『ちゅうもおおおおおおおおく!! お集まりの皆様! 私がバトル・オブ・ダイナノイエ主催者にして、バトルエンターテイナー! ゴンザレスだ!!』


 会場中央に投射された、おっさんのでかい顔が喋っている。

 どういう技術だ。魔法か魔導器なんだろうけど、不思議だ。


『早速チーム紹介に入るぞ!! ブレイブソウル学園の大手ギルド、ソードマスターズから、チーム四剣豪!!』


 簡単なデータが絵付きで紹介されている。そういやそんなん書いたな。


「やっぱ学園から来てんじゃねえか」


「難易度上がったのう」


『流派も武器も一切不明! 予選はすべて素手での一撃KO! 謎のチームモデルC!!』


 全員がコートとフードで身を隠している。

 武器のようなものが見えない。謎だな。


『武術には歴史がある! 脈々と受け継がれた秘伝がここに開花する! チーム古武術!!』


「おれあのチームだからな」


「お前出場者かよ」


「おう、手加減しねえぞ!」


「そこはしてくれ」


 どうせレグルスも強いんだろ。クソめんどいやん。

 しかもランとファーレンスがいるっぽい。やめろ勝てないだろ。


『王子様が同級生とチームを組んだ! 武の頂においても頂点となるのか! 王族の威厳を見せてくれ! チームカムイ!!』


「ちょっと!? なんですかチームカムイって!?」


「それが一番穏便に済むだろ」


「オレの名前は出せねえしな」


「やはり王族を立てるべきと判断したまでだ」


 というわけで俺たちはチームカムイだ。

 もう名が知られているカムイならいいだろ。


「ザトーさんに了承取ったら爆笑でOK出たぞ」


「父はそういう人です……」


『暗器も魔法も超一流。研ぎ澄まされた暗殺術は、今大会でも華麗に踊る! チームマジックアサシン!!』


 そこからずっと紹介を聞いていくが、どいつも強そうに紹介されやがる。

 出たのを後悔し始めていた。


『鍛え上げられた力と技! 生まれついての美形! 実力もある剣の貴公子集団! チームイケメン戦隊!!』


「皆様とても強そうですわ。カムイ様、どうかご無事で」


「大丈夫だよ。僕もチームメイトも強いから」


「どの道オレたちで全員ぶっ倒しゃいいんだよ」


「その通りだ。全力を出せば、決して勝てない相手ではないだろう」


『……というわけでトーナメントを勝ち抜き、最強の座を手に入れるのは誰だ! 乞うご期待!!』


 会場は大盛りあがり。俺のテンションはガタ落ち。これから先に苦難の道が見えるぞー。優勝には四回勝たないといけない。俺の体力もたねえぞ。


『激闘の幕を上げるのはこいつらだ! 一回戦はー……チームイケメン戦隊! VS! チームカムイ!!』


「最悪だよ」


『試合は十五分後だ! 選手は早めに来るように!!』


 決まっちまったものはしょうがない。せいぜい怪我しないようにやりますか。


「よい経験になるじゃろ。気楽にいくのじゃ」


「応援しておりますわ!」


「おれと当たるまで負けんなよルシード!」


 それぞれのチームに送り出され、四人で舞台前へと並んだ。

 敵はおそろいのアーマーを来ている連中だ。赤・青・黄色・緑の四色いる。


『この試合のルールは、2対2だ!! 一勝一敗の場合は、勝った組でバトルだぜ!』


「ルール毎回違うのかよ」


「エンタメの面が強えんだろ」


「それでは舞台に上がってください!」


 審判の声でヴァンと俺が出る。理由は簡単。俺に合わせられるのがヴァンくらいだから。


『ド派手なマスクと筋肉美! 金ピカの剣でどう戦うのか見せてくれ、クリムゾンマスク!』


 両腕をあげて客に手を振っている。サービス精神を出すな。


『腰につけたカトラスと、頭から足まで届きそうな背負った刀が特徴か。謎の黒き剣士、アジュ・サカガミ!』


 適当にギルメンに手を振って前に出る。


『大鎌のイケブルーと大剣のイケレッド! 兄弟の絆から繰り出される連携は、回避不能の死の宣告!』


「とうっ! 情熱の大剣、イケレッド!」


「はああ! 冷酷なる大鎌、イケブルー!」


 武器を振り回してポーズ取っている。いやどういうことだ。そういう大会なの?


「気をつけろよ。あんなんでも強いぜ」


「だろうな。予選突破できるくらいだし」


『試合スタート!!』


「オレ剣のやついくぜ」


「できれば両方お願いしたいね」


 ヴァンがレッドへ斬りかかる。大振りの一撃を、同じ大振りで打ち返す。


「おっと、止められちまうか」


「気の抜けた剣など通らんよ」


「援護するよ兄者」


 ブルーが邪魔しそうだ。適当にちょっかいかけよう。


「ちょっと失礼」


 カトラスで切りかかってすれ違う。当然防御させるが、想定済みだ。ヴァンさえ距離をとってくれればいい。

 これで兄弟を挟み撃ちにする陣形だ。


「ぬうぅ……」


『おおっと、これは挟まれたぞイケメン戦隊!!』


 あとはちまちま攻撃魔法をばらまいて邪魔しつつ、ヴァンが決定打を入れてくれればいい。


「サンダードライブ!!」


「小癪な!」


「サンダースマッシャー!」


「オラオラオラオラ!! よそ見してっと、オレの剣はかわせねえぞ!!」


「なるほど、連携が取れている。だが弱点も見つかった」


「いくよ兄者!!」


 二人同時にヴァンへと攻撃し、少しだけ吹っ飛ばす。

 同時に俺に向けて猛ダッシュかけてきた。


「俺を狙うのはやめろ。ライトニングフラッシュ!!」


 とにかく避けられない魔法で、二人を押し戻すのだ。


『雷光が迸る! 雷属性か! 黒髪黒目で雷属性で刀使いか! 珍しい所しか無いぞサカガミ選手!!』


「その程度で我ら兄弟は止まらんぞ!!」


 ダメージ無視で突っ込んできやがる。鎧が頑丈なんだな。


「クリムゾンマスクはやくきてー、はやくきてー」


「オレに頼るんじゃねえ!!」


「疾風の鎌よ!!」


 風の斬撃が飛んでくる。放射されている魔法を切り裂いているのか。


「サンダースラッシュ!」


 片手でレッドにフラッシュ。もう片方の手でブルーにスラッシュを連射だ。


「ぬるいわ!」


「だろうな」


 しゃーない。上空へと逃げる。徹底して鎌の射程に入らない。とにかく打ち合いは避ける。正直軌道が読みづらいんだよ鎌って。だから足を止めての攻防は遠慮します。


「逃がすか!!」


 そら追ってくるさ。二人ともな。

 だがヴァンが上空に待機している。剣に炎を蓄え、あとは俺が合わせるだけ。

 長巻を抜き、魔力を込めたら解き放つ。


「爆雷合体奥義!」


「全力豪雷斬!!」


 イケメン二人はこちらへ飛んできている。空中ではかわせない。

 しかも俺たちが上から振り下ろせばいいのに対して、奴らは受け止めて落下していくことになる。


『見事な合体技が決まったああああ! イケメン二人の装備にヒビが入り始めたぞ!!』


「ぬぐううう!!」


「ファイアトルネード!」


「ライトニングフラッシュ!」


 物量で無理やり押し込み、二人を地面に激突させる。

 砂埃が立ち込めると、あとは俺の時間だ。


「まだだ!!」


「かすり傷にもならんわ!!」


 元気に立ち上がる二人組。レッドに向けてヴァンの蹴りが炸裂。


「ぬおぉ!!」


 吹っ飛ぶレッドを追いかけ、ヴァンの猛襲が始まる。

 残されたブルーに、そっと声をかけよう。


「よそ見は厳禁だぜ?」


「はっ!? いつの間に……何!?」


 俺の声に反応して振り返るブルー。だがそこに俺の姿はない。

 雷の管を地面に伸ばし、やつの背後で声を出した。

 つまり正面に意識が行っていない。俺が詰め寄るには十分な時間だ。


「よそ見すんなって言ったばかりだろ? 雷光一閃!!」


 気づいても遅い。地面の管をブルーの足に巻きつけ、軽く放電させて隙を作る。

 あとは長巻のスロットを三個使って、最大の一撃を叩き込んだ。


「ぐがあああぁぁぁ!!」


 ブルーの鎧を砕き、そのまま素早く離脱。これで勝てりゃいいんだが。


「弟よ!!」


「まだ……だ……」


 普通に両足で立っている。ダメージは大きいかもしれんが、闘志が消えていない。


「あんたに恨みはない。だが手は抜かない。徹底的にいく」


 離脱し、サンダースマッシャーをひたすら叩き込む。


「だあありゃああぁぁ!!」


「ぬっ、ぐっ、がああああぁぁ!!」


 やがて踏ん張りも効かず、その体が浮き、ゆっくりと仰向けに倒れ込んだ。


『イケブルー! 戦闘不能!!』


 戦闘不能の判定が出たら、そいつにはもう攻撃しない。

 まさか雷光一閃で倒しきれないとは……やはりこの大会、ちと厳しいな。


『まさかの先落ちイケブルー! こいつはすげえことになってきた!』


 沸き立つ会場。少し息を整えよう。ガチ戦闘はきついぜ。


『追撃の手を緩めなかったところが高ポイントだ。まだまだやれたからな。あそこで確実にいかねえのは舐めプだぜ』


 選択は正しかったらしい。今のうちに落ち着こう。ヴァンはほっといても勝つ。


「まさかオレより先に勝つとはな」


「私が二人とも倒せばいいだけだ!」


「そうはさせねえ!!」


 両者の剣から炎が溢れ出す。

 足を止めて斬撃の応酬が始まるが、スタミナではヴァンが上だろう。

 徐々に手数が減っていく。


「鎧じゃ熱いよな。こう燃えたぎってるとよ!」


「ぐうぅぅ……それでも!!」


「オレも負けられねえんだ。 全力爆砕斬り!!」


「うあああぁぁぁ!!」


 レッドの大剣と鎧を砕ききり、巨体を大きく後方へとぶっ飛ばし、ヴァンの勝ちは確定した。


『イケレッド戦闘不能! 第一試合、勝者チームカムイ!!』


 初試合を勝利で飾れたことは、少しだがやる気と自信になった。

 後はカムイとルシードに任せるとしよう。

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