ヴァルキリーと神様について

 朝飯の味がわかんなかった……ミナさんの料理は美味しいはずなのに。

 食べ終わるまで隣にいたシルフィが、あきらかに機嫌が悪い。

 食べ終わっても俺の横から離れる気配がない。

 むしろよりくっついている。無言で。


「とりあえずヒメノ達が何しに来たのか聞こうか」


「そうですわね、まずクエストお疲れ様でした。フリストちゃんが迷惑をお掛けしてしまって……」


「申し訳ございやせん。あっしも事情があったとはいえ、ヒメノ様の夫に手をかけるなんざあ仁義も忠義もありやせん。このお詫びはなんなりと」


「夫? どういうことかな? わたしの知らないところで話が進んでるね」


 俺に聞かれても知らんよシルフィさんや。さっきからずっと手を握ってきてますけど、力入り過ぎじゃあありゃしませんかい。


「ヒメノ様の将来の伴侶となるお方では……?」


「ええ、そうですわ。今はまだ予定ですが必ず射止めてみせますわよ!」


「私達が認めると思っているのかしら?」


「アジュはわたしたちが攻略します。他の人には渡しません」


「これ異常ややこしくなるのは御免こうむるのじゃ」


 シルフィが激おこぷんぷん丸なので、俺からちょっと離れたところにいるイロハと、マイペースにお茶飲んでるリリアに話を進めてもらおうかな。


「愛とは奪うものですわ! わたくし、手加減いたしませんわよ!」


 とりあえず気まずいので、聞かなかったことにしよう。

 日頃の訓練で俺のすっとぼけスキルは上がっているはずだ。


「妄想は胸に秘めたままにして頂きたいと、日頃から申し上げております。やた子も苦労してやした」


「妄想ではありませんわ。未来予知ですわ」


「うるさい話を進めろ。なんで来たのかを言え」


「あっしがアジュの旦那にお手間を取らせたことのお詫びと、ここいらで今回の騒動についてお話しようかと思いやして」


「こういうことは思い立ったが吉日ですわ!」 


 そういやそうだったな。ゲンドルがなにやってたかわかんねえままだった。


「では、わたくしが説明いたしますわ!」


 軽く指を鳴らして、自分にスポットライトを当てるヒメノ。

 そのライトはどっから出てるんだよ。ここリビングだぞ。


「ズバリ、学園内への移動、および召喚可能な場所を探っていたのですわ」


「フリスト、補足頼むのじゃ」


 リリアが扇子を開くと、ライトがフリストへ移動する。

 だからそれどうやってんだよ。


「へい、学園には侵入者や危険人物が好き勝手に出来ないように、許可が無い者が移動・召喚の魔法を使えないように幾重にも厳重な結界が張られています」


「その結界の穴を探っていたと」


「その通りですわ! ゲンドルは学園へ召喚獣、もしくは援軍を送り込むことができるか調べていたわけですわね」


「虫みたいなん召喚してたよな?」


「あれは学園内で隠していたものを呼び出していたようですわ」


「外から中へは無理でも、中から中へは簡単だと?」


「そうでもありやせん。学園の狂った結界を破るのは容易じゃございあせんぜ。カジノが使われていない場所だったから時間をかけて、なんとか自分とカジノだけを繋いでいたようです」


 なるほど。よくわからん。学園の結界はマジでアホほど厳重らしく、本来ヴァルキリーでは針を通す穴すら開けられないものらしい。


「召喚科に入って限定的に許可を貰えば、低レベルの召喚術なら行使できるはずよ」


「じゃあそれが狙いだったってこと?」


「それじゃヴァルキリー全体の目的がわからん。あと派閥っぽいものがあるみたいだぞ」


「うむ、ヒメノ達ともヴァルキリーとも別の異質な奴がおったのう」


 あのライオン人間か。結局あれは召喚獣じゃないみたいだな。


「すふぃんくすはヴァルキリー達と停戦協定といいますか……一時的に協力関係にあったようですぜ」


「スフィンクス……あれスフィンクスか」


 あれだろ、足が三本あってどうのこうのってクイズ出すやつだ。

 その程度の知識しかないけど。


「あいつをご存知で?」


「知ってるっていうか昔話? 想像上の生き物だと思ってたよ。なんかクイズ出してくるはず」


「クイズ? なんでクイズ?」


「曖昧ね。でも知っているならボスについても知らないの?」


「無理。俺の住んでた場所の話じゃないし。砂漠の方で伝わる伝説? みたいなんだからそっち系だとは思うけど」


 結局学園に侵入して、何をする気なのかがわからんのよ。

 俺達を狙っているわけじゃないだろうし。


「あっしも探っておりやしたが、学園の崩壊や皆殺しを狙っているわけではないようですぜ。達人とその育成について調べているフシがありやす」


「それはスフィンクス達もか?」


「おそらく似た目的かと。旦那のご友人の……赤毛の方がなぜ連中を追っているかはわかりやせん」


 ヴァンはあいつらと縁があるっぽい。相当恨んでいるんだろうな。

 でも聞けそうな雰囲気じゃないんだよなあ……めっちゃキレてたし。

 問題が解決したら聞いてみるかね。


「現状では気をつけてくださいとしか言えやせん。あっしらがそれとなく護衛はいたしやすが……いい加減ライト邪魔です」


 スポットライトを消してあげるリリア。

 後で撤去させよう。家に変なもん入れるんじゃない。


「わたくしももう少し調査方法を変えてみますわ」


「敵側のヴァルキリーはスクルド・ミスト・スケグルの三人を確認しておりやす」


「どうせ他にもいるわ。警戒だけはしておきましょう」


「だねー。なんやかんやでわたし達と戦う気がするよ」


 いつもいつも厄介事はヴァルキリーと決まり始めている。クロノスやフェンリルもそうだけどなんで神様が人間と一緒なんだよ。


「そもそも神様がどうのこうのがわからん。あいつらどっから来るんだ?」


「神族は神界・天国とかそのへんじゃ。魔族は魔界や地獄出身が多いのう」


「わたしのご先祖様はクロノスっていう神様らしいね」


「はい、時空神クロノス様です。シルフィ様にはその力が色濃く出ております」


 ミナさんが補足してくれる。色濃く、というのはシルフィが初めてじゃないってことらしい。それでも随一の使い手であることは疑いようがない、と。


「うむ、そうじゃな……本棚をイメージするのじゃ。三段になっている本棚の一番上が神界。真ん中が人間界。下が魔界じゃ。棚を壊すことはできん。めっちゃ強固な本棚じゃ」


「んじゃどうして人間界にいる?」


「神様は例えるなら本じゃ。語り継がれ、信仰を得て、力を持った神が人間界という本棚にしれっと混ざっておる。もしくは数ページ自分の本から破って挟んでおるイメージじゃ」


「本を整理するために特定の存在には、本棚を繋ぐ力があるのですわ」


 その力を利用して人間界に移住して、人間に混ざって暮らしているということか。


「本来神と人は持ちつ持たれつ。人が好きで輪に入りたいものが人間界に来るのです。悪さをすれば神界という本棚に戻さなければなりませんわ……あの子達は一体何をやっているのか……」


「邪魔するなら斬ってもいいんだよな? 一応フリストもヴァルキリーだろ? お仲間じゃないのか?」


 部隊員の邪魔になるような存在は、ちゃっちゃと死んでくれたほうがありがたい。またシルフィ達に被害が出るなら事前に殺してしまえばいい。誰にも気づかれず、証拠も残さずにヴァルキリー皆殺しくらいできるはず。


「今のところやつらは人間に害をなす存在でございますゆえ、敵対すれば容赦は無用ですぜ」


「そうか、んじゃ話は終わりだな」


 よし、このまま家を出てとりあえず一人になろう。


「どこにいくのかな?」


 と思ったけどシルフィが手を離してくれない。まずい動けない。いや指は動くし……動けないほどのプレッシャーだというのか。


「クエストの確認とかまあ……せっかくの休みだし学園をこう……ふらふらと」


「するタイプではないじゃろ。いつも家でごーろごろしておるじゃろ」


「いやあこれでも学園生活、というか学園内に興味はある。また魔法講座行く予定だし」


「そっか、出かけるならわたしも行く」


 別に断る理由もないけどさ。イロハをチラっと見ると頷いている。連れて行けということか。


「まあ知らん場所で一人よりはましじゃろ。行ってくるがよい」


「リリアはいいの? わたしだけ?」


「わしは夜担当でよい。ヒメノ達とちょっと話もあるしのう」


「私も遠慮しておくわ。シルフィと行ってらっしゃい」


 イロハもちょっと反省しているようだ。リリアよ、夜担当って何する気だよ。

 そこを突っ込みたいけど揉めそうで怖いぞ。


「さあ、いざおでかけ! まだお昼だし遊びに行くよ!」


「わかったよ。んじゃ悪いけど行ってくる」


「うむ、楽しんでくるのじゃ」


「いってらっしゃいませ」


 休日だしまあいいだろう。とりあえずくっつきすぎだシルフィ。

 さて、どこに行ったもんかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る