試験は闘技大会らしい

 事件を解決した次の日。俺たちはザトーさんの部屋に呼び出された。

 これまた豪華で広いな。最近豪華な部屋ばかりで見慣れてきたぞ。


「まずは事件解決おめでとう。よくやった」


「ありがとうございます」


「記録上はカムイの手柄になる。それで期末試験マイナス評価にはしないから安心しな」


「助かります」


 ザトーさんは事情を知っている。口裏を合わせる必要があったのでばらした。


「しかしこんなに早く成果出されると、大会まで暇させちまうな」


「大会?」


「闘技大会若手の部。十九歳未満だけに参加資格のある大会でな。出て貰おうと思ってたんだ」


「バチクソ目立つじゃないですか」


 そんなもん出たら、それこそ無意味に目立つ。マジで今後の邪魔になるだろ。


「四人チームのバトルでな。出るのはカムイとアジュくんと、こちらで選んだ男だ」


「うちのギルドメンバーは出さないんですか?」


「ぶっちぎりで優勝しちまうだろ? その目立ち方はよろしくないぜ」


 確かに。出すならなんとか言い訳考えてやめさせようと思ったが、やはり皇帝というのはしっかりしている。だが見落としがあるな。


「いや俺は一般人で、戦士でもなんでもないんですが」


「それなりに強いだろ?」


「大会出るような連中が相手でしょう? しかも上級生混ざるとか、間違いなく死にますが」


「別に優勝しなくてもいい。カムイがどれだけできるかを試す」


 だったらカムイだけ出せといいたいが……俺は間違いなく死ぬぞ。

 そういう連中と戦える力はない。まさか鎧前提かこれ。


「神様ぶっ殺せる能力は禁止な」


「詰みじゃないですか」


「近くの練習場を貸してやる。そこで特訓でもしな。講師に神をつけることを許す。八百長も贔屓も許さんが、頑張れよ、カムイ」


「はい!!」


 すっげえ納得いかねえ。なんかもう話が終わった雰囲気である。


「安心しろ。オレも昔ジェクトの大将と一緒に参加したが、高等部一年で優勝したぞ」


「超人を基準にされましても」


 どうも同世代でもぶっちぎりで強かったらしいな。

 両者の光速戦闘を見ているので、まったく違和感はない。


「私たちの試験はどうなるのですか?」


「それなんだがな……正直何やらせても突破しちまいそうだし、神に会えないか連絡してみる。自由にくつろいでてくれ」


「生徒が優秀すぎるのも困りものじゃな」


「まったくだぜ。そんじゃ解散だ。わざと負けたりすんなよ?」


「試験みたいですし、真面目にやりますよ」


 結局俺も戦うのか。今度こそ大怪我しそうだ。カムイと増員に任せよう。

 それだけ決意したら、あとは訓練場とやらに行くことにした。


「意外なほど清潔感にあふれている」


 清潔で、白い壁に一定間隔で線が引かれた広い場所。

 あれだ、格ゲーのトレーニングステージみたいな感じ。

 あれに窓と出入り口つけりゃいい。


「あぁもう……マジで面倒なことになったな……なんとかお前だけで全勝しろカムイ」


「一人でですか!? 無理ですよ!」


「実際どうなの? その大会のレベルがわかんないよね」


「私もシルフィも実際に見たことはないわ」


 こいつらも簡単な情報だけか。完全に他国だし、まあ色々やることあったんだろ。


「伝統ある大会です。国の外からも参加者は来ますし、それこそ学園の三年生もいるはずです」


「詰みやん」


 それを詰みと呼ぶんだよ。勝てるわけねえだろアホか。人生最大の危機である。


「ラグナロク参加していたよな? シルフィやイロハと戦ってどうだった? こいつらレベルの敵がいそうか?」


「いないと思います。みなさんの実力は、学生を遥かに超えていますから」


「わしら超えはもう国の危機じゃろ」


 120%死ぬやん。多分だけど参加者全員でかかっても瞬殺されるぞ。


「よく考えりゃ王子をそんな危険な大会に出すか?」


「御三家の力が均衡を保てない以上、ダイナノイエの力が衰えていないというアピールもしたいのでしょう。父は身内びいきをする人でもありませんから、意図があるはずです」


「御三家って?」


「昔から皇国の発展に尽力してくれた、まあ他国で言う大貴族の位置ですね」


 なるほどなあ……ストレッチしながら聞いてみよう。


「リリア」


「そこはカムイから聞くべきじゃろ」


「いいですよ。お教えします」


 相変わらずそういう事情に疎い俺である。トラブルを未然に防ぐためにも聞いておこうね。


「まず商人として、古くから皇国を支えているオルブライト家」


「ソフィアか」


「はい。商人は多いですが、その中でも抜きん出て優秀かつ規模の大きい家柄です」


 ソフィアは見るからにお嬢様だったからなあ。

 昨日もあいつが帰る時、すげえ護衛と送迎車だったし。


「次にファルフロフ家。貴族として有名な魔族です。魔界に領地もあって、外国とのパイプ役を務めたり、社交界の花形ですね。特殊な魔導器の開発者でもあります。こっちでは有名なメーカーですよ」


「魔族って魔王にならないのか?」


「結構自由みたいですよ。素性はちゃんとしてますし、問題も起きていません」


 やはり実力者なのだろう。この世界の大国って、あんまり偉そうなだけのやつ見ないな。自然淘汰されているのだろうか。謎だ。


「さらに軍に大将三人、中将八人、少将九人を排出した名門貴族で、神がかり的な実力があったとされるマクスウェル」


「……マクスウェル?」


 待て待て、確かそれヴァンの本名だろ。あいつそんな身分高いの?


「軍の参謀や指南役を務めたり、とにかく軍事方面と治安維持にかけて右に出るものはいませんでしたね。なのに突然ほとんどが姿を消しました」


「ああまあ……そりゃ大変だな」


 他人の事情に深入りする気も吹聴する気もない。

 あいつが俺がどうこうすることを望む気もしない。だから黙っていよう。


「事情は人それぞれってことだな」


「いつまでも話しておっても進まんじゃろ。訓練開始じゃ」


 三人は遠くから見ている。邪魔にならないようにだろうが、基礎トレーニングじゃないの? 距離遠くね?


「はいはいやりゃいいんだろ」


 やるしかないらしい。適当に訓練所とか走ってみる。まずは慣らし運転だ。


「サカガミさんも頼りにしていますよ」


「やめておけ。俺に何を言っても無駄だ」


「そうですか? 相談したいことがあったんですが」


 なぜかカムイも並走している。そして嫌な予感がした。王族の相談って、しかもこの流れでかよ。


「王子なんだから、そのへんの賢いやつにでも聞いとけよ」


「じゃあサカガミさんに聞いてもいいですか?」


「俺に相談するほどアホな行為もないぞ」


「推理から最適解を見つけてくれそうですよ」


「過大評価だな。まあ言ってみろ」


 一応聞いておこう。俺たちに被害が出る話だと、事前に対処する必要が出てくる。


「……実はソフィアのことなんですが」


 なんだよまた貴族の問題か。どうせ神と戦う流れだな。適当にごまかしておこう。


「ソフィアと自然に手を繋ぎたいんです」


「ぶっ飛ばすぞ」


「ええぇ!?」


 王子からの相談っていうから身構えた俺の気持ちどうすんだよ。

 絶対神話生物と戦うことになると思ったのに。


「腕を組んだりもしてみたいんです。サカガミさんほど恋愛に長けている方なら、こういう相談もお手の物かと思いまして」


「俺をそこまで的確に侮辱できるやつはリリアとやた子くらいだぞ」


「やた子?」


「気にするな。っていうか何でそう思った? 熱でもあるのか?」


「ギルドメンバーの三人は、そういう仲なんですよね? お姫様を二人も口説き落とせるなんて、恋愛マスターとしか」


「口説いた覚えはない。まだそういう仲でもない。あいつらは超特殊ケースだよ。俺はそういうのとは無縁なの」


 異次元の勘違いだな。ある意味厄介だ。ここで訂正しておくべし。


「どうしたらソフィアと仲良くなれますかね?」


「知らねえよ。マジで知らねえ。仲いいように見えたぞ」


「やはり良家のお嬢様なので、どこまでのスキンシップが許されるのか悩みどころで」


「そもそもスキンシップの必要性がわからん。しなくてもいいだろ」


 なんでみんな手とか繋ぎたいんだろう? 俺には理解できない。

 くっつくことに何の価値がある。


「したくならないですか? もっと相手を知りたいといいますか」


「ない。知ってどうする。触らなくても調べられるだろ」


「個人差があるということですね」


 俺に聞かれても恋愛なんて理解できんよ。カムイは顔も家柄も才能もあるんだし、全部使えばどうとでもなるだろうが。


「失礼しまーす。皇帝ザトー様から、ここにチームメンバーがいるって聞いてきました」


 入り口に誰かいる。男の声だ。残りの二人ということだろう。


「オレはクリムゾンマスク。よろしくな」


 マスクを付けたヴァンだ。仮面じゃなくて、レスラーが被る覆面。

 長い赤髪を後ろからまとめて出している。

 そしてもう一人は。


「ルシード・A・ラティクスだ。以後よろしく頼む」


 ヴァンと戦っていた男だった。

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