殺しちゃいけないのはめんどい
マスクつけたヴァンとルシードが来た。
とりあえず全員の紹介が終わり、少しヴァンと話す。
「お前どうしてここにいる。なんか御三家とか言われていたんだろ?」
「完全にさっき知ったろそれ。ちょいと母国の様子見と、財産を不正に流用しているやつがいないかあぶり出しにな」
「名家も苦労すんのな」
「オレのとこほどじゃねえだろ」
逆にお前は苦労しすぎ。もっと優雅に生きていいのよ。本人嫌がりそうだけど。
「正体は隠しておいた方がいいんだな?」
「頼む」
「了解」
ルシードは俺を探しているようだった。鎧の男だと知られるわけにはいかないので、あまり関わりたくないが話しかけてきた。
「サカガミでいいか? カグラが世話になったと聞いている」
「カグラ……ああ、ムチとボウガン使うやつだろ。ラグナロクで世話になった。知り合いなのか?」
「オレのギルドメンバーだ。助けてもらったようで感謝する」
「いいさ。こっちも助けられた」
普通に頭を下げられると、どうしていいかわからん。
少なくとも真面目そうだが不快感はない。
「この四人で出るのか」
「強めのメンバーじゃな」
「学園の上級生でもなければ、まず苦戦しないはずよ」
学園で実力は見ている。俺が何もしなくても勝ち進んでくれるだろう。
「そういや大会内容を知らんな」
「バトル・オブ・ダイナノイエ、通称BODは、トーナメント制です。予選さえ勝ち抜けば、休憩の余裕もできますよ」
「予選あんの?」
「ありますけど、強豪はシード権がありますので、それほど難しくはないかと」
王子なのにシードじゃないんだな。ザトーさんの性格からして当然だが。
「予選は明日ですから、今日は顔合わせと、お互いの戦闘スタイルについて知りましょう」
「明日かよ……俺はあまり強くないから期待しないでくれ」
「問題ねえ。オレが全部倒しゃいい」
「全力を尽くすと約束しよう」
そんなわけで次の日。予選会場に来てみたわけだが。
「どこも清潔だなおい」
汚いコロシアムとかのイメージが消えた。国立の体育館的な場所だ。
選手が詰めかけているが、それでもまだかなりのスペースがある。
「体力テストがあったら詰みだったぜ」
「四人で固まっていれば勝てますから、落ち着いていきましょう」
審査は簡単。何組かに分けてのバトルロイヤルだ。
非常にシンプルかつ、審査員がめんどいから早く終わらそうという意思を感じる。
「うっし、さっさと片付けて帰ろうぜ。心配ならオレがなんとかするからよ」
広い室内に、四角い結界を張ったフィールドができる。
四隅にそれぞれのチームが陣取り、あとは自由に戦えばいいというシンプルなルールだ。
「Bブロック開始!!」
開始の合図を聞き、敵が動き始める。待機する者、とりあえず魔法ぶっぱする者、1チームだけを狙う者と様々だ。
「1人1チームな」
ヴァンが飛び出していく。一振りでまとめてぶっ飛ばしているし、心配しなくていいな。
「承った」
別方向へルシードが走り出す。こちらも力強い太刀筋で、一撃一殺を決めている。
「頑張れカムイ」
「一緒に行きますよ!」
カムイの後について行こう。流れるように敵の攻撃をかわし、的確に打撃を入れていく。動きに一切の無駄がない。
「援護くらいするか」
雷属性だとばらす必要もないな。適当に魔力波を広域拡散。
敵が怯んだらカムイが撃破していく。
かなり訓練を積んでいるな。独特な装具は、並の剣では傷つかない。
大剣を力で弾き返せているあたり、こいつも人外枠だな。
「隙を作ってやる」
「そこだ!」
足元に魔力を這わせ、敵の足を引っ掛ければ、カムイの拳がクリーンヒット。
ぱぱっと四人倒すことに成功した。
「ナイスだ」
「助かりました。援護に慣れていますね」
「俺は魔法主体だからな」
「そちらも終わったか」
ヴァンとルシードはもう倒し終わっていた。やっぱあいつらおかしいよ。
「この調子ならすぐ終わりそうだぜ」
そこからはヴァンとルシードがほぼやってくれました。
あと一回勝てば本戦出場。味方に恵まれておるわい。
「アジュ調子悪いのか? いつものキレがねえぞ」
「俺は最速で効率よく、無傷で相手を殺す手段ばっかりなんだよ。殺しちゃいけない相手は専門外なの」
殺していい屑が敵なら、目玉を潰すとか、耳でも切り落せばいい。いくらでも方法はある。それができない試合ってめんどくさいな。
「具体的にどうやるんだ?」
「敵の内蔵ぶちまけるとか、シンプルに耳でも削げば、一瞬怯むだろ?」
「聞きたくなかったです」
「あとはレプリカでもいいんだけど、そいつの仲間の生首見せつけるとか」
「こいつはどうしてシャバにいるんだ?」
「どうしようもないクズ相手にしかやらないからさ」
見境なくやったりはしない。ちゃんと相手の選別をして、裏とりして、どうやれば最高の結果が出るかを熟考してやっているのだ。
「んじゃ試合に慣れといた方がいいだろ。最後はアジュがやれ」
「無理だろ」
「別に全チーム相手にしろとは言わねえよ」
「今まで援護に徹していたようだが、そろそろ実力も見てみたい所だな」
「ねえよ実力なんて」
まず鎧が使えない時点で詰みなんだよ。ヴァンはそれを理解していると思ったが、目的は何だ。
「父が勝算もなくサカガミさんを呼ぶとは思えません。何かあるのでは?」
「数合わせであってくれ」
「最終予選開始!!」
「ほーれ始まったぜ」
またヴァンとルシードが突撃。最早パターンで、敵も警戒しているが、それをものともせずに倒していく。
「しょうがないカムイ……カムイどこいった?」
「頑張ってくださいねー!」
ルシードの横で手を振っている。俺が勝つと信じている微笑みだ。
ナチュラルに突き放しますやんか。
「ああもう……」
嫌だけどカトラスを抜く。敵は剣士三人と槍使いか。
適当に魔力の弾を乱射する。
ほぼ弾かれるが、何発かは当たってくれた。
「こいつ、一人でオレらとやる気だぜ!」
「なめやがって!!」
「それはもっと言ってやれ。あいつら俺が強いと思ってやがる」
とても迷惑です。
魔力を刃にして、縦に飛ばすことで分断。一番離れているやつに急接近だ。
「ちい! 沈みやがれ!!」
「甘い!」
敵の太刀をかわし、峰打ちを腹に入れてやるが、どうせ沈まない。空いた口に魔力玉を詰め込んで、ナックルガードで後頭部に裏拳入れたら、さっさと離脱して……。
「やられた!? こいつやりやがる!!」
「俺で倒せるだと?」
敵がもう倒れている。いやいやいや。
悪いが一番驚いているのは俺だ。クリーンヒットというわけでもなかったぞ。
「よくも兄貴を!」
「兄弟なんかい」
倒れたやつの口に入れておいた魔力玉を、そのまま弟くんに発射。
「なにい!?」
まさか味方の口から飛んでくるとは思わなかったんだろう。
顔にぶち当たって鼻血が飛んでいる。
「そこだ!」
剣を弾き飛ばし、腹に蹴りを入れ、それでも倒れそうにないので、再度顔に魔力弾を叩き込んでから峰打ちで顎を殴りつけた。
「ああもう殺しちゃいけないってのはもう……」
ようやく倒せたが手間がかかりすぎる。めんどい。うざい。
殺していいなら二手目で首を落とせた。
「離れるな! 同時攻撃で行くぞ!」
槍使いと剣士が並んで攻撃してくる。離れれば各個撃破されると思っているんだろう。その選択は正しい。
「二対一は卑怯じゃないかい?」
「うるせえ! 元々チーム戦だろうが!」
「ごもっとも」
攻撃を捌きつつ隙を伺うが、なんか弱くないか? まだ予選だからだろうか。
だとしても、それほど驚異とは感じない。学園以外の同世代ってこんなもんなんだろうか。とりあえず油断はしないでおく。
「まずは剣士だな」
仲間をやられて怒りに燃えているのだろうか。勢いで押し切ろうとしているので、剣を持つ手と両足に、峰打ちの連打を浴びせる。ローキックよりも数をこなせて痛みを蓄積できる。
「うがあぁ!? くっそ! このお!!」
大振りになった所を回避し、体勢を崩した敵の顎に膝蹴りを入れる。
崩れ落ちても目がこちらを見ている。危険と判断し、回し蹴りで意識を刈り取った。
「……やっぱおかしくないか?」
おかしい。大会出るレベルで、しかも年上っぽいのに。不思議と弱い。
「まだ私がいるぞ!」
槍使いは突き主体だ。小刻みに攻撃してくるあたり、俺の特性を見抜いたか。
じゃあ長い得物対決だ。カトラスから長巻に持ち替える。
「よっほっ。こうか?」
リーチが同じか、ほんの少し俺が短いくらいだ。
刃の部分は俺のほうが長い。だから内側に入って腕を狙うと、それを防御するのに専念してくる。それでいい。とりあえずこのやり取りを反復しておこう。
「私を実験台にしているな!」
「あらバレるのね」
斬撃へと変化してしまった。それでも軽く見切れるレベルだし、これ以上の参考にはならないな。急加速して刃に魔力を乗せ、リーチを伸ばして首に当たるギリギリへと詰めた。
「降参してくれ。でなきゃ死なない程度に動脈を斬る」
「……参った。私の負けだ」
槍から手を放し、両手を上にあげている。一応ここからの不意打ちも警戒するが。
「Bブロックそこまで! 選考終了!!」
終了宣言があったので、チームメイトの所へ引き返す。もちろん全員無傷だ。
「おつかれ」
「二度とやりたくねえ」
「サカガミさん強いじゃないですか!」
「最低限戦えるようだな。これなら心配もいるまい」
激励なのかよくわからん言葉を投げかけられるが、本戦もこうだという保証はない。お願いだから穏便に終わってくれよ。頼むからさ。
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